ウォール街は“目隠し状態”で2026年へ:データなき時代の投資戦略

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【深掘り記事】

■ 1 big thing: Wall Street is flying blind into 2026
──「データ断食」の6週間で市場はどう変質したのか**


◆「見えない2025」が作る“読めない2026”

2026年相場の見通し──本来であれば、毎年11〜12月はウォール街のストラテジストたちが次の年の「相場アウトルック」を発表し、世界中の投資家がそれを読み込む季節です。

しかし今年は事情がまったく違います。

2025年10月1日から始まった 6週間の政府シャットダウン により、
・雇用統計(Jobs Report)
・CPI(消費者物価指数)
・PPI(生産者物価指数)
・GDPの一次・二次速報
といった主要データが完全に空白となりました。

つまりウォール街は、「去年(2025年)がどうだったのか、よく分からないまま」、来年(2026年)を予測しなければならないという、史上まれに見る状態に入っています。

Charles Schwab の Kevin Gordon はこう言います。

「みんな年末にアウトルックを書いているけど、2月に“バージョン2”を出し直すことになるだろう」

これは極めて異例です。ウォール街の年次レポートは、通常は客観データの積み上げが命であり、統計の抜けは致命的。ところが今年はその“足場”が失われた状態です。


◆弱っていた労働市場が、実はさらに悪化していた可能性

Vanguard の Josh Hirt は、特に 労働市場(Labor Market) に注目しています。

「雇用データはインフレより先に変化する。この2か月で大きく悪化していたなら、2026年見通しに強烈なサプライズが起きる」

実際、シャットダウン前から雇用の鈍りは見られていました。2025年中盤の求人件数は減少傾向にあり、企業の採用意欲もピークアウトしていたため、

「10〜11月分のデータが公開されない」

“谷が深かったかもしれない”が確認できない

という状況が続きます。

この不確実性は、賃金・労働力人口・企業利益など、広範囲に影響します。


◆GDPは“ガタガタ”、政策不確実性は急騰

State Street の Michael Metcalfe は GDPNow についてこう警告します。

「四半期GDPの予測は、今はほぼ不可能に近い」

さらに重要なのは、政策不確実性指数(Policy Uncertainty Index) がシャットダウン期間中に急騰したこと。
関税政策、移民政策、財政支出、補助金などが目まぐるしく変わる中で、企業や投資家が「基準値」を持てなくなっています。

Hirt はこう指摘します:

「公共データが途絶えたとはいえ、そもそも政策の変動幅が大きく、“本当の地面がどこにあるか”分かりづらい環境だった」

これがシャットダウンでさらに悪化した、というわけです。


◆民間データ(PriceStatsなど)が急浮上

興味深いのは、政府の統計が止まっている間、民間データが存在感を発揮したことです。

特に PriceStats は、過去5年間でBLS(米労働統計局)のCPIと「80%以上の一致率」を示すと言われ、
ジェローム・パウエル議長も名前を挙げました。

・State Street は PriceStats を買収
=今後、民間インフレ指標の重要度がさらに増す。

政府統計に依存しない市場分析が、今後“標準装備”になる可能性があります。


◆2026年相場のカギ:

「2025年の全体像」をどこまで正しく再構築できるか

マーケットのテーマは来年こう動くと予想されます。

● パターン①

「2025年は実は悪かった」ケース → 利下げ期待 → グロース株復活

もし労働市場の悪化が深刻だった場合、FRBは早期の利下げを迫られます。
2023〜2024年のAI相場の再演となり、NASDAQ中心に強気ムード復活のシナリオ。

● パターン②

「予想より持ちこたえていた」ケース → 金利据え置き → バリューに追い風

企業が予想以上に利益を確保していたなら、金利高止まりのまま。
製造業・インフラ・エネルギーなどのシクリカル(循環株)が中心に。

● パターン③

政策不確実性が高止まり → ボラティリティ上昇 → キャッシュポジション増加

実際、2024年末〜2025年末の間に、Buffett でさえ総額 3,820億ドルのキャッシュを積み上げています(Berkshire 3Q時点)。

不確実性の時代ほど、現金は“戦略資産”になります。


◆日本のビジネスパーソンへの示唆

  1. 米国の労働市場データが復旧するまでの2〜3ヶ月、相場は不安定化しやすい。

  2. AIバブルの揺り戻しは必ず来る(良くも悪くも)。

  3. 資金調達コスト(金利)が読めないため、企業の投資判断も遅延する。

  4. 民間データ(オルタナティブデータ)活用の重要性が急上昇。

特に日本企業の米国進出・輸出企業は、
・為替リスク
・金利シナリオ
・政策変更
を“複数パターンで”想定することが必須となります。


【まとめ】

──「データなき世界」で投資家ができること**

今回の「ウォール街の目隠し問題」は、単に政府シャットダウンの余波ではありません。
より深い、構造的な問題が浮き彫りになりました。

◆① 統計が止まると、市場は“基準点”を失う

企業決算は出ていても、マクロの“地図”がない。
だから一流ストラテジストですら「2月にアウトルック出し直します」と言うほど、視界不良です。

◆② 労働市場の真相がカギ

特に10〜11月の失業率・雇用者数は、2026年相場の方向性に決定的な影響を与えます。
弱かった場合 → 利下げ期待でグロース優位
強かった場合 → 金利高止まりでバリュー優位

◆③ 民間データが台頭

政府統計への依存度が下がり、PriceStats のような民間企業データの信頼度が急上昇。
これにより、情報収集の“力点”が変わります。

◆④ 不確実性はすでに市場に織り込まれ始めている

政策不確実性指数は急騰し、投資家はキャッシュを厚めに持つ傾向に。
これは米国だけでなく、日本の機関投資家のリスク管理にも影響します。

◆⑤ 日本企業こそ「複線シナリオ」で動くべき

米国経済が曖昧な以上、
・ドル円の変動
・米国金利の方向
・AI投資の過熱/後退
を複数のルートで評価する必要があります。

最終的に2026年は「データ復旧後の2〜3ヶ月」が勝負。
その期間に市場のコンセンサスが急速に形成され、“大きなトレンド”が生まれます。


【気になった記事】

■ Intoxicating Hemp(THC含有ヘンプ)再犯罪化へ:28億ドル産業への衝撃**

今回の政府再開法案の中で密かに話題となったのが、
THC含有ヘンプ製品の再犯罪化 です。

◆背景

2018年のFarm Billにより、
THC含有量0.3%未満のヘンプ製品は合法化され、
・Delta-8
・THC飲料
・ヘンプグミ
などが全米で爆発的に普及しました。

しかし今回の新基準では:

「容器あたり0.4mgを超えるTHCを含む製品はすべて違法」

となり、業界は「95%の売上が消える」と悲鳴。

◆問題点

  1. 若年層への拡散(規制不足)

  2. 化学的に濃縮された高THC商品が増えた

  3. 州ごとの規制差が混乱を招いた

◆影響

業界30万人の雇用に影響する可能性。
また、SNAP(低所得層の食料支援)での価格差別禁止が、
小売のレジシステム更新を困難にします。


【小ネタ①】

Apple新作「iPhone Pocket」が“ネットのオモチャ”に**

・150ドル〜230ドルのニット製ポーチ
・Issey Miyake とのコラボ
・iPod Socks(2004年)と比較され「高すぎ!」と総ツッコミ

「Boratのマンクロスに似てる」という投稿もバズり、
久々に“Appleが真面目にふざけた”と話題に。


【小ネタ②】

国防総省→国防“省”ではなく「Department of War」に?
──名称変更コストは20億ドル**

・看板、書類、デジタルコードまで総入れ替え
・軍基地の標識も刷新
・セキュリティシステムの更新は膨大

「節約する」と言いながら20億ドルかかる“巨大リブランディング”。
名前を変えるだけで、ソロモン諸島のGDP超え。


【編集後記】

──“見えない世界を歩く”ということ**

今回のシャットダウン報道を追いながら、ふと思ったことがあります。

私たちは普段、当たり前のように“数字のある世界”で生きています。
GDPがどう、CPIがどう、失業率がどう──。

でも、たった6週間、政府統計が止まっただけで、
ウォール街は“真っ白な地図”を手渡された子どものように迷い始める。
あれだけ巨大な資本と英知を集めても、
見えないものは見えないんだな、と。

日本でも似たことがよく起きます。
決算が遅れたり、行政の統計が見直されたり、政策が突然変わったり。
でも私たちは、その不確実性を前提に“判断”をしなければならない。

結局、投資でもビジネスでも、
「不完全な情報で決める能力」 が勝敗を分けます。

完全なデータが揃うことを待っていたら、
チャンスはもうどこかへ行ってしまう。

そんな中、ウォール街のストラテジストたちが
「2月にアウトルックの2ndバージョンを出す」と言ったのは、
ある意味すごく正直で、人間的でした。

不確実な時代に必要なのは、
“予測の正確さ”ではなく
“間違えたときの修正スピード”なのかもしれません。

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