深掘り記事:「RIFsが始まった」──政府機能停止は“人事戦争”へ
「The RIFs have begun(人員削減が始まった)」──米行政管理予算局(OMB)のラス・ヴォート局長がX(旧Twitter)にこう投稿した瞬間、ワシントンの空気が一変しました。
これは単なる予算交渉ではありません。「解雇」を武器にした政治戦争の始まりです。
米政府は現在、予算の行き詰まりによって一部機能が停止する「政府シャットダウン(政府閉鎖)」状態にあり、通常業務の多くが止まっています。しかし、今回は2013年や2018年のような“政治ショー”で終わりそうにありません。
なぜなら、トランプ政権はこの機会を使って大規模な連邦職員の解雇へと踏み込んだからです。
■ 解雇という「政治の武器」
米政府の人員削減を意味する“RIF(Reduction in Force)”は、これまでも制度としては存在しましたが、実際に発動されることは稀でした。
ところが今回、トランプ政権はRIFを全面的に活用し、数千人規模の連邦職員を削減する計画を公表したのです。
トランプ大統領はホワイトハウスでこう宣言しました:
「我々は民主党系のプログラムだけを永久に削減する。人気があるかどうかなんて関係ない。民主党が支持する政策はどんどん切っていく。」
この強硬姿勢に対し、**連邦政府職員労組(AFGE)**は即座に提訴し、「すべての解雇通知が撤回されるまで戦う」と声明を出しました。
一方で、ホワイトハウスの報道官は「削減はすでに始まっており、**“実質的な規模”**になる」と認めています。
■ 民主党は猛反発、共和党は“冷ややか”
この一連の動きに対し、民主党は「違法で非人道的な攻撃だ」と強く反発しています。
-
パティ・マレー上院議員(民主):「政府を再開する唯一の道は妥協だ。脅しでは解決しない」
-
ドン・バイヤー下院議員(民主):「これは意図的に仕掛けられた災害だ。バージニア州に壊滅的な影響が出る」
-
スーザン・コリンズ上院議員(共和):「職員たちの仕事は極めて重要だ。今回の解雇は恣意的であり、私は強く反対する」
一方、共和党の多くは「想定の範囲内」として冷静です。
-
ジョン・スーン上院院内総務(共和):「政府閉鎖が続くほど、国民の痛みは増す。問題は民主党があと5票くれなかったことだ」
つまり、共和党にとっても「職員の解雇」は交渉カードの一つにすぎないという構図です。
■ 「政府閉鎖」の実態:国民の痛みと議会の温度差
連邦政府職員は10月20日から給与の支払いが止まり、軍人にも影響が及び始めています。しかし、議会の内側は“別世界”です。
キャピトルヒル(議会)は通常通り営業し、議員のカフェテリアも駐車場もそのまま。上院議員たちは海外リゾートでの資金集めパーティーまで開催している始末です。
2013年の政府閉鎖では空港の長蛇の列や公共施設の閉鎖で国民の不満が爆発しましたが、今回は「影響が見えにくい形」で静かに進行しています。
■ さらに「追加削減」が来る
下院議長のマイク・ジョンソンは「今後さらに歳出削減(rescision)が続く」と明言しました。
「我々は議会が承認した支出でも、取り消す可能性がある。民主党は支出削減が嫌いだろうが、これが現実だ。」
民主党側は「合意した予算まで撤回されては、交渉の意味がない」と反発。政府再開の条件として、「議会が承認した予算は尊重される」という保障を要求しています。
この追加削減が行われれば、政府再開までの道のりはさらに遠のく可能性があります。
まとめ:「予算対立」から「制度破壊」へ
今回の政府シャットダウンは、単なる「予算交渉の行き詰まり」ではありません。制度そのものを変える政治闘争へと進化しています。
-
✅ トランプ政権は「政府閉鎖」をテコに数千人規模の職員削減に着手
-
✅ 民主党は訴訟で対抗するも、共和党は“交渉カード”として冷静
-
✅ 政府機能停止が長期化し、国民生活への影響は拡大中
-
✅ 「合意済み予算」まで撤回対象になる可能性が浮上
これまでのシャットダウンは「政治の茶番」として消化されてきました。しかし今回は違います。トランプ政権は“政府という組織そのもの”を作り替える覚悟を見せています。
それは、次の大統領選に向けた「小さな行政改革」ではなく、「国家の仕組みそのものを再設計する戦略」と言っていいでしょう。
気になった記事:ワクチン論争、再び
ロバート・F・ケネディ・ジュニア厚生長官率いる新政権が、今度はワクチンに含まれるアルミニウム成分を標的にしました。
ケネディ氏は「少量でも喘息のリスクを高める可能性がある」と主張し、CDC(米疾病対策センター)の諮問委員会でも検証を進める見通しです。
一方で、主流派の専門家たちは「アルミニウムは安全かつ免疫反応の増強に不可欠」と反論。科学的な合意は崩れていません。
“ワクチン懐疑論”という、かつて収束したと思われていた火種が、再び政治の舞台に引き戻されています。
小ネタ①:「リセッション警戒感」で市場に不安
米連邦準備制度(FRB)の9月会合の議事録では、「景気後退リスクが高まっている」との声が相次ぎました。
背景には移民減少、人口動態の変化、AIによる雇用減少など複合的な要因があり、「労働市場の筋肉が衰えている」との分析も出ています。
小ネタ②:国会は“平常運転”の皮肉
連邦職員が給料を失い、軍人が影響を受けても、議員たちは高級レストランでの資金集めに忙しい。
「国民は痛むが、政治家は痛まない」──そんな皮肉な構図が、今回の政府閉鎖を象徴しています。
編集後記:「シャットダウン」という名の“制度破壊”
政府閉鎖というと、日本では「一時的な予算争い」くらいに聞こえるかもしれません。しかし、今回の米国で起きているのはそれ以上のことです。
これは、「行政機構の破壊と再設計」です。
「政府は敵だ」「小さな政府を作れ」──トランプ政権の根底にある思想は、レーガン時代の保守思想をさらに過激化させたものです。
今やその思想は、職員の削減という“実弾”を伴って現実化しつつあります。
皮肉なのは、この「小さな政府」路線が本当に国民のためになるのか、誰も確証を持っていないという点です。
サービスが低下し、セーフティネットが弱体化し、行政の専門性が失われたとき、困るのは結局「普通の生活者」だからです。
しかし同時に、これは米国社会が抱える「国家への不信」の裏返しでもあります。政府が信用されず、行政が“敵”と見なされる国で、行政機構が肥大化し続けることはもはや許されない。
そのジレンマの中で、アメリカは新しい国家のかたちを模索しているのです。
「RIFsが始まった」という一言は、単なる解雇通知ではありません。
それは、「国家の再編が始まった」という合図でもあるのです。
コメント