深掘り記事
「景気はいい」のに、雇用の足元がスカスカ
今回の英語記事が描いているのは、ざっくり言うと
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GDPはデータセンター投資とAIブームで元気
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なのに、そのわりに雇用がまったく伸びていない分野が多い
という、ちょっと気味の悪い光景です。
記事が示している数字はこうです。
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全体の雇用:
過去12か月(〜9月)で**+0.8%**と一応プラス -
ただし、その増加を引っ張っているのは
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ヘルスケア・ソーシャルアシスタンス
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レジャー・ホスピタリティ(観光・飲食・娯楽)
-
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この2セクターだけで、なんと2025年の純増雇用の「100%超」を占めている
→ それ以外のセクターは合計するとマイナス6,000人
つまり「雇用は増えています」と言うと聞こえはいいのですが、
中身を開けると、
需要の強いサービス業だけが必死に人を採っていて、
それ以外は全体としてじわっと縮小している
という構図になっています。
製造業・運輸・人材派遣…“景気敏感組”が弱い
景気の体温計になりやすい産業の数字も、かなり渋いです。
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製造業:
過去12か月で**▲0.7%**-
関税(tariffs)の逆風はあるものの、
それ以前から2年以上にわたり前年比マイナスが続いている
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一時雇用(temporary help):
過去12か月で**▲3%**-
3年連続で雇用減
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本来は“先行指標”として景気の変調を教えてくれるセクター
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運輸・倉庫(transportation and warehousing):
**+0.6%**と全体(0.8%)を下回る -
卸売(wholesale trade):
**+0.2%**とほぼ横ばい
記事の言い方を借りると、
「急拡大している経済のわりに、
通常なら雇用をガンガン増やすはずのセクターが、
まったく仕事をしていない」
状態です。
失業率という“表の数字”はまだ低いかもしれませんが、
雇用の中身だけを見ると、
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景気敏感な現場では
「採用は絞る」「派遣は減らす」「増員はギリギリまでしない」
という空気が続いていることが数字ににじんでいます。
「AIオートメーション前夜」としての“採用休憩”
記事は、これをただの景気循環として片付けていません。
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この“弱い雇用の土台”の上に、
企業がAIによる自動化に本格的に踏み出そうとしている -
まだ実際にAIが大量の仕事を奪っている段階とは言い切れないが、
「どうせAIで自動化できるなら、今ムリに採らなくていいか」
という心理が働いている可能性
実際、ブラックロックのグローバル債券CIOのRick Rieder氏は、
直近の雇用統計を踏まえたレポートの中で、
「今見えているのは、AIを見据えた“採用の一時停止”だ」
という趣旨のコメントを出しています。
さらに、マッキンゼー・グローバル・インスティテュートのレポートは、
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AIとロボティクスを合わせると、理論上米国の仕事の57%の労働時間を自動化し得る
と試算したうえで、
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「AIは“人間のスキルそのもの”を不要にするわけではないが、
その使われ方を変える」 -
具体的には、
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調査や資料作成などの“作業”にかける時間が減り
-
代わりに、問いを立てる・結果を解釈するといった仕事に
時間を割くようになる
-
と整理しています。
ここはレポートの“理論上の可能性”の話であり、
記事も「実際に57%が自動化される」と断定はしていません。
ただ、経営者の頭の中に
「数年単位で見れば、
今の仕事のかなりの部分はAIに置き換えられるかもしれない」
という“イメージ”が広がっていることは、
採用判断にじわっと効いていると見てよさそうです。
消費と物価期待:数字はそこそこ、気分はどんより
次に、9月のマクロ指標の話です。
記事は、
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消費(小売)
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生産者物価(PPI)
-
消費者マインド
の3点をコンパクトにまとめています。
1. 小売売上高(Retail Sales)
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9月:+0.2%
└ 8月の+0.6%から減速 -
ただし、
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ガソリンスタンドの売上が単月で+2%
(インフレ調整前なので、主因はガソリン価格) -
ガソリンを除くと、小売売上はフラット(0%)
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伸びたのは
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「その他小売」(catch-allカテゴリー)+2.9%
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家具店 +0.6%
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レストラン +0.7%
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一方、減ったのは
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ホビー関連 ▲2.5%
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EC ▲0.7%
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電子機器店 ▲0.5%
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2. 生産者物価(PPI)
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9月:+0.3%(前月は▲0.1%)
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上昇要因は
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エネルギー
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肉類
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自動車 などの財価格
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財全体の価格は約1ポイント上昇し、
これは2024年2月以来の大きさ
3. 消費者マインド
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Conference Boardの消費者信頼感指数は、
11月に約7ポイント低下-
トランプ大統領が大規模関税を導入した4月以来の低水準付近
-
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自由記述回答では
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物価・インフレ
-
関税・貿易
が不安材料として頻出
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2026年半ばの労働市場見通しは「明確にネガティブ」
家計収入が増えるとみる人の割合も、
直近6か月の高水準から一気に縮小
まとめると、
「数字だけ見ると、
売上も物価も“それなり”に動いている。
でも人々の気持ちは、かなり冷え込んできている」
という状態です。
投資家の視点:AI社債ブームの中で“良い借金”を見極めろ
最後のパートは、投資家向けの「テック債の選び方」です。
テーマは、
「AI関連の社債が大量発行されているが、
すべて同じリスクではない」
という話。
Janney Capital Managementの債券ストラテジスト、Guy LeBas氏は、
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現金リッチでバランスシートが極めて健全な
“プリスティン”なハイパースケーラー(Googleなど)の債券は-
そう簡単には消えない存在であり
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リスクは比較的控えめ
-
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「借金はすべて悪ではない」
とコメントしています。
記事が紹介している数字はこうです。
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Google(Alphabet)の設備投資/キャッシュフロー比:56%
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Meta:85%
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Oracle:132%
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CoreWeave:271%
この“差”が、債券市場での扱いにもはっきり出ています。
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Oracle債のデフォルトヘッジコスト(CDS)は、
9月比で3倍に上昇 -
一方、Google債のヘッジコストはほぼ変わらず
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格付けも
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Google:AA+(Moody’s)
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Oracle:BBB
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と、明確に差がついていることが示されています。
さらにLeBas氏は、
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テック企業の社債よりも、
プライベート・クレジット(非公開貸出)の方が
リスクに見合ったリターンを得やすい -
AI関連のエクスポージャーが懸念されがちなプライベート・クレジットも、
直接テックに紐づくのは10〜15%程度に過ぎない -
「最悪なのは“安く買っていないリスク”だ」
(リスクを取るなら、相応のリターンがなければダメ)
と強調しています。
記事の締めはシンプルで、
AIはテック企業を変えている。
そして今、債券市場も変えつつある。
問題は「持つか持たないか」ではなく、
「誰の債券を、どの利回りで持つか」だ。
というメッセージで終わっています。
まとめ
今回の記事を一言でまとめると、
「AIブームでGDPは元気に見えるが、
雇用と消費の“地盤”はかなり弱く、
その裏側でAIマネーは債券市場を作り替えつつある」
という話でした。
まず、雇用の中身を見てみると、
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過去12か月の雇用全体は**+0.8%**と一応プラスながら、
その増加分は-
ヘルスケア・ソーシャルアシスタンス
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レジャー・ホスピタリティ
の2セクターだけで100%超を占めています。
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それ以外のセクターを合計すると、
実は**▲6,000人**の純減。
景気敏感な“リアル”系の数字も軒並み弱く、
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製造業:▲0.7%(2年以上マイナスが継続)
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一時雇用:▲3%(3年連続マイナス)
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運輸・倉庫:+0.6%
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卸売:+0.2%
と、「失業率の見た目ほど、需要は強くない」状態です。
一方で、マッキンゼーの試算が示すように、
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AI+ロボティクスは理論上、米国の仕事時間の57%を自動化し得る
とされ、経営者の頭には
「いずれAIで代替できるかもしれない業務に、
今から人を増やすべきか?」
という迷いが生まれています。
ブラックロックのCIOが言う「AIを見越した採用の一時停止」という見立ては、
この空気をうまく言語化したものです。
マクロ指標も、表と裏で温度差がありました。
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小売売上は**+0.2%と一応プラスですが、
ガソリンを除くとフラット**。 -
ガソリンスタンドが**+2%**と伸びたのは、
主に価格要因とみられます。 -
生産者物価(PPI)は**+0.3%で、
財価格が約1ポイント上昇**(2024年2月以来の大きさ)。
そして何より効いているのが「気分」です。
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Conference Boardの消費者信頼感は、
11月に約7ポイント低下し、
トランプ政権が大規模関税を導入した4月の水準に逆戻り。 -
物価・インフレ・関税・貿易が不安要因として頻出し、
2026年半ばの雇用見通しや収入増への期待も一気にしぼんでいます。
一方、AI関連の社債市場では、
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ハイパースケーラーが巨額の投資適格債を発行し、
クレジットスプレッド(社債の上乗せ利回り)を押し広げています。 -
しかし、同じ「AI債」でも、
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GoogleのようなAA+格付けかつ設備投資比率56%の企業と
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Oracleのように設備投資がキャッシュフローの132%・BBB格付けの企業では
リスクプロファイルがまったく違う
-
-
その差はデフォルトヘッジコスト(CDS)にも現れ、
Oracleは1か月で3倍に跳ね上がる一方、
Googleはほぼ横ばい。
記事のメッセージはシンプルです。
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マクロの雇用・消費の足元は、
見出しの数字よりもずっと弱い。 -
そのうえで、AIは
-
企業の採用行動
-
社債市場の構造
の両方を静かに書き換え始めている。
-
投資家にとっては、
「AIだから全部買う」でもなく、
「AIはバブルだから全部避ける」でもなく、
**“どのバランスシートの、どの利回りを選ぶか”**が
本当の勝負どころになっている。
そんな“AI前夜”の景色を教えてくれる記事だと言えそうです。
気になった記事
「良いテック債」と「危ないテック債」はどこで分かれる?
サブ記事として紹介されている
**「How investors can find the good kind of tech debt」**は、
AI時代の債券投資の「目利きポイント」を端的にまとめています。
この記事が伝えている事実を整理すると:
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AI関連の債券発行はバブルを連想させるほど活発になっている
-
その結果、投資家は
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社債スプレッドの拡大(リスクプレミアムの要求)
に動き始めた
-
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背景として
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夏までは「優良な米ドル建て債券を買いたい投資家」に対して
発行体が少なく、スプレッドが異常にタイトだった -
そこへテックの大量発行が加わり、
純供給が最大20%増える可能性が出てきた
-
ここは、需給バランスの変化という“地味だけど重要な話”です。
そして、Google/Meta/Oracle/CoreWeaveの設備投資比率を並べて見せることで、
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同じ「AIインフラ投資」でも、
キャッシュフローとのバランスが企業ごとにまったく違う -
その違いが格付けやCDSに
そのまま反映されている
ことを、具体的な数字で示しています。
記事の中でLeBas氏が強調しているポイントは二つ。
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「借金=悪」と決めつけるな
→ 重要なのは-
誰が借りているのか(バランスシートの質)
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どの金利で貸しているのか(リターン)
-
-
リスクに対してきちんと“払われているか”を見ろ
→ プライベート・クレジットは-
テックへの直結エクスポージャーは10〜15%
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その割にリターンが高く、
「取るリスクの割に報われやすい」
-
AIバブルかどうかという“おおざっぱな議論”ではなく、
「AIというテーマの中で、
どの企業構造が長く生き残るのか」
「どの債券が“ちゃんと報酬のあるリスク”なのか」
を見ていくべきだ、というのがこの記事のメッセージです。
小ネタ2本
小ネタ①:「雇用増の100%超を“2業種だけ”で稼ぐ経済」
記事の中で一番インパクトのある数字がこれです。
ヘルスケア&ソーシャルアシスタンスと
レジャー&ホスピタリティの2つで、
2025年の純増雇用の100%超を占めている
「100%超ってどういうこと?」と一瞬バグりますが、
全体が+なのに、その他がトータルで▲6,000人なので、
数学的にはちゃんと合っています。
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病院・介護・福祉
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ホテル・飲食・観光・娯楽
このあたりだけがひたすら人を採り、
それ以外のセクターは増えたり減ったりしながら、
合計するとちょいマイナス。
「景気は良いらしいが、
働き口は“人手不足の現場”に集中している」
という状況は、日本でもなんとなく既視感がありますよね。
小ネタ②:ガソリンだけ元気、ECはちょいお疲れ
9月の小売売上の内訳も、地味に味わい深いです。
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全体:+0.2%
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うちガソリンスタンド:+2%(主因は価格)
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ガソリンを除くと:0%(フラット)
さらにカテゴリ別では、
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「その他小売」:+2.9%
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家具:+0.6%
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レストラン:+0.7%
といったあたりがプラスだった一方で、
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ホビー:▲2.5%
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EC:▲0.7%
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電子機器:▲0.5%
がマイナス。
「ガソリン代は増えたけど、
ネットでポチる趣味のものはちょっと節約」
という、家計の本音がにじんでいます。
日本の感覚で言うと、
「ガソリンも上がるし、
サブスクもそろそろ整理するか…」
と、家計簿アプリとにらめっこしている感じに近いかもしれません。
編集後記
「AIが仕事を奪うかどうか」という議論は、
日本でもすっかりおなじみになりましたが、
今回の記事を読むと、
「いや、その前に“雇うのをやめる”段階が来るのか」
という、もう一段いやらしいステージに来ている感じがします。
AIが実際に57%の仕事時間を自動化するかどうかはさておき、
経営側が**「そのうち自動化できるはず」と信じている**だけで、
新卒採用も中途採用も、じわじわブレーキを踏まれていく。
その結果、統計上は
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失業率はまだ低い
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GDPもAI投資で元気
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株式市場もAI関連は好調
だけれど、
求人票の世界では
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「即戦力のみ」
-
「3年以上の経験必須」
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「AIツール活用が前提」
みたいな条件だけが並ぶ。
これでは、これから労働市場に入る若者ほど、
入口でつまずきやすくなります。
しかも、その一方で資本市場では
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「AIのためなら、数十億ドルの社債もどんどん出します」
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「AIデータセンター建てるので、デフォルト保険のスプレッド広がってもOKです」
と、“未来のキャッシュフロー”には大きく賭ける。
その未来のキャッシュフローを実際に回していくはずの
人間のキャリア設計には、あまりお金も時間も割かれない。
なんというか、
「人間はサブプロセス」みたいな扱いに見えてしまいます。
もちろん、これはアメリカの話であって、
日本の現場はまた違う事情があります。
とはいえ、
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若者の実質所得が伸びない
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住宅価格は上がる
-
大企業は内部留保と設備投資にお金を回す
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消費者マインドはじわじわ下がる
という図は、日本のほうがよっぽど
「先輩」である可能性すらあります。
投資家としてニュースを読むとき、
つい「AI社債が何%利回りか」「どの銘柄がアウトパフォームか」
といった数字に目が行きがちです。
でも、今回の記事を読んでいると、
「その利回りの向こう側で、
誰の“労働のオプション”が削られているのか?」
を一度立ち止まって考えたくなります。
悲観したいわけではありません。
むしろ、こういう構造を冷静に理解したうえで、
-
どこでリスクを取り
-
どこで自分のキャリアやビジネスを“AI側”に寄せ
-
どこであえて“人間だからこそ”の価値を積むのか
を設計できる人だけが、
この「採用休憩」と「AI投資バブル」の両方を
うまく利用できるのだろうな、と思います。
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