H-1Bビザに「10万ドルの壁」:企業はどう動く?

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トランプ政権、H-1Bビザに10万ドル課金ルールを導入

9月19日(金)、トランプ大統領が署名した大統領令が波紋を広げています。H-1Bビザの新規申請に10万ドル(約1,500万円)の支払いを義務付けるというもの。9月21日(日)発効で12カ月間有効(延長の可能性あり)です。

当初は既存保持者も対象になるのでは?と大混乱。企業は駆け込みで社員を米国に戻す指示まで出しましたが、翌20日、ホワイトハウスと米国移民局(USCIS)が「対象は新規申請のみ」と発表。現在の保持者や更新、すでに承認済みの案件には影響がないと明言しました。

H-1Bビザとは?

  • 対象:大卒以上の外国人専門職(ITエンジニアなど)

  • 期間:最長6年(グリーンカード申請で延長可)

  • 年間枠:85,000件(通常65,000+米大卒修士以上枠20,000)

  • 現状:ソフト労働市場にもかかわらず、毎年応募超過。2025年度も7月に上限到達。

なぜ企業は慌てたのか?

これまで申請費用は1,700〜1万ドル程度。それが一気に10万ドル。Amazonは2025年Q1〜Q3だけで15,000件承認を得ており、もし全件に新ルールが適用されたら**15億ドル(約2,200億円)**のコスト増。

ただし実際は、承認件数のうち新規申請は全体の5〜6%程度。Amazonでも追加負担は約8,000万ドルに収まる見込みです。

今後の変化

  • 高付加価値人材に集中:低賃金枠の利用は難しくなり、より高度スキル人材に絞られる。

  • 賃金基準の引き上げ:労働省により「職種中央値以上の給与」を提示するルールへ。

  • アウトソーシング規制:低賃金労働者を派遣する外部委託の抜け道を封鎖する動き。

  • Project Firewall:違法行為の多い企業を徹底調査。

結果として、テクノロジー・金融業界への影響が最も大きくなります。特にH-1Bの3分の2を占めるIT分野は「人材戦略の再設計」を迫られるでしょう。


まとめ

トランプ政権が仕掛けた「H-1Bに10万ドル課金」は、見た目以上にシンボリックな一手です。これまでH-1Bは、シリコンバレーを中心としたテック企業の「人材輸入弁当箱」とも言える存在でした。優秀で比較的低コストな人材を海外から呼び込み、米国のイノベーションを支える。特にインド系アウトソーシング企業は、その仕組みをフル活用してきました。

しかし今回の大統領令で、少なくとも「安く大量に人を入れる」モデルは崩壊します。AmazonやGoogleのような巨大企業ですら、1人につき1,500万円のコストを払うなら「本当に必要な人材か?」を精査せざるを得ません。これが実質的に人材の質的転換を促す可能性があります。

一方で、現実的な影響は限定的です。対象は新規申請のみ、更新や既存保持者には適用されません。つまり即座に人材が米国から消えるわけではなく、むしろ「これからどう採用するか」という戦略上のシフトに焦点が移ります。企業は「低コスト労働力」としてのH-1B利用から、「高付加価値人材への投資」としての利用へと舵を切るでしょう。

日本でも技能実習制度や特定技能ビザをめぐり、「安価な労働力を輸入する仕組み」が問題視されています。米国のH-1B改革は、同様の議論を抱える国々にとっても参考になるかもしれません。結局のところ、グローバル人材政策は「誰を呼ぶのか」だけでなく「どんな働き方を期待するのか」にシフトしていく時代なのです。

市場的に言えば、今すぐ株価や経済に大打撃を与えるものではありません。しかし企業戦略の地殻変動を引き起こす“シグナル”であることは間違いないでしょう。


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編集後記

「10万ドルH-1B」を聞いて真っ先に浮かんだのは、もはやビザが“人材課金アイテム”になっている現実です。企業にとっては「払えるかどうか」ではなく、「払う価値があるかどうか」の時代。つまり人材が“ガチャのSSR枠”扱いになるわけです。

ただ、制度の厳格化は同時に人材の選別を進め、労働市場を歪める危険性もあります。高給・高スキルの人材ばかり優遇され、ミドル層や地味な専門職が排除されれば、結局は現場の基盤が弱体化する。日本でもITエンジニア不足が叫ばれていますが、「安価で即戦力」の幻想に頼るのではなく、育成や環境整備に投資することが本筋でしょう。

結局のところ、トランプ流の一手は「米国企業に覚悟を迫る通告書」。一方で私たちにとっては、「人材をどう評価するのか」を考える鏡なのかもしれません。

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