「トランプと“言うことを聞かない”共和党」

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深掘り記事:上院共和党がにわかに“議会の筋肉”を見せた日

今回の英語記事は、一見すると「またワシントンの小競り合いか」で終わりそうですが、よく読むとけっこうレアな瞬間が描かれています。ポイントはただ1つです。

政府閉鎖(shutdown)の大きな枠ではトランプと足並みをそろえているのに、細かい政策では“そこは違うよ”と4つも言い出した。

この“4つの違い”が、いまの共和党の本音をむき出しにしています。順番に整理します。

1. 関税での造反:地元産業はやっぱり守る

1つ目は関税。上院共和党の一部がブラジル・カナダ・世界向けのトランプ関税をひっくり返す決議に民主党と一緒に3回も乗ったという話です。名前が挙がっていたのは、ムルコウスキー、コリンズ、ランド・ポール、マコネル、トム・ティリス。いずれも「筋論で動く」「地元産業の声が大きい」「党と距離をとることを恐れない」タイプです。

なぜここで関税に異議を唱えるのか。理由はシンプルで、

  • 対中・対欧州の“戦略的関税”ならまだしも

  • ブラジル産・カナダ産のものまで広く巻き込むと、自分の州の農家や輸入業者がまるごと被弾する
    からです。トランプの関税政策は“米国優先”を掲げていますが、共和党議員はしょせん選挙区優先。そこがずれたら、いくらトランプでもついてはいけない。

ここで大事なのは、これはトランプに逆らったというよりも、「議会としての権限を思い出した」動きだということです。関税は安全保障をくっつけると大統領権限で一気にできますが、あまりに広範になると議会側が「それはもう政治じゃなくて選挙に響くやつだからこっちでやる」と言いやすくなる。今回の票の割れ方はまさにそれです。

2. ルーマニアからの米軍削減に「ちょっと待て」

2つ目はルーマニア駐留米軍の縮小。上院・下院の軍事委員長が連名で「それはロシアに悪いメッセージを送る」と声明を出し、さらにマコネルも「欧州から退くのはインド太平洋の抑止にもマイナスだ」とのっかりました。ここも重要で、対ロシア・対NATOのラインだけは共和党でも“反トランプ的に”硬いというのが現れている。
トランプ政権はどうしても「アジア優先・欧州コストカット」に寄りがちです。そこに今回、“いや欧州を薄くしたらロシアと中国が連動するからダメ”という、昔ながらの共和党の安全保障観が顔を出した。これも“議会としての筋肉”です。

3. ベネズエラ(実際には対麻薬ボート攻撃)の議会外しに異議

3つ目は、民主党を外した軍事ブリーフィングへの不満。リンジー・グラムまで「デモクラッツもブリーフィングすべき」と言ったのは、要するに「軍事行動をホワイトハウスの“身内イベント”にするな」ということです。これは党争というより議会 vs 行政府の構図で、共和党でも「軍事は超党派で持つもの」という古い信仰があります。これもまた“トランプのやり方には完全追随しない”のサイン。

4. 牛肉でブチ切れる共和党議員たち

そして4つ目が、一番人間らしくておもしろいところ――アルゼンチン産ビーフの輸入をめぐって、共和党上院議員が昼食会で一斉に文句を言ったというくだりです。地元に牧場や大きな畜産がある議員にとっては、これは選挙のど真ん中。VPのVanceが「牛肉以外の話ある?」と冗談を言わざるをえないほど、ここは熱量があった。
これを笑い話で済ませてはいけなくて、“トランプが国全体のディールで持ってきた話でも、地元を痛めるときは普通に怒る”という行動例なんですね。つまり、今の共和党は「トランプ党になった」と言われがちですが、実際には州経済・業界団体・地元雇用に当たると、ちゃんと元の“共和党らしさ”に戻る。今回の記事はそこをきれいに見せています。

全体像:大きいところは一緒、小さいところは違う

じゃあなぜ、こんなにあちこちで“トランプにちょっと逆らう”動きが同じ週に出てくるのか。背景は2つあります。

  1. 政府閉鎖が長引き、SNAP(低所得者向けの食料支援)の期限が迫っているのに、上院が休会したから
     「自分らはハロウィンで孫に会ってるのに、国民は食べられないのか」と怒るのは、ごくまともな政治的反応です。民主党のロゼンや、共和党のムルコウスキーまでが“帰るな”と言ったのは、世論の空気がさすがにまずいと読んだからです。

  2. 同じく11/1に医療保険(ACA)関連も入り、地元で説明しにくくなったから
     つまり、「トランプと喧嘩したい」というよりも、“このままホワイトハウスのペースで行くと自分たちの選挙がしんどい”ので、ところどころで減速したいわけです。

この“ところどころで減速”というのは、日本のビジネスに置き換えると分かりやすいです。トップが「今年はグローバルでガンガン行くぞ」と言ってるのに、営業が「でもこの1社だけは値下げしないと落ちるんで、ここだけは例外にさせてください」とやっている状態。**方向は合わせる、でも地元は守る。**政治家っぽくていいですね。


まとめ

今回の一連の動きで分かるのは、ワシントンはいま**「トランプ対民主党」ではなく「トランプの大枠に乗る議会 vs その中で自分の地元を守りたい議員」**になっているということです。
共和党上院議員は、政府閉鎖や対中貿易・対ヨーロッパでの大きな戦略目標については、今のホワイトハウスの方針と大きくはぶつかっていません。むしろ「民主党がSNAPだけ通して逃げようとするのはダメだ」「保険の減税・補助を人質にするのはやりすぎだ」という点では、ホワイトハウスと歩調が合っている。

しかし、その一方で、

  • カナダ・ブラジルへの広すぎる関税

  • NATOの東側を細らせるような兵力削減

  • 超党派で説明すべき軍事行動を“身内でやる”こと

  • そして極めつきは、自分の州の牛肉を痛める輸入策
    こうした“ローカルに見えて票に直結する”テーマでは、ちゃんと反旗を翻す。この二段構えが今の共和党です。

これは、来年以降のビジネスにも効いてきます。なぜなら、この構図だと**「トランプ大統領がこう言ってるから米国はこう動く」は成立しなくなる**からです。関税1つ見ても、実行前後で議会が巻き戻す、あるいは2国間で個別に緩和する余地が大きくなる。つまり、日本企業が一番イヤがる“コロコロ条件が変わるやつ”が増える。

さらに悪いことに、上院が“世論に見られている”と感じたらすぐ帰らずに仕事しろ、というムードを出すようになってきた。これは予算・産業政策・安全保障の審議が長引きやすく、決着が後ろにずれやすいということです。日本の企業カレンダーで“Q4で米国案件を決める”のがやりにくくなり、“大統領はOKでも上院がまだ”というパターンが増える。ここは注意して見たいところです。

要するに、今回の記事が伝えているのはこんな構図です。

「トランプのアジェンダは動く。でも、それを実行する米国という国家は、州・産業・議会のレイヤーでちゃんと“待った”をかけている。」

表面上は強権に見えるけれど、実体はだいぶ交渉と例外でできている。これが今のアメリカです。


気になった記事

「SNAPの締切が見えてるのに帰るのか」という上院のダラけた現実

今回個人的に一番“ワシントンらしいなあ”と思ったのはここでした。
SNAP(食料支援)が11月1日で止まるかもしれないという、かなり真剣な期限が迫っているのに、「じゃあ今週はもう帰りましょう」とアジャーンしようとした。これにネバダのジャッキー・ローゼン(民主)と、ムルコウスキー(共和)が「いやいや」と異議を出した。

「孫とハロウィンしてる場合か」というローゼンの言い方は、政治的にすごく正しい。なぜならSNAPで困るのは、ワシントンから遠い州・郊外・低所得の家族で、政治的に声を上げにくい人たちだからです。そこで議員が家に帰ってしまうと、「金持ちの政治ゲームのためにうちの食費が止まった」という分かりやすい構図ができてしまう。
だから今回、与野党の“真ん中寄り”が「帰るな」と言った。これはアメリカ政治がまだ完全に壊れてはいない証拠です。世論の目線まではさすがに無視できなかった。


小ネタ2本

  1. 「牛肉以外の話ある?」は永遠に使えるツッコミ
     Vance副大統領が上院ランチでそう言ったと伝えられていますが、これ、日本の会議でも「それ以外の論点あります?」と言いたくなる場面は多いですよね。しかも今回は本当に“牛肉の話で全部終わりそうだった”ので、政治家っぽい上手なガス抜きです。

  2. 電撃テレラリーはまだ効く
     トランプとヤンキンがバージニア州の選挙でテレラリーをやった話も出ていましたが、SNS全盛でも「大統領が直接あなたに言っています」という演出はまだ強い。日本でもオンライン集会をもっと政治家が上手にやればいいのに、と思う好例です。


編集後記

アメリカ政治を見ていると、「いや、そんなにトランプ一色なら全部トランプの思い通りにすればいいじゃない」と思う瞬間があります。ところが現実はそうならない。なぜかというと、アメリカは“連邦と州”でできている国だからではなく、“選挙区で再選したい人たち”でできている国だからです。
今回みたいに、牛肉、ブラジル、カナダ、ルーマニア駐留、ベネズエラ説明抜き――全部バラバラな論点なのに、出てきた結論はだいたい同じで、「そこはうちの票田に響くから、ちょっとトランプでも譲ってもらおうか」なんですね。ものすごく人間的です。

面白いのは、こうした“小さな逆らい”をしても、誰も「反トランプ」にはならないことです。メディアが期待しているような、ドラマチックな決裂は起きない。なぜなら、彼らも大きなところではトランプ人気に乗らないと選挙が怖いから。
なのでこれからもしばらくは、

  • 大きな旗(対中・移民・財政)はトランプの色で

  • でも州の懐に手を突っ込まれたら普通に怒る
    という二層構造が続きます。日本から見ると分かりにくいけれど、ビジネスで見るとこれは案外ありがたい。「トランプがこう言ったけど、議会がまだだから待つ」という時間があるからです。その時間に、日系企業はロビーをかけられる。

一方で、アメリカの有権者からすると「だったら最初から揉めるなよ。SNAP止まるんだから帰るなよ」という、ごくまっとうな怒りしか残らない。
政治が自分たちの生活を“巻き添えにしている”と感じるとき、人はポピュリズムに流れます。今回、共和党がちょっとだけトランプにブレーキをかけたのは、その流れをギリギリで見ていたからでしょう。
要するに彼らもわかっているのです。「トランプの強さ」と「有権者の生活の脆さ」は、同じ画面の上に置いたらバランスが悪いと。だからときどき、こうして小さく逆らってみせる。
現場感のある、実にアメリカらしい“反抗期”でした。

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