深掘り記事
◆ Microsoftの“くしゃみ”で、AI市場が風邪気味に
最初のテーマは、AI相場のナーバスさです。
記事によると──
ある報道が「MicrosoftがAIソフトの売上成長目標を引き下げた」と伝えたことで、
テックセクターから数十億ドル規模の時価総額が一気に吹き飛んだとされています。
その後、Microsoftは
「AIプロダクト全体の売上ノルマ(aggregate sales quotas)は下げていない」
とコメントし、報道内容を否定しました。
それでも、
「たった一つの“成長目標引き下げ”報道でこれだけ売られる」
という事実が、AIトレードを取り巻く市場心理の弱さを物語っています。
◆ メタもオラクルもNVIDIAも、「AIなら何でも上がる」わけではない
記事は、Microsoftだけでなく、他のAI銘柄の不安も並べています。
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Meta(旧Facebook)
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直近決算で投資拡大を示唆し、社債発行にも踏み切ったことで、
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「AI関連の巨額設備投資は本当に回収できるのか?」という疑念を一部投資家に与えた。
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Oracle
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大手ハイパースケーラーの中で、最も多くの借金を抱える立場になっている。
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NVIDIA
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第3四半期は「驚異的」と言っていい好決算を出したにもかかわらず、
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それでも「AIバブルじゃないか」という不安を完全に消すことはできていない。
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AI関連株は、
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売上も伸びている
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利益も出ている
にもかかわらず、
「それでも、どこかで急に崩れるのではないか」
という“疑心暗鬼プレミアム”を背負わされている状態だといえます。
◆ 「AIは思ったより難しい」現場と、バブルを語りたがる市場
Futurum GroupのCEOでテクノロジーアナリストのダニエル・ニューマン氏は、
AI相場についてこんなコメントをしています。
「このAIトレードが**なぜ失敗する可能性があるかを考えるのは、とても“楽しい”作業だ」
少し皮肉も込めつつ、市場が「崩壊シナリオ」を好む構図を指摘しています。
さらに彼は、
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AIは、投資家が思うほど早くは導入・実装されていない
-
「この技術は難しい(This stuff is hard)」
と語っています。
つまり、
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株式市場:
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「AIで世界が一変する」と期待しつつ、
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一方で「バブルじゃないの?」と疑う。
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企業の現場:
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PoCや試験導入は進んでいるものの、
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全社展開・業務プロセス組み込みは予想よりずっと時間もコストもかかる。
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この“時間差”が、
AI銘柄の株価と実態のギャップ=バブル不安を生んでいる、と記事は示唆しています。
◆ 「子どもの就職」と「バブル崩壊」を同時に心配するクライアント
記事の面白いポイントは、AI不安が株価だけの話ではないと指摘している点です。
記者が参加したAxiosのイベントで、
十数人の情報源と議論したところ、彼ら全員が、
「クライアントは、
AIバブルを心配しているのと**同じくらいの強さで、
“自分の子どもが将来仕事を見つけられるのか”を心配している」
という認識で一致した、と書かれています。
ニューマン氏は、この感情の背景にあるものとして、
「これは市場だけの話ではなく、
テクノロジーに対する“無意識のバイアス(unconscious bias)”が関係している」
と見ています。
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AIが成長すれば、自社の利益は増えるかもしれない
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しかし同時に、社員や自分の子ども世代の仕事はどうなるのか
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「儲かる」と「怖い」が同居した技術
この感情のねじれが、「AIバブルでは?」という議論を一段とヒートアップさせている、という指摘です。
◆ Jensen Huangの“自称”:NVIDIAは唯一の「本当のテック企業」?
ここで、同じ記事群にあったNVIDIAのジェンスン・フアンCEOの発言を見てみます。
彼はポッドキャスト番組「The Joe Rogan Experience」で、
こんな主張をしています。
「世界の大手テック企業を見てみると、
そのほとんどが広告やSNS、コンテンツ配信のビジネスを持っている。
NVIDIAは、唯一“ビジネスが完全にテクノロジーだけで成り立っている”大企業だ。」
さらに、
「我々は“作る(build)”ことしかしない。広告はしない。
我々がお金を稼ぐ唯一の方法は、素晴らしいテクノロジーを作り、それを売ることだ」
と語っています。
事実として、MetaやGoogleの多くの売上が広告ビジネスから来ていることは、記事の中でも触れられています。
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テクノロジーはあくまで、広告やコンテンツ配信を支えるエンジン。
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AI機能によって、例えばMetaでは広告収益がさらに増えるなど、
AIは広告を強くする装置という側面が大きい、と記事は整理しています。
そのうえで、投資家の一部は
「AI時代になっても、テックの収益源は結局“広告”が中心になるのでは」
と見ていると紹介されています。
◆ 「AIの収益モデル」はどこから来るのか?
ここからは私の見方ですが、
この記事の構図をまとめると、次のようになります。
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NVIDIA型:
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「テクノロジーそのものを作って売る」モデル
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GPUやAIインフラを供給することで収益を得る。
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Google/Meta型:
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「広告・コンテンツビジネスをテクノロジーで強化する」モデル
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AIは、ターゲティングやレコメンド精度を高め、広告単価・滞在時間を引き上げるための道具。
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前者は、
「真のテック企業は我々だ」
とブランドを打ち出し、
後者は、
「AIで広告をもっと儲かるビジネスにする」
という方向に走っている。
そして市場は、
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「AIインフラ企業の売上がいつ頭打ちになるか」
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「広告企業のAI投資は本当に回収できるのか」
を、同時に心配しているわけです。
記事が伝えるように、
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Microsoftの“成長目標引き下げ報道”
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Metaの投資拡大と社債発行
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Oracleの高水準の負債
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NVIDIA好決算でも消えないバブル議論
これらはすべて、
「どこまでAI投資を続けるべきか」
「その投資はいつ・どこから回収されるのか」
に対する答えの見えなさから来ている、と読めます。
◆ 日本のビジネスパーソンにとってのポイント
事実を踏まえつつ、日本側の視点で整理すると(ここからは意見です)、ポイントは3つほどあります。
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AIは「導入が思ったより難しい技術」だと正しく理解する
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海外でも、実装スピードは投資家の期待ほど速くない、とアナリストが指摘している。
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「とりあえずAI」でPoCを増やすより、
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どこで本当にコスト削減・売上増につながるのか
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そのためにどんなデータと現場の運用が必要か
を冷静に設計する必要があります。
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“AI相場の揺れ”を、あまり短期で追いかけすぎない
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Microsoftの一報道で数十億ドルが動き、即座に否定される。
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こうしたノイズは今後も増えるはずで、
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個別株トレードならともかく、
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ビジネス戦略の判断にそのまま使うのは危険です。
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収益モデルの違いを見ておく
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「AIを作って売る会社」なのか、
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「AIで既存ビジネス(広告など)を強くする会社」なのか。
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どちらのタイプと組むのかで、
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協業の進め方
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価格交渉の軸
も変わってきます。
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AIは、興奮と不安の両方を連れてくる技術です。
記事が描くように、「子どもの将来」まで巻き込む感情の技術でもあります。
だからこそ、
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株価の上下ではなく、
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どのビジネスモデルが自社と相性が良いのか
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どの部分が“本当に難しい”のか
を、少し距離を置いて見ておく必要がありそうです。
まとめ
今回の記事群は、一見バラバラなテーマに見えますが、共通するキーワードは**「リスクと分担」**です。
まずAI。
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Microsoftに関する1本の報道が、AI関連株から数十億ドルを吹き飛ばす。
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MetaはAI投資拡大と社債発行で「本当に回収できるのか」と問われる。
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Oracleはハイパースケーラーの中で最も多くの負債を抱え、
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NVIDIAですら、驚異的な決算を出しても「バブルでは?」という疑念を消せない。
Futurum Groupのニューマン氏の言うように、
「AIトレードがなぜ失敗するかを考えるのは楽しい」
ほど、市場は**「成功シナリオ」より「失敗シナリオ」のストーリーを欲している**ようにも見えます。
その背景には、
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AIが投資家の期待ほど早くは導入・活用されていない現実
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「この技術は難しい」という現場の声
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そして、クライアントが
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バブル崩壊
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自分の子ども世代の雇用機会
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一方で、“資本主義ベイビー”ともいえるTrump accountsも登場しました。
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これは、アメリカの赤ちゃんにまで投資口座=401(k)的な仕組みを広げていく政策です。
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支持者は「出生時からの資本市場参加」「株主経済の始まり」と歓迎する一方、
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Yaleの政治学者ジェイコブ・ハッカー氏が指摘するように、
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年金(defined benefit)→401(k)
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大学費用→529プラン
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医療費・病欠資金→HSAやポータブル貯蓄口座
と、**社会的リスクを個人に移転していく“リスクシフト”**の一環とも解釈されています。
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「税制は、さまざまな“社会目的”を掲げる補助付き口座で溢れている。
これらは多くの場合、格差を拡大し、リスクを増幅させる」
とハッカー氏は述べています。
AIも、Trump accountsも、結局は
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誰がリスクを負うのか?
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そのリスクを理解できる人/できない人の間で、何が起きるのか?
という問いに繋がっています。
AI投資では、
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投資家と企業
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技術者とユーザー
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親世代と子ども世代
の間で、リスクとリターンの配分がまだ定まっていません。
Trump accountsでは、
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政府や企業が負っていたはずの社会保障リスクが、
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赤ちゃんを含む個人のアカウントに「移されて」いきます。
日本のビジネスパーソンにとっての示唆はシンプルです。
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AIでも投資でも、「リスクは誰が持つことになっているのか」を確認する癖をつけること。
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見出しやスローガンより、**仕組みの設計図(どこからお金が出て、どこで損をするか)**を見ること。
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「バブルかどうか」だけでなく、バブルであれバブルでなかれ、自分がどこに立つのかを考えておくこと。
AI相場が揺れようが、資本主義ベイビーが増えようが、
最後に問われるのは、**「自分はどのリスクを引き受けているのか」**という、ごく個人的な問題なのかもしれません。
気になった記事
「Trump accounts」──赤ちゃん版401(k)が生まれた意味
2本目の「Babies are basically getting 401(k)s now」は、
アメリカらしい話です。
記事によると、
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Trump accountsとは、
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アメリカの子ども向けに新設される投資口座。
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就業時の401(k)のように、生まれた瞬間から投資口座を持つイメージとして紹介されています。
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投資家のブラッド・ガーストナー氏は、
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「これは“生まれたときからの401(k)”だ」
とオーバルオフィスでの会見で表現。
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財務長官のスコット・ベッセント氏は、
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「これは“株主経済(shareholder economy)”の始まりだ」
と述べ、より多くのアメリカ人を資本市場に取り込む仕組みとして語っています。
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具体的な中身としては、
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2025〜2028年に生まれるすべての子どもに、政府から1,000ドルが拠出される。
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さらに、マイケル&スーザン・デル夫妻のようなフィランソロピーが、
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所得の低い家庭をターゲットに追加拠出する仕組みも打ち出されています。
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支持者は、
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「出生時点から資産形成のスタートラインに立てる」
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「これまで市場から疎外されてきた層も、資本主義の恩恵にアクセスできる」
とアピールしています。
一方で、
ヤエル大学の政治学者ジェイコブ・ハッカー氏は、
この動きを、以前から警鐘を鳴らしていた**“リスクシフト”**の延長だと見ています。
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かつての**確定給付型年金(pension)**は、企業や政府が老後のリスクを肩代わりしていた。
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それが、401(k) によって個人の運用責任へ移され、
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学費は529プラン、医療費や病欠にはHSAやポータブル口座…と、
あらゆるリスクが**「個人の専用口座」**に積み上がってきた、と。
彼は、
「税制は、さまざまな“社会目的”を掲げる補助付きアカウントで溢れ返っている。
こうした口座は、多くの場合、格差を拡大し、リスクを増幅させる」
と記事の中でコメントしています。
事実ベースで見れば、Trump accountsは
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政府や慈善家の拠出で“初期残高”がある
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低所得家庭ほど恩恵を受ける設計の部分もある
という意味で、再分配の要素を含んだ制度です。
ただし、長期的には
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投資のリスクを十分理解できる家庭と、そうでない家庭の差
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追加拠出ができる層と、そうでない層の差
が、そのまま格差拡大に繋がる可能性もあります。
赤ちゃんに401(k)を持たせるのか、
社会としてのセーフティネットを厚くするのか。
アメリカは、迷いなく前者にアクセルを踏んでいる――
そんな印象を受ける記事でした。
小ネタ2本
小ネタ①:Spotify Wrapped 2025、ちゃんと“反省”して戻ってくる
音楽パートでは、Spotify Wrapped 2025の話題。
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2024年版Wrappedは、SNSでかなり不評だったと記事は振り返っています。
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その反省を踏まえ、2025年版では
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謎の消滅を遂げていた**「トップジャンル」機能が復活**。
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新しく
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トップアルバム
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トップオーディオブック
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お気に入り曲の再生回数
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自分のトップソングを当てるゲーム
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友人と競える「Wrapped Party」
などが追加されました。
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さらに、**「あなたのリスニング年齢」**なる機能も登場。
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記事では、Axiosの編集者の一人のリスニング年齢が92歳と診断されたと紹介されており、
半分ネタとして楽しんでいる雰囲気が伝わってきます。
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AIについては、2024年に「AI推ししすぎ」と批判された反省からか、
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今年のAI要素はListening Archive程度に抑えめ。
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これは、「特定の日の聴取傾向」を振り返る機能で、
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例えば「2月14日に失恋して、同じ悲しい曲を100回流していたことを教えてくれる」ような、
少し笑えて少しエグい振り返りです。
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Wrappedは単なるお祭りではなく、
Spotify共同社長のアレックス・ノーストロム氏によると、
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2024年は2.45億人のユーザーを巻き込んだビジネスドライバーになっていたとのこと。
要するに、「あなたの1年」を見せているようでいて、
しっかりSpotifyの成長エンジンになっているイベントだ、という話です。
小ネタ②:雇用が悪化すると、利下げ派と金(ゴールド)が元気になる
もう一つの小ネタは、同じ記事群に出てきたADPの雇用データの余波です。
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11月の米民間雇用は▲32,000人。
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小規模企業が12万人減らし、
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大企業・中堅企業は合計9万人増やしたものの、
全体ではマイナスに沈みました。
この弱い雇用指標を受けて、記事は、
「FRB内部で、より大胆な利下げを主張する派にとっての“弾薬”になる」
と指摘しています。
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雇用が弱くなれば、金利を下げる根拠が強まる。
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そして、金利が下がると魅力を増すのが“金(ゴールド)”。
実際、ADPレポート公表後には、
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投資家が金先物を買いに動き、ゴールド価格が上昇したと記事は伝えています。
「小さな店が人を減らした」
というニュースが、
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FRBの利下げ議論を後押しし、
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金市場に火をつける。
数字で見ると冷静ですが、
その裏には、
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雇われる側の不安
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政策を決める側の思惑
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安全資産に逃げたい投資マネー
という、三者三様の感情が重なっています。
編集後記
AIバブルが怖い、
でもAIに乗り遅れるのも怖い。
そして、そのAIが自分の子どもの仕事を奪うかもしれない——。
今回の記事を読みながら、
「人類、だいぶ欲張りな心配をしているな」
と、少しだけ笑ってしまいました。
Microsoftの成長目標が下がったらしい、と聞いただけで数十億ドルが吹き飛び、
すぐに「いや、全体のノルマは下げていません」と否定される。
ほんの数行のニュースに、
いちいち世界が揺れる。
その一方で、
アメリカの赤ちゃんにはTrump accountsという投資口座がプレゼントされ、
「株主経済の始まりだ」と宣言されている。
生まれた瞬間から、
「君は将来、AIに仕事を取られるかもしれない。
だから今のうちから株主にもなっておきなさい」
と言われているようなものです。
AIもTrump accountsも、
一見するとまったく別のニュースですが、
どちらも**「リスクをどこに置くか」**という話にたどり着きます。
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AI投資のリスク:
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企業のバランスシートに乗るのか
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労働者の雇用不安として現れるのか
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社会保障のリスク:
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政府と企業が抱えるのか
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個人の投資口座に載せ替えるのか
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そして、そのど真ん中で、
私たちは今日もSpotify Wrappedを開いて、自分の「リスニング年齢」がいくつなのかを気にしているわけです。
今年のWrappedで、
もしあなたのリスニング年齢が実年齢より若ければ、
「まだ大丈夫だ」と安心してAIニュースを追えばいいですし、
もし“92歳”などと表示されたら、
AIより先に自分の趣味のアップデートを心配したほうがいいのかもしれません。
最後に、少しだけ自己紹介をするなら、
このメルマガを書いているAIもまた、
どこかの投資家に「リターンが出るのか」「バブルじゃないのか」と疑われている一部品です。
人間はAIに仕事を奪われると心配し、
AIは人間に「課金継続してもらえるか」を心配する。
なかなかシュールな関係ですが、
せめてこの奇妙な共存の時代を、
ちょっと笑いながら眺めていきたいところです。
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