深掘り記事:
給料+株式=「テック並みリターン」を狙う女子バスケ新リーグ
今回のメインテーマは、女子バスケ版「GAFAになるつもりか?」という野心的プロジェクト、仮称Project Bです。
“B”はおそらくbasketballのB。名前からしてシンプルですが、中身はかなり攻めています。
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国際女子プロバスケ新リーグ(5対5)
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創業者はテック出身
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Skype共同創業者 Geoff Prentice
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元Facebook幹部 Grady Burnett
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ヨーロッパ・アジア・アメリカ大陸で
2週間のトーナメントを7回開催 -
プレーヤーには「数百万ドルの年俸+リーグ持分(エクイティ)」
創業者たちは、このリーグが**「テック企業並みのリターン」を生みうる**と考えている、と記事は伝えています。
ここまでが事実。
ここからは、この記事をもとにした私の整理と見立てです(意見・解釈のパート)。
1. 給料の“桁”を変えにきた
Project Bがまず正面から殴りにいっているのが、既存トップリーグである WNBA の給与水準です。
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Project B:一部選手に200万ドル以上を提示
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WNBA:現在交渉中のサラリーキャップ上限は約110万ドルと報じられている
つまり、
「WNBAで上限ギリギリまでもらう額を、
Project Bなら“最低ライン”として倍出しますよ」
という勝負の仕方です。
すでに契約を結んだ選手も一流どころばかりです。
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元WNBA MVP Nneka Ogwumike
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Phoenix Mercury のフォワード Alyssa Thomas
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New York Liberty のパワーフォワード Jonquel Jones
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Las Vegas Aces のガード Jewell Lloyd
さらに、国際展開の象徴として
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ブラジルの Kamilla Cardoso
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フランスの Janelle Salaun
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中国の Li Meng
も「エクイティを含む契約(equity-laden deals)」で獲得したと報じられています。
「高年俸+株」
この組み合わせは、テックスタートアップの初期メンバーを口説くときの定番ですが、それを女子バスケに持ち込んでいるわけですね。
2. 「リーグの株主としての選手」という発想
Project Bの特徴は、選手を単なる“労働力”ではなく“オーナー側”にも乗せてしまう設計にあります。
本文は詳細な持分比率までは触れていませんが、
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「リーグエクイティ(持分)を含む契約」を提示
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それにより、トップ選手を引きつけている
と明記されています。
ここには、同じ記事内で紹介されている PLL(Premier Lacrosse League) との共通点があります。
PLLは、既存のメジャーリーグラクロス(MLL)の課題——
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選手給与が低い
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メディア露出が不安定
——を解消するために、2019年に兄弟の Paul & Mike Rabil が創設したリーグです。
そこでも、
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全選手にリーグ持分を付与(Player equity)
というモデルが採用されています。
つまり、
「新リーグ=給料のテーブルを上げるだけでなく、
そもそも“誰のビジネスか”を作り替える試み」
が、女子バスケとラクロスで同時進行している、という構図です。
3. ビジネスモデルの“実験場”としての新興リーグ
PLLの話は、スポーツビジネスの実験場としてかなり面白いです。
PLLの主な特徴(事実部分):
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投資家には Alibaba共同創業者 Joe Tsai などが参加
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ツアーモデル:
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週末ごとに1都市で全試合を開催(WWE的な巡業スタイル)
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将来的にはホーム&アウェイ制への移行も想定
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放送での実験:
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選手や審判にマイクをつける
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プレイ直後にサイドラインの「Breakdown Booth」で選手が自分のプレーを解説
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成果としては、
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放映権契約に満足したESPNが、リーグ持分の一部を取得するほど関係強化
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視聴者数・チケット収入も、創設当初より増加傾向
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旧リーグのMLLはすでになくなり、2020年にPLLが残存資産を吸収
といった流れが起きています。
一方で、
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多くの選手は、PLLの年俸だけでは生活できず
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フルタイムの仕事を持ったり、コーチ・キャンプ運営などで副収入を得ている
という現実も、そのまま書かれています。
この記事が伝えている事実だけを前提にすると、
ビジネスとしては成功に向けて前進中
という、いかにも“スタートアップ期の産業”らしい両面が見えてきます。
4. 長期目線で見たときの「Project B」と「PLL」
ここからは、両プロジェクトを並べて見たうえでの**私の解釈(意見)**です。
共通しているのは、どちらも
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既存リーグの“弱いところ”を正面から突いている
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WNBA:給与水準とオフシーズンの選択肢の少なさ
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MLL:低給与+露出不足
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選手を“株主”にすることで、ロイヤルティと話題性を両立
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「イノベーション」を前面に出して、投資家とメディアを巻き込みにいく
という構図です。
一方、リスクもはっきりしています。
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Project B は、50億ドルの資金調達を目指していると報じられていますが、その規模の資金を回収するには、相当な成長ストーリーが必要です。
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“テック並みのリターン”という言い方は魅力的ですが、スポーツは設備投資・人件費・興行リスクが重いビジネスであり、ソフトウェアほどスケーラブルではありません。
また、Project Bには早くも懸念材料が出ています。
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エンタメ企業 Sela(サウジアラビア王室系ソブリンファンドPIFの子会社)との提携
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これに対し、「サウジマネーとの関係」を懸念する声が一部で上がっている
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Burnett氏は
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「Selaは、われわれが“お金を払うイベントパートナーの一つにすぎない」
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「資金提供は受けておらず、ロンドン拠点でグローバルにイベント実績がある会社だ」
と説明している
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この部分は価値判断ではなく、あくまで「懸念が出ており、創業者がこう説明している」という事実として記事が伝えています。
5. 既存勢力は本当に負けるのか?
最後に、既存勢力の動きも押さえておきます。
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女子バスケ全体は、今まさに“拡大フェーズ” にあります。
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かつては、エリート選手の選択肢は
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夏にWNBA
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オフに欧州リーグ
の二択に近かった
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しかし現在は、
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Athletes Unlimited(2022年開始、ナッシュビルで冬に4週間の“プレーオフ強度”大会)
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Unrivaled(NBA選手 Napheesa Collier と Breanna Stewart が立ち上げた3対3のプロリーグ。今シーズン1〜3月に初シーズン開催)
など、複数の新リーグが乱立し、競争環境が一変しています。
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そして、古株の WNBA も簡単には負けません。
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2024年には、過去最大となる22億ドル規模のメディア権契約を締結したと記事は伝えています。
つまり、
「新リーグが面白そうだから、既存リーグは終わり」
というシナリオではなく、
「女子バスケというカテゴリー全体が膨張し、その主導権を
新興勢力と老舗が奪い合う時代に入った」
という見方が、記事に忠実だと思います。
まとめ
今回の記事から見えるのは、「スポーツリーグ=巨大なスタートアップ」に近づきつつある現実です。
まず、Project B という女子バスケ新リーグは、
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テック出身の創業者が
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数十億ドル規模の資金調達構想を掲げ
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トップ選手に年俸200万ドル+エクイティを提示し
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3大陸でツアー形式の大会を7回行う
という、完全に「ベンチャーの文法」で設計されています。
リーグ側は、**「テック並みの投資リターン」**をうたいますが、
女子バスケ市場はまだ発展途上で、新興リーグも複数乱立中。
勝ち残れるのは一部だけ、という現実も当然存在します。
同じく、ラクロスの世界で既に起きているのがPLLのケースです。
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選手全員にリーグ持分を付与し
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ツアー型の開催方式や、マイク付きの放送演出などフォーマット自体を実験
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ESPNとの関係を深め、旧リーグMLLを吸収するまでに存在感を高めた
一方で、選手の生活レベルはまだ道半ば。
多くは別のフルタイム仕事やコーチ業と組み合わせて生計を立てています。
ここで分かるのは、
「リーグが成長する」ことと
タイムラグがある
という、ごく当たり前だけれど重要なポイントです。
女子バスケの世界も同じ構図です。
リーグは増え、メディア権も膨らみ、
新興リーグは高いサラリーとエクイティを前面に出して選手を口説く。
しかし、どのリーグが10年後も残っているのか、
どこまで“フルタイム職”としてのプレーヤー人生を支えられるのかは、まだ見えません。
記事が強調しているのは、
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「女子バスケは今、爆発的成長の入口にいる」
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その中で、
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WNBA(老舗)
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Athletes Unlimited / Unrivaled(新興)
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Project B(超大型ベンチャー型)
が、それぞれ違うモデルで覇権を争っている、という構図です。
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私たちビジネスパーソン目線で言えば、
これは単なるスポーツニュースではなく、
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既存産業をフォーマットごと作り替えようとするスタートアップ
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それに対抗するレガシープレイヤーのアップデート(WNBAの大型メディア契約)
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給与に加えてエクイティで“人材争奪戦”をする構図
といった、きわめて現代的なビジネスの縮図として読むことができます。
結局のところ、Project BもPLLも問いかけているのは、
「スポーツリーグは、誰のものなのか?」
というシンプルな問いです。
オーナーだけのものなのか。
選手やファンも“持ち分”を持つべきなのか。
テックと金融の論理を持ち込んだとき、スポーツはどう変質するのか。
答えはまだ出ていませんが、
女子バスケとラクロスの現場は、すでにその実験台になり始めています。
気になった記事:
ホワイトハウスから一歩、距離を取る「ウィットマー」というカード
政治パートで取り上げられていたのが、ミシガン州知事 Gretchen Whitmer の動きです。
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中道路線&重要スイングステートの知事として、
2028年大統領選の有力候補 と見られてきた -
しかしここ数カ月、
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全国メディアへの露出
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デジタル発信への投資
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早期の選挙態勢づくり
をほとんどしていない
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記事によれば、
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Whitmer陣営は、いまだに地元ミシガン中心の小規模チームに近い体制
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本人も「任期(2027年1月まで)はミシガンに集中すべきだ」と周囲に語っている
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「次の章で自分が主役になる必要はないが、その章を書く手伝いはしたい」という趣旨の発言もしている
こうした言動から、
「本気で大統領を目指す気がないのでは?」と心配する支持者も出ている一方で、
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ミシガン州民主党の有力者は
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「彼女は自分をレースから降ろしてはいない。降りろと願う人たちの希望的観測だ」
とコメント
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ベテランストラテジストの Jennifer Palmieri 氏も
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「2025年時点での“推し候補”でなくても、2028年に勝つことはできる」
と指摘
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つまり現時点では、
「手堅く地元知事の仕事を優先しているが、
2028年のカードとしてはまだテーブルの上にある」
という状況のようです。
記事の範囲内で事実だけ見ると、
「走る気まんまんの候補」と「全くやる気がない候補」の中間——
**“いつでもギアを入れられるが、今はまだ足を乗せていない状態”**に近い印象を受けます。
小ネタ①:民主党スーパーPACの「広告戦争」
2つ目に紹介されていたのが、民主党系スーパーPAC同士の“内戦”です。
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現在の“覇権PAC”:Future Forward
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前回大統領選サイクルで、関連団体含め9億ドル以上を調達
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テレビ広告を中心に、綿密にテストされたメッセージを大量投下
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旧来の有力PAC:Priorities USA
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2012・2016・2020選挙では「民主党御用達PAC」的ポジション
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直近サイクルの調達額は 5600万ドル にとどまり、
2020年の2億5800万ドルから大きく減少
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一部の民主党関係者は、
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Future Forwardのリーダー陣は大統領選の現場経験が足りない
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2024年のハリス陣営への対応も、「自分たちの戦略にこだわりすぎた」と不満
と感じていると記事は伝えています。
一方で、Future Forward側は、
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「2012年以降のすべての大統領キャンペーン出身者が関わっている」
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「トップの広告代理店25社と連携してきた」
と反論しています。
Priorities USAは、
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もっとデジタル戦略を重視すべき
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有権者の情報接触の仕方が変わる中で、テレビ中心は古い
と訴えており、
**「テレビで広く」vs「ネットで深く」**という、ありがちな構図になっています。
小ネタ②:「スター・ウォーズ」オタク州知事、2028年への伏線?
ラストは一気にトーンがゆるくなります。
イリノイ州知事 JB Pritzker が、実はガチの「スター・ウォーズ」ファンだという話。
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トランプ政権からの圧力を受けつつ番組復帰したJimmy Kimmelに対し、
Disney+ドラマ「Andor」のセリフを引用してXに投稿-
“Tyranny requires constant effort. It breaks, it leaks. Authority is brittle. Oppression is the mask of fear. Remember that.”
(暴政には不断の努力が必要だ、それは壊れ、漏れ出す。権威とは脆いものであり、抑圧とは恐怖の仮面だ——という趣旨)
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記事では、Pritzkerに対してスター・ウォーズ映画11作品のランキングまで聞いています。
1位はもちろん『帝国の逆襲』、2位が‘77年のオリジナル「Star Wars」、以下『ジェダイの帰還』と続くという、ファンなら「うん、分かる」とうなずくラインナップです。
内容自体は完全に“お遊び企画”ですが、
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2028年大統領選の有力候補の一人として名前が挙がる人物が
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ポップカルチャーを通じてメッセージを発信している
という意味では、
「文化×政治×SNS」の象徴的なワンシーンとも言えます。
編集後記
スタートアップごっこを始めたスポーツ界と、映画ランキングを語る政治家
この記事を読み終わって最初に浮かんだ感想は、
「みんな、だいたいスタートアップになりたがっているな」
というものでした。
女子バスケの新リーグ Project B は、
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テック出身創業者
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巨額資金調達
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エクイティを武器にした人材獲得
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グローバル展開前提のフォーマット
と、どこからどう見ても“スポーツ版ユニコーン狙い”です。
ラクロスのPLLは、
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古いリーグを吸収し
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放送フォーマットを実験し
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選手とメディアと投資家の利害を、なんとか1つの器に押し込めようとしている
つまり、「プロスポーツ」というより、
かなりハードな「マルチステークホルダー型スタートアップ経営」に近づいています。
政治の世界を見ても、似た匂いがあります。
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2028年大統領選に向けた候補者候補たちは、
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メディア露出
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デジタル戦略
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スーパーPACとの付き合い方
のポートフォリオを組み立てている
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Whitmerのように、一歩引いて“プロダクト(州政)の品質重視”を選んでいるように見える人もいれば、
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スーパーPAC同士が「広告をA/Bテストする組織」vs「もっとリスク取ってバズろうぜ組織」に分裂しつつある
どこを見ても、
「テストして、伸びたチャネルにリソース集中」
という、マーケティング的な発想が透けて見えます。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
お金も時間も有限なので、効率は大事です。
ただ一方で、
スポーツの現場には、まだ「本業の選手だけでは食べられない」人たちがいて、
政治の現場には、「映画ランキングを語る前に、物価どうにかしてくれ」と言いたくなる有権者がいます。
Project Bが成功すれば、女子バスケ選手の待遇が一段引き上がるかもしれません。
でも、その成否を左右するのは、投資家のIR資料の出来だけでなく、
実際に会場に足を運んでくれるファンと、そこでプレーする選手たちです。
Whitmerが2028年に名乗りを上げるかどうかも、
いま彼女がミシガン州でどんな成果を積み上げるかにかかっています。
どれだけSNSでバズっても、肝心の“プロダクト”が微妙なら、結局は長続きしません。
スタートアップ的な思考は便利ですが、
それだけで世界が回るなら、こんなにみんな苦労していません。
スポーツも政治も、最後は
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誰がリスクを負い
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誰が汗をかき
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誰がちゃんと報われるのか
という、すごく古臭い問いに戻ります。
「テック並みのリターン」をうたう女子バスケ新リーグと、
「スター・ウォーズの推し作品」を語る知事と、
そのどちらにも広告を打ちたがるスーパーPAC。
にぎやかな“スタートアップごっこ”の合間に、
自分の足元のフィールド(仕事・投資・生活)が、
どんなルールで動いているのかをたまに点検しておく。
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