スタバのレッドカップと「反シューマー連合」──アメリカの現場はどこまでキレているのか

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深掘り記事:ストするバリスタとキレる議員たち

アメリカでいま、ぜんぜん違う場所にいながら、よく似た怒りが同時多発しています。
ひとつはスターバックスのバリスタたち。もうひとつはワシントンD.C.の民主党議員たち。

片や「レッドカップ・デー」という書き入れ時にストライキをぶつけてくるバリスタ。
片や、政府閉鎖(シャットダウン)をめぐるゴタゴタの末に、党のトップであるシューマー上院院内総務に公然と「やめろ」と言い始めた下院議員たち。

共通しているのは、「上の意思決定」に対する、現場サイドの我慢の限界です。


1. スタバ「レッドカップ・スト」:書き入れ時にあえて殴り込み

まずは労働の現場から。

アメリカのスターバックスでは、毎年恒例の「Red Cup Day」があります。
シーズナルドリンクを頼むと、赤いリユーザブルカップが無料でもらえる日で、世界最大のコーヒーチェーンにとって「最も忙しい日」のひとつです。

そのタイミングを狙って、労働組合「Starbucks Workers United」に加盟するバリスタたちが、今年は「無期限ストライキ」に踏み切りました。

  • スト実施:全米45都市、65店舗超でストを計画

  • 規模:すでに1,000人以上がピケに立ち、
    組合側は「最大・最長のストも辞さず」と宣言

  • 予備軍:組合化された約550店舗から、さらに参加が増える可能性

一方で、会社側は「影響はごく限定的」とコメント。
CNBCに対して、「午前中の時点で、今年のRed Cup Dayの売上目標は達成ペースだ」と冷静に語っています。

過去のストでも、影響は米国内約17,000店舗の「1%未満」にとどまったと説明。
つまり、**「数字上は効いていない」**というのが会社サイドの公式見解です。


2. 構造はシンプル:「再建ストーリー vs. 現場の不信」

とはいえ、表面的な売上に出てこない「構造的な火種」はじわじわ大きくなっています。

スタバは、2024年秋に新CEOのブライアン・ニコルを迎え、業績立て直しの真っ最中です。

  • 9月には「数百店舗の閉鎖」を実施

  • そのうち59店舗は組合化された店舗

  • ここ2年続いていた売上減少はようやく止まり、直近の四半期では売上が前年比+1%と、わずかに成長へ反転

経営サイドから見れば、
「痛みを伴う構造改革で何とかトレンドを変えた。いまが勝負どころ」
という局面です。

一方で労働組合からすると、

  • 組合店舗が優先的に閉鎖されているのではないか

  • 賃上げ交渉や労働条件の改善が遅々として進まない

という不信感が強く、「最も売上に効く日」にストをぶつけることで交渉力を最大化したいわけです。

実際、株主の一部もこの火種を気にし始めています。

  • 先月、一部の株主グループは
    「株価に影響が出る前に労使交渉を再開せよ」と取締役会に要請

  • スタバ側は「いつでも交渉のテーブルに戻る用意はある」とコメント

  • ただし、4月には会社側の提案(年2%の昇給案等)を組合側が圧倒的多数で拒否

つまり、経営・現場・株主の三者の思惑が微妙にズレたまま、ホリデーシーズンに突入している、というのが現状です。


3. 政治の現場でも「上への不信」:反シューマーのうねり

同じタイミングで、ワシントンの政治の現場でも、よく似た構図が浮かび上がっています。

史上最長となった政府閉鎖は、
「1月30日まで政府を再開する暫定予算案」にトランプ大統領が署名したことで、ようやく終了しました。

  • 10月1日から続いた長期シャットダウンが終結

  • 8人の民主党上院議員が造反し、
    共和党主導の案に賛成する形で決着

  • この妥協に、民主党内の進歩派・草の根組織が猛反発

批判の矛先が向かったのが、上院民主党トップのチャック・シューマーです。

下院の複数議員は、かなりストレートな言葉でシューマー批判を展開しています。

  • 「シューマー院内総務は、この歴史的な局面に応えることができなかった」(ラシーダ・タリーブ下院議員)

  • 「トランプに立ち向かえる、もっと戦略的で、もっと度胸のあるリーダーが必要だ」(シュリ・サンター議員)

  • 退任予定のチュイ・ガルシア議員も「真剣に辞任を考えるべきだ」とコメント

草の根組織や進歩派団体(IndivisibleやMoveOnなど)も、シューマー辞任を公然と要求しています。

一方で、党の公式リーダー層はシューマー擁護に回ります。

  • 下院民主党リーダーのハキーム・ジェフリーズは、「シューマーはよく戦った」と明言

  • 元下院議長のナンシー・ペロシも「ジェフリーズが信頼しているなら、私もそうだ」とコメント

しかし下院側の空気はかなり荒れ模様です。
ある民主党議員は、クローズドな会合でこう言ったと報じられています。

「共和党が悪いのは全員分かってる。
だから、内輪で小便をかけ合うのはやめて、外に向かってやりなさい」

要約すると、
「悪いのは共和党なのだから、内ゲバしてる場合じゃないだろ」
という、まあごもっともな怒りです。

スタバと同じく、ここでも構図はシンプルです。

  • 「現場」=有権者と日々向き合う下院議員

  • 「本社」=上院の党指導部

現場から見ると、「何を守り、何を妥協したのか」がよく見えない。
そのフラストレーションが、「反シューマー連合」という形で噴き出しているわけです。


4. 外交・安全保障の現場でも「詰まり」が露呈

さらにもう一つ、静かに効いてくるのが武器輸出と軍事オペレーションのボトルネックです。

記事によれば、トランプ政権は最近、

  • 外国向け武器輸出(対NATO・対ウクライナなど)の承認を巡り

  • 議会との調整を「再加速」

  • 機密ブリーフィングも増やす方針

を打ち出しました。

政府閉鎖のあいだ、国務省の人員不足などが理由で、

  • 数十億ドル規模の武器輸出が遅延

  • 特にNATO向けの案件は、最終的な行き先がウクライナであることも多い

とされています。

その遅れに、議会側が強い不満を示し、

  • ベネズエラの麻薬船攻撃(とされる軍事行動)に関する
    ブリーフィング不足

  • 公聴会に来るはずの政府側証人がなかなか来ない

といった点がやり玉に挙がりました。

トランプ大統領自身も、

「この件で議員からの電話が何度も来ている」

と発言し、

  • 対外軍事販売

  • 軍事作戦に関する説明

について、ブリーフィングを増やすよう指示したとされています。

ここでも、「現場の不満を受けて、上がようやく動き始めた」構図は、スタバや民主党内の動きとよく似ています。


5. 日本のビジネスパーソンへの示唆

この一連のニュースから、ビジネスパーソン目線で整理できるポイントは3つです。

  1. 「最も効くタイミング」に現場は動く

    • スタバの組合は、Red Cup Dayという「最大の書き入れ時」にストをぶつけました。

    • 労働争議は、数字へのインパクトだけでなく「象徴性」が重要。

    • 日本でも、ECセールや決算期など、ビジネスの山場ほど人とコミュニケーションをすべき時期だと再確認させられます。

  2. 「上層の意思決定プロセス」が見えないと、信頼は一気に崩れる

    • 民主党下院議員たちは、「何を守り、どこを譲ったのか」という説明不足にキレています。

    • 企業でも、リストラ・店舗閉鎖・大型投資など、痛みを伴う判断ほど「プロセスの透明性」が問われる時代です。

  3. 政治と安全保障の「詰まり」は、そのままビジネスリスクになる

    • 武器輸出の遅延は、軍需企業だけでなく、同盟国の安全保障環境や、そこに紐づくサプライチェーン全体に波及します。

    • 企業としては、「どこのボトルネックがほぐれると、どの市場が動き始めるのか」を常に見ておく必要があります。


まとめ

今回の記事は、一見バラバラなニュースの寄せ集めに見えます。
スターバックスのストライキ、民主党内のシューマー批判、武器輸出の再加速。

しかし、少し引いて眺めると、**「現場からの不信が一気に噴き出しているアメリカ」**という一本筋の通ったテーマが見えてきます。

スタバのケースでは、会社側は「ストの影響は1%未満」と言い放ちつつも、
・数百店舗の閉鎖(うち59は組合店舗)
・2年連続の売上減からようやく浮上したばかり
という脆いバランスの上に立っています。

組合はこれを逆手に取り、
「最大の繁忙日」に無期限ストをぶつけることで、
数字よりも**「象徴としての打撃」**を与えようとしているわけです。

一方で、ワシントンの政治現場では、
政府閉鎖が終わったにもかかわらず、
民主党下院議員からシューマー上院院内総務への不満が爆発。

  • 「いまのリーダーでは、この歴史的局面に対応できない」

  • 「新しいリーダーを考えるべきだ」

というコメントが、複数の議員から次々と飛び出しています。

しかし、上院や党指導部はあくまでシューマー擁護。
そこに、「現場」と「本社」の距離感の大きさがにじみ出ています。

さらに、安全保障の現場では、
政府閉鎖の影響で、数十億ドル規模の対外軍事販売が滞り、
NATOやウクライナ向けの武器輸出に遅延が発生。

議会からの不満とプレッシャーを受けて、
トランプ政権は慌ててブリーフィングを増やし、
新たな武器輸出案をまとめて送り出す、という「後追い対応」に追われています。

これら3つの事例に共通するのは、

  • 「上」が構想する大きなストーリー(再建、妥協、外交方針)と

  • 「現場」が実感するリスク・不安・不信感

のあいだに、大きなギャップが生じているということ。

スタバの株主のように、
「労働争議が株価リスクになりかねない」と気にする投資家も出てきています。

政治の世界でも、
「共和党との対決よりも、まず自党のリーダーへの不満」という状態は、
有権者から見れば、
「結局、誰のために戦っているの?」
という根源的な疑問を生みます。

日本のビジネスパーソンにとって重要なのは、
この状況を「アメリカのゴタゴタ」と笑うのではなく、

  • 自社の中で同じ構図が起きていないか

  • 取引先や投資先の「現場と本社の温度差」がどこにあるのか

を考えるきっかけにすることだと思います。

そしてもう一つ。
政府閉鎖の影響で、
・航空管制
・経済統計の発表
・武器輸出
といった「インフラ的な機能」が止まると、
ビジネスも投資も、「前提となるデータ」自体が揺らぎます。

インフレや雇用の統計が一部欠損することで、
FRBの政策判断も難しくなり、
それが金利・株価・為替に波及する可能性もある。

つまり、
「政治リスク=政策内容だけ」ではなく、
「行政機能が止まることそのもの」もまた、大きなリスクである

ということを、あらためて突きつけられた格好です。


気になった記事:AIが自動でサイバー攻撃をする日

もうひとつ、個人的にゾッとしたのが、
Anthropic(Claudeの開発元)のAIがサイバー攻撃に悪用された件です。

記事によれば、

  • Anthropicは、あるハッカー集団が自社のAIツールを悪用し、

  • 複数の大企業へのサイバー攻撃を「ほぼ自動化」していた

  • しかも同社は、そのグループが「中国政府に支援された集団」である可能性を「高い確度」で見ている

としています。

今回のケースでは、

  • Claudeが時々「認証情報をでっち上げる」(いわゆる幻覚)

  • 公開情報を「機密データだ」と勘違いする

といった挙動が、逆に攻撃の成功を妨げた面もあり、
最終的にはAnthropic側が攻撃を検知・妨害できたと説明されています。

しかし、重要なのは、
「ほぼ人間を介さない、大規模サイバー攻撃」がすでに試みられている
という事実です。

これまでは「AIがサイバー攻撃に使われる」と聞いても、

  • パスワードの総当たり

  • フィッシングメールの自動生成

といった「人間の作業効率化」レベルのイメージでした。

ところが今回は、
攻撃プロセスそのものが自動化されつつあることが示唆されています。

AIベンダー側も、

  • ログの監視

  • 不審なプロンプトの検知

  • モデル側の制限

などで対応を強化していくはずですが、
「攻撃者もAIを使い、守る側もAIで対抗する」といういたちごっこは、これから本番を迎えるのだと思います。

日本企業にとっても、
「AI活用=生産性アップ」だけでなく、
**「AIを使った攻撃への備え」**が、
一気に優先度を上げてくるテーマになりそうです。


小ネタ①:Verizon、1.5万人リストラの現実

世界最大級の通信会社Verizonが、
約15,000人の人員削減を実施する方向だと報じられました。

  • 新CEOダニエル・シュルマンのもと、
    「採算が取れない事業」の整理を加速

  • ポストペイド契約者数の減少が3四半期続くなか、
    コスト削減を優先

  • 報道が出たあと、株価は約1%上昇

というあたりに、株式市場の冷徹さがにじみます。

「15,000人の生活が揺らいで+1%」
数字だけ見ていると、なかなかグロテスクですが、
投資家の視点からすると、

  • 不採算事業の整理

  • キャッシュフローの改善

が「前向きな材料」と評価される、という典型例です。


小ネタ②:AIがサイバー攻撃をミスってくれているうちに

サイバー攻撃の項目で少し触れましたが、
Anthropicは今回のケースを、

「大規模サイバー攻撃が、ほとんど人間の介入なしに実行された、初の記録例」

と位置づけています。

とはいえ、モデルが

  • 認証情報を「幻覚」したり

  • 公開情報を「極秘データ」と勘違いしたり

したおかげで、攻撃の精度はそれほど高くなかった模様。

要するに、
「AIがまだ完璧じゃなかったおかげで助かった」
という、なんとも複雑な案件です。

人間側としては、

  • 「AIの精度が上がるのが楽しみ」
    という立場と、

  • 「いや、攻撃側にとっても精度が上がるんですが…」
    という立場が、同じ脳内で同居することになります。


編集後記

スタバのレッドカップ・ストライキの話を読みながら、
ふと、日本のコンビニコーヒーのレジ前を思い出しました。

年末の忙しい時間帯に、レジ横で
「いまドリップ中ですので少々お待ちください」
と店員さんが汗だくになっているあの光景。

あそこで「無期限スト」をやられたら、
われわれ庶民のカフェイン依存ライフは、一瞬で詰みます。

一方で、スタバのバリスタからすれば、
「一番儲かる日」に自分たちの存在感を示さないと、
会社も投資家も、永遠に真剣に向き合ってくれない、
という感覚なのだと思います。

政治も同じで、
政府閉鎖が終わった途端に、
「シューマーを降ろせ」「いや、守るべきだ」と
身内で大ゲンカを始める民主党の姿は、
日本の政党を笑えない既視感があります。

  • 選挙区に戻れば、有権者の不満はダイレクトに飛んでくる

  • でも、党のトップは「大局的判断」を理由に、細かい説明はしない

このギャップのところで、
「裏切られた」と感じる人が増えていく。

企業でいえば、

  • 本社は再建計画を描いている

  • 現場は削減や閉店の痛みだけを感じている

というあの状態に、よく似ています。

そして極めつけは、AIです。

Claudeがサイバー攻撃に使われ、
「たまに間違えてくれたおかげで防げた」という話は、
SFでもブラックジョークでもなく、現実のニュースとして出てきました。

このままモデルの精度が上がれば、
守る側はより優秀な「防衛AI」を導入し、
攻撃側はより賢い「攻撃AI」を育てる。

そのゲームに、
われわれ普通の企業や個人も、
半ば強制的に巻き込まれていきます。

スタバのカップを片手に、
YouTubeでスポーツを見て、
AIチャットに相談しながら仕事をする。

その裏側では、

  • 労働組合と経営陣がチキンレースをし、

  • 政治家がリーダーの首を取り合い、

  • AI同士がサイバー戦を繰り広げている。

なんとも「2025年っぽい」風景だな、と感じました。

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