深掘り記事|「市場はほぼNVIDIA」の危うさと、トランプ経済政策への冷めた視線
■ もはや「S&P500」ではなく「NVIDIA指数」?
今回のメインテーマは、記事のタイトルどおり、
「The market is one stock now(市場は一銘柄で動いている)」
という、なかなかパンチのある指摘です。
軸になっているのはもちろんNVIDIA。
ここ最近の相場では、
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S&P500全体がどう動いたか
よりも -
「NVIDIAが上がったか、下がったか」
のほうが、マーケットの空気を説明しやすい、という状況になっています。
記事が指摘していたポイントを整理すると、
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NVIDIAの好決算で、市場は一度**+1.4%高でスタート**
-
ところがその後、一気にマイナス圏まで急反転
-
こうした「大幅高スタート→大幅安クローズ」は
過去5年で**2020年4月(コロナ禍の急反発局面)**と
**2025年4月(“解放の日”関税ショック後)**の2回しかなかった
つまり、
「決算は文句なしに良かった。
それでも、AIバブル不安を消すには足りなかった」
というのが今回のメッセージです。
Empower社のチーフ・インベストメント・ストラテジスト、
マルタ・ノートン氏は、こんな風に語っています。
「今は**“ワンベット・マーケット”**であり、それは非常にリスキーだ」
マーケット参加者の視線は、
-
FRBがどう動くか
よりも -
「AI関連、とくにNVIDIAがどうなるか」
にほぼ固定されている。
雇用統計が“混合”だったことも、むしろ不安要素を増やしただけ——
と記事は指摘します。
■ AIバブル懸念の「材料」は一つも消えていない
決算そのものは、どう見ても強い内容でした。
-
AI需要は依然として強く、
-
ブラックウェル世代のGPUも「売り切れ」状態
-
需要が本当にあることは、数字が示している
にもかかわらず、相場は素直に祝ってくれません。
記事が挙げている「投資家を不安にさせる材料」は、大きく3つです。
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著名投資家たちの“警告”
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「ビッグショート」で知られるマイケル・バリーらが
AIバブルへの懸念を公然と表明 -
NVIDIAに対しても、空売り・プットオプションなど
ベアポジションが増えている
-
-
バリュエーション(株価水準)の高さ
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「期待成長をかなり先まで織り込んだ水準」との声が多数
-
ちょっと風向きが変わるだけで
「期待部分」から一気に削られるリスク
-
-
“ぐるぐる投資”構造への不安
-
AI関連企業同士が互いに出資し合い、
互いのインフラを買い支える“循環構造” -
どこか一社でも息切れすると、
ドミノ倒しになるのではないかという恐怖
-
NVIDIAの好決算は、
「需要が本当にある」という点では不安を和らげたものの、
-
「このペースで投資が続くのか?」
-
「循環構造のどこかに“逆回転のスイッチ”はないのか?」
という根本的な疑問には、まだ答えを出していません。
■ 「上がるときだけ欲しい」は通用しない
Siebert Financialのマーク・マレク氏は、
クライアント向けノートでこんなことを言っています。
「ウォール街にタダ飯はない。
NVIDIAが年初来40%以上上がった果実だけ欲しくて、
下がる日は我慢できません、というわけにはいかない」
要は、
-
NVIDIAや“AIマグニフィセント”の恩恵を受けたいなら
-
ボラティリティ(価格の振れ幅)もセットで受け入れろ
という、非常にまっとうな話です。
これは個人投資家にも、そのまま突き刺さる話で、
-
「AIは長期テーマだからガチホ」
と言いながら、 -
3日続落すると「やっぱりバブルだ!」と狼狽する
——このパターンを繰り返していると、
期待リターンはどんどん削られていきます。
記事でも、
「リテール(個人投資家)の行動には特に注目している。
ここが“恐怖売り”に走れば、下げ相場が加速する」
というコメントが紹介されています。
2025年の相場では、
-
個人投資家が売買ボリュームの約4分の1を占めるレベルまで台頭
-
「押し目買い」が今年はだいたい成功してきたため、
**“買い下がりの成功体験”**が強く刷り込まれている
そのため、直近の調整局面ではむしろ
-
個人の資金流入が増えている
-
「下がったら買う」が半ば条件反射化している
という指摘もありました。
■ トランプの「2,000ドル小切手」と50年ローンに、ウォール街は冷めている
一方で、ホワイトハウス側からは、
-
関税収入を原資にした「2,000ドル現金給付」案
-
50年住宅ローンの導入
-
一部品目(牛肉・コーヒーなど)の関税引き下げ
といった、「生活費高騰」に対応するための政策アイデアが
次々に打ち出されています。
しかし、ウォール街の反応は驚くほど冷静です。
RSM USのチーフエコノミスト、ジョー・ブルセラス氏いわく、
「2期目の今となっては、投資家は
“トランプ流の発言”に対してフィルターを持っている」
つまり、
-
本気の政策ライン
-
とりあえずのパフォーマンス発言
を、ある程度見分けているということです。
実際、
-
関税小切手案が出ても、債券市場はほとんど反応せず
→ 本来なら「財政赤字拡大懸念」で金利が動いてもおかしくない -
株式市場も、NVIDIAとAIの方に意識が向きすぎていて、
ほぼ無風
という状況です。
さらに、記事は政策そのものの効果についても冷静です。
-
パンデミック時の給付金について
→ FRBの研究では、インフレ押し上げ要因になったと分析 -
50年ローンは
→ 月々の負担は減るが、トータルコストは大幅に増える -
食料品価格に関しては
→ NEC(国家経済会議)のハセット氏が
「値上がりの原因は関税だけではない」と指摘
Empowerのノートン氏も、辛辣にこう言います。
「政府が市場の問題を解決しようとするとき、
本質はいつも供給側の問題だが、
政府は供給サイドをいじるのがあまり得意ではない。
そこは民間のほうがずっと上手い」
これはバイデン政権時代に
-
コロナ給付金
-
インフレ抑制法(IRA)
が出たときにも、
ウォール街から投げかけられていた批判と、
まったく同じ構図です。
■ FRBの「利下げ示唆」とデンマークの“オゼンピック経済”
もう一つ、マーケットの空気を変えたニュースが
ニューヨーク連銀総裁ウィリアムズ氏の発言です。
-
「近い将来、政策金利を中立水準に近づけるための調整余地がある」
とチリ中銀の会合で発言 -
これを受けて、
→ 12月FOMCでの利下げ確率は**39%→73%**へ急上昇(CME FedWatch)
→ 株式・債券ともに買われる展開に
ニューヨーク連銀総裁は、
-
FOMC副議長
-
恒常的な投票権
-
実際の公開市場操作(国債売買)を担う立場
という“中枢”ポジションです。
その人物が、準備されたスピーチでここまで踏み込むのは、
「FRB内部のコアメンバーの間で、
12月利下げに向けたコンセンサスができつつある」
と解釈するのが自然だ、と記事は見ています。
一方で、
-
シカゴ連銀のグールズビー総裁は
「長期的には今より低い金利水準に落ち着くと思うが、
直近での利下げを前のめりにやり過ぎるのは不安」と慎重 -
ダラス連銀のローリー・ローガン総裁は
「すでに2回利下げしている以上、
さらに12月に下げるには、
インフレ鈍化や雇用悪化がもっとはっきり見えないと難しい」
と、いわゆる“タカ派”側の主張も健在です。
この構図は、
「利下げを急ぎたいハト派」vs「インフレ再燃を恐れるタカ派」
という、非常に分かりやすい“プロレス”になっています。
そこへもう一つ、印象的だったのがデンマークの“オゼンピック経済”。
-
2025年Q3のGDP成長率:+2.3%(2021年以来の高水準)
-
ただし、製薬輸出を除けば**+0.7%にとどまる**
-
ほぼ一社、Novo Nordiskと
そのGLP-1薬(オゼンピック/ウゴービ)の輸出で
経済が押し上げられている -
一方で、
→ 同社の株価は今年約50%も下落
→ Eli Lillyなど競合他社との競争激化で
投資家の期待が剥がれ始めている
NVIDIAがS&P500の“エンジン”になっているアメリカと、
NovoがGDPのエンジンになっているデンマーク。
**「一社依存の成長」**がもたらす
嬉しさと怖さの両方を、
見事に体現している二つの事例と言えそうです。
まとめ|「NVIDIA一強時代」に、個人が握るべき4つの視点
今回のニュース群から見えてくるのは、
「世界は一見バラバラのようでいて、
どこも“偏った成長”に依存している」
という現実です。
アメリカ株式市場は、
NVIDIAをはじめとするAI銘柄に極端に依存し、
-
好決算が出ても、
「バブル不安」というフィルターを外せない状態 -
それでも、
「ここに乗らないとリターンを取り逃がす」というFOMOが
個人・機関投資家の両方を市場に縛り付けている
一方、トランプ政権は
-
2,000ドルの関税小切手
-
50年ローン
-
一部品目の関税ロールバック
といった政策アイデアを通じて、
「生活費高騰」という有権者の痛みに応えようとしています。
しかしマーケットはそれを、
-
インフレ再燃のリスク
-
トータルコスト増
-
供給側の問題を放置したままの“対症療法”
として基本的にスルーしている。
ウォール街の関心は、
-
AIバブルがどうなるか
-
FRBが12月に利下げしてくれるのか
にほぼ集中しており、
ホワイトハウスの経済政策は
「ノイズ」に近い扱いになりつつあります。
そしてFRB内部では、
-
雇用統計やインフレ指標が“中途半端”な数字を示すなかで
-
利下げを急ぎたいハト派と、
インフレ再燃を恐れるタカ派が
かなり激しく意見を戦わせている
その一方で、デンマークでは
-
GLP-1薬の輸出でGDPが+2.3%まで跳ね上がる一方で
-
そのエンジン役であるNovo Nordiskの株価は、
競争激化で年初来▲50%
という、“偏った成長の光と影”が同時に進行しています。
ここから日本の個人投資家・ビジネスパーソンとして
持っておきたい視点は、少なくとも4つです。
-
「一銘柄依存」の魔力とリスクを冷静に見ること
-
NVIDIAやAIテーマに乗るなら、
短期のボラティリティは「当然のコスト」と割り切る -
乗らないなら、
「指数から取り残される可能性」を覚悟した上で、
他のテーマを選ぶ
→ どちらを選んでもいいが、「なんとなく」だけは一番危険です。
-
-
政府の“バラマキ”に対して、冷静な費用対効果を持つこと
-
現金給付や超長期ローンは、
目先の家計を助ける一方で、
インフレや将来負担を増やす側面もある -
「票になる政策」と「実際に構造を変える政策」は別物
→ ここを見誤ると、“政策相場”に振り回されます。
-
-
利下げ=株高という単純図式から一歩離れること
-
FRBが利下げするのは、
景気の下振れリスクを本気で心配し始めたサインでもある -
金利が下がるから株が上がる、ではなく、
**「なぜ下げざるを得ないのか」**に目を向ける必要があります。
-
-
「一社依存の成長」は日本にも他人事ではないことを自覚すること
-
デンマークのGLP-1依存は、
日本でいえば「半導体」「観光」「EV部品」など
特定セクターへの集中とパラレルに見えます。 -
一つのスター企業・産業が伸びるのは良いことですが、
そこがコケたときのダメージは想像以上です。
-
AI、金利、バラマキ、GLP-1——
一見バラバラなニュースですが、共通しているのは、
「どこか一箇所に期待を乗せすぎた構造のもろさ」
です。
だからこそ、個人としては、
-
資産配分
-
キャリア選択
-
ビジネスの柱
どれを取っても、
「一つのストーリーだけに賭けすぎない」
という退屈な原則が、じわじわ効いてくるのだと思います。
気になった記事|トランプの「2,000ドル給付」にマーケットが冷静な理由
サブ記事として取り上げたいのは、
**「トランプ政権の経済対策を、ウォール街がほぼスルーしている」**という話です。
政権側が打ち出しているメニューは、なかなか派手です。
-
関税収入を原資にした2,000ドルの小切手
-
50年住宅ローンの導入
-
一部品目(牛肉・コーヒーなど)の関税引き下げ
どれも「生活費の高騰」を意識した政策ですが、
マーケットの反応は正直、かなり冷淡です。
RSM USのブルセラス氏の言葉を借りれば、
「投資家は、トランプ流の発言に対して
“フィルター”を持つようになった」
-
極端な発言
-
実際に政策化される可能性が高いもの
その違いを、2期目に入ってようやく
冷静に仕分けできるようになってきた、というわけです。
さらに、中身の評価も厳しいです。
-
給付金については
→ FRBの分析で、インフレ押し上げ効果があったことが示されている -
50年ローンは
→ 月々の支払いを軽くする代わりに、
人生トータルでは大幅なコスト増になる -
食料品価格に関しては
→ NECのハセット氏が、「関税だけが原因ではない」と明言
Empowerのノートン氏も、
「政府が市場の問題を解決しようとすると、
たいてい本質は供給側にあるのに、
政府はそこをいじるのが得意ではない。
そこは民間のほうがずっと上手い」
と、なかなか辛口です。
ここで面白いのは、
-
これはバイデン政権のときにも言われていた批判と
ほぼ同じだということです。 -
民主党政権:コロナ給付金+インフレ抑制法(IRA)
-
共和党政権:関税小切手+50年ローン
政治の色は正反対でも、
「とりあえずお金を配る」「期限を先送りする」
という構図はよく似ていて、
ウォール街はそこを見透かしている——
そんな皮肉な構図が透けて見えます。
小ネタ①|Novo Nordisk一社でGDPが+2.3%まで跳ねたデンマーク
STATコーナーで紹介されていた、デンマークの経済ネタが秀逸でした。
-
2025年Q3のGDP成長率:+2.3%(2021年以来の高水準)
-
ただし、製薬輸出(主にNovo NordiskのGLP-1薬)を除くと、
成長率は**+0.7%**にとどまる
つまり、
**「オゼンピック&ウゴービ経済」**が
デンマークをほぼ一人で支えている
ということです。
一方で、そのNovoの株価はというと、
-
Eli Lillyなどとの競争激化で、
**年初来▲50%**ほど売られている状況
「国のGDPをここまで押し上げている企業ですら、
株式市場では半値になってしまう」
このギャップは、
-
「マクロ指標」と「株価」は別物
-
マクロが絶好調でも、個別銘柄は普通にやられる
という、投資家にとっての永遠の教訓を
わかりやすく教えてくれます。
小ネタ②|ニューヨーク連銀総裁の一言で、利下げ確率73%へジャンプ
もう一つの小ネタは、
**ニューヨーク連銀総裁ジョン・ウィリアムズ氏の“ポロリ発言”**です。
-
「近い将来、政策金利を中立に近づけるための
さらなる調整余地がある」と発言 -
これを受けて、
→ 12月利下げ確率は**39%→73%**に急騰
→ 株も債券も「利下げラリー」モードに
ニューヨーク連銀総裁は、
FOMCの中枢3人組(議長、副議長、NY連銀総裁)の一角であり、
実際に市場でオペレーションを行う立場でもあります。
そんな人物が、
準備された講演でここまで言うということは、
「内部では、ほぼ利下げ方針が固まりつつあるのでは?」
という見方がかなり強まっています。
一方で、ダラス連銀のローガン総裁は
「インフレがもっと明確に落ちないと、
12月の追加利下げには賛成できない」と釘を刺しており、
FOMCは
-
利下げしたいハト派
-
物価にビビっているタカ派
のプロレス状態。
見ているこちらとしては、
どちらのコーナーに賭けるか悩ましいところです。
編集後記|あなたの人生は「ワンベット・マーケット」になっていないか
「The market is one stock now」というフレーズを読んで、
ふと嫌な汗が出ました。
「これ、マーケットの話というより、
僕らの人生そのものじゃないか?」
と。
-
「この一銘柄さえ持っていれば大丈夫」
-
「この会社にいれば安泰」
-
「このスキルだけ伸ばしておけば食っていける」
そうやって、
知らないうちに自分の人生を**“ワンベット・マーケット化”**
していないか——という問いが、
頭の片隅に引っかかります。
NVIDIAにせよ、Novo Nordiskにせよ、
世界トップクラスの企業が、
世界の市場やGDPをここまで動かしているのは、
冷静に考えればすごいことです。
でも同時に、
-
その企業に何かあった瞬間、
国や市場全体が一緒に揺れる -
期待がピークを打ってしまえば、
株価は平然と半値になっていく
そういう**「一極集中の怖さ」**も、
同時に見せてくれています。
個人のレベルに落としてみると、
最近のAIブームはまさにそれで、
-
「英語×AI」
-
「エンジニア×AI」
-
「投資×AI」
どれも、やれば確かにレバレッジは効きます。
でも、そこに**“全部乗せ”**すると、
ちょっとした逆風で、
自分の“評価額”が大きく上下することになります。
一方で、トランプ政権の2,000ドル案や50年ローンを
ウォール街が冷ややかに見ている姿は、
「苦しいときほど、“楽そうな提案”に飛びつきたくなる」
でも、そこに本質的な解決はあまりない
という人間の性(さが)を
そのまま映しているようにも見えます。
給付金は甘い。
超長期ローンも甘い。
AIも甘い。
GLP-1も甘い。
でも、その甘さに全部乗りすると、
どこかのタイミングでまとめてツケを払うことになる——
そんな気がしてなりません。
じゃあどうするのか。
結局のところ、
やれることはとても地味で、
-
資産を一つのストーリーに賭けすぎない
-
キャリアを一つの肩書きに固定しすぎない
-
ビジネスを一人の顧客・一つのプラットフォームに依存しすぎない
という、教科書みたいな話に戻ってきます。
相場は派手に動きます。
FRBも、トランプも、NVIDIAも、Novoも、
見ている分には最高にエンタメです。
でも、自分の生活・人生・事業だけは、
できればエンタメではなく長寿ドラマでいてほしい。
NVIDIAがS&P500の8%を占める世界で、
自分のポートフォリオだけは
「一銘柄80%」になっていないか。
今回も最後までありがとうございました。
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