深掘り記事:「リセッション前夜」にある22州の現実
アメリカ経済は“まだ”リセッション(景気後退)入りしていない。しかし、全体の約3分の1のGDPを占める22の州がすでにリセッション入り、あるいはその一歩手前の状況にあると、ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディは警告します。
どこが危ない?沈みゆく州の共通点
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移民の鈍化:労働供給が細り、人口増加が止まった州ほど成長が鈍化。
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関税の影響:農業・製造業への打撃が大きく、アイオワ・カンザス・サウスダコタなどが直撃。
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連邦政府の人員削減:ワシントンD.C.やバージニア、メリーランドなど「政府頼み」な地域が大きな打撃を受けています。
また、失業率が高止まりしている地域も散見され、D.C.では6%と全米最高水準。特に農業・製造業依存の州は軒並みマイナス圏に沈んでいます。
拮抗する2つの州「NYとカリフォルニア」
興味深いのは、今の全米経済がニューヨークとカリフォルニアの“踏ん張り”にかかっている点です。
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カリフォルニア:失業率は5.5%で依然高止まり
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ニューヨーク:4.0%で平均並み
この2州が後退に転じれば、「全米が本格的な景気後退に入る」とザンディは指摘します。現在のところ株式市場の上昇が富裕層の支出を支えていますが、これが崩れれば一気に状況が変わる可能性があります。
まとめ
「アメリカ経済はまだリセッションではない」。この言葉自体は事実です。しかし、「あと一歩」というザンディの表現こそが、今の経済の本質を突いています。
特に注目すべきは、22州という数字の大きさです。単なる地方の不調ではなく、全米GDPの3分の1がマイナス圏という事実は、景気後退の前触れとして無視できません。しかも、その主因は景気循環ではなく、政策・構造的な要因です。
1つは、移民の鈍化。労働力の供給が止まれば、人口増・消費増の好循環は途絶えます。
もう1つは、関税政策の影響。保護主義的な関税は一時的な雇用維持に役立つかもしれませんが、輸出依存度の高い農業州・製造業州には重くのしかかっています。
そして3つ目が、政府雇用削減です。特にD.C.周辺では、公共部門の縮小が地域経済全体を冷え込ませています。
さらに、景気の命運を握る「NY・CA連合」も不安定です。株高が資産効果をもたらしている間は支出が支えられますが、市場が調整に入れば2大州が一気にマイナス転落し、全米経済が引きずり込まれるリスクがあります。
この「バランスで持っている」状況こそ、今のアメリカの脆さです。数字が崩れた瞬間、景気は一気に後退フェーズへ――そのスイッチがどこで入るのか、神経質な相場はそれを探っています。
気になった記事:「財政赤字6.0%」と“新常態”の金融政治
財務長官スコット・ベッセントがFRBの会合でトランプ政権の経済政策を公然と称賛しました。独立性を重視するはずの中央銀行でこうした発言が許容されるのは、もはや“新常態”といえるでしょう。
財政赤字は**GDP比6.0%**と改善していますが、金融政策と政治が絡み合う現状は「ポリティカル・フェド」の時代が来たことを示唆しています。
小ネタ①:「家政ロボ」時代の足音
TIME誌が選んだ今年の発明のひとつが「Figure 03」。洗濯物を畳めるヒューマノイドですが、まだ洗濯機は回せません。とはいえ家庭用ロボットが本格的に台頭すれば、労働市場の再編にもつながる可能性があります。
小ネタ②:AirPodsと“バター革命”
AirPods Pro 3やOura Ringなど生活密着型テックも受賞。注目はラボ培養脂肪を使ったバターで、環境負荷を大きく下げつつ食品業界の構造を変えるかもしれません。
編集後記
アメリカ経済を数字だけで見ていると、「まだ大丈夫」と思いがちです。でも、その“まだ”が一番危険なんです。リセッションはある日突然やってくるのではなく、「じわじわ」と水が満ちるように進行します。そして気がついたときには、足元が抜けている。
今回の22州のデータは、まさにその「水位の上昇」を示しています。景気後退とは全国一斉に始まるものではなく、地方から始まり、やがて中心都市へと波及していくのです。
今はまさにその“序章”段階。だからこそ、「まだ大丈夫」と思っているときにこそ備える必要があります。
そしてもう一つ。FRBと政権の距離がここまで近くなると、経済政策はもはや“政治”そのものです。市場がそれを織り込み始めれば、為替・株式・債券の動きはかつてないほど不安定になります。
「経済は政治から独立している」という幻想が崩れたとき、次の大波はやってきます。
景気が悪化するかどうかではなく、「悪化にどれだけ耐えられるか」。投資家も、企業も、そして私たちも、その覚悟を試されるフェーズに入っているのかもしれません。
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