深掘り記事|6週間で1年分の上げを吹き飛ばしたビットコイン、その裏側
■ チーズ・ルウを床にぶちまけた相場
記事の冒頭には、こんな比喩が出てきます。
「苦労して完璧なチーズ・ルウを煮詰めたのに、冷蔵庫に運ぶ途中で床にぶちまけた」
ビットコインの直近の値動きは、まさにそんな状態です。
事実だけ整理すると:
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2024年末、トランプ政権が暗号資産にフレンドリーになる期待からクリプト市場が爆発
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ビットコインは10万ドル超え
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その後、規制緩和+親クリプト派のSEC議長という追い風がありながらも、
→ 直近6週間で1兆ドル超の時価総額が吹き飛び
→ 市場全体は「1年前とほぼ同じ水準」に逆戻り -
月曜日時点でビットコインは9万ドル割れ
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最後に9万ドルを割ったのは、トランプ大統領が最初の対中関税案を発表した4月(約7万4,400ドルまで下落)
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先月のピークから昨日の9万3,000ドルまでの下落幅は**▲26%**
→ ウォール街的には立派なベアマーケット(弱気相場入り)
「トランプ相場+規制緩和+SECも味方」に見える中で、
なぜここまで一気に崩れたのか。記事が指摘する要因を、順番に見ていきます。
■ 要因①:AIバブル不安で、“一番リスクの高いもの”から売られる
まず一つ目は、AIバブル懸念です。
記事によると、
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投資家は「AIバブルの可能性」に神経質になっており、
→ そのリスクを落とすために、暗号資産のような投機的な資産から売り始めている -
OpenAIやNvidiaをはじめとするAI企業同士が、
→ 互いに巨額投資+商品の買い合いを続ける「マルチビリオン・ドルのループ」に入り、
→ 「本当に持続可能なのか?」と警戒する声が増加
AIセクターが「過剰投資では?」と疑われ始めると、
市場はまず、
「一番リスクが高く、実物キャッシュフローと遠いもの」
から逃げます。その代表格が、暗号資産です。
ここでのポイントは、
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仮想通貨そのものに新しい悪材料がなくても、
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「リスクオフの波」が来ると、真っ先に売られるポジション
として扱われている、という構造です。
■ 要因②:対中関税と“1年だけの休戦”──マクロ不安がリスク資産を直撃
二つ目は、トランプ政権の対中関税をめぐるゴタゴタです。
記事が挙げる事実は:
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これまで、トランプ政権が中国輸入品への新たな関税をちらつかせてきたことで、
→ 市場全体が不安定な状態に -
10月末、米中間で**1年間の「貿易休戦」(trade truce)**が発表されたものの、
→ 10月10日の新たな関税案の発表時点で、-
CoinGlassによれば、約190億ドル(約2兆円超)の過去最大規模のロスカット(清算)が発生
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つまり、
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関税リスクの“脅し”が積み重なり
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10月10日のアナウンスで一気に警戒が爆発
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その後に「1年だけの休戦」と言われても、
→ 投資家は長期の安定を信じきれない
という構図です。
対中関税は、株式だけでなく、
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サプライチェーン
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企業収益見通し
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世界の成長期待
を通じてマクロに効いてきます。
その波が、もっともボラタイルな暗号資産に集中して現れているとも言えます。
■ 要因③:株式市場も“同じ空気”を吸っている
暗号資産だけがやられているわけではありません。
記事によると、
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S&P500は4日連続で下落
-
投資家は、
→ FRB(米連邦準備制度)が12月に利下げしないのではないかと悲観的になっている -
相場のムードを決めるイベントとして、
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Nvidiaの決算発表(AIテーマの試金石)
-
政府閉鎖の影響で遅れていた9月雇用統計の発表
が控えている
-
つまり、
「AIバブルかも」「利下げ来ないかも」「雇用も鈍化かも」
という**“かもかも”不安の三段重ね**が、
リスク資産全体にのしかかっているわけです。
その中で、**ビットコインは最もボラティリティが高い“雷受け”**になっている。
これが記事が描く大きな構図です。
■ 日本のビジネスパーソンにとっての示唆
ここから先は私の見方ですが、今回のニュースから読み取れるポイントは大きく3つあります。
① ビットコインは「AI+金利+政治」が絡む“マクロ資産”になった
もはやビットコインは、「ブロックチェーンの将来性に賭けるプロダクト」というより、
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AIバブル懸念
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FRBの利下げ有無
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対中関税や地政学リスク
といった**マクロ要因で売買される“ハイベータ資産”**になっています。
日本の個人投資家にとっては、
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「株・債券・コモディティ+ちょっとの仮想通貨」
という位置づけを超えて、
「AIやテックの期待・失望を一番増幅して受けるポジション」
として見ておいたほうが、精神衛生上も良さそうです。
② “ルールが緩んだから安心”ではなく、ボラティリティはむしろ高まる
記事が描く通り、
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トランプ政権は暗号資産にフレンドリー
-
SEC議長も親クリプト寄り
-
規制環境は「緩和方向」に見える
にもかかわらず、価格は大きく崩れている。
ここから言えるのは、
「規制が味方だから上がる」「締め付けられるから下がる」という単純な世界ではない
ということです。
規制が緩むと、むしろ
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レバレッジ
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新商品
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相互投資
が加速し、結果としてボラティリティも増える。
「自由度が上がるほどハンドル操作もシビアになる」イメージに近いかもしれません。
③ 「本業×AI」と「投機としてのAI・暗号資産」は、頭の中で切り分ける
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仕事としてAIをどう使うか
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投資としてAI関連株や暗号資産をどう持つか
は、本来は別の議論です。
暗号資産やAI関連株の値動きが荒れるたびに、
「AIはやっぱりバブルだ」「ブロックチェーンなんて…」と技術まで一緒くたに否定してしまうのは、少しもったいない。
逆に、
暗号資産がまた上がってきたからといって、
「AI企業にガンガン出資するのが正義だ」と考えるのも危うい。
「技術は本物でも、株価が常に合理的とは限らない」
この当たり前の事実を、改めて思い出させてくれるのが、今回のビットコインの急落だと思います。
まとめ
リスク資産の「総点検モード」に入った2025年末
今回の記事をベースに、事実関係をもう一度整理してみます。
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ビットコインは、
→ 2024年末のトランプ政権の“クリプトフレンドリー期待”で10万ドルを突破 -
その後も、
→ 規制緩和や親クリプトのSEC議長といった環境が続いたにもかかわらず、 -
直近6週間で1兆ドル超の時価総額が消失
→ 市場全体は「1年前とほぼ変わらない水準」に -
月曜日時点でビットコインは9万ドル割れ
→ 前回9万ドルを割ったのは、4月の対中関税初回案発表時(約7万4,400ドル) -
先月のピークから昨日の9万3,000ドルまでで**▲26%**
→ 定義上のベアマーケット入り
要因として記事が挙げるのは:
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AIバブル懸念
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OpenAIやNvidiaなど、AI企業同士の“相互投資+相互購買”が過熱
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「持続可能なのか?」という疑念から、
→ リスクの高い資産(暗号資産)から売却が広がっている
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対中関税リスクと「1年だけの休戦」
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トランプ政権による中国輸入品への関税ちらつかせで、市場全体が不安定
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10月10日の新たな関税案発表時には、
→ CoinGlassによれば約190億ドルの過去最大級のロスカット -
10月末に1年間の「trade truce(貿易休戦)」が発表されたものの、
→ 長期的な不安は残ったまま
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株式市場も同じ空気を共有
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S&P500は4営業日連続で下落
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FRBの12月利下げ見送り懸念
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AI相場の象徴であるNvidiaの決算
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政府閉鎖の影響で遅れている9月雇用統計
などが“イベントリスク”として重なっている
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こうして見ると、
ビットコインの急落は「クリプトだけの問題」ではなく、
AI、金利、対中関税、雇用統計──2025年の不安材料の“集積点”
として機能していることが分かります。
日本のビジネスパーソン/投資家にとってのポイントをまとめると:
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ビットコインは、AIと金利と政治をまとめて反映する“感情指数”としての側面が強まっている
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チャートはテクノロジーではなく、マクロとセンチメントで動いている部分が大きい
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「規制が緩い=上がる」「規制が厳しい=下がる」という単純図式は通用しない
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規制緩和はレバレッジの増加とボラティリティの拡大も招きうる
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自分のポートフォリオの中で、暗号資産やAI関連株が「どれだけのリスク」を担っているかを再点検するタイミング
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NISA口座や特定口座の中で、“テーマ株+暗号資産”がどれくらい比重を持っているか
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「上がるから持つ」ではなく、「下がったときにどこまで許容できるか」から逆算する
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そしてもう一つ、投資とは別に重要なのが、
「本業としてのAI活用」と「投資としてのAI・暗号資産」を、頭の中でちゃんと分けること
です。
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自社のプロセス改善にAIをどう使うか
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顧客体験をどう良くするか
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社員の生産性をどう引き上げるか
といったビジネスとしてのAI活用は、
ビットコインの価格と直接は関係ありません。
一方で、
Nvidiaや暗号資産の値動きは、**「AIという言葉に対するマーケットの期待」**を測るには非常に役立ちます。
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期待が過熱していないか
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マネーゲーム化していないか
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本業と投資のリスクが混線していないか
これを点検するうえで、
今回の「6週間で1年分を消す」ビットコインの値動きは、
ちょうど良い“現実チェック”だったのかもしれません。
気になった記事|Home Depotが教えてくれる「リフォームする気力も削る高金利」
サブ記事として取り上げたいのが、Home Depotの決算とアメリカ住宅市場の停滞です。
記事が伝える事実は:
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Home Depotの第3四半期決算は売上停滞
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米国内の既存店売上(1年以上営業)は**+0.2%**
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アナリスト予想の**+1.4%**を大きく下回る
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3四半期連続で市場予想を下回る決算
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その結果、株価は**▲6%下落**
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同社は2025年の**調整後EPS(1株利益)が前年比▲5%**になると見通しを下方修正
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これまでの見通しは**▲2%**だったので、悪化方向
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会社側が挙げる要因は:
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金利は下がったとはいえ、
→ いまだに**「新築を買うには高すぎる」水準** -
そのため、
→ 古い家を買ってリフォームする人も、
→ 既存の家に大きなリノベーションをかける人も減少 -
さらに、
→ 政府閉鎖(シャットダウン)の不安
→ リストラ加速のニュース
が、高額リフォームへの心理的ハードルとして効いている -
追い打ちをかけたのが、
→ 今年の秋にハリケーンなどの大型嵐がほとんど来なかったこと
→ 例年なら「嵐の後の修繕需要」で売上が立つが、それも不発
記事は、Home Depotを
「Disney World for dads(父親たちのディズニーワールド)」
と表現しています。
DIY好きのお父さんたちが夢見る場所も、
金利と景気不安の前では、なかなか財布が開かないというわけです。
この話は、日本にも重なる部分があります。
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住宅ローンの固定金利の上昇
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リフォーム費用の高騰(資材・人件費)
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将来不安からの「とりあえず今のままでいいか」心理
こうした要素は、日本のホームセンター、リフォーム会社、住宅設備メーカーにも少し遅れて波及してくる可能性があります。
ビジネスパーソンとしては、
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「金利が少し下がっても、すぐには需要が戻らない」
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「生活防衛モードに入った家計は、“でかい出費”から真っ先に削る」
という現実を、Home Depotの決算を通じて確認しておくとよさそうです。
小ネタ①|Meta、反トラスト訴訟で“1勝”──「買って支配」はどこまで許されるのか
一つ目の小ネタは、Meta(旧Facebook)の独禁法訴訟勝利です。
記事によると:
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連邦裁判所の判事は、
→ FTC(米連邦取引委員会)が、MetaのInstagram/WhatsApp買収が違法な独占だと十分に立証できなかったと判断 -
この訴訟は2020年に提起されたもので、
→ 「競合になるかもしれない企業を買収することにより、競争を阻害した」と主張
→ その根拠の一つとして、2008年にマーク・ザッカーバーグが述べた-
「競合するより、買ってしまう方がいい(it is better to buy than compete)」
という発言も引用されていた
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しかし今回の裁判で、
→ ザッカーバーグ氏は「Metaは“脅威となる競合”を狙って買収しているわけではない」と証言 -
判決は、
→ Metaにとっては大きな勝利
→ 行政側(FTC)にとっては、ビッグテック規制の流れに対する痛手
同時に、
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直近では、
→ Googleが検索・広告で違法独占と認定されたり
→ Apple・Amazonへの反トラスト訴訟も進行中
と記事は触れています。
つまり、
「全部ダメ」でもないし、「全部OK」でもない
という、かなりグラデーションのある世界です。
日本企業がM&Aを考えるときにも、
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「買ってシェアを取る」戦略が、どこまで許されるのか
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どのレベルから「競争の阻害」と見なされるのか
は、海外展開やクロスボーダーM&Aを考える上で、ますます重要な論点になりそうです。
小ネタ②|Paneraの“千枚通しのような死”からの復活計画
二つ目の小ネタは、アメリカのファストカジュアルチェーンPanera Brandsの再建策です。
事実関係はこんな感じです。
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Paneraはかつて、アメリカのファストカジュアルの金字塔と見なされていた
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しかし近年、
→ ChipotleやPanda Expressといった競合に後れを取り、
→ 売上は昨年5%減の61億ドル -
新CEOのポール・カーボンは、
→ 2028年までに売上70億ドルを目指す「Panera RISE」戦略を発表
→ 過去のコストカットを**「千の紙切りによる死(death by a thousand paper cuts)」**と自虐気味に表現
具体的なテコ入れ内容が、なかなか人間味があります。
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サラダ
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レタスは全面ロメインに戻し、節約のために混ぜていたアイスバーグは廃止
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カーボン曰く「誰もアイスバーグなんて好きじゃない」
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具材も5種類から8種類へ増量
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トマト
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コスト削減のために使っていた「丸ごとトマト」ではなく、
→ スライスしたチェリートマトに変更
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ドリンク
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カフェイン量が多すぎて訴訟になった飲料に代わり、
→ カフェイン控えめな“エナジー・リフレッシャー”やフレスカ系ドリンクを導入
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ポーション(量)
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かつて縮小していたサンドイッチのサイズを再び増やす
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労働と設備
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店員数を増やし、
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10年近く放置されていたセルフ注文端末への再投資も実施
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カーボンCEOは、チリズなどのカジュアルチェーンが行っている**「バリューセット戦略」**に学びたいとしつつ、
「前菜メニューの選択肢が少ないので、まだ“コードは解けていない”」
とコメントしています。
コストカットを極めすぎてブランド価値を削り、
そこから**「やっぱりちゃんと美味しくして、人も増やします」**と逆回転させる姿は、
どこか日本の外食チェーンにも通じるものがあります。
編集後記
期待を煮詰めすぎると、床にぶちまける
ビットコインのニュースに出てきた「チーズ・ルウ」の比喩が、妙に頭から離れません。
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時間をかけて、丁寧に火を入れて
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いい感じにとろみが出てきたところで
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冷蔵庫に運ぼうとして、床に全部ぶちまける
相場に限らず、仕事でも人生でも、
これに近いことを一度はやらかしている気がします。
ビットコインは、
トランプ政権のクリプトフレンドリー期待という“火力”で一気に煮詰まり、
10万ドル超えという**「完璧なルウ」**になったかのように見えました。
そこへ、
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AIバブル懸念
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対中関税リスク
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金利と雇用への不安
という「床の段差」が続けざまに現れ、
見事にひっくり返った。
そんな風にも見えます。
一方で、Home Depotのニュースは、
「家の屋根はちょっと怪しくなってきているのに、
経済不安で修理する気にもなれない」
という、静かな疲弊感がにじみ出ていました。
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金利が高いから
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職を失うかもしれないから
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政府も止まりがちだから
そういう不安の中では、
「キッチンを丸ごとリフォームしよう!」という気分にはなかなかならない。
これは日本でも、すでにじわじわ進んでいることなのかもしれません。
そしてPaneraはと言えば、
コスト削減という名のもとに具材を削り続け、
いつの間にか**「なんか前より満足感ないよね」**と言われるチェーンになってしまった。
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レタスをケチり
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トマトを丸ごとに変え
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ポーションを少しずつ減らし
「千の小さなカット」が積み重なった結果、
ブランド全体の魅力が削れてしまったわけです。
ビットコインも、Home Depotも、Paneraも、
まったく違う業界の話ですが、
共通しているのは、
「期待」と「現実」のギャップを、
どこまで冷静に管理できるか
というテーマです。
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期待だけ煮詰めすぎると、床にぶちまける
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現実だけ見すぎると、何も変えられない
-
コストカットに走りすぎると、自分の価値まで削ってしまう
投資でも、キャリアでも、経営でも、
このバランス感覚を失った瞬間から、
「気付いたら60%下がっていた」とか
「気付いたら客数が減っていた」といった現実が始まります。
AIも暗号資産も、
とても魅力的な“新しいルウ”です。
問題は、それをどれだけの火加減で煮詰め、
どのタイミングで冷まし、
どれくらいの容器に入れて運ぶか。
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