深掘り記事
AIマネーは社債市場へ、若者は実家へ
今回の記事はざっくり言うと、
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上:AIバブルで社債市場が沸騰
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下:その裏で、若者の暮らしがじわじわ苦しくなっている
という“二階建て構造”を描いています。
まずは上の階=金融市場の話から整理します。
AIデータセンターと「IOU(ツケ)」だらけの社債市場
記事が伝えている事実はこうです。
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いま米国の社債市場では、
データセンターやAIモデルのための資金調達が主役 -
その結果、
AI関連の社債利回りが、安全資産に対して割高な水準に上昇
└ トランプ大統領が4月に大規模な関税を導入して以来の水準 -
2025年の米ハイグレード債市場では、
AI関連企業が銀行を抜いて最大の発行主体に(全体の14%)
さらに、いわゆる「AIハイパースケーラー」と呼ばれる
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Amazon
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Meta
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Alphabet
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Oracle
といった巨大テック企業は、
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2025年9月以降だけで900億ドルの投資適格社債を発行
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これは直前の40か月間に発行した合計額を上回る
というスピードで借金(=社債)を積み上げています。
一部では不安も出ています。
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Oracleの社債については、
デフォルト保険(CDS)の価格が1か月で3倍になった -
とはいえ、AI資金調達の中心は
Oracleより格付けの高い「現金潤沢なビッグテック」が多く、
信用力は相対的に強い
というのが、この記事が提示している“事実ベース”の状況です。
イメージとしては、
「AIのために、テック企業が社債市場で
『ツケで払うから今お金貸して』と言いまくっている」
そんな構図です。
モルガン・スタンレーのアナリストは、
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もしこのAI借入ブームが2025年以降も続けば、
社債市場全体に影響が出る可能性がある
と警戒しています。
(ここまでが記事が伝えている範囲の事実です)
「この感謝祭、若者たちは全然大丈夫じゃない」
そして“1 big thing”として紹介されているのが、
若年層の厳しい労働・生活環境です。
記事が引用するオックスフォード・エコノミクスのレポートでは、
It’s a hard time to be a young adult.
という、ため息まじりの一文から始まります。
事実として挙がっているポイントを整理すると:
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若者の失業率は上昇中
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20〜24歳:2023年初頭から**+2.1ポイント**
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16〜19歳:+3.5ポイント
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一方で、25歳以上の失業率はほとんど動いていない
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給与面でも、
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16〜24歳の賃金上昇率は
全世代で最も早いペースで鈍化 -
通常なら「キャリア初期は転職でどんどん上がる」はずの
賃金の上方モビリティが止まっている
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労働市場の姿は、
「ノーハイヤー&ノーファイア」(採らないし、辞めさせもしない)
└ 既存社員は守られるが、新しく入る若者には門が狭い
レポートを書いたエコノミスト、Grace Zwemmer氏は、
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若年層にとって失業率の上昇と賃金伸びの鈍化は「長期的な傷跡」を残しうる
とコメントしています。
Gen Zは「低資産×高資産価格」からのスタート
資産サイドも厳しいです。
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Gen Zは、他世代と比べて若くして持っている資産が少ない
-
その一方で、住宅などの資産価格は高止まり
という“ダブルパンチ”の状態からキャリアをスタートしています。
記事は、ミレニアル世代との比較にも触れています。
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ミレニアル世代も、
不況期に労働市場へ参入した世代だった -
それでも時間がたつにつれて、
同年代のGen Xや団塊世代を資産形成の面で追い抜いた
つまり、Gen Zにも
「賃金が再び伸び、住宅のアフォーダビリティ(買いやすさ)が戻れば、
同じように巻き返す可能性はある」
という含みを残しています。
ここはあくまで**“可能性として”の記事が紹介している見方**であり、
現時点での確定的な予測ではありません。
解雇されるのも若者、カードを滞納するのも若者
もうひとつのポイントは、
「悪いニュースが若者に集中している」という構図です。
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22〜28歳のレイオフ(解雇)は増加傾向
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レポート自体はAIを直接の原因とはしていませんが、
記事中で紹介されているストラテジストの見方として、-
若い人の方がAIに代替されやすい
(経験が浅く、“伸びしろ前提”で雇われている層ほど置き換えられやすい)
-
というコメントが添えられています。
負債(デット)の構図も興味深いです。
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Gen Zは、
同じ年齢のときの上の世代に比べて
学生ローンを含めた総債務は少ない -
しかし、クレジットカードの延滞率は、
若年層で最も速く悪化している
というのが記事の示している事実です。
“借金の絶対額”は少ないけれど、
キャッシュフローの余裕がないから返済が詰まりやすい
——そんな姿が透けて見えます。
実家暮らし100万人増が、消費を1,200億ドル削る
このトレンドは、個人の問題で終わりません。
マクロにもじわじわ効いてきます。
オックスフォード・エコノミクスの試算によると:
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パンデミック前のトレンドと比べて、
追加で約100万人の若年層が「実家暮らし」をしている -
実家暮らしをしている若者は、
一人暮らしをしている同世代に比べて
年間1万2,000ドル以上支出が少ない -
ただし、その浮いたお金を
贅沢品などの裁量的支出にまわしているわけでもない
その結果として、
-
全米の個人消費は120億〜130億ドル(約0.1%)押し下げられている
という計算が紹介されています。
この数字自体はマクロで見ると「0.1%」ですが、
記事のトーンとしては、
「若者の生活防衛が、そのまま消費の弱さとして
経済全体にも跳ね返ってきている」
という問題意識が込められています。
まとめると:AI借金バブルと、家に押し戻される若者たち
ここまでの事実を一度整理すると:
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AIブームを背景に、
ビッグテックが社債市場で前代未聞のペースで借入中 -
その一方で、
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若年層の失業率だけが大きく悪化
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若年層の賃金上昇は鈍化
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キャリア初期の“飛躍のチャンス”が減っている
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カード延滞は若者で最も悪化
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実家暮らしは100万人増、消費は年間120〜130億ドル減
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という構図です。
ここから先は私の意見ですが、
この記事から見える世界は、
「AIインフラへは資本がジャブジャブ流れ込む一方で、
それを使うはずの若い労働力の“土台”はかなり揺らいでいる」
という、ちょっと不安なバランスです。
まとめ
今回の記事は、
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上のレイヤー:AIブームを背景にした社債市場の変化
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下のレイヤー:その足元で苦しくなっている若年層の生活と労働
という、二つの世界を同時に映し出していました。
まず金融市場の側では、
AIデータセンターや巨大モデルの訓練のために、
ビッグテックが前代未聞のペースで社債を発行しています。
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2025年の米ハイグレード債市場で、
AI関連企業は銀行を抜いて最大の発行主体(14%) -
Amazon/Meta/Alphabet/Oracleなどの
「AIハイパースケーラー」は、
9月以降だけで900億ドルの投資適格債を発行
└ 直前の40か月分を一気に上回る規模 -
Oracle債のデフォルト保険が1か月で3倍になるなど、
一部では信用リスクへの警戒も見え始めている
ただし、これらの社債の多くは、
現金リッチで高格付けの巨大テック企業による発行であり、
「ジャンク債祭り」という状況ではない点も記事は押さえています。
それでもモルガン・スタンレーは、
このAI借入ラッシュが2025年以降も続けば、
社債市場全体に構造的な影響が出る可能性
に注意を促しています。
一方、実体経済の足元では、
若者の生活とキャリアがかなり厳しい状況です。
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20〜24歳の失業率は**+2.1ポイント**、16〜19歳は**+3.5ポイント**
└ 25歳以上はほぼ横ばい -
16〜24歳の賃金上昇率は、
全世代の中で最も速いペースで鈍化 -
キャリア初期に本来期待される
「転職を通じた賃金のステップアップ」が止まりつつある
資産側を見ると、
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Gen Zはもともと保有資産が少ない状態からスタート
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そのうえで住宅など資産価格が高止まりしており、
ミレニアル世代が経験したような「後からの巻き返し」が
起こるには時間がかかりそう——という見立てです。
負債の中身も世代で様相が異なります。
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Gen Zは、上の世代が同じ年齢だった頃と比べて
学生ローンを含めた総債務は少ない -
しかし、クレジットカード延滞率の悪化スピードは若年層が最速
と、現金フローの脆弱さが見えます。
そして、オックスフォード・エコノミクスの試算によれば、
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パンデミック前のトレンドと比べて
追加で100万人の若者が実家暮らしをしており -
その結果、一人暮らし組と比べて
一人あたり年間1万2,000ドル以上支出が少ない -
しかし、その節約分が
贅沢消費に回っているわけではなく、
全体として年間120〜130億ドル(消費全体の0.1%)の押し下げ
となっている、ということでした。
AIインフラには資本が流れ込み、
半導体やデータセンターの株価は持ち上がる。
その一方で、将来そのAIを使って働くはずの世代は、
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仕事の入口は狭まり
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賃金の伸びも鈍く
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実家に押し戻され
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しかも消費余力を失っている
——そんな二重構造が、今回の記事から見えてきます。
日本の読者にとってのポイントをあえて一言でまとめるなら、
「AI関連の成長ストーリーを追いかけるときこそ、
その裏側で“誰がツケを払わされているのか”をセットで見る」
という視点だと思います。
気になった記事
「ブロードコム vs メタ」——AIインフラを握る者、評価を握る
サブトピックとしてさらっと出てきたのが、
ブロードコムの時価総額がメタを上回ったというニュースです。
記事が伝えている事実は:
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ブロードコムの時価総額がメタを追い抜き、
約2,000億ドル上回る水準になった -
この記事の「Why it matters」は明快で、
AIインフラ(ハードウェア)に深く関わる企業を
市場が高く評価しているというポイントを強調しています。
ここでも、「事実」と「解釈」を分けると、
事実:
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ブロードコムの株価推移は、
2025年初から11月24日まででメタを大きくアウトパフォーム -
現時点の時価総額で、メタとの差は2,000億ドル超
意見(私の解釈):
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広告モデルとSNSに依存するビジネスだけでなく、
AIの土台となるハードウェアやネットワークを押さえた企業に
より厚いプレミアムが乗り始めている -
「ユーザー時間」を奪い合うソーシャル銘柄よりも、
「AIの電気・道路・配管」を握るインフラ銘柄の方が、
市場から見て長期の見通しを立てやすい
という評価の変化がにじんでいます。
生成AIや大規模モデルのニュースはどうしても
ソフトウェア側(アプリ、UI、モデル名)に目が行きがちですが、
株価の方はかなり露骨にインフラ側に軍配を上げつつある、
という視点は、ポートフォリオを考えるうえでも要チェックだと思います。
小ネタ2本
小ネタ①:映画でタバコが“復活”しているという不穏な統計
最後のSTATコーナーもなかなか衝撃的でした。
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公衆衛生団体Truth Initiativeと、
シカゴ大学の研究機関NORCの調査によると、-
昨年公開された映画の約半分にタバコやニコチン製品が登場
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その前年は10%だったので、一気に5倍
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喫煙率自体は米国で過去80年で最低水準なのに、
スクリーンの中では逆に“オシャレ小道具”として復活している、
という逆転現象です。
面白いのは、タバコ会社側も
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AltriaやReynoldsが、
自社製品を映画から外すように警告書(cease-and-desist)を送っている
と記事に書かれている点です。
それでも現場では吸わせたい、クリエイターの美学なのか、
スポンサー的にはやめてほしいのか、
大人たちの事情が入り乱れています。
一方でCDC(米疾病対策センター)は2019年時点で、
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喫煙シーンを多く見る若者は、
そうでない若者に比べて喫煙を始める可能性が高い
と報告しており、
連邦政府も
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喫煙は米国のがん死亡の3分の1に関連
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その他30以上の健康問題と紐づく
としています。
要するに、
数字だけ見ると「タバコは終わった産業」に見えるけれど、
文化の中ではまだまだしぶとい、という話ですね。
小ネタ②:AI社債は「自販機前での“貸して貸して”」問題
記事の最初の一文が秀逸でした。
Tech giants are issuing IOUs as frantically as that classmate who was always asking everyone to spot him a dollar for vending machine snacks.
ざっくり訳すと、
「ビッグテックは、
自販機でスナックを買うたびに
『1ドル貸して!』と連呼していた同級生くらい、
頻繁にツケ(IOU)を書きまくっている」
という比喩です。
現実には、ビッグテックは“友だちにお金を借りている”どころか、
世界最大級の機関投資家から極めて低い金利で資金を集めていて、
貸している側も「むしろ貸したい」くらいなのですが、
比喩としては妙にしっくりきます。
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データセンター:最新鋭
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借金の発行ペース:昭和の“ツケ”並み
という、なかなかパンチの効いた構図でした。
編集後記
AI向けの社債と、実家に押し戻される若者たち。
正直、読み終わったときの感想は、
「お金の流れだけ見ていると、
人間のほうが“おまけ”に見えてくるな」
というものでした。
社債市場では、
トリリオン級のビッグテックが
数十億ドル単位で借入条件を決めていきます。
発行体は高格付けで、現金も山ほど持っていて、
しかもAIという“夢のあるテーマ”がついてくる。
一方、同じ世界の別フロアでは、
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就活で門前払いされ
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やっと入った会社で昇給のチャンスは少なく
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家賃が高すぎて一人暮らしは断念し
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それでもカードの請求だけは毎月きっちりやってくる
そんな若者が、静かに実家の自室に戻っていきます。
そしてマクロ統計には、
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「若者の失業率+3ポイント」
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「若者100万人の実家回帰」
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「個人消費▲0.1%」
といった、それっぽい数字だけが残る。
AIデータセンターの建設計画や
半導体の投資計画の資料を眺めていると、
なんとなく「人類の未来は明るい」感がありますが、
その下で進んでいる家計とキャリアの“現場感”は、
かなり違う景色なのだろうなと感じます。
もちろん、
これはアメリカの話であって、
日本の若者がまったく同じとは限りません。
ただ、「AI」「半導体」「データセンター」の三点セットが
魔法の言葉になっているのは、日本でも同じです。
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投資家としては、その恩恵を取りにいくべき
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でも同時に、「誰の犠牲の上に成り立っている成長なのか」は
ちらっと横目で見ておいたほうがいい
今回の記事は、そんな“視線のスイッチ”を
そっと促してくれているように感じました。
個人的には、「若者が実家に戻る」こと自体は
必ずしも悪いことだとは思っていません。
日本でも、実家から通える範囲で働く生き方や、
複数世代が一緒に暮らすライフスタイルは
もっと再評価されてもいいはずです。
問題は、それが選択ではなく、
**「他に選択肢がない結果」**になってしまっているところです。
本当は一人暮らししたいけど出来ない、
本当は転職して挑戦したいけど怖くて動けない、
本当は子どもが欲しいけど経済的に踏み切れない——。
そうやって個人が“未来へのオプション”を削っていくと、
最終的にはマクロの数字にも現れてきます。
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