深掘り記事
ウォール街は「物語」が大好物です。
ここ1〜2年、もっとも魅力的だったストーリーのひとつが、
「NVIDIAのチップさえ握っていれば、AI革命はすべて説明できる」
というシンプルな物語でした。
AIモデルの計算基盤(コンピュート)=NVIDIAのGPU、
AI覇権=NVIDIA+OpenAI、
という“わかりやすい主役構図”が、市場の期待を一手に集めてきました。
その物語に対して、今回かなり強めの**「プロットねじれ」**を起こしたのが、Googleです。
■ 事実①:時価総額で見ても、すでに“同じリング”に立っている
まずは数字から。
記事にあるラインチャートによれば、
2024年11月26日〜2025年11月25日のあいだに、NVIDIAとAlphabet(Google親会社)の時価総額はどちらも上昇しています。
-
期間末時点で、
NVIDIA:約4.44兆ドル
Alphabet:約3.85兆ドル
という規模感。
「NVIDIAだけがAIの勝者」というよりは、
「NVIDIA vs Google」という“タイトルマッチの準備が整った」
という見方が自然になってきたわけです。
■ 事実②:ゲームチェンジの核は「Gemini 3 × TPU」
今回のニュースの中核はここです。
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GoogleがGemini 3という新モデルをリリース
-
一部では「OpenAIのChatGPTより性能面で優れている」と評価
-
そのGemini 3を支えているのが、Google独自のAIチップ TPU(Tensor Processing Unit)
NVIDIAのGPUに対して、Googleは「自前のAI専用チップ」で真正面から勝負を仕掛けてきた構図です。
しかも、これまではGoogleのTPUは自社データセンター専用でした。
ところが今回の記事では、
-
Meta(Facebookの親会社)というNVIDIAの大口顧客が
-
GoogleからTPU供給を受ける可能性について協議している
と報じられています。
ここはインパクトが大きいポイントです。
もし本当にTPUがMetaのデータセンターに入れば、
「AIインフラ=NVIDIA一択」から「NVIDIA+他社チップ」という世界への移行
の第一歩になります。
■ 事実③:マーケットは即座に反応した
投資家は正直です。数字で反応します。
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NVIDIA株:一時 -4%まで売られ、最終的に -2.6%で取引終了
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Alphabet株:+1.5% 上昇し、時価総額4兆ドルクラブ入りが視野に
さらに、Alphabet株はすでにここからプラスのストーリーを積み上げている状態です。
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2024年9月、反トラスト(独禁法)の大きな訴訟で
「Chromeの分離を命じられない」という判決が出る -
その後、株価は50%以上上昇
つまり市場はすでに、
「規制リスクが一段落したGoogle」
+「Gemini 3とTPUでAI本気モード」のストーリー
を好意的に織り込み始めていたところに、今回のNVIDIAとの“構図の変化”ニュースが重なった形です。
■ 事実④:NVIDIAは「王者ゆえの監視」にさらされている
一方のNVIDIAは、完全に“スポットライトの真ん中”にいます。
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『The Big Short』で有名な投資家 Michael Burry らが
自社株買い(Buyback)や会計手法について疑問を呈している -
それに対してNVIDIAは、ウォール街のアナリストに向けてメモを送り、
「Enronのように、特別目的会社(SPE)を使って負債隠しや売上水増しをしているわけではない」
と明確に否定
王者に対する「疑い」と、それに対する「全力否定」という構図です。
さらにNVIDIAはX上でこう主張しています。
「Googleの成功を喜んでいる。今もGoogleに供給している。
NVIDIAは業界より1世代先を行っており、あらゆるAIモデルを
あらゆるコンピューティング環境で動かせる唯一のプラットフォームだ。」
要するに、
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Googleが伸びるのは歓迎
-
それでも「AI全般を動かすための標準プラットフォーム」は自分たち
という**“プラットフォーム王者宣言”**です。
■ 事実⑤:それでもリーダーはNVIDIA、ただし地図は“細切れ”になっていく
記事の「Reality check(現実確認)」のパートでは、冷静な一文が示されています。
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Googleのようなキャッシュリッチな巨大企業であっても
AIチップの覇権を奪うには「膨大な資本」「革新」「時間」が必要 -
つまり、王冠は簡単には奪えない
その上で、マクロ運用会社Lombard OdierのFlorian Ielpo氏はこうコメントしています。
「今のところNVIDIAがリーダーであることは変わらない。
しかし、Googleのような企業が競合ソリューションを出してくることで、
市場の風景はより断片化(fragmented)していくだろう。」
■ ここから先は「私の意見」です
事実として記事が示しているのは、
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AIの“主役”は依然としてNVIDIA
-
しかしGoogleがTPUとGemini 3で本格参戦し
-
Metaのような大口顧客も視野に入ってきたことで
-
「NVIDIA一強」の物語が少しずつ“多極化物語”に書き換わり始めている
という流れです。
ここから先は私の見方ですが、
ビジネスパーソンとして一番意識したいのは、
「技術の覇権争い」よりも、「どの物語にマーケットが乗っているのか」
です。
-
AI投資=とりあえずNVIDIA、という単純な時代から
-
AIインフラ=複数プレーヤーの組み合わせ、という時代へ
物語が変わると、「正解の銘柄」も「正解の戦略」も変わります。
その転換点に、ちょうど今いる――
今回の記事は、そういう“空気の温度変化”を伝えてくれています。
まとめ
今回のメイン記事から読み取れるポイントを、ビジネスパーソン/投資家目線で整理します。
● 事実ベースで押さえるべきこと
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NVIDIAとGoogleの時価総額は、すでに同じリングに乗っている。
2025年11月時点で、NVIDIA約4.44兆ドル、Alphabet約3.85兆ドル。どちらも1年間で大きく伸びている。 -
GoogleのGemini 3は、ChatGPTを上回る評価も出ている。
これ自体が重要というより、「GoogleはAIで出遅れている」というイメージを払拭する象徴的な出来事。 -
Geminiを支えるのは、Google独自のAIチップ「TPU」。
これまでは自社データセンター専用だったが、Metaとの協議報道により、外部顧客への供給という選択肢が見え始めた。 -
株式市場はこの構図変化に敏感に反応した。
NVIDIA株は一時4%安、終値で2.6%安。Alphabetは1.5%高。
「NVIDIA一社に期待を集中させていたポジション」が揺れ始めている。 -
NVIDIAには、会計や自社株買いへの疑義も向き始めている。
Michael Burryらが疑問を呈し、NVIDIAは“Enronではない”とわざわざメモで説明するほど、注目と疑いの中心にいる。 -
それでも現時点のリーダーはNVIDIAである。
ただし、Googleのような新たな強豪が出てくることで、市場は「分散・断片化」に向かうと専門家は見ている。
● ここから先の「解釈」と「示唆」
ここからは事実ではなく、解釈・意見です。
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ストーリーの変化が始まったタイミング
AI相場は「NVIDIAがいればOK」という単純な構図から、
「NVIDIA+Google+その他の選択肢」という多極構造に移り始めています。 -
日本企業への示唆
特定ベンダーへの過度な依存は、技術的にも価格的にも交渉力を失います。
これはGPU調達だけでなく、クラウド、AIサービス、外部ベンダー全般に通じる話です。 -
投資家への示唆
「この銘柄さえ持っておけばAI全部乗り」というフェーズは、
徐々に終わりに向かっている可能性が高い。
代わりに、「どのプレーヤーが、どのレイヤー(チップ/モデル/アプリ)で価値を取るか」という分解が重要になります。
結論として、今回の記事はこう読めます。
NVIDIA相場の終わりではなく、“NVIDIAだけの相場”の終わり。
ここから先は、「AIインフラの分散化」そのものがテーマになります。
気になった記事
「AIは新しい“シェール革命”なのか?」
2本目の記事は、**「AIはバブルなのか?」**という、誰もが気になっている問いを扱っています。
ここで提示されているのは、2010年代のシェールオイルブームとの比較です。
■ 事実:シェール革命は“成功しすぎて”、投資家を焼いた
記事によると、
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2010年代半ば、米国はシェールオイルのブームにより、
世界最大の石油・ガス生産国になった -
しかし、その過程で企業は成長期待に乗って巨額の投資を行い、
2014年後半にサウジ主導のOPECが市場シェアを取り戻そうとして価格が崩壊 -
結果、ビジネスとしては世界のエネルギー構造を変えるほど“成功”した一方で、
多くの投資家は大きな損失を被った
これを受けて、記事内で引用されているHenry Gladwyn氏はこう書いています。
「シェール革命は失敗ではない。あまりに成功しすぎて、
世界のエネルギー秩序を変えてしまった。
ただし、多くの投資家は破滅した。」
■ AIとの共通点:インフラビジネス化と“単価の物理性”
もう一人の論者Jeff Currie氏は、AIとエネルギー産業の構造的な似ている点をこう示します。
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データセンターの出力は非常に電力集約的で、
「時間あたりのドルコスト」で計測される -
これは、エネルギーが「メガワット時」や「バレル」で価格が付くのと似ている
-
つまり、ビッグテックのAI事業は、供給と需要のバランスで動く“物理的なコモディティ(商品)”になりつつある
さらに、彼はこう警告します。
「もし、低コストのサウジ産原油を、
低コストの中国製AI計算資源(compute)と、
それに類する海外プロバイダーが置き換えてしまったら、
物語は驚くほど似てくるかもしれない。」
つまり、
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今は高コストな設備投資でAI計算資源を作っているが
-
将来、より安いプレーヤーに置き換えられると、
価格崩壊のなかで投資回収が難しくなるリスクがある、という話です。
■ 限界も指摘されている
もちろん、アナロジーには限界があります。
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石油の需要は比較的予測しやすく、徐々に増えていく性質
-
一方AIは、アプリケーションの広がり次第で需要が指数関数的に伸びる可能性もある
つまり、「構造は似ているが、需要の読みづらさはAIの方がはるかに高い」ということです。
■ ここから先は私の見方
事実として記事が語るのは、
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AIは「ITサービス」ではなく、「電力や石油に近いインフラビジネス」になりつつある
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その場合、企業の成功=投資家の成功とは限らない
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シェール革命は世界のエネルギー秩序を変えるほど成功したが、投資家は焼かれた
という構図です。
そこから得られる示唆は、
「AIは“大きく当たる”が、“投資家が全員ハッピーになる”とは限らない」
という、なかなかシビアな現実です。
小ネタ2本
🔹小ネタ①:トランプ関税、オハイオ製造業には“静かなボディブロー”
3本目の記事は、トランプ政権によるグローバル関税が、
製造業の州オハイオにどう効いているか、という地味だけどリアルなテーマです。
事実として、
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製造業はオハイオ州GDPの17%超を占める
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266社・従業員3.1万人分の声を、
製造業支援NPO「Magnet」が2024年8〜10月に調査 -
「原材料コストが“成長を著しく妨げている”」と答えた企業が
2023年:7.7% → 2024年:10.9% にジャンプ
一方で、関税の売上インパクトについては、
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18%:売上が減った
-
15%:売上が増えた
と、かなり割れているのがポイントです。
多くの回答企業の年商は5,000万ドル未満の中小企業。
大企業のように原材料コストを価格転嫁したり、
サプライチェーンを素早く組み替えたりする柔軟性に乏しい層です。
ただし、全員が苦しんでいるわけではありません。
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大手メーカーが国内調達に切り替える過程で
カスタム部品を供給する企業はむしろ成長している
という声も紹介されています。
MagnetのEthan Karp CEOは、こうコメントしています。
「恩恵は均等ではなく、道のりも不透明だ。
それでも製造業者たちは、混乱の中から新しい機会が生まれると
頑固なまでに信じている。」
ここから先は私の感想ですが、「頑固なまでに楽観的」という表現は、
ものづくりに関わる人たちの職業病でもあり、美徳でもある気がします。
「関税」は教科書だとマクロの話ですが、
実際には、オハイオの工場の現場レベルで「原価がじわっと上がっている」という
とても地味な形で効いてきている。
そんなリアリティが伝わる小ネタでした。
🔹小ネタ②:NVIDIA vs Enron? “疑われる王者”のつらさ
もうひとつの小ネタは、やはりNVIDIA関連です。
記事によると、
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『The Big Short』で有名なMichael Burry氏らが、
NVIDIAの自社株買いと会計の中身に疑問を投げかけている -
それを受けてNVIDIAは、ウォール街のアナリストにメモを送り、
「Enronのように特別目的会社(SPE)を使って負債を隠したり、
売上を水増ししたりはしていない」と強調
ここまで明確に「Enronではない」と言いに行くあたり、
疑いの強さと、注目度の高さがよくわかります。
さらに前述の通り、同社はX上でも、
「我々は業界1世代先」「すべてのAIモデルを、
あらゆる場所のコンピューティング環境で動かせる唯一のプラットフォーム」
と“王者コメント”を連発。
ここから先は私の意見ですが、
**「疑惑を否定しながら、王者性もアピールしなければならない」**というのは、
なかなか高度な広報ゲームです。
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強気すぎても「あやしい」と言われ
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弱気すぎても「終わりか」と言われる
時価総額4兆ドルクラスの企業にとって、
PRとはもはやビジネスそのもの。
NVIDIAのメモは、そんな“王者のつらさ”を感じさせる小ネタでした。
編集後記
AIのニュースを追っていると、ときどき不思議な気持ちになります。
**「みんな、ちゃんとわかって投資してるのかな?」**と。
今回のような
「GoogleのGemini 3がすごいらしい」
「TPUでMetaと組むかもしれない」
「NVIDIAの時価総額が4兆ドルを超えた」
といった話題は、見出しとしては非常にキャッチーです。
でも、個々の企業の戦略や、データセンターの現場の苦労や、電力の制約や、
最終的なビジネスモデルまで理解している人は、実は多くない。
それでも相場は動きます。
なぜか?
「物語」があるからです。
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「NVIDIAさえ買っておけばAIの全部乗り」
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「GoogleはAIで出遅れている」
-
「AIは新しい石油だ」
こういうフレーズは、
説明する側にも、聞く側にも、とても便利です。
ただ、本当に恐ろしいのは、
物語の方が現実より長持ちするときです。
シェール革命は世界を変えましたが、
投資家を救ったとは限らない。
AIも同じパターンをたどる可能性がある、と記事は指摘します。
では、私たちはどうすればいいのか。
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「AIだからとりあえず乗る」のではなく
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「どの物語に、どのくらいの距離感で乗るか」を決める
ことが大事になってきます。
NVIDIAも、Googleも、どちらも巨大で優秀な企業です。
でも、それと「自分のポートフォリオにどう組み込むか」は別問題です。
個人的には、AI時代の態度として、
「技術には期待するけれど、物語には酔わない」
くらいがちょうどいいのかな、と思っています。
とはいえ、人間は弱いので、
また新しいモデルが出れば「今度こそ世界が変わる」とワクワクしてしまうんですよね。
その意味で、AIバブルがはじけるかどうか以上に、
「自分の頭の中のバブル」をいかにコントロールできるか
が、これからのビジネスパーソンの腕の見せどころなのかもしれません。
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