「それでもNVIDIAを買う理由──“AIバブル”論争の正体」

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深掘り記事|ウォール街は“疑い”を歓迎している

■ 「調整入り?」と言われるくらいがちょうどいい

NVIDIAが明日の引け後に四半期決算を発表します。
株価は直近高値から約10%下げ、「調整(コレクション)入りか?」という空気も出てきました。

  • 超高バリュエーションへの警戒

  • 「AIバブルじゃないの?」という疑い

  • ヘッジファンドのポジション整理

こうした声が増えているのは事実です。

ところが、ウォール街の戦略家たちはむしろこう言っています。

「疑いが多いほどいい。みんながフルポジションで浮かれている状態こそ本物のバブルだ」

これはJ.P.モルガン・プライベートバンクの投資戦略責任者、
ジェイク・マヌーキアンのコメントです(事実)。

彼らのロジックはシンプルで、

  • 懐疑派が多い
    → 買いそびれた人・空売り勢がいる
    → 「押し目」が来るたびに買い需要になる

という、**「悲観の壁をよじ登る強い相場」**を期待している、というわけです。


■ 強気派の主張:NVIDIAは「AIバブルの芯」の企業

まず、強気派(ブル派)が何を見ているのかを整理します。

ポイントは大きく3つです(いずれも記事の事実ベース)。

  1. AI投資ブームの「中核かつ安全地帯」

    • Laffer Tengler Investments のCEO兼CIO、ナンシー・テングラーは
      「NVIDIAはAI投資ブームの中央かつ“セキュア”なポジション」とコメント。

  2. 2025年に700億ドル超の純利益見込み

    • 2025年には**700億ドル超の純利益(net income)**が予想されている。

    • 複数年にわたる供給能力のコミットメントをすでに確保。

    • なお需要は「供給能力を上回る」状態が続いているとされています。

  3. クラウド大手(ハイパースケーラー)の売上も伸び続ける見通し

    • シティのアナリスト、アティフ・マリクによれば、
      2026年に向けてハイパースケーラーのクラウド売上が伸び続ける見通し。

    • 企業がAIを本格導入していくフェーズに入りつつある、という見立てです。

ここだけ読むと、
「いや、やっぱりAIバブルじゃないの?」と逆に不安になるくらい、数字は強烈です。


■ 弱気派の焦点:AI競争は「借金で殴り合うゲーム」になりつつある

一方で、弱気派(ベア派)が見ているのは、かなり別の景色です。

彼らの論点も整理してみましょう(これも記事の事実ベース)。

  1. NVIDIAの最大顧客=ハイパースケーラーの“借金体質”

    • NVIDIAの主要顧客は、
      AWS、Azure、Google Cloudのようなクラウド大手(ハイパースケーラー)

    • 彼らはAIインフラ投資のために負債を積み上げている

    • **「このペースで借金し続けて、本当に最後まで戦えるのか?」**という懸念がある。

  2. 株価バリュエーションは“ドットコムバブル未満、でも高い”

    • NVIDIAはフォワードPER約31倍

    • ドットコムバブル期の「40倍超」よりは低いが、着実に上がっている。

    • 「バブル直前」か「新時代の適正プレミアム」か、解釈が割れている。

  3. 地政学(特に米中)のリスクが重い

    • 対中輸出規制・地政学・マクロ環境・個人投資家(リテール)の過熱…

    • 「懸念を挙げようと思えばいくらでも出てくる」というのが弱気派のムードです。

要するに、
「需要は分かる。でも、その需要を支える側の財務と政治が持つのか?」
という視点です。

これは、AIだけでなく、設備投資ブーム全体につきまといやすい構図ですね。


■ アナリストはほぼ“全員買い推奨”、ヘッジファンドは真っ二つ

興味深いのは、「誰がNVIDIAをどう見ているか」の分布です。

  • セルサイド・アナリスト(証券会社側)

    • 70人以上が「買い」評価

    • 「売り」は1名だけ(Bloomberg集計)

一方で、

  • ヘッジファンドのスタンスはかなり割れています。

    • ピーター・ティールのファンド「Thiel Macro LLC」はQ3にNVIDIA株を売却。

    • 映画『マネー・ショート(The Big Short)』で知られるマイケル・バーリも、
      引退前にNVIDIAへの弱気ポジションを開示。

    • 900超の13F報告書を分析したBloombergによると、
      強気ポジションと弱気ポジションが“ほぼ半々”

ここから言える事実ベースのポイントは:

  • アナリストの世界では「ほぼ総強気」

  • しかし実際にお金を張っているヘッジファンドは、「賛否ちょうど半々」

という構図だ、ということです。

「プロはみんな買っている」わけでは、全くありません。


■ 「AMDがシェアを取ってもOK」という、強気派の“余裕”

さらに興味深いのは、
強気派の中には、「NVIDIA一強でなくなってもいい」という見方すらあることです。

ナンシー・テングラーはこう書いています(事実)。

「AMDはNVIDIAからシェアを取り始めている。
しかし、それはグループ全体の裾野が広がることであり、
マーケットとAIトレードにとってはむしろ良いことだ」

つまり、

  • AIインフラの需要自体が増え続けるなら

  • NVIDIA一社が全部を取る必要はない

  • AMDや他のプレーヤーが増えても、「グループ全体で儲かればよい」

というポートフォリオ的な発想です。

このあたりは、日本の半導体製造装置・素材セクターを見ている投資家にとってもヒントになりそうです。


■ ウォール街は「AIバブルではない」と言いながら、買い続ける

記事の締めはかなり象徴的です。

  • ウォール街はすでに**「2026年の見通しシーズン」に入っている**

  • 主要な大手銀行はいずれも、
    「AIバブル」とは見ていない

  • そして、「AIバブルか?」と聞かれ続けること自体は歓迎

  • なぜなら、その間も淡々と買い続けるから

要するに、

「バブルかどうか議論しているうちはバブルじゃない。
本物のバブルは、全員が黙って買っているときにしか分からない」

という、ウォール街の“いつもの論理”です。

当然ながら、これは彼らの意見であって、将来を保証するものではありません
ただ少なくとも、現時点の**大手ストラテジストのコンセンサスは『AIバブル否定』**である、という点は事実として押さえてよさそうです。


まとめ|「AIバブルか?」と聞き続ける人たちが、市場を支えている

今回の英語記事を一言で要約すると、

「ウォール街は、NVIDIAを疑ってくれる人がいるほど安心して買っている」

という、なんとも皮肉な構図でした。

事実ベースで整理すると:

  • NVIDIA株は高値から約10%下げ、「調整入り」だと騒がれている

  • それでもアナリストの大多数は「買い」評価を維持

  • 2025年には700億ドル超の純利益見通し

  • 需要は供給能力を上回る状態が続いている

  • ハイパースケーラーのクラウド売上も、2026年に向けて伸びるとの予想

一方で、

  • 最大顧客であるハイパースケーラーは、AI投資のために負債を膨らませている

  • フォワードPERは31倍と、ドットコムバブル(40倍超)ほどではないが、歴史的に見ても高い

  • 米中関係や地政学リスク、マクロ環境、個人投資家の熱狂など、不安要素は数え切れない

つまり、**「ファンダメンタルは極めて強いが、リスクもまた山ほどある」**という状態です。

ここで面白いのは、

  • セルサイド・アナリスト:ほぼ総強気

  • ヘッジファンド:強気・弱気がちょうど半々

という「プロ同士が真っ二つ」という点です。

これは、**「誰も“絶対の正解”を持っていない局面」**とも言えます。

ウォール街の大手ストラテジストは、「AIバブルではない」と見ており、むしろ疑いがあるほど市場には“燃料”が残る、と考えています。
しかし、それはあくまで彼らのビジネスモデル(手数料ビジネス&運用残高ビジネス)にとって都合の良い解釈であることも忘れてはいけません。

日本のビジネスパーソン・投資家として、このニュースから学べることは何でしょうか。

  1. 「AIバブルかどうか」は、誰かが答えを知っている問題ではない

    • バリュエーション指標だけでは判断できない。

    • 需要・供給・規制・地政学・金利という複数の変数が絡む。

  2. 強烈なテーマ株ほど、「信者」と「アンチ」の両方が必要

    • 全員が同じ方向を向いた瞬間が、一番怖い。

    • 懐疑派がいること自体が“セーフティバルブ”になっている。

  3. 「AI=NVIDIAだけ」という発想は危険

    • 強気派ですら「AMDなど他社がシェアを取ってもよい」と見ている。

    • 本質は、AIインフラ全体の需要がどこまで続くかに移りつつある。

結局のところ、
「AIバブルかどうか?」と聞き続ける人たちがいる限り、相場は意外と長続きする
というのが、現時点のウォール街の“自己認識”だと言えそうです。

問題は、それがいつ「聞くのをやめて、ただ乗るだけの人だらけになる瞬間」が来るか。
そのとき初めて、本当の意味でのバブルかどうかが分かる──
そんな、古典的な相場の教訓を改めて思い出させる記事でした。


気になった記事|インフレに悩みながらも“攻め姿勢”を崩さないスモールビジネス

次に取り上げたいのは、米国の中小企業オーナーのマインドに関する調査結果です。
バンク・オブ・アメリカの「Business Owner Report 2025」からの数字です(調査手法含め記事ベースの事実)。

■ 数字で見る「インフレの痛み」

  • 70%のオーナーが、インフレを最重要懸念に挙げている

    • この数字は2024年から変わらず

    • 関税や政治的不確実性といった他の懸念よりも上位

  • 77%が「コストが増えた」と回答

    • 平均すると18%のコスト増

  • 76%が「値上げした」と回答

    • 平均の値上げ幅は12%

ざっくり言えば、

「コストは2割増えたので、売価を1割ちょっと上げてしのいでいる」

という構図です。
マージンは当然圧縮されますから、経営的にはかなり苦しい状況です。


■ それでも「売上は伸びる」と見る前向きさ

ところが、同じレポートはオーナーたちの前向きさも示しています。

  • 約4分の3が
    → 「今後12カ月で売上は増える」と回答

  • 約半分が
    → 「自分の事業がある地域経済も良くなる」と回答

  • 事業拡大については
    → 「絶対に拡大しない」と答えたのは4分の1のみ

  • レイオフ(解雇)見通しは
    → 「雇用削減がある」と答えたのはわずか1%

インフレでコストは増えているものの、

「それでも、自分のビジネスについてはコントロールできる範囲がある」

と考えているオーナーが多い、ということです。


■ 中小企業の強みは「小さいからこそ、すぐ動ける」こと

バンク・オブ・アメリカのビジネスバンキング部門トップ、シャロン・ミラーはこうコメントしています(記事の引用内容)。

「彼らは来年への自信を持っていて、成長にフォーカスしている」
「500人未満の企業なので、機動的にピボット(方向転換)できる」
「不確実な状況でも、自分たちでコントロールできる部分に集中している」

大企業よりも、中小企業のほうが、

  • 値付けの変更

  • 取扱商品の入れ替え

  • コスト構造の見直し

を「手打ち」でサッと変えられる、というのは日本と共通する構造です。

インフレ環境が続くと、どうしてもニュースは「生活者目線」の苦しさに偏りがちですが、
企業側も同じように苦しみながら、同時に前向きに攻めようとしている
という点は冷静に押さえておきたいところです。


小ネタ①|S&P500が「重要テクニカル」を割り込んだ意味

記事では、S&P500がある重要なテクニカル水準を下回って引けたことにも触れています(具体的な水準名は記事では明示されていません)。

  • 一般的には、こうした「重要ライン割れ」は弱気シグナルとして受け取られる

  • 実際、ビッグテックへのセンチメントはやや悪化している

ただし、興味深いのは次の指摘です。

足元の「下げの日」には、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回るケースが増えている

これは、

  • 今年大きく上がったビッグテックの利益確定売りが出る一方で

  • これまであまり買われてこなかった**“不人気セクター”へ資金が回り始めている**

という「ローテーション(持ち株の入れ替え)」が起きているサインかもしれません。

何でもかんでも下がっている「総悲観」の相場とは違い、
**「勝ち組から負け組へ、資金の重心が少し移っている段階」**とも読めます。

もっとも、記事は最後に、

「今後6週間の相場を左右するのは、NVIDIAの決算だ」

とまとめています。
結局ここでも、AI&NVIDIAが“物語の中心”であり続けている、というオチです。


小ネタ②|「インフレは痛い。でも値上げもする」中小企業の現実

もう一つ、小ネタとして押さえておきたいのは、
中小企業オーナーの「値上げ行動」です。

  • 77%がコスト増(平均18%増)

  • 76%が値上げ(平均12%)

という数字は、
**「企業はちゃんと値上げしている」**ことを示しています。

日本では、

  • 「値上げできない」

  • 「価格転嫁が進まない」

という話がよく出ますが、
米国の中小企業は、痛みを感じながらも “必要な値上げ”を実行しているわけです。

もちろん、その分消費者は苦しくなります。
しかし、企業が値上げできずに倒れてしまえば、雇用も失われます。

「誰か一人だけが得をしているわけではなく、
みんなが少しずつ痛みを分け合っている」

インフレ局面の価格調整とは、本来そういうプロセスなのだと改めて感じさせる数字でした。


編集後記|「AIバブルか?」と聞きながら、今日もAIに投資する私たち

NVIDIAの記事を読みながら、正直ちょっと笑ってしまいました。

  • 「AIバブルか?」と聞かれるのは嫌じゃない

  • むしろ疑ってくれた方が安心

  • その間に、私たちは淡々と買い続ける

これ、冷静に考えるとなかなかの宣言ですよね。
「バブルじゃない」と断言はしないけれど、「バブルでもいいから乗る」という意思表明にも聞こえます。

人間って、合理的なふりをしながら、
けっこう感情で動きます。

  • 「AI抜きでこれからの世界は語れない」

  • 「でも、このPERはちょっと高くないか」

  • 「とはいえ、乗り遅れるのも怖い」

そんな葛藤を全部ひっくるめて、
**「とりあえず少し買う」**という行動になる。
ウォール街のプロも、一般の個人も、根本的にはそこまで違わないのかもしれません。

一方で、中小企業オーナーの調査結果も、別の意味で人間くさいものでした。

  • コストは18%増えている

  • だから12%値上げした

  • それでも来年の売上は増えると思っている

  • 地元経済も良くなると思っている

  • リストラ予定はほぼない

冷静に見ると、かなり楽観的です。
でも、企業家が悲観しか口にしなくなったら、その経済は本当に終わります。

ニュースを毎日見ていると、

  • 「AIバブルか崩壊か」

  • 「インフレで経済が死ぬかどうか」
    といった極端な物語に引きずられがちです。

でも、個々の人間レベルに降りてみると、

  • 調整にビクビクしつつNVIDIAを握りしめている投資家

  • 原価を計算しながら、値札の数字を少し上に書き直すオーナー

  • 相場のチャートを眺めながら、「そろそろ他の銘柄にも目を向けるか」と考えるファンドマネージャー

そんな“ちいさな判断”の積み重ねで、
世界は今日もなんとか回っています。

AIがどれだけ賢くなっても、
インフレがどれだけ進んでも、
最後に意思決定ボタンを押すのは人間です。

その人間が、

  • ちょっとだけ怖がって

  • ちょっとだけ欲張って

  • ちょっとだけ楽観して

そのバランスの中で「えいや」と決める。
その繰り返しが、バブルにもなり、持続的成長にもなります。

だからこそ、
「AIバブルかどうか」よりも、「自分はどのくらいの怖さと欲張りでいたいのか」
を決めることのほうが、よほど重要なのかもしれません。

今日のニュースをきっかけに、
自分のポートフォリオと、
自分のビジネスの“怖さと欲張りのバランス”を、
少しだけ見直してみる。

そんな夜があってもいいな、と思いながら、この原稿を締めます。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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