FRB「第3の使命」が波紋──長期金利をめぐる新たな攻防

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「デュアル」から「トリプル」へ?FRBに注目が集まる理由

通常なら、ひとりのFRB理事の公聴会発言が市場を揺らすことはありません。ところが先日のスティーブン・ミラン氏(トランプ大統領任命)の証言は違いました。彼が口にした「第3の使命(third mandate)」という言葉が、債券市場や金融関係者の耳をつかんだからです。

FRBの使命とは?

従来よく知られているのは「デュアル・マンデート(dual mandate)」です。

  • 物価の安定(price stability)

  • 最大雇用(maximum employment)

しかし、実は法律にはもうひとつ、「長期金利の安定(moderate long-term interest rates)」という条項が記されています。通常は「物価が安定していれば長期金利も自然に落ち着く」と解釈され、省略されてきました。

ミラン氏の発言の意味

  • 彼はあえてこの第3の使命を強調。

  • もしFRBが本気で「長期金利を直接コントロール」しようとすれば、これまでより積極的な**量的緩和(QE)や、さらには日本銀行のようなイールドカーブ・コントロール(長期金利目標の固定)**に踏み込む可能性も。

  • 短期金利を下げても長期金利が下がらない場合、「FRBは使命を果たしていない」と政権が圧力を強める口実になるかもしれません。

なぜ市場が敏感に?

  • FRBは短期金利は直接動かせますが、住宅ローンや企業融資に直結する長期金利は市場次第。

  • ただしFRBのバランスシート運営(現在6.6兆ドル規模)や規制方針が、国債需要を左右し、長期金利を間接的に動かすのは事実。

  • つまり「第3の使命」を強調すれば、FRBの裁量範囲が広がり、政策不確実性が増すと市場は警戒しています。

日本との比較

日銀はすでにイールドカーブ・コントロールを導入し、10年国債利回りを事実上操作してきました。FRBが「フルBOJ化」する可能性が示唆されたことは、米国市場にとって衝撃なのです。


まとめ

今回の「第3の使命」をめぐる議論は、FRBの役割が再定義される可能性を示しています。これまで「物価」と「雇用」という二軸で説明されてきた金融政策に、「長期金利の安定」という三本目の柱が加わることで、政策の幅は確かに広がります。しかしその分、政治との距離感が近づき、独立性が揺らぐリスクも大きくなります。

仮にFRBが積極的に長期金利を操作し始めるとどうなるでしょうか。住宅ローンや企業の設備投資コストが直接的に抑えられる一方、過度に低金利を維持すればインフレ圧力や資産バブルを招きかねません。逆に、バランスシートの縮小を止めて国債購入を再開すれば、国の財政規律やドルの信認に影響が及ぶ恐れもあります。

日本の読者にとって重要なのは、米国金利が世界経済に直結している点です。米長期金利が下がれば円高要因となり、輸出企業にはマイナス、輸入企業や旅行業界にはプラスが働きます。また、FRBが日銀のように「金利を直接コントロール」する方向に進めば、投資家は米国債だけでなく、株や不動産、さらにはビットコインのようなリスク資産に資金を移す動きが強まる可能性も。

結論として、「第3の使命」が本格的に取り上げられ始めたこと自体が、金融政策の新たなフェーズに入った証拠です。市場は今後、単なる利下げ・利上げだけでなく、FRBがどのように長期金利に関与するかを注視していくことになります。これは日本を含む世界の投資家にとって、無視できないシグナルです。


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編集後記

「第3の使命」という言葉を聞いて、思わず「そんなのあったっけ?」と思った方も多いのではないでしょうか。私自身も最初は驚きました。調べてみると確かに法律に明記されていて、これまで「自動的に満たされるもの」と考えられてきただけ。けれど、もし政権がそれを前面に押し出すと、金融政策の風景は一変します。

日本はすでに日銀が長期金利を直接操作するという実験を続けてきました。その影響の大きさを実感しているからこそ、「アメリカまでその道に入るのか」と思うと、世界経済への波及が怖くもあり、同時に興味深くもあります。

今後数年、FRBが「短期金利の調整」だけでなく「長期金利の直接コントロール」まで視野に入れるのか──。これは経済ニュース好きにとって、ますます目が離せないテーマになりそうです。

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