深掘り記事:コラムニストと政治家が“同じリング”に立つ時
※今回のメルマガは、渡された英語記事の前提(「トランプ大統領2期目」「2028年を見据えた民主党内の動き」など)に沿って紹介しています。現実世界のニュースではなく、「こういう状況になったとしたら」という前提で書かれた記事だと理解して読んでください。
■「書き手」から「権力ブローカー」へ:エズラ・クラインの存在感
記事のメインは、ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、エズラ・クラインです。
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立場:NYTのオピニオンコラムニスト&人気ポッドキャストのホスト
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影響力の源泉:
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コラム
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ポッドキャスト
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民主党議員向けブリーフィング
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共著した本『Abundance(アバンダンス)』
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この記事によれば、クラインは単に「論評を書く人」ではなく、
民主党内の有力候補たちにレクチャーする“戦略参謀”のようなポジションに入り込みつつあると描かれています。
名前が出てくる面々も豪華です。
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カマラ・ハリス前副大統領
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ウェス・ムーア(メリーランド州知事)
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ギャビン・ニューサム(カリフォルニア州知事)
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ジョシュ・シャピロ(ペンシルベニア州知事) など
彼らは、2028年の大統領選に出てもおかしくない「次の顔」候補たち。
その人たちがこぞってクラインの意見を聞きにいっている、という構図です。
しかも、ニューサムが州の住宅開発を促進する法案に署名した際には、
クラインの本に出てくるキーワード「abundance agenda(アバンダンス・アジェンダ=成長・供給重視の政策)」に言及してXにポストした、と記事は伝えています。
政策のスローガンに、1コラムニストの概念を引用するレベルになっている
というのがこの記事のポイントです。
■「政府を止めろ」と書いて、本当に止まった43日間
さらにインパクトがあるのが、政府閉鎖(シャットダウン)を巡るエピソードです。
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クラインは9月のコラムで
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トランプ大統領による「大統領権限の拡大」に対抗するため
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民主党の上院議員は共和党と組んで予算案を通すべきではない
と主張
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このコラムが議会内で一気に共有され、
その結果として、史上前例のない43日間の政府閉鎖を選択する流れを後押しした、と上院民主党スタッフは見ている…と記事は書きます。
上院民主党の中には、途中で「もう妥協して開けよう」という穏健派も出てきましたが、
クラインは「もし自分が上院議員なら、この妥協案には賛成しない」とコラムで再び釘を刺します。
つまり、
コラム → 議員たちの判断 → 43日間の政府閉鎖
という流れの中で、ジャーナリストが実質的に「プレーヤー」になっている、と記事は指摘しています。
■ニューヨーク・タイムズ内部でもザワつく
当然ながら、ここまで政治プロセスのど真ん中に入っていくと、
「それ、ジャーナリストとしてアリなの?」問題が出てきます。
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クラインは民主党上院議員のサマーリトリート(合宿)の場で、
本『Abundance』をテーマにブリーフィングを実施 -
これは明確に「民主党のイベント」であり、
タイムズ内部でも「さすがに近すぎないか」という懸念が出た、と記事は書いています。
タイムズ側のコメントは、ざっくりいうと:
・彼は幅広い政治スペクトラムの人と話すのが仕事
・そのうえで意見を書くのがオピニオン欄の役割
・だから問題ない
というトーンです。
しかし一部の民主党関係者は、
「西海岸っぽいおしゃれオフィスにいるインテリが、
労働者階級の支持を失った民主党の“頭脳”でいいのか?」
というイラ立ちも口にしています。
“West Elmで家具を揃えたオフィスから世界を語る男が、民主党の思想リーダーってマジ?”
という、なかなかパンチの強いコメントも引用されています。
ここには、
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メディアエリート vs. 失われた労働者票
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情報空間の中心=沿岸エリート層への反発
という、アメリカ政治で繰り返し登場する構図がにじんでいます。
■AOCの広告が、オバマやニューサムを上回った意味
記事の第2セクションは、もう一人の“スター”――**アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)**です。
テーマは、カリフォルニアの住民投票「プロポジション50(Prop 50)」。
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内容:民主党に最大5議席の下院議席上乗せのチャンスを与える区割り変更(=トランプ側の共和党による州レベルの「ゲリマンダリング」への対抗措置)
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民主党系スーパーPAC「Future Forward」が
賛成キャンペーンの広告16本をテスト -
その中で、最も有権者を動かしたのがAOCのCMだった、という報告書をAxiosが入手
AOCの広告のメッセージはシンプルです。
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トランプ大統領は、自分に都合のいい議会だけが残るように選挙区を描き変えようとしている
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それは、
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私たちの医療(health care)
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給料(paychecks)
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自由(freedoms)
すべてに直結する
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「区割り変更(redistricting)」という、ともすれば専門的で退屈なテーマを、
日々の生活にどうつながるか、生活言葉に翻訳したのが評価された、と分析されています。
ポイントは、
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AOCはニューヨーク選出の下院議員
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舞台はカリフォルニアの住民投票
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それでも「オバマ元大統領」や「ニューサム知事」の広告を抑えて
一番“刺さった”
という事実です(記事の中の事実として)。
地元の有力者よりも、全国区のブランド政治家の方が、
地元有権者の心を動かす――
これは日本にも通じる話で、
「人気タレント議員の応援演説の方が、地元ボスのスピーチより人が集まる」
という構図を想像していただくとイメージしやすいかもしれません。
■コーリー・ブッカーの“怒れるミドル級”路線
3つめのパートは、ニュージャージー州選出の上院議員コーリー・ブッカー。
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場所:大統領予備選の聖地・ニューハンプシャー
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内容:
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民主党はもっと労働者階級の味方に戻らなければいけない
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オバマケア(ACA)は支持するが、
「壊れた制度にバンドエイドを貼っただけ」で根本治療にはなっていない -
「defund the police(警察予算を削れ)」のスローガンは
タイミング・メッセージともに誤りで、共和党に武器を渡した
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と、かなり辛辣に「自分たちの党」をぶった切っています。
さらに、水面下では:
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州議会の少数党リーダーたちとのクローズドなランチミーティング
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かつての支持者との再会
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側近チームを連れての訪問
など、**完全に“プレキャンペーン(事前選挙運動)モード”**の動きも紹介されています。
彼自身は「2028年大統領選の可能性は排除していない」と語ったと記事は書いていて、
**「怒れる中道路線」+「元気な現場主義」**というキャラを再構築しようとしている雰囲気が伝わってきます。
■“2028年組”のトレイルミックス:群雄割拠のプライマリー前夜
最後のセクション「Trail mix」では、2028年の民主党大統領候補になりそうな主要プレーヤーたちの動きをざっと並べています。
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ニューサム(カリフォルニア州知事):COP30で「影の気候大統領」を演じつつ、本の出版も決定
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エリッサ・スロットキン(ミシガン上院議員):退役軍人団体と組んで、住宅危機に踏み込む「プロジェクト2029」を提案
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クリス・マーフィー(コネチカット上院議員):
「民主党はリトマステスト(純度チェック)依存症だ」と批判 -
ジョシュ・シャピロ(ペンシルベニア州知事):
歳入税額控除(earned income tax credit)の創設を実績としてアピール -
JB・プリツカー(イリノイ州知事):
ポッドキャストや党の夕食会で、“負け犬ムードからの脱却”を訴える -
ロー・カンナ(下院議員)ら:
エプスタイン関連ファイル公開を求める動きで存在感 -
マーク・ケリー&ルーベン・ガレゴ(アリゾナ勢):
タウンホールやメディア発信で“実務派”アピール -
ティム・ウォルツ(ミネソタ州知事):
「酒もタバコもしないが、罵り言葉にはうるさい」と自虐的に語り、
“庶民派ガバナー”キャラを前面に
そして、水面下ではチャック・シューマー上院少数党リーダーが、
有力知事たちに「政府閉鎖を終わらせた妥協案の批判は控えてくれ」とお願いしているものの、
プリツカーやシャピロは普通にそれを無視して批判している、というオチ付きです。
つまり、「ポスト・トランプ」どころか、
「ポスト・ポスト・バイデン」を巡る内輪の力学は、もうガチガチに動き出している――
というのがこの記事の全体像です。
まとめ
この記事が描いているのは、**「まだ選挙が始まっていないのに、実質的にはもう始まっている2028年民主党予備戦」**です。
ポイントを整理すると、以下の3つに集約できます。
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メディア人が“キングメーカー化”している現実
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エズラ・クラインは、コラムニストでありながら、
有力候補の個別ブリーフィングや上院民主党の合宿に参加し、
政策方針に影響を与える存在として描かれています。 -
特に政府閉鎖の件では、
彼のコラムが43日間のシャットダウンを選ぶ決断に影響したとまで記事は書いている。 -
これは、
「ジャーナリストは権力を監視する側」という古典的な図式から、
「ジャーナリスト自身が権力の一部になる」という新しい段階への移行でもあります。
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ブランド政治家 vs. 地元ボスという構図
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AOCの広告が、カリフォルニアの住民投票で最大の効果を発揮した、という事実は象徴的です(記事内の事実として)。
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地元の有力者や元大統領の名前よりも、
全国区の“ブランド政治家”のメッセージが人を動かす。 -
SNSと動画プラットフォームを前提にした世界では、
「誰の言葉か」が「何を言っているか」以上に重くなる、という逆転現象が起きています。
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「労働者の党」を取り戻したい怒りと焦り
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コーリー・ブッカーをはじめ、複数の有力候補は
「民主党は働く人のための党に戻るべきだ」と繰り返し訴えています。 -
オバマケアは「壊れた制度へのバンドエイド」に過ぎない、という自己批判。
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「defund the police」が共和党への格好の攻撃材料になった反省。
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こうした“自虐”は、
それだけトランプ再登場後の政治地図が厳しいという裏返しです。
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全体を通して感じるのは、
「ポリシー(政策)」よりも「ナラティブ(物語)」「キャラクター」「メディア戦略」が、選挙のかなり手前から積み上がっているということです。
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クラインのような思想インフルエンサー
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AOCのようなSNS世代のスター議員
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ブッカーやニューサムのような“大統領候補予備軍”の知事・上院議員
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そしてシューマーのような“古い秩序”の番人
これらが、それぞれの立場から2028年を見据え、
**「いかにしてトランプ以降のアメリカ政治の物語を奪い返すか」**を模索している図が浮かび上がります。
日本のビジネスパーソンの視点で言えば、ここから得られる示唆はシンプルです。
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① 情報発信者が、いつの間にか「意思決定の一部」になっていく
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② ブランドとストーリーテリングが、政策より先に票を動かす
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③ 「誰のための組織なのか」を取り戻せない組織は、
外からも内からも批判され続ける
これは、政党だけでなく、企業・メディア・スタートアップ、
そして個人のキャリア戦略にも、静かに重なるテーマではないでしょうか。
気になった記事:AOC広告が教える「難しい話を“自分ごと化”する技術」
ここでは、Prop 50キャンペーンにおけるAOCのCMにフォーカスします。
Future Forwardという民主党系スーパーPACが実施した分析によると:
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テストされた16本の賛成広告のうち
もっとも有権者の態度変容を生んだのがAOCの動画だった -
内容は「選挙区の線引き(redistricting)」という、一見地味なテーマ
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しかしAOCはそれを、
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健康保険
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給料
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自由
といった「家計と人生の話」に翻訳して語った
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ここには、難しい話を“自分ごと”に変える三つのコツが見えます。
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抽象ワードを生活ワードに落とす
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「区割り変更」→「あなたの保険料や給料に響く」
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日本でいえば、
「プライマリーバランス」→「あなたの消費税と年金の話です」と言い換えるようなものです。
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敵を“構造”ではなく“行動”で描く
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「トランプが地図を描き変えようとしている」
という一文で、難しい制度論ではなく、
「この人の行動があなたの生活を変える」という構図を作っています。
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“自分の言葉”で語るキャラの強さ
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AOCはもともとSNSでバズった政治家であり、
「原稿を読んでいる感じ」がしない話し方がブランドになっています。 -
その“地声”のまま難しいテーマを話すことで、
有権者は「また専門家が小難しいことを…」という拒否反応を起こしにくくなる。
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ビジネスの現場で言えば、
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新規事業の企画書
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上層部への投資提案
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社内の組織改革のプレゼン
など、どれも「一見難しい話」を「自分ごと化」してもらわないと前に進みません。
AOCの事例は、「数字や制度の外側にある生活へのインパクトから話し始める」ことの重要性を、
政治の世界から改めて教えてくれるケースと言えそうです。
小ネタ①:ティム・ウォルツ知事、「罵り言葉ソムリエ」を自称する
ミネソタ州知事のティム・ウォルツは、テキサスのイベントでこんな自己紹介をしたそうです。
「私は酒もタバコもしません。でも、罵り言葉の鑑定にはうるさいんです」
日本で言えば、「下戸でヘビースモーカーでもないけど、関西弁でのツッコミには一家言ある」くらいのノリでしょうか。
政治家の言葉は時に炎上し、時に支持者を熱狂させます。
ウォルツのこの一言には、
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「品行方正すぎるわけでもなく」
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「かといって無軌道でもない」
絶妙な“人間味”がにじんでいて、
**「真面目だけど、ちゃんと毒舌も言えるおじさん」**というキャラづくりのうまさを感じます。
小ネタ②:ニューサム知事、新著タイトルが完全に“狙っている”
カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、
COP30(国連気候会議)に出席して「影の気候大統領」を演じつつ、
来年2月に出る新著のタイトルを明らかにしています。
『Young Man in a Hurry(急ぐ若者)』
「若くて、急いでいる男」。
どう考えても、**「俺には時間がない。だから今やる」**という大統領候補の自己紹介です。
日本の政治家に当てはめると、
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『遅れてきた長男が、本気を出すとき』
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『元・地方自治オタク、東京で走る』
くらいの、あからさまな“物語タイトル”。
本気で大統領を狙っている人ほど、本のタイトルから未来の選挙パンフレットを作っている、というのがにじみ出ています。
編集後記:日本の「論客」とアメリカの“仕掛け人”
個人的に、一番モヤモヤしつつも面白かったのは、
やはりエズラ・クラインのポジションです。
日本でも、いわゆる「論客」やインフルエンサーが政治家と距離を詰めていく光景は、ここ数年でだいぶ増えました。
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政策アドバイザーとして内閣に入る
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行政の有識者会議に座る
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政党のシンポジウムでモデレーターを務める
などなど。
ただ、日本の場合はどこかまだ
「オフィシャルな場に呼ばれて初めて“権威”になる」
という順番の文化が残っている気もします。
肩書きやポストが先に立ち、そこでようやく「影響力が公認された」とみなされる。
一方、今回の記事に出てくるクラインは、
「すでに巨大なオーディエンスと影響力がある人物が、
そのまま政治の中心部に乗り込んでいく」
という順番です。
メディアの側から、権力中枢に“殴り込む”イメージに近い。
これは、どちらが良い・悪いという話ではなく、
**「民主主義における情報の流れがどう変わっているか」**を考えるうえで、かなり示唆的だと思います。
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情報の洪水の中で、
「自分が信じる数少ない声」に多くの人が頼る。 -
その声の主が、いつの間にか
「単なる解説者」から「意思決定に影響する当事者」に変わっていく。
そのプロセスを、タイムズという“老舗ブランド”の看板を背負ったコラムニストがやっているわけです。
日本の文脈に引き寄せると、
「もし、あなたがいつも見ているYouTubeの経済解説チャンネルの人が、
ある日、財務省の幹部や有力政治家に“定期レクチャー”をするようになったら?」
…と想像してみると、少し生々しく感じませんか。
それを「心強い」と受け取る人もいれば、
「いや、それもうジャーナリストじゃなくてプレーヤーだよね」と感じる人もいるでしょう。
たぶん現実は、その間のどこかにあります。
ただ一つ確実なのは、
「誰の言葉を、自分の意思決定の“下敷き”にしているのか」
を、自覚的に選ばないと、
いつの間にか誰かの“戦略”の一部になってしまう、ということです。
それは政治だけでなく、投資も、キャリアも、ビジネスも同じ。
“影響力のある誰かのストーリー”を、少し引いた位置から眺める癖をつけておくと、
案外、自分の頭で考える余白が残りやすいのかもしれません。
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