深掘り記事|ビットコインはもう「安全資産」ではないのか?
■ 2025年、「金」は55%高、「ビットコイン」は年初横ばい
今回のメインテーマは、この記事の一文に集約されています。
“Digital gold loses its luster as a safe haven in 2025”
(デジタルゴールドは、安全資産としての輝きを失った)
数字だけ拾うと、状況はかなりハッキリしています。
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ビットコイン
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10月初めの史上最高値から26%下落
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その結果、年初から見るとほぼ横ばいまで後退
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一方の金(ゴールド)
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2025年だけで+55%の上昇
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インフレ懸念、ドル安懸念、市場ボラティリティの高まり、景気への不安――
こうした環境は、本来なら
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金(伝統的な安全資産)にプラス
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ビットコイン(“デジタルゴールド”)にもプラス
というのが、これまでの「暗号資産コミュニティの論理」でした。
ところが、現実は真逆です。
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ゴールド:期待どおり安全資産として買われている
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ビットコイン:AI相場と一緒に“リスクオフ売り”の対象になっている
この記事は、そこを冷静に指摘しています。
■ 「安全資産」どころか、AI相場の“リスク指標”に
ビットコインはなぜ「安全資産として機能していない」のか。
記事が事実として挙げているポイントは、次の通りです。
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株式との相関がプラスに変化したまま
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CMEグループのエコノミスト Mark Shoreによると、
→ ビットコインと米国株の相関は2020年にプラスに転じ、その後もずっとプラスのまま -
つまり、
→ 株が下がるときは一緒に下がりやすい
→ 「株のヘッジ」としての役割は薄い
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保有主体が“機関投資家寄り”に変わった
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過去1年で、
→ ETFや上場企業のトレジャリー(財務ポートフォリオ)を通じ、
ビットコインのより多くが機関投資家の手に渡った -
その結果、
→ 「普通の金融資産」と同じようにポートフォリオ調整の対象になっている
-
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市場全体のリスクオフで、真っ先に売られるポジションに
-
記事によると、
→ ナスダック指数は直近1カ月で▲6% -
投資家は、
→ AIによって牽引されている株式市場のラリーの持続可能性に疑問を持ち始めている -
この局面で、ビットコインは
→ 「究極のリスク資産」として、まず売られる存在になっている
-
記事は結論として、
2025年のビットコインは、「デジタルゴールド」というより、
投資家のリスク許容度を測るバロメーターに見える
と締めくくっています。
ここは事実というより“評価”ですが、
少なくとも、
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ゴールドが+55%
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ビットコインは年初から横ばい
-
直近は株式と一緒に売られている
という数字を見る限り、
「安全資産」と呼ぶのはさすがに厳しい、というのは納得感があります。
■ 「供給は限られているのに、安全資産じゃない」という矛盾
ビットコイン支持者がよく持ち出すロジックはこうです。
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発行上限が決まっている(=希少性がある)
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国家の通貨政策から距離がある
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だから、
→ インフレや金融不安の「ヘッジ」になる
→ ゴールドの“デジタル版”として機能するはずだ
ところが記事は、冷静にこう指摘しています。
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ビットコインには、
→ コントロールされた供給量
→ 伝統的金融システムからの距離
といった「安全資産的な特徴」はある -
しかし、実際の“避難先(セーフヘイブン)としての記録は、せいぜいまばら(spotty at best)
この「特徴」と「実績」のギャップがポイントです。
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**特徴(structure)**だけを見れば、
→ 「安全資産っぽい」 -
しかし**実績(record)**を見ると、
→ 株と一緒に上がり、株と一緒に下がる“リスク資産”
記事は、NFLの名将ビル・パーセルズの言葉を引用しています。
「You are what your record says you are.」
(自分の“実績”こそが自分を物語る)
それをビットコインに当てはめると、
2025年時点のビットコインは、
「デジタルゴールド」というよりも
リスクオン/オフを映す“気分指数”
に近い存在だ、と整理できます。
■ 日本のビジネスパーソンにとっての論点
ここからは私の見方ですが、このニュースは「投資」と「経営」の両面で示唆があります。
1)投資ポートフォリオの中での“役割”を、もう一度棚卸しする
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「インフレヘッジだからビットコイン」
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「株が危なくなった時の避難先としてビットコイン」
もし、そんな前提でポジションを持っているなら、
足元の“実績”とズレていないかを点検した方がよさそうです。
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ゴールド:実際に買われている安全資産
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ビットコイン:AI相場と連動しながら上下する高ボラ資産
というのが、少なくとも記事が切り取っている2025年の姿です。
2)「安全資産ストーリー」は、マーケティングとしては強いが、現実には変わる
ブランド戦略的な視点で見ると、
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「デジタルゴールド」というコピーは非常に強力でした。
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しかし市場参加者が変わる(個人 → ETF+機関)と、資産の性格も変わる、という当然の現象が起きています。
これは、ビジネスでも同じです。
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顧客層が変わると、「商品そのものの性格」が変わったように見える
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同じサービスでも、
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スタートアップ向けに売るのか
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大企業向けに売るのか
で“リスク資産”にも“インフラ”にもなり得る
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ビットコインの変化は、
「誰が持っているか」「どんな目的で持っているか」が、
プロダクトの“意味”を大きく変える
という、マーケティング的にも重要な教訓を含んでいます。
3)AIバブル懸念とビットコインは、実は同じ文脈にある
記事は、
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AIによって株式相場が押し上げられてきた
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しかし今、その持続可能性に市場が疑問を持ち始めている
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その結果、リスクの高いものから売られている
という流れの中で、ビットコインの下落を位置づけています。
つまり、
「AIバブルでは?」という問いに市場が答えを出そうとする過程で、
ビットコインも巻き込まれている
ということです。
AI関連株、ハイテク、暗号資産をまとめて「テック枠」として持っていると、
ポートフォリオ全体のボラティリティが思った以上に高くなるリスクがあります。
まとめ
「あなたは“記録”どおりの存在である」──ビットコインの2025年版プロフィール
記事の内容を、事実ベースであらためて整理すると、次の通りです。
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ビットコイン
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2025年10月初頭に史上最高値をつけた後、
→ そこから26%下落 -
その結果、
→ 年初来ベースではほぼ横ばい水準に戻ってしまった
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ゴールド
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2025年に入り、+55%の上昇
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この差はかなり大きいものです。
さらに環境要因として、
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金価格を押し上げている条件として記事が挙げるのは、
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低金利期待
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ドル安
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ボラティリティの上昇
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景気不安
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これらは、本来ならビットコインにとっても追い風になるはずの条件ですが、
→ 現実には「逆の動き」が起きている
そして、ビットコインの「安全資産」としての実績については、
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2020年以降、
→ 米国株との相関がプラスに転じ、その状態が続いている(CMEグループ・Mark Shoreの指摘) -
過去1年で、
→ ETFや「クリプト財務会社」を通じて、
より多くのビットコインが機関投資家の手に渡っている -
その結果、
→ “株と一緒に動くリスク資産”としての性格が強くなっている
加えて、マクロ環境としては、
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ナスダック指数が直近1カ月で▲6%
-
投資家は、
→ AIによって押し上げられてきた株式ラリーの持続可能性に疑問を持ち始めている -
そうした中で、ビットコインは
→ 真っ先に売られる「究極のリスク資産」として機能している
記事は、NFL殿堂入りコーチのビル・パーセルズの言葉――
「You are what your record says you are.」
(自分の“記録”が、自分自身を物語る)
を引用しながら、
2025年のビットコインは、
“デジタルゴールド”ではなく、投資家のリスク選好を映すバロメーターとして振る舞っている
とまとめています。
ここから得られる示唆を、投資・ビジネスの観点で整理すると:
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「安全資産としてのビットコイン」というストーリーは、少なくとも現時点の数字とは整合していない
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インフレ・ドル安・ボラティリティ上昇の局面で、
→ 買われているのは「金」であり、
→ ビットコインは株と一緒に売られている
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保有主体の変化が、資産の“性格”を変えた
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機関投資家がETFや上場企業を通じて保有を増やした結果、
→ 他のリスク資産と同じようにポジション調整の対象に -
これは、
→ 顧客層が変わることで商品自体の「意味」が変わる、ビジネス一般の構造にも通じる
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AIバブル懸念とビットコインの急落は、一本の線でつながっている
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AI関連株の行き過ぎ感が話題になる中で、
→ 投資家は「リスクの総量」を下げにかかっている -
その過程で、
→ 最もボラティリティの高いビットコインが“調整の最前線”になっている
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結局のところ、
ビットコインが**「何であるか」**は、
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理論やホワイトペーパーではなく、
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これまでの値動きと保有者構成という“記録”によって定義されつつある
と言えそうです。
気になった記事|米企業は、世界よりも“貿易に前向き”という現実
サブ記事として取り上げたいのが、**「U.S. firms more confident on trade than global peers(米企業は世界の企業より貿易に自信)」**という調査結果です。
記事が伝える事実を整理すると:
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HSBCが、17カ国・6,750社超の国際取引企業を対象に調査
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そのうち1,000社が米企業
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その結果、
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「今後2年間の国際貿易に“非常に自信がある”」と答えた割合は、
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米企業:57%
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世界平均:38%
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貿易の混乱(主に関税)の影響についても、
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「情報を得ており、備えができている」と答えた割合は、
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米企業:52%
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世界平均:36%
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HSBCのグローバルトレード部門の責任者 Marissa Adams氏は、
この差の背景にAIの導入格差があると見ています。
「米国には世界最大のAI企業があり、それがアドバンテージになっている」
というコメント通り、
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米企業は、
→ 関税やサプライチェーン変更を“前提条件の変化”と捉え、
→ そのタイミングで新しいテクノロジー投資に踏み込んでいる
と記事は要約しています。
一方で、明るい話ばかりではありません。
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73%の米企業が、運転資本(ワーキングキャピタル)へのプレッシャー増大を感じている
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この数値は、他国企業よりも“かなり高い”と紹介されています。
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つまり、
「貿易の先行きには自信がある。
ただし、目の前の資金繰りはかなりしんどい」
という、いかにも企業っぽい本音が透けて見えるデータです。
記事のまとめとしては、
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米企業は、
→ 関税戦争による打撃を受けつつも、
→ “いつまでも待っていられない”と腹をくくり、長期のビジネストレンドに基づき動き始めている -
一方、他国企業は、
→ まだ様子見モードが強い
という構図が描かれています。
日本企業の立場で考えると、
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「政策が安定するのを待つ」のか
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「政策は揺れる前提で、長期トレンドに張る」のか
このあたりのスタンスの違いが、
数年後の競争力に効いてくるかもしれません。
小ネタ①|あの「ベイビーシャーク」が上場した件
STATコーナーからの小ネタです。
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「Baby Shark」で世界中の親を発狂させた(あるいは救った)韓国Pinkfong社が、
→ 韓国取引所のKOSDAQ市場に上場 -
初日は一時株価+62%まで急騰し、
→ 火曜日時点の時価総額は約4億600万ドル(Bloomberg情報)
「Baby Shark Dance」は、
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YouTube史上最も再生された動画で、
→ 160億回以上の再生回数 -
一時は
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Billboard Hot 100にもランクイン
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SpotifyのGlobal Viral 50で1位になったこともある
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という、数字だけ見れば“歴史的コンテンツ”です。
それでも、YouTubeのキッズコンテンツの収益制限の影響で、
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Pinkfongの昨年の売上は約6,700万ドルにとどまった、と記事は伝えています。
これだけ世界を席巻しても、「広告だけでは思ったほど儲からない」。
だからこそ、Pinkfongは上場による資本調達で次のステージを狙うわけです。
BGMとしては二度と聞きたくない人も多いかもしれませんが(笑)、
**「推しコンテンツをIPビジネスに仕立てきれなかった」**という意味では、
ある種の“反面教師”としても興味深いケースです。
小ネタ②|エマ・グレーデが語る「働き方」と「インクルーシブのリアル」
もう一つの小ネタは、起業家**Emma Grede(エマ・グレーデ)**のインタビューです。
記事によると:
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彼女は以前、
→ 「成功したければ、夜や週末の仕事もいとわない覚悟が必要」と発言
→ そのクリップがバイラルになり、かなり叩かれた -
ただし彼女は、
→ 同じことをMark Cubanのような男性起業家が言っても炎上しないだろうと指摘
「女性には、“こう振る舞うべき”という期待が張り付いている。
それに反する行動を取ると、“モンスター”扱いされる」
というコメントは、かなり重い一言です。
同時に、
「共感力のあるすばらしいリーダーでありながら、
何か偉大なものを築くことにレーザーフォーカスである、
この2つは同時に成立し得る」
とも語っています。
彼女の“実績”のほうも記事は淡々と紹介しています。
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Good Americanというインクルーシブなファッションブランドを共同創業
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Skims(シェイプウェア)では創業パートナー
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いずれもカーダシアン一家と組んで立ち上げ
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直近では、Skimsが2億2,500万ドルの資金調達を実施
→ 企業評価額は50億ドル
→ これは競合Victoria’s Secretの時価総額のほぼ2倍に相当すると記事は述べています -
調達資金の大半は実店舗展開に投下
→ 月に約1店舗ペースで出店中
→ 2024年に7,000店以上の実店舗が閉店した小売業界のトレンドに逆行する動き
さらに、
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Good Americanはインクルーシブなサイズ展開を武器にしてきましたが、
→ アメリカでGLP-1(肥満治療薬)を使う人が600%増加している現実が、
「ボディ・インクルージョン」の意味を変え始めている、と記事は指摘 -
それでも現時点では、
→ Good Americanのサイズ別売上構成に、大きな変化は出ていない -
同ブランドは、
→ プラスサイズや超高身長など、他ブランドが手薄な**“フリンジサイズ”**にフォーカス -
なお彼女は、
→ 関税は「これからも残る」と見ているが、
→ SkimsもGood Americanも、関税コストを理由に値上げはしていない
「働き方」の話と、「サイズの多様性」「GLP-1」「関税」といった話題が一見バラバラに見えつつ、
実はすべて、
“誰のためのブランドなのか”をブレずに持てるか
という一点に集約されているように思えます。
編集後記
デジタルゴールド神話と、「記録」が教えてくれること
ビル・パーセルズの
「You are what your record says you are.」
という一言が、今日はやけに刺さりました。
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ビットコインは「デジタルゴールド」だと長年言われてきた
-
しかし2025年の“記録”を見ると、
→ ゴールドは+55%
→ ビットコインは年初ほぼ横ばい+株と一緒に売られる
この差を前にして、
「それでもビットコインは安全資産だ」
と言い張るのは、
もはや信仰の世界に足を踏み入れているのかもしれません。
一方で、私たちの仕事やキャリアにも、
似たような「物語」と「記録」のギャップがあります。
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「自分は新しいことに挑戦するタイプだ」
-
「自分は部下の成長を大事にするマネージャーだ」
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「自社は顧客志向の会社だ」
こうしたセルフイメージやスローガンは、
口にするのは簡単です。
でも、
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この1年で、新しい挑戦をいくつやったか
-
この半年で、部下と1on1を何回やったか
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ここ数カ月で、お客さんの不満をどれだけ正面から拾ったか
という“記録”のほうに目を向けると、
自分でも少し気まずくなることがあります。
ビットコインは、良くも悪くも
「語られてきた物語」と「積み上がった記録」のギャップ
を、世界中にさらけ出してしまいました。
でもそれは、
暗号資産だけの話ではありません。
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ESGを掲げているのに、実際の投資行動は真逆
-
多様性をうたっているのに、役員は全員同じ属性
-
「働き方改革」と言いつつ、会議ばかり増えている
こうした“ビジネス版・デジタルゴールド神話”は、
日本企業の中にも山ほどあります。
逆に言えば、
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派手なスローガンがなくても
-
SNSでバズらなくても
静かに「記録」を積み上げている人や会社は、
いずれマーケットから正しく評価されていくはずです。
今日のビットコインの話は、
「ラベルや物語よりも、自分の“記録”を見直してみよう」
という、ちょっと耳の痛い宿題だったのかもしれません。
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自分の今年の投資行動
-
チームのこの1年のアウトプット
-
会社としてのここ数年の意思決定
それらを、スローガン抜きで眺めてみる。
そのうえで、
「You are what your record says you are.」
を自分ごととして受け止められるかどうか。
そんなことを考えながら、
ビットコインのチャートよりも、
自分の「行動の履歴」をもう一度見直したくなった夜でした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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