AIとコンテンツの「権利バトルロイヤル」

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アリ・エマニュエル vs OpenAI――AI時代の「ただ乗り」はどこまで許されるのか

今日のメインテーマは、UFCとWWEを抱える上場企業TKOと、生成AIの旗手OpenAIの静かで激しいバトルです。表向きは「建設的な対話」。しかし、その前にはかなり物騒な一手が打たれていました。

TKOのCEOであり会長でもあるアリ・エマニュエルは、OpenAIに対して**「コンテンツを勝手に使うな」という内容の停止通告書(cease and desist letter)**を送付していました。理由はシンプルです。UFCやWWEといったコンテンツが、OpenAIのプロダクトの学習や出力に使われているのに、対価が支払われていないのではないか、という疑念です。

本人はポッドキャストの中でかなりストレートに語っています。

「俺は訴えたかったんだ。だって、あいつは山ほどのコンテンツを盗んでいるからね」

さらに、ラリー・デヴィッドの例まで持ち出します。
「『となりのサインフェルド』や『ラリーのミッドライフ★クライシス(Curb Your Enthusiasm)』を作ったラリー・デヴィッドの作品を勝手に学習に使って、AIモデルで大儲けするのに、本人にお金を払わないなんて、正気か?」

ここで押さえておきたいポイントは2つです。

  1. 「AI企業は最終的にコンテンツホルダーに支払わざるを得なくなる」という強い確信

  2. それでも、現時点では**「まずはテーブルにつかせるために、強めの“脅し”としてのレターを送った」**という現実的な交渉術

AI企業の側から見れば、「学習データは公正利用(fair use)だ」「インターネット上に出ている情報をスクレイピングしているだけ」と言いたくなるところでしょう。しかし、アリ・エマニュエルのロジックは非常にわかりやすいビジネス感覚です。

「誰かの作った人気コンテンツを土台に、自分のAIプロダクトで“ゼロが並ぶレベル”の売上を出すなら、そのクリエイターにも取り分がいるだろう?」

「オプトアウト方式」はどこまで通用するのか

記事が指摘しているのは、OpenAI側のスタンスが最初から柔らかかったわけではない、という点です。

Sora 2という生成AI動画ツールのアップデートを出した際、当初は**「権利者が明示的にオプトアウトしない限り、著作物も学習・利用の対象になる」**設計でした。結果どうなったか。

ハリウッドの人気キャラクターやマスコットが大量に生成され、それを見た権利ホルダーやタレント側が猛反発。そこで慌てて方針転換、という流れです。

アリ・エマニュエルが率いるWME(ハリウッド大手タレントエージェンシー)は最初、**「うちのクライアントは全員オプトアウトだ」**とOpenAIに通知しています。その後、話し合いが進み、より「建設的な」協議フェーズに入っていることも記事は伝えています。

つまり現状は、

  • 当初:黙ってたら勝手に使うよ方式

  • 反発&訴訟リスク:ハリウッド&タレント側が強く反発

  • 現在:「ちゃんと話し合ってビジネスにしましょう」モードへシフト

という、かなり人間くさい紆余曲折をたどっているわけです。

生成AIと著作権ビジネスの「プロレス構造」

ここからは私の見方です。

この構図、まさに**「プロレス」**です。表ではケンカ腰、裏では「どうやってビジネスにする?」と冷静な計算が動いている。

  • 権利ホルダー側:

    • 怒る

    • 強い言葉で牽制する(レターや訴訟準備)

    • そのうえで、「うまくライセンススキームを作れば長期の収益源になる」と理解している

  • AI企業側:

    • なるべく利用範囲を広く取りたい

    • しかし大手コンテンツホルダーとは敵対したくない

    • 結果、**「大口とは個別契約+その他はグレーなまま進行」**という折衷案に流れやすい

記事でも触れられているように、OpenAIは商標でも問題を抱えています。Sora 2の中で「Cameo」という名称を使おうとして、実在のサービス「Cameo」から訴えられ、裁判所に一時的に使用差し止めを食らっている件です。
ここでも「誰かが築いたブランドにただ乗りしてないか?」という論点です。

一言でいえば、生成AIは「データ」と「ブランド」の両方を、これまで以上に強烈に掘削するビジネスです。となれば、データの持ち主・ブランドの持ち主は、「その掘削に対してどれくらいのチャージをかけるか」というゲームに本気にならざるを得ません。

日本ビジネスパーソンへの示唆:自社コンテンツは「AI時代の鉱山」

日本の企業・個人にとっても、この動きは完全に他人事ではありません。

  • 出版社:書籍・マンガの学習利用にどう向き合うか

  • 放送局・配信プラットフォーム:番組アーカイブやスポーツ映像の扱い

  • クリエイター・インフルエンサー:自分のコンテンツがAIモデルに組み込まれていくことへのスタンス

特にポイントになるのは、**「誰と、どの単位で交渉するか」**です。

  • 巨大プラットフォーム(例:世界的なAI企業)と一括でライセンスするのか

  • 日本国内の二次利用仲介ビジネス(著作権管理団体や新しい権利集約会社)を通すのか

  • あるいは「使うならこの条件で」というAPI的な料金表を自社で整備するのか

記事が描いているのは、「訴訟も辞さず」と言いつつ、最終的には「AI企業と組んで稼ぐ」方向に持っていこうとするエマニュエルのしたたかさです。

AI企業にとっても、著作権・肖像権をガチガチにロックされるのは避けたい。しかし、メジャーコンテンツの“公認”は欲しい。結果として、

「大物とはガッツリ契約、その他はなんとなくグレーゾーン」

という、金融でいえば**「大口機関投資家とリテール投資家の扱いの差」**のような構造が立ち上がりつつあります。

日本の企業・クリエイターも、「自分たちはどちら側で立ち回るのか」を早めに決めておいたほうが良さそうです。


まとめ

この記事が伝えている事実を整理すると、ポイントは以下の通りです。

  • TKO(UFC・WWEの親会社)は、OpenAIに対しコンテンツ利用の停止通告書を送付した

  • CEOアリ・エマニュエルは、「Larry Davidの作品を勝手にAI学習に使って儲けるなら、本人に対価が必要」と明言

  • OpenAIは、動画生成ツールSora 2で当初「権利者がオプトアウトしない限り利用可能」という設計をとっていたが、キャラクター乱用で反発を受け修正

  • エマニュエルのWMEは当初「全クライアントをオプトアウト」としたのち、OpenAIとより建設的な対話フェーズに入っている

  • OpenAIは別件で「Cameo」という名称の利用を巡り商標訴訟も抱えており、裁判所が一時的に使用を差し止めている

  • 生成AI企業全般に対し、ハリウッドやタレントコミュニティからの訴訟・法的圧力が強まっている

事実レベルではここまでです。
ここからは、これらの事実から見えてくる構造を整理します。

1つ目は、「AI企業 vs コンテンツホルダー」は、単なる対立ではなく“価格交渉”であるという点です。

  • AI企業側:

    • より多くのデータでモデル性能を高めたい

    • できれば無料、難しければ安く仕入れたい

  • コンテンツホルダー側:

    • 自社IPがAIの中で“素材化”されることへの危機感

    • ただし、ライセンス収入や新ビジネスへの期待も同時に持っている

アリ・エマニュエルのやり方は、まさに「殴り合いながら着地点を探る」タイプです。停止通告書は、法的には「これ以上やったら訴えるよ」という最後通告に近い意味を持ちます。しかし現実には、**「交渉を本気にさせるためのパンチ」**という側面も大きい。

2つ目は、オプトアウト方式の限界です。

  • 何もしなければ勝手に学習対象にされる

  • 権利者側が自衛のために個別にオプトアウトを申し出る

この設計は、インターネット黎明期の「クローラーOKがデフォルト」の世界観を引きずっていますが、今は**「モデルの中に取り込まれる」という不可逆性が加わっています。単なる検索インデックスではなく、「作品の要素が分解され、統計パターンとして再利用される」**世界です。

そのため、

  • クリエイター:

    • 「自分の作品の“作風”までコピーされるのでは?」という不安

  • 企業:

    • 「ブランドやキャラクターのイメージを制御できなくなるのでは?」というリスク

が、単なるリンク表示の問題とは違う重さでのしかかってきます。

3つ目は、ビジネスモデルとしての“AIライセンス”がまだ確立していないことです。

記事から読み取れるのは、現時点では

  • 「全部禁止」でもない

  • 「完全にフリー」でもない

  • 「大物とは個別交渉、その他はグレー」

という非常に不安定な均衡だということです。

日本のビジネスパーソンにとって重要なのは、ここで傍観者にならないことです。

  • 自社コンテンツを守りたいだけなら、オプトアウトと警戒だけでもよい

  • しかし、自社IPを「AI時代の新しい流通チャネル」として活かしたいなら、逆に**「どういう条件なら学習・利用OKか」**をこちらから設計する必要がある

生成AIを**「敵」か「味方」かで見るのではなく、「ちゃんと値付けした取引相手」にできるか**。アリ・エマニュエルの動きは、そのための極めて実務的なサンプルケースと言えるでしょう。


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トランプ vs メディア――「訴えて黙らせる」はどこまで通用するのか

サブ記事として取り上げたいのは、トランプ大統領によるメディアへの訴訟と、その敗北です。

記事が事実として伝えているのは:

  • トランプ関連企業(Truth Socialの親会社であるTrump Media & Technology Group)が英ガーディアンなどを相手に起こした名誉毀損訴訟が、フロリダの裁判所で却下された

  • 裁判所は、米国の名誉毀損訴訟で必須となる**「actual malice(実際の悪意)」**を立証できていないと判断

  • トランプ陣営はこれまでもメディア関連の訴訟で相次いで敗訴しており、CNNやニューヨーク・タイムズ相手のケースも棄却されている

  • TMTGがAxiosなど複数メディアを相手取った別の訴訟も、手続き上の問題などで取り下げ・再提訴の動きがある

事実として重要なのは、「大統領であっても、メディアの報道を次々に潰すことはできていない」という点です。

アメリカの名誉毀損法では、公人に対する報道に対して原告が勝つためには、

  • 事実ではないことを

  • 「真実ではないと知りながら」あるいは「真実かどうかを著しく軽視して」報じた

という、非常に高いハードルを超えなければなりません。記事もこの「actual malice」というキーワードを明示しています。

一方で、現場のニュースルームにとっては、たとえ最終的に勝てる見込みがあったとしても、訴訟を戦うこと自体が時間もコストも精神も削る行為です。

  • 弁護士費用

  • 編集会議でのリスクチェックの強化

  • 記者の萎縮(自己検閲)

トランプ側の訴訟が法廷で「しぼむ」一方で、現場に対するプレッシャーとしては一定の効果を持ってしまう

この構図は、AIとコンテンツの話にもつながります。

  • AI企業:訴訟リスクを抱えつつも、ビジネスのスピードを落としたくない

  • メディア・コンテンツホルダー:報道・創作の自由を守りつつ、自分たちの権利を守るために訴訟を辞さない

結局のところ、**「裁判所は言論の最後の防波堤として機能しているが、その前段階では“訴えられるリスク”自体が巨大な影響力を持つ」**という、非常に21世紀的なパワーゲームが展開されている、と言えます。


小ネタ2本

小ネタ①:「Wicked」は批評家より子どもの財布を味方につけた

ブロードウェイミュージカル『ウィキッド』の映画続編「Wicked: For Good」が、世界興行収入で舞台ミュージカル映画として史上最高のオープニング記録を叩き出しました。

  • 全世界オープニング:2.23億ドル

  • 北米だけで:1.47億ドル

  • 前作映画版を、国内・海外ともに大きく上回るスタート

それでいて、批評家からは「すごく、すごくひどい」「がっかり」とボロクソなレビューも多いというギャップ。

ここから学べるのはシンプルで、「批評とビジネスは別物」という現実です。子ども向け、家族向け、IPモノ――この3つがそろうと、評論サイトのスコアが多少低くても、財布はしっかり開く。

投資家目線で言えば、「IP×ファミリー向け×PG(年齢制限低め)」は、やっぱり強いビジネスモデルだという確認材料になっています。

小ネタ②:Nvidiaはまだまだ「俺がボス」モード

もう一つの小ネタは、Nvidiaのちょっとした“マッチョ発言”です。

MetaがGoogleのTPU(Tensor Processing Unit)を使うかもしれない、という報道を受けて、Nvidia株は一時▲3%。これに対してNvidiaはX上で、

「Googleの成功を喜んでいるし、Googleにも供給し続けるよ。Nvidiaは業界より1世代先を行っている。あらゆるAIモデルが、あらゆるコンピューティング環境で走る唯一のプラットフォームだ」

とコメント。さらに、GoogleのTPUのようなASIC(特定用途向けチップ)に対して、

  • 自社GPUはパフォーマンス

  • 汎用性

  • **流通しやすさ(fungibility)**も

上回っていると胸を張ります。

事実としてわかるのは、

  • MetaがGoogleクラウド+TPUを検討している(と報じられた)ことで、「Nvidia一強」にヒビが入るのでは、という観測が出た

  • しかし、現時点でNvidiaは依然としてAIチップ市場の支配的プレーヤーであり、堂々と「まだまだウチが王者」と宣言している

という構図です。

個人的には、「2位・3位連合が王者に揺さぶりをかける」という、これまたプロレス的な展開に見えてしまいます。


編集後記

AIとメディアと政治とエンタメ。今日のラインナップは、きれいにこの3つが絡み合っていました。

  • アリ・エマニュエルは、「AIからちゃんとお金を取る」ために、停止通告書まで切ってプレッシャーをかける

  • トランプ大統領は、「メディアを黙らせる」ために、名誉毀損訴訟を乱発しているが、裁判所にはことごとくはね返されている

  • ハリウッドは、「Wickedはひどい」と言いながら、観客はちゃんとチケットを買っている

どれもこれも、「言論」「表現」「コンテンツ」をめぐるプロレスです。

AIの世界では、「データはただで落ちている」「インターネットに出した時点で、ある程度は公共財」という感覚が、長年の慣習として染みついています。それに対して、ハリウッドやスポーツコンテンツの側は、「いや、うちの映像・脚本・キャラクターは資産だ。勝手にかじるな」と言っている。

どちらが正しいか、というよりも、最終的には**「どんな条件ならお互い納得して利用できるか」**という、非常に泥臭い交渉の話です。

一方で、トランプ vs メディアの名誉毀損裁判は、AIとは逆方向です。こちらは**「言論の自由をどこまで守るか」**という問題。裁判所は今のところ、「大統領が気に入らない記事を書いたくらいでは、メディアを潰させない」というラインを維持しています。

  • コンテンツホルダー vs AI企業:

    • 「勝手に使うな」「使うなら払え」という戦い

  • 政治権力 vs メディア:

    • 「気に入らない報道をするな」「黙らせるために訴える」という戦い

皮肉なことに、クリエイターの権利を守るためには裁判所の力が必要であり、言論の自由を守るためにも裁判所の力が必要です。AI時代になっても、最後は人間の法制度がすべての“調停役”を担わされている、という構図はあまり変わっていません。

日本でビジネスをしている私たちにとっても、「AIがすごい」「Nvidiaが4.3兆ドル」といった見出し以上に大事なのは、自分たちの仕事やビジネスが、このプロレスのどこに位置しているのかを自覚することだと思います。

  • 自分は「掘られる側(データやコンテンツを持つ側)」なのか

  • それとも「掘る側(AIやツールを作る側・使う側)」なのか

  • あるいは、その両方をまたぐ立場なのか

AIツールを便利に使いつつ、「これは誰の成果物で、その人にはどういう報酬やクレジットが行くべきか?」という感覚を失わないこと。

そして、「気に入らないコンテンツを見たときに、すぐ訴えるか、黙らせようとするか」ではなく、**「それに対抗する言葉やコンテンツを出せるか」**を自問すること。

AIも、メディアも、政治も、結局は人間の欲と恐れとプライドで動いています。だからこそ、せめてこちら側だけは、ちょっとだけ冷静で、ちょっとだけユーモラスな観客でいたいものです。

今日も世界はプロレスだらけですが、リング外から眺めながら、自分の次の一手だけは、静かに考えていきましょう。

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