「小さい会社がしんどい時代──“AI格差”とトランプ流バラマキのゆくえ」

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深掘り記事|小さな会社ほど2025年の荒波に溺れやすいワケ

■ 「雇用統計は強いのに」足元で起きている“もうひとつの景気”

今回の記事のテーマははっきりしています。

「アメリカの景気は見かけ上は元気だけど、“小さな会社”はだいぶしんどい」

という現実です。

ADP(給与計算大手)のデータをオックスフォード・エコノミクスが分析したところ、
50人以下の企業(小規模企業)は直近3カ月で純減8.8万人の雇用
一方で、500人超の大企業は純増15.1万人の雇用。

つまり、

  • 「雇用は堅調」というヘッドラインの裏で

  • 小さい会社は人を減らし、大きい会社は人を増やしている

という“二重構造”が進行しているわけです。

ADPのチーフエコノミスト、ネラ・リチャードソンもこう言っています。

「小規模ビジネスの弱さは、アメリカ全体の労働市場を考えるうえで懸念材料だ」

なぜなら、
アメリカの雇用の約半分はスモールビジネスが担っているからです。
ここが崩れると、「失業率はまだ低いから大丈夫」と言っていられなくなります。


■ 関税の“ジェットコースター”に、小企業はついていけない

今、小さな会社を直撃している要因のひとつが、関税(tariff)の乱高下です。

記事では、オックスフォード・エコノミクスのマイケル・ピアースが、
小規模企業が直面している問題として次の点を指摘しています。

  • 大企業は

    • 関税引き上げ前に**前倒し輸入(front-load imports)**ができる

    • 調達先と価格交渉する筋力がある

    • コストを販売価格に転嫁しやすい

  • しかしスモールビジネスは

    • そんな在庫を抱える資金力もなく

    • サプライヤーとの交渉力も弱く

    • 急な値上げをするとお客さんに逃げられるリスクが高い

結果として、同じ関税ショックでも、
**大企業は“うまくいなす”、小企業は“もろに食らう”**構図になりがちです。

これ、日本でも見覚えがありますよね。

  • 円安・原材料高 → 大手は値上げ、スモールビジネスは“据え置きで自腹”

  • 電気代アップ → 大工場は契約見直しや自家発、街の工場は「電気代がまた上がった…」

アメリカでは、これに**トランプ流の“関税ジェットコースター政策”**が上乗せされている。
そりゃ中小はバテます、という話です。


■ 資金調達とAI投資で“格差が二乗”される構造

もう一つ重要なのが、「お金の入り口」の格差です。

記事によると:

  • スモールビジネスはクレジット(借入)制約が大きい

  • それに比べて、巨大企業は

    • むしろアメリカ政府より安い金利で債券を発行できたケースすらある(マイクロソフトなど)

この差がどこに効いてくるか。
まさにAI投資です。

オックスフォード・エコノミクスのレポートが引用しているセンサス(統計局)のデータでは、

  • 小規模企業のAI採用(導入)率は、明らかに大企業より遅れている

  • しかし、今のアメリカ経済の成長ドライバーはAI投資そのもの

というねじれが起きています。

つまり、

「投資できないから成長の果実に乗り遅れる」

「乗り遅れるほど、さらに投資しづらくなる」

というAI格差のスパイラルです。

資本市場にアクセスできる大企業は、

  • 安い金利で資金調達

  • ガッツリAIインフラに投資

  • 生産性を高め、さらに稼ぐ

一方で小さな会社は、

  • 高い金利のローンに頼らざるを得ず

  • 投資余力がないのでAI導入は後回し

  • じわじわと競争力を失う

これが、単なる「景気の強弱」ではなく、構造的な格差の話になってきているポイントです。


■ 雇用と生活の“二極化”がじわじわ進む

記事は、スモールビジネスの苦境とあわせて、
アメリカ社会全体の“分断”も示しています。

  • 低所得層ほどインフレや生活コストに苦しんでいる

  • 一方、株式市場の好調に乗った高所得層は比較的余裕がある

ピアースはこう語っています。

「表面的には景気はレジリエント(強い)だが、
その裏側ではたくさんの“個別ストーリー”が同時進行している」

その一つが、

  • スモールビジネス

  • 黒人労働者(特に女性)

  • 若年層

  • 株を持っていない層

といった“脆弱なセグメント”での悪化です。

具体的には、

  • 黒人労働者(特に女性)の失業率上昇

  • 株を持たない人々の経済マインドの急落

  • 低所得層の賃金伸び率が鈍化

などが挙げられています(記事の指摘ベース)。

株とAIの恩恵が届く場所と届かない場所のギャップが、
静かに、しかし確実に広がっているイメージです。


■ 「コロナ起業ブームの反動」という“マイルドな説明”もあるが…

とはいえ、すべてが悲観一色というわけでもありません。

オックスフォード・エコノミクスは、次のような“構造的要因”も指摘しています。

  • コロナ禍で新規開業(スタートアップ)が急増した

  • その後、若い企業が多く潰れ始めている

  • 若い企業の倒産率が高いのは、それ自体はダイナミックな経済の健全な特徴でもある

つまり、
「小さな会社が減っている」のは、景気悪化だけでなく“自然淘汰”も混ざっている
という見方です。

日本的な感覚でいうと、

「開業率も高いけど廃業率も高い。
生まれては消え、を繰り返すのがアメリカ流の新陳代謝」

という整理です。


■ 「長期的には小さい会社も追いつく」…その“時間差”をどう見るか

ピアースは最後に、こんな見通しを語っています。

「大きな技術進歩から得られる成長は、まず大企業に集中するが、
長い目で見れば、小さな会社もその恩恵を受ける。
長期的には、みんなが得をする」

これは歴史的にもたしかにそうで、

  • インターネット

  • スマホ

  • クラウド

どの波も、最初に恩恵を受けたのは巨大プレーヤーでしたが、
時間が経つと中小企業も必ず巻き込まれました。

ただし問題は、
**「その“長期”が何年なのか」**です。

  • 大企業は「AI波乗りモード」で成長を加速

  • 小さい会社は「バタ足モード」でなんとか溺れないようにしている

この時間差が5年で済むのか、10年かかるのかで、
雇用・格差・政治の空気はまったく違うものになります。

そして、その「時間差」を短くできるかどうかは、

  • 政策(税・規制・補助金)

  • 金融(融資・金利)

  • インフラ(クラウド・ツールの価格など)

の設計次第です。

日本の中小企業にとっても他人事ではなく、
**「AIの恩恵が大企業だけで止まらない仕組みをどう作るか」**は、
2020年代後半の最大テーマの一つになりそうです。


まとめ|“AI格差”は、まず中小企業の雇用からじわじわ現れる

今回の記事が描いていたのは、
**「マクロの数字は悪くないのに、足元では小さな会社が静かに傷んでいる」**という光景でした。

事実として押さえておきたいのは、次のポイントです。

  1. 50人以下の企業は3カ月で8.8万人の雇用純減

    • 一方で500人超の企業は15.1万人の純増

    • 「雇用が堅調」という全体像の裏で、スモールビジネスの雇用は減っている

  2. 関税ショック・コスト高に対する“筋力差”

    • 大企業は前倒し輸入・価格交渉・値上げで対応可能

    • 小さい会社は、資金力も交渉力も乏しく、モロにコスト高を受ける

  3. 資金調達とAI投資で“倍速の格差”がつく

    • 巨大企業は、政府より低い金利で資金調達できたケースすらある

    • その資金をAIインフラに投じ、さらに成長

    • 小さな会社はクレジット制約でAI導入が遅れ、AI格差がつく

  4. 社会的にも“二重構造”が進行中

    • 株高の恩恵を受ける高所得層と、生活費高騰に苦しむ低所得層

    • 黒人女性や若年層の失業率悪化

    • 株を持たない層の経済マインド悪化

  5. コロナ起業ブームの“揺り戻し”という健全な側面も

    • 新規開業が増えたぶん、倒産も増えている

    • 若い企業の死亡率が高いのは“ダイナミックな経済”の特徴でもある

そして、オックスフォードのエコノミストが言うように、
**「長期的には小さな会社も技術進歩の恩恵を受ける」**こと自体は、歴史上何度も証明されてきました。

ただし、ビジネスパーソンとして気にすべきは、

「その“長期”が来るまで、自分の会社・自分の雇用は持つのか?」

という、ごく身近で現実的な問いです。

日本の中小企業に置き換えると、

  • 大企業だけがAIで生産性を上げていく

  • 中小は「人手不足+コスト高+価格転嫁しにくい」でジリジリ削られる

  • それでも「長期的には恩恵があります」と言われても、正直つらい

という構図になりかねません。

だからこそ、
“AI格差”を前提にした戦略が必要になります。

  • いきなり自前開発は無理でも「SaaS型AIツール」から小さく始める

  • 現場の業務動画・データを日頃から蓄積しておく(未来のワールドモデル向けの“餌”にする)

  • 「自社で全部やる」のではなく、AIを持っている大企業・プラットフォーマーとうまく組む

といった発想が、日本のスモールビジネスにも求められるでしょう。

“小さい会社が痛むとき”は、「AIなんてまだ先」と言っていられる最後のタイミングかもしれない。
そんな、少し冷や汗のにじむ示唆をくれた記事でした。


気になった記事|トランプ流「関税スタミナチェック」の計算書

サブ記事として取り上げたいのが、
トランプ前大統領が約束している「関税収入で1人2,000ドル配る」構想の試算です。

イェール大学のBudget Labが試算したところ、この**“タリフ・チェック”**には次のような数字が出ています。

■ いくらかかるのか?

  • 対象:年収10万ドル未満の全員に2,000ドルを配ると仮定

  • 総コスト:約4,500億ドル(4,500 billion=450 billion)

一方で、関税収入は:

  • 2025年度:1,950億ドル

  • 2026年度:4,200億ドル見込み

となっており、ざっくり言えば、

「1年ちょっと分の関税収入をほぼ丸ごとバラまきに使う」

イメージです。

これでは、トランプ氏が他に約束している

  • 債務返済

  • 農家支援

などに回す関税収入は、ほぼ残りません。


■ 経済効果はどう見込まれているのか?

イェールの試算では、この2,000ドルチェックによって:

  • 2026年のGDP成長率が+0.3ポイント押し上げ

  • 雇用も**+0.15ポイント**改善

と、**「ちょっとだけ効く景気刺激策」**になると見込まれています。

一方で、懸念されやすいインフレについては、

  • 数年で+0.1ポイント未満の上昇にとどまる

という結果で、
「バイデン時代の”給付金インフレ”と同じにはならない」との見立てです。

もちろん、これはあくまで試算の話であり、
実際には「給付金が出る」と分かった段階で行動が変わる人も出てくるため、
完全にその通りになる保証はありません。


■ 政治的な“狙い”はどこにある?

この構想は、ここ数カ月トランプ陣営が繰り返し持ち出していたテーマですが、
最近になってより積極的に語り始めているとのこと。

背景には、

  • 最高裁に自分の関税プログラムを丸ごと認めさせたい

  • そのために「国民への直接メリット」を強調したい

という政治的な狙いがあるとみられています(記事の文脈からの整理)。

ただし、財務長官のスコット・ベッゼントは、

「実際には議会での法案成立が必要で、その行方は不透明」

と慎重姿勢。
**「言うのはタダだが、実現は別の話」**という、政治あるあるの状態です。


小ネタ①|エプスタインファイル公開法案、427対1の“圧勝”

キャッチアップ欄から一つ。

下院で、司法省にジェフリー・エプスタイン関連ファイルの全面公開を義務づける法案が、427対1という圧倒的多数で可決されました。

  • 反対票を投じたのは、トランプ支持で知られる共和党のクレイ・ヒギンズ議員のみ

  • 上院のジョン・スーン院内総務も、迅速に可決してトランプに送る意向

ということで、
少なくとも議会レベルでは「公開しよう」という空気でほぼ一致しています。

これまで何度もニュースを騒がせてきたエプスタイン問題ですが、
ファイル公開が進めば、過去の人脈・金脈が再び話題になる可能性は高そうです。


小ネタ②|Anthropic×Microsoft×NVIDIA、そしてSpaceX vs OpenAIの“時価総額予想”

もうひとつ、AI&宇宙クラスタの話題を。

  • Anthropic(AIスタートアップ)が、
    MicrosoftとNVIDIAとの新たな提携を発表し、その中に150億ドル規模の投資
    が含まれていると報じられています。
    → 「ビッグテック+AIスタートアップ+半導体」の大型タッグは、まだまだ続きそうです。

  • ベンチャーキャピタルの雄・セコイアキャピタルのロエロフ・ボータは、
    OpenAIよりも、SpaceXのほうが“世界で最も価値ある企業になる可能性が高い”」と発言。

AIと宇宙。
どちらも「人類の未来っぽい」テーマですが、
投資家の一部は、宇宙×インフラのほうにより大きな長期価値を見ている
という視線が垣間見えます。


編集後記|「小さい会社が痛い」とき、AIの話はどこまで“他人事”か

正直に言うと、今回の記事を読んで、最初に浮かんだ感想はこれでした。

「AIブームで湧いている国の裏側で、
いちばんしんどいのは、結局いちばん小さい会社なんだよな」

NVIDIAだ、Anthropicだ、SpaceXだと、
巨大プレーヤーの名前ばかりニュースに出てきます。

でも、その陰で、

  • 関税で仕入れ価格が上がり

  • 金利が上がって借金が重くなり

  • それでもAI投資どころではないスモールビジネス

が、人知れず疲弊している。

日本でも、
「AIで生産性を上げよう」「DXだ」と掛け声は大きいですが、
実際に困っているのは、

  • 人が採れない

  • 取引先からの値下げ圧力は強い

  • 銀行は融資に慎重

  • でも顧客に値上げすると離脱が怖い

という、ごく現実的で泥くさい問題だったりします。

そんな現場感覚からすると、
「AI投資が経済成長を押し上げています」と言われても、
どこか遠くの花火大会を見ているような感覚になるかもしれません。

ただ、もう一つの視点として、
**「AIは、大企業だけのものでは終わらない」**という歴史的なパターンがあります。

  • インターネットも、最初は軍と大学と大企業のものだった

  • スマホも、最初は一部の人の高級ガジェットだった

  • クラウドも、当初は巨大IT企業しか触れなかった

それがいまや、
個人事業主も、社員10人の会社も、普通にスマホとクラウドとネットショップを使っています。

AIもきっと同じルートをたどるでしょう。
ただし、それには時間がかかる

問題は、その時間が来るまで、
小さな会社が生き延びられるかどうかです。

そこに必要なのは、
「AIなんてウチには関係ない」と言って切り捨ててしまう態度でもなく、
「自前でAIモデルを作らなきゃ」と気合いを入れすぎることでもなくて、

「3年後の自分たちがAIを使えるように、
今から何を残しておくか?」

という、もう少し地味な問いかもしれません。

  • 業務プロセスを言語化しておく

  • 動画やログを残しておく

  • クラウドツールに乗せられるものは乗せておく

  • 「人じゃないとできない仕事」と「AIやツールに任せられる仕事」を分けて考えておく

そんな地味な準備をしている会社と、
何もせずに「AIなんて大企業の話」とスルーした会社では、
5年後に見える景色がだいぶ違うはずです。

「小さい会社が痛い」ときに、
AIや宇宙や巨大テックの話は、たしかに少し遠く聞こえます。

それでも、
その“遠くの話”が、自分たちの足元にどう影を落としてくるのかを考えること。
そして、自分の会社やキャリアの「時間軸」をどう設計するかを考えること。

それが、ニュースを追う意味なのかな、とも思います。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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