深掘り記事:「AIはアメリカの独壇場」という思い込みが崩れ始めている
ここ数年、「AI投資=米国テック株」という図式はあまりに当然のように語られてきました。マイクロソフト、エヌビディア、アルファベット──この“マグニフィセント7”が市場を牽引し、投資家たちは「アメリカさえ買っておけばOK」という空気にすっかり慣れきっていたのです。
ところが、2025年後半に入って、その“常識”に小さなヒビが入り始めました。
今年、中国のテック株は年初来44%以上上昇し、同期間の米マグニフィセント7の伸びを倍以上上回ったのです。
単なる一時的な反発なのか? それとも、世界のAI競争地図が静かに塗り替えられつつあるのか?
市場関係者は、後者の可能性を真剣に語り始めています。
■ 中国AI株が「再評価」され始めた理由
ウォール街のストラテジスト、ジェイ・ペロスキー氏はこう断言します。
「中国は多くの人が思っている以上に有利な立場にある。彼らは“勝ち始めている”」
彼の強気の根拠は4つあります。
① 「国産AI」育成への全力投資
米国による半導体規制を受け、中国政府はNVIDIA製チップの調達を抑制し、自国製AIチップやソフトウェアの開発を国家戦略として後押ししています。
“買う”から“作る”へ──自給自足体制の構築が急速に進行中です。
② 現実世界との融合を先取り
AIが「文章生成」から「ロボット・製造・再エネ制御」へと進化していく中で、中国はこの**“フィジカル×AI”の融合**を国家レベルで押し進めています。
ペロスキー氏は「再生可能エネルギーからロボット、先端製造までの連携を最もよく理解しているのは中国」と指摘します。
③ 経済の再加速と“リフレーション”政策
デフレ懸念に対抗し、中国政府は景気刺激策を強化中。内需拡大・投資支援・不動産対策など、マクロ経済政策が追い風となっています。
④ 外国人投資家の保有比率がまだ低い
中国テック株は依然として海外投資家の保有が少なく、「買われていない余地」が大きい。
加えて、バリュエーションも割安です。代表的なETF「KWEB(KraneShares CSI China Internet ETF)」は現在42ドル以下で取引されており、かつての最高値102ドルからは半分以下。割安感が投資妙味を生んでいます。
■ 地政学は“武器”にも“リスク”にもなる
さらに注目すべきは、レアアース(希土類)輸出規制という新たな外交カードです。
AIや半導体の製造に不可欠な希少金属の輸出を中国が制限したことで、米中交渉の駆け引きは一段と複雑になりました。
ペロスキー氏は「米国は中国のレアアースを必要とし、中国もNVIDIAのチップを欲しがっている。だからこそ“ある種の歩み寄り”が避けられない」と述べます。
ただし、交渉がこじれた場合は市場の急落リスクも孕みます。
■ 「やはり米国が主役」は本当か?
もちろん、「AI投資なら米国一択」という見方は依然として根強いです。
スタンダードチャータードのスティーブ・イングランダー氏によれば、米国のAI投資額は中国の約4倍。
AIの研究開発力・特許・人材など、あらゆる指標で米国がリードしているのも事実です。
さらに、投資家心理にも壁があります。法制度の不透明さや米中対立の激化から、中国市場を敬遠する富裕層は少なくありません。
それでも、市場関係者の間では「米国一強の構図が長期的に揺らぐ可能性」は広く意識され始めています。
特に米中関係が雪解けへ向かう兆しが見えれば、中国テック株は“第二のAIブーム”の主役に浮上するかもしれません。
まとめ:「中国AI」は“割安な第二の主戦場”になるか?
結論から言えば、中国AI市場はまだ米国に劣る面が多いものの、投資先としての妙味は増していると言えます。
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✅ 自前のAI技術開発・製造力を急速に高めている
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✅ 政策・マクロ環境の後押しが強い
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✅ 外国人保有比率が低く、成長余地が大きい
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✅ バリュエーションが割安で、参入ハードルが低い
一方で、政治リスク・制度リスク・地政学リスクは依然として重く、これは米国株にはない特有の不確実性です。
投資判断は「期待値の高さ」と「リスク耐性」のバランスで決まります。
「米国が本命、中国は番狂わせ」──今のAI市場は、ちょうどそんな構図に入りつつあるのです。
気になった記事:「ベッドロッティング」する労働市場
今のアメリカの労働市場を一言で表すなら、「ベッドロッティング(bed rotting)」。
これは「ベッドから出ずに何もしない」というSNS由来のスラングですが、今や経済の中枢でも使われるようになりました。
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雇用なし
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解雇なし
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転職なし
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賃金上昇なし
コロンビア・スレッドニードル社のエド・アル=フセイニー氏は、「労働市場の筋肉が萎縮し始めている」と指摘。
長く“寝たきり”状態が続けば、消費の鈍化 → 景気後退という連鎖が起こりかねません。
連邦準備制度(FRB)は利下げで景気を刺激する手もありますが、インフレ圧力との兼ね合いで難しくなっています。
「小さな企業の雇用減」から「大企業のレイオフ」へと波及するかどうか──ここが今後の注目点です。
小ネタ①:強気相場、3周年!
今週末、米国株式市場は**“ブルマーケット(強気相場)”誕生から3年**を迎えます。
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S&P500:+88%
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マグニフィセント7 ETF:+166%
主役は相変わらずビッグテックで、この勢いはまだ続くと見られています。
小ネタ②:米中“AI冷戦”の新フロントは「レアアース」
中国が新たなレアアース輸出規制を発表。AI・半導体製造の根幹を握る資源で、米中の交渉は一段と複雑化しています。
これは「AIチップ vs レアアース」という新しい経済戦線の始まりとも言えます。
編集後記:「中国株=地雷」という思考停止
「中国株なんて危なくて触れない」──こういう声、よく聞きます。たしかにその通りです。法制度は不透明、政治リスクは高く、政府のさじ加減一つで株価が吹き飛ぶ。
でも、それって5年前の米国ハイテク株にも言われていたことなんですよね。
AppleがiPhoneを出した当初、「スマホなんて一部のオタクしか使わない」と笑っていた人は今、何を使っていますか?
「中国は終わり」と言われ続けて20年。気がつけば、EVも太陽光も半導体も、彼らはすぐ隣にいます。
もちろん、“全力買い”なんて勧めません。でも、世界が一方向だけに進むと思い込むのは、投資家にとって最も危険なことです。
「勝負はまだ終わっていない」。それが今回の中国AI株の上昇が教えてくれる最大のメッセージでしょう。
アメリカの独壇場だと思っていたゲームに、**「第二ラウンドの挑戦者」**が静かにリングへ上がってきたのです。
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