AI新マグニフィセント?──次の「7人の巨人」は誰だ

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いまの米株式市場を説明するときによく出てくる言葉が「マグニフィセント7(Magnificent 7)」です。
これは米株をほぼ一人勝ちさせてきたビッグテック、いわば“主役7銘柄”の総称で、AI(人工知能)ブームのエンジンにもなってきました。日本の投資家にもおなじみの面々ですね。

でも空気が変わり始めています。
投資家は「その7人」に飽きてきている、というより“成長の次の受け皿”を探し始めているのです。で、いまウォール街で名前が挙がっているのが、Oracle(オラクル)、Palantir(パランティア)、Broadcom(ブロードコム)の3社。ここにQualcomm(クアルコム)が「NVIDIAの牙城に挑む新AIチップ」アピールで乱入してきたことで、話が一気に面白くなっています。

今日はこの動きを、投資・産業・経営の3つの角度から整理します。


1. なぜ「次の7人探し」が起きているのか

背景にあるのは、単純に言うと「今の主役が高すぎる問題」です。

米市場ではAI期待が一極集中し、特定の超大手に資金が吸い込まれました。結果として、それらの銘柄はPER(株価収益率=株価がどれだけ“利益の何倍”で買われているか)で見るとかなりの割高感があります。もう“AIやります”と宣言するだけでは驚いてくれない。投資家は「まだ完全に織り込まれていないAIストーリー」を探し始めています。

そこで浮上してきたのがオラクル、パランティア、ブロードコム。
この3社はそれぞれ違う理由で“AIで伸びるはず”という期待が語られています。

  • Oracle
    オラクルは、企業向けデータベース・業務システムの老舗企業という印象が強いですが、足元ではクラウド(データセンターを貸し出すビジネス)で攻勢に出ており、OpenAIと組んだことで「マイクロソフト、アマゾン、グーグルのクラウド寡占に割って入るのでは?」という期待が出ています。
    投資家の見方は「オラクルはクラウド×AIで、既存のビッグテックの昼ごはんを奪いにいってる」。

  • Palantir
    パランティアは“データ分析+AIによるインサイト提供”を、主に政府・防衛・基幹産業などに売ってきた会社です。CEOのビジョンが強烈で、「ソフトウェア産業の地殻変動を起こしている」とまで評価するアナリストもいます。ここは“AIをどう社会インフラに組み込むか”というストーリーがあり、ただのチャットボット屋さんではない、と。

  • Broadcom
    ブロードコムは、超大手向けにカスタムチップをつくる半導体企業です。いまのAI半導体のド本命はNVIDIAですが、NVIDIAだけでは供給も価格もきつい。そこで「ブロードコムが顧客別にカスタマイズしたAIチップを量産すれば、NVIDIAの一強モデルは崩れるのでは?」という期待です。つまり「NVIDIAに対する第二の大砲」として見られている。

要はこの3社それぞれが、マグニフィセント7の“どこかの稼ぎ筋”に直接パンチを入れる可能性がある、というのがウォール街の見方です。「主役の周りに、新・主役候補がぐるっと並び始めた」イメージですね。


2. でも、それ安いの?──冷静な話をしよう

ここで「これが次の大化け株だ!」と飛びつくのは正直ちょっと早いです。というのも、彼らもすでに高い。

オラクルはPER約65倍。ブロードコムはPER約92倍。
ちなみに「AIの覇者」と言われるNVIDIAですら54倍ほどと言われています。
つまり「今さらNVIDIAは高いからオラクル/ブロードコムに分散だね~」と口では言っても、そこも既に相当な期待が乗っているわけです。ぜんぜんバーゲンセールじゃない。

これは投資家心理の面白いところで、“高いけどまだ上がるかも”という希望を買い続けるフェーズに入っているとも言えます。バブルっぽい? 正直、バブルっぽいです。ただ、米株はそういう「バブルっぽい」を何度も乗りこなして時価総額を押し上げてきた市場なので、そこは怖いけど無視できない現実です。

ちなみに、一部の機関投資家は利確も進めています。ある運用会社は、オラクルやブロードコムにかなり早くから入っていて株価が大きく上がった結果、ポートフォリオ内で比率がデカくなりすぎたため、むしろ売ってウエイトを落としているとも話しています。これは「銘柄自体の成長性に不安がある」というより、「リスク管理上のリバランス」です。
要は、もはや“縁起物のAI銘柄”ではなく、きちんとポジションコントロールの対象になってきているということです。


3. AIマネーは産業全体を再編している

この“新しい主役候補探し”は株の話だけではありません。実体経済でM&A(企業の買収・合併)が一気に戻ってきた、という事実とつながります。

いまアメリカでは、1日で800億ドル超(数十兆円規模)のディールが立て続けに発表されるほど、買収・統合が活発化しています。
例えば、

  • 米国の大手水道会社同士の大型統合(評価額630億ドル規模のオールストック合併)

  • 製薬大手による希少疾患バイオ企業の約120億ドルの買収

  • 地方銀行同士の統合(74億ドル規模)
    など、“でかい×でかい”の取引が並びました。

投資家の受け止めは「きた、これはトランプ政権(※現政権)下で規制がゆるみ、金利も下がりつつあって、企業が動きやすくなっているサインだ」というものです。ある投資会社のCEOは「規制が緩い。プロビジネスな政権だ」とはっきり言っています。
金利が下がれば借入コストが下がり、M&Aもしやすくなります。株価がそこそこ高ければ自社株を“通貨”として合併も仕掛けやすい。つまり、カネが回りやすい環境が戻ってきたということです。

さらに面白いのが、AI企業への資金流入が、ベンチャー(未上場)サイドでもとまらないこと。
ある調査では、直近の四半期で、世界のベンチャー投資のほぼ半分がAI関連に集中したという報告も出ています。もはやAIは「IT業界のトレンド」ではなく、M&Aも、スタートアップ投資も、産業再編も、全部AIを軸に回っている。
AIは1事業部ではなく“経済全体の改装テーマ”になった、というのがいまの米国です。


4. 「バブルっぽい」のに止まらない理由

ここまで聞くと、正直ちょっと怖いですよね。
・AI関連株はすでに高いのに、さらに「次の7人」を探している
・M&Aは巨大化している
・スタートアップ資金もAIに雪崩れ込んでいる

これ、大丈夫? という話です。

投資家サイドの言い分はこうです。
「確かに高い。でも、これは“夢物語のAI”じゃない。データセンターはもう建っているし、ソフトウェアはもう売れているし、NVIDIAのチップは現物が出荷されてる。ハコは物理的に存在する。だから、これは90年代ドットコム泡と同じではない」
つまり、「机上の空論じゃなくて、すでに設備投資と受注が実体化してるんだから、多少割高でも乗る価値はあるでしょ?」という理屈です。

この考え方は、株式市場の“勢いの継続”を正当化します。崩れるとしたら、どこで崩れる?
それは2つ。

  • 企業が期待どおりの売上・利益を上げられないとわかった瞬間

  • 政策や規制が急に逆風になった瞬間

今のところ、利下げ期待は強く、政権サイドからも「企業活動をしやすくするよ」というメッセージがはっきり伝わっています。つまり、どちらのリスクも“いまこの瞬間”は表に出にくい。だから走れる。
これが、AIブームが「やばい、でも止まらない」と言われる理由です。


5. 日本ビジネスへの示唆

この流れ、日本にもいろいろな意味で来ます。特に3点。

① AIは“特定の神企業に任せるもの”から“業界中堅でも使って成長する武器”に下りてくる
オラクルやブロードコムのように、「トップじゃないけどAIで牙をむく中堅」が米国では普通に評価されはじめました。これは日本企業にとってもチャンスです。GAFA的な“雲の上”がAIを独占するイメージから、「業界2位・3位でもAI武装で巻き返す」というゲームに変わるということだからです。クラウド、半導体、業務ソフト、どこも「2番手、3番手の反撃」が物語になる。

② M&Aは“守りではなく、攻めの再成長策”として復権
米国では規制が少し緩んできたことで、インフラ企業から銀行、製薬まで「じゃあ一緒になってスケール出すか」という再編が一気に動いています。日本でも、人口減・コスト増を“価格転嫁だけで乗り切る”のは限界になっています。今後の成長ストーリーとしての統合・買収は、国内でもまた強い説得力を持ち直すはずです。

③ “割高だけど伸びる期待値”という語りをどう社内に持ち込むか
今の米マーケットは、「高いのは知ってる。でも成長ストーリーを止めるより、伸ばした方が株主価値が上がる」と堂々と言えています。日本企業はまだ「株主に叱られない論理」優先で、成長より説明責任のほうが勝ちやすい構造ですが、それが本当に競争力になるのか?という問いは確実に増えます。要は、守りすぎてチャンスを取りこぼしていないか?という自己点検が必要になる、ということです。


まとめ

アメリカの株式市場はいま、「マグニフィセント7(AIブームをけん引した巨大テックのスター集団)」以降の物語を探しています。投資家が注目しているのは、Oracle、Palantir、Broadcomといった企業です。オラクルはクラウド基盤を武器にOpenAIと組み、マイクロソフトやアマゾン、グーグルと正面から張り合えるポジションに入ってきたと評価されています。パランティアは“AIで組織の意思決定そのものを変える”という超・経営層向けのソフトを強みにしており、CEOのビジョン込みで「業界の地殻変動役」と言われています。ブロードコムは巨大顧客向けにカスタムAIチップを設計・供給し、NVIDIA一強とされるAI半導体分野に次の主役として入り込もうとしている、と見られています。そこにQualcommが「データセンター用の新AIチップ」を発表して一気に株価を押し上げ、「NVIDIAの独走は永遠じゃない」ムードを強めました。

要するに投資家は、いまの“王者たち”がすでに織り込んだAI期待ではなく、「これからグロース(高成長)余地を食いにいける、第二列の成長株」を探しているわけです。ただ、冷静に見るとこれらの候補もすでに割高です。オラクルはPER約65倍、ブロードコムは90倍超、NVIDIAですら54倍とされる中で、「高いけど、まだ上がる余地がある」と信じて資金は流れている状態です。この“高いのは知ってるけど、それでも買う”という心理はバブル的でありつつ、市場では合理的でもある、というのがややこしいところです。なぜなら、AIはもはや机上の夢ではなく、データセンターや半導体、企業向けAIソフトなど、すでに実物と契約と受注が走っているからです。投資家は「もう工場もサーバーも建ってるし、もう顧客もついてる」という現物主義でAIに賭けています。だから強い。

この熱狂は株式だけではありません。アメリカでは大型M&A(企業の統合・買収)が一気に戻ってきました。水道インフラ同士の600億ドル級の合併、製薬大手によるバイオ買収、地方銀行の統合など、合わせて1日で800億ドル超のディールが発表されるなど、“巨大×巨大”の再編が動いています。背景には、(1)金利低下観測で資金調達がしやすくなったこと、(2)「企業が動きやすいようにする」政治ムード(規制のハードルが下がっているという受け止め)、(3)AI分野で勝ち筋のある企業をいち早く押さえておきたいという焦り、があります。実際、ベンチャー投資の世界でもAIは資金の“半分”を吸っているとも報じられており、AIは単なる1部門ではなく、経済全体の再編テーマになっています。

この状況は、日本のビジネスにも示唆があります。まず、「AIはGAFA的な一極集中」という時代から、「2番手、3番手プレイヤーがAI武装で1番手に噛みつく」時代へ移りつつあるということ。オラクルやブロードコムの扱われ方はまさにそれです。次に、M&Aが“延命のための統合”ではなく、“次の成長物語を作るための積極策”として再評価されていること。米国では規制環境と金利環境を背景に一気に火がついた。日本企業も「縮むから守る統合」から「伸びるために攻める統合」へ、ストーリーを塗り替えられる企業がどれだけあるかが競争力になります。そして最後に、“高いけど成長チャンスがあるなら張る”という資本市場の態度が、そのまま経営スタイルに反映されていくということです。守備的な説明責任だけでは、世界のスピードに置いていかれる。米国はもうそのフェーズに入っている、というのが今回の一番の学びです。


気になった記事

「合併・買収はもう復活したの?」という問いへの答え:はい、かなり本気です。

米国市場では“Merger Monday”(月曜に大型M&Aがドカっと出る恒例の言い方)が帰ってきた、と言われるくらい、M&Aが一気に活発化しています。1日で800億ドル超規模のディールが公表されたり、水道インフラ企業同士が株式交換(オールストック)で630億ドル級の合併を決めたり、製薬大手が希少疾患バイオ企業を120億ドルで取りに行ったり、地方銀行が74億ドル規模でくっついたりと、ジャンル問わず“まとめ買い”が起きている状態です。

この波は「AIで儲かりそうだからITだけが盛り上がってる」ではなく、より広い産業全体で「今のうちに規模もアセットも抑えろ」というモードが戻ったことを示します。たとえば水道会社同士の合併は、デジタル云々というより“インフラはスケールが効く”“大きくなれば資本コストは下がる”という、非常にクラシックなロジックです。銀行の統合もそうで、地域銀行同士が合体することでバランスシートを分厚くし、金利環境や規制環境に耐えるための再編が進んでいます。

では、なぜ今ここまで一気に?
理由の一つは「政治」が“ビジネスやれやれ”モードになっている、と投資家が感じていることです。現政権は「プロビジネス」だ、規制の締め付けがやや緩い、と受け止められていて、その安心感が経営陣の背中を押しています。もう一つは金利。金利が下がる、つまり資金調達コストが下がる期待があるから、株式交換でも借入でもディールが組みやすい。加えて、AIを軸にした将来の成長ストーリーを、今のうちに外から買っておきたいという焦りもあるわけです。

この「M&Aは守りではなく攻めの成長投資」という空気は、日本企業にも波及していく可能性が高いです。少子高齢化・コスト高・人材不足といった課題を、値上げだけで吸収するのは限界があります。そこで“統合による再設計”を打ち出せるかどうかは、これからの経営ストーリーの勝負どころになるはずです。


小ネタ2本

① Robinhood、ついに「おまかせ運用」でも1,000億円級
個人投資家向け証券アプリでおなじみのRobinhoodが運用サービス(いわゆるロボアド型の「おまかせ資産運用」)で運用資産10億ドル(約1,000億円規模)に到達したと明かしています。これって地味に大きいです。なぜなら「お金を預けて長期で運用して」とお願いする相手が、もはや銀行や伝統的な証券会社ではなく、Robinhoodみたいな“アプリ起点のブランド”になりつつあるということだからです。日本でも「ネット証券のつみたてNISAがメイン口座」という人は増えていますが、アメリカはその一歩先で、“最初からロボでいいや”が当たり前化してきています。

② Dr.スース、まさかの新刊で“国を教える”
『キャット・イン・ザ・ハット』で知られる児童書作家ドクター・スースの未発表原稿が発見され、「Sing the 50 United States!」というタイトルで来年出版予定とのことです。米国の50州の名前を、リズムとキャラで覚えよう的な内容だそうで、アメリカ建国250周年の記念に合わせて出すとのこと。
正直、「AIとM&Aと半導体の話のあとに猫の帽子?」という感じですが、こういうナショナル・アイデンティティの再確認コンテンツが出てくるのもまた“今のアメリカ感”です。自国製造と技術覇権と州ごとのアイデンティティを同時に語る国って、こういうところが強いんですよね。日本も47都道府県ラップとかもっと本気で輸出しましょう。


編集後記

最近のアメリカ市場を見ていて一番おもしろいのは、「みんなバブルって言ってるのに、誰も本気で降りる気がない」ところです。普通は「高すぎるから気をつけようね」→「利確して一回様子見ようね」という空気になるはずなんですが、今は「高い? 知ってる。でも次のやつももう乗っとこ?」という発想が素で出てきています。怖い。けどちょっと羨ましい。

この“次のやつ”探しが、オラクルやパランティアやブロードコムなんですよね。すでに大企業なのに、まだ「次世代の伸びしろ」として扱われる。日本企業って、このポジションをとるのがすごく苦手です。ある程度の規模になると、「守る」「既存事業を安定させる」「財務は健全」というほうに語りが寄っていく。結果として、投資家は「伸びしろ」を海外で探すことになる。マーケットとして正直もったいないです。

もう一つ感じるのは、M&Aの復活の仕方があまりにも“遠慮がない”ことです。インフラ、水道、銀行、バイオ。要は「国の血管・神経」みたいな領域を、普通にビジネスとして大きく束ね直していく。そこに対して「独禁法(独占禁止法)的に大丈夫?」という声はもちろんあるけれど、今のムードは「いや、今はスケール経済のメリットのほうが大事」という感じなんですよね。政治のメッセージも「やれやれビジネス」という方向と受け止められている。日本だと、ここが一番ハードル高いところです。なんとなく「公共性」とか「地域性」みたいな言葉で止まりがち。でも、その“止まり”の間に、世界の再編はどんどん決まっていく。

そして最後にAI。AIはまだ魔法の杖として扱われていて、経営者も投資家も「AIで効率が上がり、生産性が改善し、コストが下がる」と連呼します。もちろん正しいんですが、同時にそれは「勝者がより勝つ」ことでもあります。AIが“2位・3位”の企業にまで行き渡ると、業界トップの牙城を揺らすチャンスにもなる一方で、トップはトップでさらに巨大化する。つまり、業界再編のスピードはむしろ速くなります。日本企業が「うちは人が命だからAIは慎重に…」と言っている間に、アメリカ企業は「AIで評価コメントも書いたし、合併も進めたし、次の成長株ももう織り込んだよ」というところまで行ってしまうかもしれません。

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