「ウォーナー争奪戦──パラマウントVSネットフリックスVSコムキャスト、配信戦争の“第3幕”」

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深掘り記事

■ いま何が起きているのか:WBDを巡る三つ巴

今回の主役は**Warner Bros. Discovery(WBD)**です。
ハリウッドの老舗スタジオ+HBOなどを抱える巨大メディアですが、ここに

  • Paramount

  • Comcast

  • Netflix

の3社が集まり、11月20日の入札期限に向けて正式ビッドの準備中だと報じられています(事実)。

大きな違いはここです。

  • パラマウント:WBD全体の買収(フルバイアウト)を狙う唯一のプレーヤー

  • コムキャスト&ネットフリックス:欲しいのは「スタジオ&ストリーミング事業」だけ

つまり、

パラマウント:会社丸ごと欲しい
コムキャスト&Netflix:おいしい部位だけ欲しい

という構図になっています。

パラマウント側は「フルバイアウトを目指しているのは自分たちだけ。そこが優位性だ」と見ているわけですね。


■ 株価とバリュエーション:23.50ドル vs 30ドル

今回のディールを理解するには、株価の推移が分かりやすいです。

  • 9月10日:WSJが「パラマウントがWBDに関心」と報じる前日

    • WBDの株価は12.54ドル

  • その後:買収観測が広がる中で上昇し、

    • 足元では24ドル前後まで上昇(記事時点)

そんな中で、パラマウントが提示した条件は:

  • 1株 23.50ドル

  • 現金と株の80:20スプリット

これ自体、報道前株価(12.54ドル)から見ると約87%のプレミアムです(数字は記事ベース)。
ただし、WBDの取締役会はこれに満足していません。

  • 取締役会は「30ドル近辺まで引き上げてほしい」と要求

  • 以前のオファーについては、

    • 「事業を分割して売るよりも低く評価している」との懸念も示されている

つまり、

「たしかにプレミアムはデカい。でも“足元の株価+会社のバラ売り価値”を考えると、まだ安いのでは?」

というのがボード側の感触です。


■ 誰が「規制」を一番うまくくぐり抜けられるか

このディールには、**巨大メディア統合につきものの“規制リスク”**がべったり張り付いています。

  • ストリーマー同士が組む

  • スタジオ同士が組む

  • さらに場合によってはケーブル大手までくっつく

となると、司法省(DOJ)による独禁法審査は避けられません。

記事は「政治と司法は分けて考えるべき」として、こんな事実を挙げています。

  • たとえトランプ政権がDOJに圧力をかけてWBDディールを潰そうとしても、
    最終判断は連邦裁判所の裁判官が独立して行う

  • 実際、2018年にDOJはAT&Tによるタイムワーナー買収に対し提訴して阻止しようとしたものの、

    • 裁判ではAT&T側が勝訴し、ディールは成立した(事実)

つまり、

「政権のご意向」と「裁判所の判断」は、必ずしも一致しない

という前例があるわけです。


■ どの組み合わせが“まだマシ”に見えるのか

規制当局が何を見るかによって、「通しやすさ」は変わります。

1)ストリーミング加入者数ベースで見た場合

  • Peacock(コムキャスト系)

  • Paramount+

は、Netflixに比べて加入者が少なく、まだまだ挑戦者ポジションです(記事の評価)。

この観点では、

「弱い同士が組んで、ようやく戦えるようになる」

というロジックが立つため、コムキャストやパラマウントのほうが説明しやすい可能性があります。

2)映画興行(ボックスオフィス)ベースで見た場合

  • Netflixは映画スタジオを持っていない(=伝統的な興行のシェアは低い)

この場合、
**映画スタジオをすでに持つパラマウントやコムキャストより、Netflixのほうが「集中度が上がらない」**と言いやすい構図になります。

もっとも、2019年には

  • Fox Corp.とDisneyという、当時の二大映画スタジオの統合が規制当局に認められている(事実)

という前例もあります。
このあたりは、どの市場(配信なのか、映画なのか)を基準に「支配的」と見るかで、かなり解釈の余地があるところです。


■ 誰が一番「お金」を持っているか

メディアM&Aで最終的にモノを言うのは、やはりキャッシュとファイナンス力です。

記事が挙げているのは:

  • パラマウント&Netflixの強み
    → 「キャッシュアクセスにおいてコムキャストより優位」

  • ただしコムキャストも、必要なら借入で資金調達するのはさほど難しくないと見られている

パラマウント側には、さらに特有の追い風があります。

  • 会長のDavid Ellisonは、

    • 父親がOracle共同創業者&会長のLarry Ellison

    • つまり実家の財布が非常に分厚い

  • さらに、Apollo Global Managementとも負債ファイナンスの交渉中であることが確認されている

この組み合わせは、かなり強力です。

「エリソン家の個人資産」+「プライベートエクイティのレバレッジ」

という構図なので、“攻めのM&A資金”を組みやすい

一方で、コムキャストは巨大なケーブル&メディア企業、Netflixは高評価の株式時価総額を武器にしており、それぞれ別の意味で資本市場からのアクセスが良いプレーヤーです。


■ 710億ドル案の“飛ばし”と、メディアM&A報道の難しさ

今回の報道の中で、もう一つ象徴的だったのがVarietyのスクープとパラマウントの即否定です。

  • Varietyは、
    → パラマウントが7,100億ドル規模のWBD買収案を、中東の3つの政府系ファンドの支援を得て準備中だと報道

  • これに対しパラマウントは、
    → 「完全に事実無根(categorically inaccurate)」と即座に否定

ここで重要なのは、
「数字と中東マネーの組み合わせ」は、それだけで市場を揺らすインパクトがあるということです。

WBD株が事前の12.54ドルから24ドル近くまで上昇した背景には、
当然ながら「誰かがいくらで買うのか?」という思惑が折り重なっているわけで、
メディアの一報が市場をどこまで動かすか、という点も改めて浮き彫りになりました。


■ 日本のビジネスパーソンにとっての示唆

ここまでの話を日本に引き寄せると、少なくとも3つのポイントが見えてきます。

  1. 「コンテンツ+配信」の垂直統合は、世界でまだ続く

    • スタジオとプラットフォームがくっつく流れは、Disney+Fox、AT&T+Time Warnerに続き、まだ止まっていない。

  2. 規制は“絶対のブレーキ”ではなく、“解釈のゲーム”

    • どの市場を基準に「支配的」と見るかで、ディールの通りやすさが変わる。

    • 日本の放送・通信の規制議論でも、**「何を支配力の指標とするか」**は今後の焦点になりそうです。

  3. お金のあるプレーヤーほど、「IPと配信」をまとめて取りに来る

    • コンテンツを持たないプラットフォームは、スタジオを買いたくなる。

    • コンテンツはあるが配信力が弱い会社は、逆に配信プラットフォームと組みたくなる。

日本でも、

  • 放送局

  • 通信キャリア

  • 配信プラットフォーム

  • スタジオ・制作会社

の関係は、まだじわじわと組み替えが進むはずです。
WBD争奪戦は、その「次の一手」を考える上での、分かりやすい教材になってくれます。


まとめ

「WBD争奪戦」が映し出す3つの現実

今回の記事を整理すると、WBD(Warner Bros. Discovery)争奪戦は、単なる1社のM&Aを超えた意味を持っていることが見えてきます。

事実ベースでは:

  • パラマウント・コムキャスト・Netflixの3社が、11月20日の期限に向けて入札準備中

  • パラマウントだけが**フルバイアウト(全社買収)**を志向

  • 直近のオファーは23.50ドル/株、80%現金+20%株

  • これは報道前株価12.54ドルに対して約87%のプレミアムだが、
    WBD取締役会は**「30ドル近辺を求める」**強気の姿勢

  • コムキャストとNetflixはスタジオ&配信資産だけに関心

  • 規制面では、

    • DOJによる独禁審査が焦点

    • AT&T×Time Warner(DOJ敗訴)、Disney×Fox(承認)という前例が存在

  • 資金面では、

    • パラマウント会長David Ellisonがエリソン家の資金力+Apolloのデットを組み合わせられる立場

    • Netflix・コムキャストも、それぞれ資本市場からのアクセスに強み

ここから見えてくる“現実”は、大きく3つです。


① コンテンツと配信の「再統合」がさらに進む

Netflixが世界を席巻したとき、一度は「スタジオを持たない配信プラットフォームこそ軽くて強い」と言われました。
しかし現実には、DisneyやWBDのようなコンテンツ資産を抱えるプレーヤーをどう取り込むかが、改めて勝負のポイントになっています。

WBDは、

  • 映画スタジオ

  • HBOなどの高品質ドラマ

  • ストリーミングサービス

を抱える「コンテンツの塊」です。
ここを押さえたプレーヤーは、配信+IPの両輪を一気に強化できます。


② 規制は“絶対NG”ではなく“条件付きOK”の世界へ

独禁法審査と聞くと、「大きい会社同士は基本ダメ」と思いがちですが、
記事で示されている事実はやや違います。

  • AT&T×Time Warner:DOJが訴えたが、最終的に裁判所はディールを認めた

  • Disney×Fox:当時の2大映画スタジオの統合にもかかわらず、規制当局は承認

重要なのは、

「どの市場区分で」「どの指標を使って」支配力を測るか

というフレーミングです。

  • ストリーミング加入者ベースなら、Peacock&Paramount+はまだ挑戦者

  • 映画興行ベースなら、スタジオを持たないNetflixは有利な見せ方もできる

規制の世界も、単純な「大きい=ダメ」ではなく、
定義とロジックの勝負になっています。


③ 「家系+PEマネー」がメディア業界を動かす

パラマウント陣営の面白いところは、

  • エリソン家という「超富裕ファミリー」の資金力

  • Apollo Global Managementという「レバレッジのプロ」

が組む可能性がある点です。

これは、

伝統的メディア企業
+ テックで財を成したファミリー
+ プライベートエクイティ

という、新しいタイプのメディア資本連合です。

日本でも、

  • メディア

  • テックマネー

  • 投資ファンド

の組み合わせはすでに増えていますが、
WBD案件はその“完成形の一例”になりうるかもしれません。


結論として、WBD争奪戦は、

「コンテンツ×配信×規制×資本」の総合格闘技

です。

ニュースとして追うだけでなく、
自分の属する業界で同じ力学がいつ・どの形で現れるかを考えるきっかけにしておきたい動きだと言えます。


気になった記事

地方局も「大再編」モードへ──シンクレアのScripps乗っ取り計画

もう一つ、メディア業界の地殻変動として押さえておきたいのが、SinclairによるE.W. Scrippsへの仕掛けです。

  • Sinclair:全米第3位のローカル放送グループ

  • Scripps:より小さなローカル放送会社

Sinclairは今回、ScrippsのクラスA株の8.2%を取得し、「一緒になろうよ」と圧力をかけ始めています(事実)。

背景にあるのは、**トランプ政権期のFCC(連邦通信委員会)による“統合容認ムード”**です。

  • これまで地上波局には
    → 「全国で何%の世帯までしかカバーしてはいけない」という**所有上限ルール(所有キャップ)**が存在

  • しかし、現FCC議長のBrendan Carrは、
    → 「この古いルールは撤廃すべき」
    → 「議会の承認なしにFCC判断で外せる」と主張

これにより、ローカル局の世界でも**「今なら大きなM&Aが通るかもしれない」という期待**が高まっています。

事実として、

  • 最大手のNexstarは、4位のTegnaを62億ドルのオールキャッシュディールで買収することで合意済み

  • Cox Media Groupに過半出資しているApolloも、売却に向けて複数の買い手候補と交渉中

など、地方局同士の“合従連衡”が一気に進んでいる状況です。

日本の地上波も、人口減少と広告のデジタルシフトで構造的な逆風にさらされています。
アメリカのローカル局再編は、将来の「日本版・ローカル局再編」の一つの参考モデルになるかもしれません。


小ネタ①

「カショギ事件」に対するトランプとMBSの温度差

最後に、政治とメディアの空気感がよく分かる一幕を。

  • 2018年、サウジ人記者ジャマル・カショギ氏が殺害された事件について、
    バイデン政権の報告書は「ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)が“捕らえるか殺害する”指示を承認した」と結論づけました。

  • サウジ政府はこれを「否定的で、偽りで、受け入れられない評価」として拒否(いずれも事実)

今回の報道によれば、
トランプ大統領はホワイトハウスでのやりとりのなかで、

「あなたはいま、とても物議を醸した人物の話を持ち出している」

と述べ、
「人が不当な形で命を失うのは、本当に痛ましい」と語ったMBSのコメントを受けつつ、
カショギ氏の話題そのものに不快感を示したとされています。

さらに、ABCニュースの記者がカショギ氏に関する質問をしたことについて、
トランプ氏は

  • 「ゲスト(MBS)を困らせる質問だ」と不満を示し

  • 質問した記者を「ひどい人間だ」と罵倒

  • 数日前には別の女性記者を「piggy(ブタ)」と呼んだばかり

というエピソードも紹介されています(いずれも記事ベース)。

「人権」と「武器・投資・安全保障」のどこに重きを置くか。
トップ同士が揃う場では、その価値観が一瞬であらわになります。


小ネタ②

「規制がゆるむとき」に、必ず起きること

SinclairやNexstarの話からもう一つ。

  • 大手ローカル局:
    → 「古い所有制限ルールのせいで、Big Techと戦えない」と長年主張

  • FCCが「そのルール、外してもいいかも」と言い始めた途端、
    → 買収オファーと資本参加が一気に噴き出す

この流れ、どこかで見たことはないでしょうか。

日本でも、

  • 携帯料金規制が緩む/強まる

  • 放送と通信の垣根を下げる/上げる

  • 銀行・証券・保険の参入規制を変える

たびに、
**「今のうちにM&Aしておこう」「規制の合間を縫おう」**という動きが必ず出てきます。

結局のところ、

「規制が変わるときが、一番儲け話が生まれるとき」

というのは、万国共通のルールなのかもしれません。


編集後記

「誰がコンテンツを握るか」より、「誰がルールを決めるか」

WBD争奪戦とローカル局再編、そしてカショギ事件。
一見バラバラなニュースですが、読んでいてじわっと浮かんできたテーマは、

「誰がコンテンツを握るか」以上に、
「誰がルールを決めるか」

という話でした。

WBDを巡る三つ巴も、
SinclairのScripps入りも、
プレーヤーたちはみんな**“現行ルールのギリギリを攻めている”**感じがします。

  • 規制が厳しければ「これはイノベーションを阻害している」と訴える

  • 規制がゆるめば「今がチャンス」と一気に動く

  • 裁判所が過去にOKを出したディールを前例としてフル活用する

つまり、ゲームの勝ち負けは、
**「誰がいいコンテンツを持っているか」ではなく、
「誰がルールの“解釈”を味方につけられるか」**で決まってしまう場面が増えています。

これはビジネスの現場でも同じです。

  • 社内ルールを「守る側」としてだけ生きていると、どこかで限界がくる

  • 一方で、「ルールをどう変えられるか」「どう解釈できるか」を考える側に回ると、打てる手が増える

もちろん、何でも好き勝手やればいいわけではなくて、
そこには法や倫理のラインがあります。

ただ、

「ルールは与えられたもの」
ではなく
「ルールは交渉の対象」

と見ている人と、
そうでない人の間には、見えている景色が決定的に違うのも事実です。

メディアの再編劇を「遠い世界のM&Aニュース」として読み飛ばすのは簡単ですが、
少し視点を変えると、

  • 誰がどのタイミングで “ルールの話” を持ち出しているか

  • その裏で、誰がどんな資本注入や提携を仕込んでいるか

が見えてきます。

たとえば日本の私たちができることは小さいかもしれませんが、

  • 自分の会社の「暗黙のルール」を言語化してみる

  • それが本当に必要か、一度フラットに見直してみる

  • 必要なら「こう変えたほうがいい」と提案してみる

これも立派な**「ルール側に近づく」行為**です。

WBDを巡って、世界の巨大企業とファンドと裁判所と規制当局がせめぎ合っている一方で、
私たちは今日、「会議のやり方」ひとつ変えられないでいるかもしれません。

でも、スケールが違うだけで、
やっていることの本質はあまり変わらないのかもしれない──
そんなことを考えさせられた一連のニュースでした。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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