深掘り記事
ニュースメディアにも、本格的に**「サブスク戦国時代」**が来ています。
今回の記事の主役は、米ネットワーク系の老舗ニュースブランド NBC News。
なんと同社が、初の**「ダイレクト課金のデジタル・サブスクリプション」**を立ち上げると明かしました。これはケーブルテレビ経由ではなく、視聴者が直接NBCにお金を払うモデルです。
◆ NBC Newsのサブスクは何が違うのか
記事によると、この新サービスのポイントはこうです(※ここまで事実部分)。
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対象:NBC Newsの“最もロイヤルなファン層”
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中身:
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これまで無料でバラバラに存在していた
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ポッドキャスト
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動画番組
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ウェブ記事
を広告なし&1つの場所でまとめて提供
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Telemundo(スペイン語ニュース)の「Noticias」や、NBCのローカル局コンテンツも含む
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新しいニュースレター(メールマガジン)も追加
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利用ハブ:NBC Newsアプリ(ウェブ・モバイルからもアクセス可能)
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映像チャンネル:まずは22本の無料広告付きストリーミングチャンネルにアクセス可能
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例:NBC News Now、NBC Sports、Dateline 24/7、Sky News、Noticias Telemundo Ahora、各ローカル局のストリーミングなど
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オーディオ:NBC News制作のポッドキャスト46本
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その他:
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有料会員限定ニュースレター
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縦型の短尺ニュース動画(トップキャスターのブリーフィングや現地レポート)
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「Dateline」「Today」「Meet the Press」「NBC Nightly News」などのテレビ番組フル版を放送後オンデマンドで視聴可能
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料金は月額4〜7ドル程度を想定しているものの、正式な価格はまだ未定とのことです。
ターゲットは「between the coasts」と表現されています。
これは記事中の説明では、「ニューヨークタイムズ、Politico、ウォール・ストリート・ジャーナルのような“沿岸部エリートメディア”と競り合う気はなく、もっと広い中間層(地理的にも価値観的にも)を狙う」というニュアンスです。
なお、9月のNBC Newsサイトには1億以上のユニーク訪問者がいたとされ、このトラフィックを「それなりに大きな獲得余地」と見ていると語られています。
◆ CNNの「All Access」とはどこが違う?
同じく米ニュース大手のCNNも、「All Access」というサブスクを開始したばかりです。記事によると、こちらはケーブルニュース本体の“兄弟”として作られたサービスで、テレビ版CNNと非常に近い体験をオンラインでも提供する設計です。
一方で、NBC Newsは少しアプローチが違います。
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CNN:
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ケーブルニュースの“完全体験版”をサブスクに移植
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その前段階としてメータード・ペイウォール(一定数の記事まで無料)を導入
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NBC News:
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既存の無料デジタルコンテンツを束ねて、「広告なし+追加コンテンツ」で売る
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ローンチ時点では、ペイウォールを敷かない方針
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むしろ線を引くのではなく、「ファン向けに一段上のサービス」をそっと用意するイメージ
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NBC側の幹部は、
「サイトをいきなり有料化するつもりはない。まずは少しずつ踏み込む」と述べています。
これは、無料ユーザーの母集団を維持しつつ、その一部を“推し活サブスク”に引き上げる戦略と見ることができます(ここは解釈=意見です)。
◆ メディア・ビジネスモデルの変化:どこで稼ぐか
ここから少し意見ですが、記事から見えてくる構図はかなりシンプルです。
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広告だけでは、ニュースビジネスは不安定
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しかし、いきなり有料化すると読者が離脱する
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そこで
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基本:無料+広告
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コアファン:サブスクで「広告なし+追加サービス」
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という二層構造に移行しつつある、という流れです。
かつての新聞で言えば、
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通りすがりの立ち読み読者→今の無料読者
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日々、紙で定期購読してくれる層→今のデジタルサブスク
といったイメージでしょうか。
◆ 今後の展望:ニュースは「アプリとコミュニティ」の商売に
この記事で描かれるNBC Newsの戦略は、ニュースを単なる記事や番組としてではなく、アプリを中心とした“時間の奪い合いビジネス”として見ていることが透けて見えます(ここも意見部分です)。
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アプリがハブ
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映像・音声・記事・ローカルニュース・スペイン語ニュースまで“全部入り”
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その上に、サブスクというレイヤーをのせる
これにより、ニュースブランドは
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広告主からの収益
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サブスク(読者)からの直接収益
という二本立てを取りに行きます。
ニュースを「無料で読むもの」から「自分の世界観を維持するサービス」として売る動きは、日本のビジネスパーソンにとっても他人事ではありません。
note・有料メルマガ・会員制コミュニティなど、同じ構造の中で戦っているからです。
まとめ
今回の記事全体を通して見えてくるキーワードは、**「分散と集中」**です。
まず、NBC Newsは自社のあらゆるデジタルジャーナリズムをアプリに集中させ、それをサブスクでマネタイズしようとしています。バラバラに存在していたポッドキャスト、動画、ウェブ記事、ローカルニュース、スペイン語ニュースをひとまとめにし、「広告なし+追加コンテンツ」という付加価値を提供することで、コアなファンから直接お金をもらうモデルです。
一方で、CNNは**予測市場(Prediction Market)**のデータを取り込み、ジャーナリズムに「リアルタイムな確率情報」という新しいレイヤーを追加しようとしています。Kalshiという予測市場プラットフォームと独占的なパートナーシップを組み、そのデータをテレビ・デジタル・SNSまで幅広く活用していく構図です。ここではニュースが、単なる事実の報告から、「今後起こりうる結果の確率」を伝えるサービスへと広がろうとしています。
さらに、ウォーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)をめぐる買収レースでは、Netflix・Paramount・Comcastという3社が2回目の入札を済ませ、ストリーミング覇権の行方と規制当局の目線が交差する状況になっています。ここではコンテンツと配信の垂直統合をどこまで許容するかという、規制とビジネスのせめぎ合いが浮かび上がります。
最後に、「ティーンのスマホ規制」が世界中に広がっているという記事。フランス、オーストラリア、韓国、EU、デンマーク、ブラジル、ニュージーランドなど、各国がそれぞれのルールで未成年のスマホ・SNS利用に歯止めをかけようとしている姿が紹介されています。
一方で、米国では連邦レベルで決定的な規制はまだ出ておらず、州法や最高裁判決など、モザイク状の動きにとどまっていることも示されています。
これらをまとめて眺めると、世界は今、
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情報の取り方(ニュースサブスク)
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情報の見せ方(予測市場データの導入)
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情報のつくり手(ハリウッド・スタジオ再編)
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情報の浴び方(ティーンのスマホ規制)
という4つのレイヤーで大きな変化の中にあります。
ここから先は意見ですが、日本のビジネスパーソンにとって重要なのは、「自分がどのレイヤーで勝負するのか」を意識することだと思います。
ニュースを消費するだけの側にいるのか、自分も情報を発信する側に回るのか、あるいは自社のサービスやプロダクトで、こうした変化をビジネスチャンスに変えるのか。
世界のメディア業界は、単なる「報道」ではなく、データ・コンテンツ・規制・プラットフォームが絡み合った巨大産業です。そこにAIとサブスクが絡むことで、ゲームのルールはますます複雑になっています。
記事に出てくる各プレーヤーの動きを追うことは、その変化の“縮図”を見ることでもあります。
気になった記事
ティーンのスマホ規制が世界に広がる理由
個人的に特に気になったのが、**「Teen phone crackdown goes global」**というセクションです(ここまで事実は記事ベース)。
記事によると、フランスのマクロン大統領は高校での携帯電話禁止のアイデアを支持し、オーストラリアは16歳未満の子どもに対してTikTokやInstagramのような人気アプリを禁止する世界で最初の主要民主国家になる予定です。
さらに、
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🇰🇷 韓国:学校での携帯電話禁止措置を既に可決
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🇪🇺 EU:16歳未満が親の同意なしにソーシャルメディアを利用することを禁じる非拘束的な決議を採択
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🇩🇰 デンマーク:15歳未満の未成年者に対するソーシャルメディアアクセス禁止の方針
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🇧🇷 ブラジル:16歳未満の子どもがソーシャルメディアを使う際、保護者とアカウントを連携させ、制限を設けられる新法
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🇳🇿 ニュージーランド:2024年に学校での携帯電話を禁止する措置を議会が承認
と、記事は具体的な国名と施策を列挙しています。
一方で米国はどうかというと、
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いくつもの州で年齢認証の義務化などの法案が出ているものの、
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連邦レベルでは決定的な法制度はまだ無く、
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最高裁が「ポルノサイトに対する年齢確認義務は州が課してもよい」と判断したことで、今後各州の規制が増える可能性がある──と説明されています。
さらに、連邦議会の下院エネルギー・商業委員会が、子どもをオンラインで守るための十数本の法案パッケージを用意し、公聴会で審議する予定があるとも述べられています。
ここから先は意見ですが、この動きは**「プラットフォーム任せのセルフ・レギュレーションから、国家レベルのルールメイキングへ」**シフトしている象徴だと感じます。
日本でも同様の議論が必ず本格化しますし、広告・マーケティング・SNS運用に関わるビジネスにとっては、無視できないトピックになっていくでしょう。
小ネタ2本
小ネタ①:CNNが“予測市場”と組む時代
CNNが提携したのは、Kalshiという予測市場プラットフォームです。ここは、政治・文化・天候などの「将来起こるかもしれない出来事」に対して、参加者がベットし、その結果として**「確率情報」**を生成するサービスです(日本語でいうと、イベント先物市場に近いイメージです)。
記事によると、CNNはKalshiのデータにAPI経由でリアルタイムアクセスし、
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テレビの画面上に「ライブの確率ティッカー」を表示
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解説番組の中で、その確率情報を引用
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デジタル記事やSNSでも、分析やファクトチェックに活用
するとしています。ライセンス料は支払わない代わりに、提携は独占契約。つまりCNNは「予測市場データの“公式パートナー”」のポジションを取りにいっています。
ここから先は意見ですが、「世論調査」だけでなく、「お金が実際に賭けられた確率」をニュースで扱うようになると、視聴者の“温度感”も少し変わりそうです。
「勝ちそう」「負けそう」が、より数字で可視化されてしまう世界。楽しそうでもあり、怖くもありますね。
小ネタ②:WBD争奪戦、Netflix vs Paramount vs Comcast
3つ目の小ネタは、Warner Bros. Discovery(WBD)を巡る買収レースです。
記事の事実として整理すると:
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Netflix・Paramount・Comcastの3社が、WBDのスタジオ&ストリーミング事業に対して第2ラウンドの入札を提出
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Paramountは当初有力視されていたが、最近はNetflixの存在感が増加
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Netflixは「クリーンな資金調達」をアピール(中東の政府系ファンドとの提携観測が出ている他陣営との差別化)
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Bloombergによれば、主に現金オファーだが一部株式も含む
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Paramountは1回目の入札後、「1株あたり30ドルに近づけろ」というプレッシャーを受け、Apollo Global Managementからのデットファイナンス(借入)+中東政府系ファンドの資金協議を進めていると報じられている
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Comcastもスタジオ&ストリーミング部門へのオファーを出しているが、規制当局からの目線は3社の中で最も厳しそうだと記事は指摘
さらに、トランプ政権関係者とNetflix案に関する反トラスト(独占禁止)懸念を話し合う会合があった、とも報じられており、誰が買っても規制当局の審査は避けられない状況です。
ここからは意見ですが、「コンテンツ×配信」を一体で押さえに行くストリーミング戦争は、もはやスポーツチームの移籍市場のような様相です。見る側からすると「どのアプリ入れたら全部見られるの?」というシンプルな悩みなのですが、裏側はものすごく複雑です。
編集後記
今週のニュースを眺めていて、ふとこう思いました。
「みんな、“情報”で疲れてるのに、“情報サービス”にはどんどんお金を払わせにくるな」と。
NBC Newsはサブスクを始め、CNNは予測市場と組み、WBDはどこかに買われ、各国は子どものスマホを取り上げようとしている。
それぞれ全然違うニュースのようでいて、実は全部、「私たちが何を見て、何を信じて、どこに時間を使うか」を巡る話です。
ニュースアプリのサブスクが月4〜7ドル。
日本円にして数百円から1,000円弱。
コーヒー1杯分と言われれば確かにそうなのですが、
サブスクが5個、10個と積み上がると、もはや「定期代」レベルです。
一方で、企業側は「ファクトベースの高品質なニュースを維持するためには課金が必要です」と言う。
それは本当にその通りなのですが、視聴者・読者の側からすると、
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「有料のニュース」
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「無料のSNSの断片情報」
の間で、日々、無意識の選択を迫られています。
そして、その裏でティーンたちのスマホは各国で締め付けられつつある。
大人たちは「メンタルに悪いから」「学力に悪いから」と心配し、規制を進める。
でも、会議室から出た瞬間に、大人自身が会議中もSlack・メール・Xを見続けているわけで、
「それって子どもにだけ厳しくない?」とツッコミたくもなります。
ただ、ここから先は少しまじめな話ですが、
情報の「入り口」と「フィルター」をどこに置くかは、これからの10年でますます重要なテーマになると思います。
ニュースアプリなのか、SNSのタイムラインなのか、
テレビのニュースショーなのか、YouTubeの解説動画なのか。
そして、そのどこかに必ず、
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広告
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アルゴリズム
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もしくは誰かの意図
が入り込んでいます。
だからこそ、せめて自分だけは、
「これは事実で、これは誰かの意見だ」
と切り分けて受け止めたいものです。
それを放棄してしまうと、サブスクが増えるほど、
「よく分からないけど、なんか不安だからお金を払い続ける」という、
一番しんどい状態にハマります。
ニュースもコンテンツも、サブスクも規制も、
すべては「どう生きたいか」の延長線上にあるサービスに過ぎません。
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