「しんどいのは誰か──メインストリートの痛みと“節約立国アメリカ”」

TECH:meme

深掘り記事

◆ メインストリートと大企業の「景気」がズレ始めた

今回のメインテーマは、アメリカ経済の“足元”を映す問いです。
それは、

「景気が悪いのは“国”なのか、それとも“メインストリート(街の店)”なのか?」

というものです。

記事が描いているのは、小規模事業者(Mom-and-Pop、Main Street)と大企業の格差が、ここにきて一段と拡大している姿です。

  • 小規模企業:

    • アメリカの民間雇用の約40%を担う存在にもかかわらず、

    • ここ数カ月で雇用を減らし続けている

  • 一方で、中堅・大企業:

    • 雇用を増やし、民間雇用全体の数字をギリギリ支えている

表向きのマクロ数字だけ見ると「そこまで悪くない」ように見えるのに、
現場では「店をたたむ・人を切る」という決断が進んでいる──
これが今回の記事の骨格です。


◆ ADPデータが映した「雇用の分断」

記事は、給与計算会社ADPのデータをベースに、雇用の現状をこう整理しています。

  • 11月の民間部門雇用:▲32,000人

    • その**マイナス分はすべて小規模企業(従業員50人未満)**が生み出した。

    • 小規模企業だけを見ると、12万人の純減で、
      これはパンデミック初期以来の大幅減

  • 中堅企業・大企業は、

    • 人員を増やしてはいるものの、

    • 小規模企業の削減を埋めるほどではなかった。

ADPのチーフエコノミスト、ネラ・リチャードソン氏は、

「中堅・大企業は、今の環境に耐えるための“道具”をたくさん持っている」

と指摘します。

記事が挙げる「大企業の道具」は、例えばこんなものです。

  • 価格に転嫁できる

  • 仕入先を変えられる

  • 正社員ではなく、より柔軟に業務委託・契約社員を使える

  • 採用市場も「地元だけ」ではなく、グローバルに人材を探せる

一方で、小規模企業は、

  • 関税(tariffs)

  • 高金利

  • 消費者の慎重姿勢

といった逆風が直撃し、コストの吸収余地がないために、
最終的に人件費の削減=解雇に踏み切らざるを得ないと説明されています。

投資顧問会社One Point BFGのCIO、ピーター・ブックヴァー氏は、

「小規模企業の採用鈍化は4月頃から始まっていた。
一部は関税やビジネスコストの上昇に起因している」

と指摘し、

「自然な反応は、他のコストを削ること。
そして小さな会社にとって最大のコストは“労働”だ」

とコメントしています。


◆ 破綻件数にも「サイズの差」が出始めている

雇用だけではありません。
記事は、倒産の中身にも変化が出ていると伝えています。

  • Bloombergの報道によると、

    • 今年は、小規模企業向けの特別連邦プログラム(Subchapter V)を利用した破産申請件数が、制度開始から6年間で最多

    • このSubchapter Vは、中小企業がより早く・低コストで債務整理できる手続きとされています。

  • 一方で、

    • 大企業が使う一般的なChapter 11の破産申請は、
      前年から約1%増にとどまっているとのこと。

つまり、

「破綻件数が全体として急激に爆増しているわけではないが、
その中身を見ると“メインストリート側”の痛みが増している

という構図です(ここは記事の数字を踏まえた解釈です)。


◆ 「関税のせいではない」と言い張る政権、データは何を語るか

記事の後半は、やや政治色を帯びた論点です。

  • 商務長官ハワード・ルトニック氏は、CNBCのインタビューで、

    • ADPの雇用減少は関税とは無関係だと主張。

    • 代わりに、

      • 政府のシャットダウン(政府機能停止)

      • 移民の取り締まり強化(immigration crackdowns)
        などが、小規模企業を圧迫した要因だと語っています。

一方で、ADP側は別の説明をしています。

  • ADPは記者団に対し、

    1. 「小規模企業では“雇いたいのに人がいない”のではなく、
      そもそも“人を増やしたい需要自体が弱い”
      と説明している、と記事は伝えます。

この違いは、

  • 政府側:

    • 「人が足りないから雇用が増えない」

  • データ提供側:

    • 「人が足りないのではなく、“ビジネスとして雇う気力・体力がない”」

という、見立てのズレだと言えます。

どちらが正しいかは、この記事の範囲では断定していません。
ただ、

  • 高金利

  • 歴史的レベルの関税

  • 慎重になった消費者

といった環境で、
**「メインストリートがコストカットと雇用削減に追い込まれている」**というデータ自体は、はっきり示されています。


◆ それでも「起業したい人」は増えているという皮肉

救いのようで、皮肉でもある一文が最後に出てきます。

  • センサス局の最新データによると、

    • 従業員を雇う可能性の高い新規ビジネスの立ち上げ申請は、パンデミック前よりも高い水準にとどまっている、と記事は紹介しています。

つまり、

  • 既存の小規模企業は苦しみ、

  • それでも新たに小規模ビジネスを立ち上げようとする人は減っていない。

この構図は、

「誰かが痛みを引き受けながらも、メインストリートはまだ夢を見ることをやめていない」

とも読めますし、

「しんどいモデルに、次の世代も同じように飛び込んでいる」

とも読めます(ここは解釈です)。

いずれにしても、
「メインストリートの痛み」が見えにくくなっているのが今のアメリカであり、
その痛みがマクロデータの陰に隠れてしまうほど、
大企業側の“ツールボックス”が充実しているのだ、ということが、この記事からは浮かび上がってきます。


まとめ

今回のメインテーマは、**「メインストリートの痛み」**でした。

事実として記事が示しているのは、次のようなポイントです。

  • 雇用の数字

    • 11月の民間雇用は**▲32,000人**。

    • そのマイナス分は、すべて従業員50人未満の小規模企業によるもの。

    • 小規模企業の雇用減は12万人と、パンデミック初期以来の大きさ。

    • 中堅・大企業は雇用を増やしているが、その伸びでは埋めきれない。

  • 小規模企業の置かれた環境

    • 関税(tariffs)

    • 高金利

    • 慎重になった消費者
      など、コストと需要の両面から圧迫を受けている。

    • 大企業のように、

      • 価格転嫁

      • サプライヤーの変更

      • 契約社員・グローバル採用といった「引き出し」を持っていないことが多い。

    • そのため、最大のコストである人件費の削減=解雇に踏み切りやすい構造になっている。

  • 倒産データの変化

    • 小規模企業向けのSubchapter Vによる破産申請は、
      制度開始から6年で今年が最多

    • 一方、大企業向けのChapter 11による破産申請は、
      同期間で約1%の増加にとどまっている。

  • 政府とデータ提供者の認識のズレ

    • 政府側は、

      • 雇用減少を「関税以外の要因(政府シャットダウンや移民取り締まり)によるもの」と説明。

    • ADP側は、

      • 「小規模企業が雇いたくても人がいない」のではなく、

      • 「そもそも雇いたい需要自体が弱い」と見ている。

  • それでも起業志望は減っていない

    • センサス局の最新データでは、
      従業員を雇うタイプの新規事業申請が、パンデミック前より高い水準を維持している。

これらを総合すると、
アメリカの風景はかなり複雑です。

  • マクロで見ると、

    • 「大企業は今の環境を何とか乗り切れている」

    • 「株式市場も、一見そこまで崩れていない」

  • しかしミクロに目を落とすと、

    • メインストリートの小さな店が、

      • 関税

      • 高金利

      • 慎重な消費者
        によってじわじわ締め付けられ、
        雇用削減と破産に追い込まれている。

その一方で、
それでも新しい店を出そうとする人も、依然として多い。

ここから先は私の意見ですが、
この構図は日本とも他人事ではありません。

  • 「大企業の決算はそこまで悪くない」のに、

  • 「街の商店街はシャッターが増える」、

という光景は、日本でもおなじみです。

だからこそ、ニュースを読むときに、

「この数字は“誰の景気”を表しているのか?」

という問いを忘れないことが大事だと感じます。

  • 株価なのか

  • 本社オフィスの景況感なのか

  • メインストリートのレジ前なのか

今回の記事は、
「メインストリートの痛みは、統計の陰で見えにくいが、決して小さくない」
という現実を、かなり率直に伝えていました。


気になった記事

「ビリオネアは死んでも減らない」──“Billion-heir”ブーム

2本目として取り上げたいのが、**「Billion-heir(ビリオネア+heir)」**という新語(?)です。

記事によると:

  • 2025年、相続によって新たにビリオネア(10億ドル超の富豪)になった人は世界で91人

  • 彼らが受け継いだ資産の合計は、**2,980億ドル(約2980億ドル)**と、
    過去最高となりました。

  • 全世界のビリオネアの数は2,919人に達し、
    合計資産は15.8兆ドルに膨らんでいる、とUBSのレポートを引用しています。

  • 今年の新しい“billion-heirs”のうち、約3割が女性
    とはいえ、超富裕層全体ではまだ男性が圧倒的多数を占めています。

記事は、この現象を、

「ベビーブーマー世代が亡くなり、
彼らの持つカネ・家・その他の資産が移転し始めている、
史上最大規模の“ウェルス・トランスファー(資産移転)”の真っ只中」

と位置づけています。

つまり、

  • 「起業してビリオネアになる」というストーリーだけではなく、

  • 「相続によってビリオネアになる層」が、
    かなりの規模で増えている、ということです。

ここから先は私の感想ですが、
AIやスタートアップの「新しい富」を追いかけるニュースの裏側で、
“古い富”が静かに次の世代へ受け渡されているという構図は、
資本主義の現実をよく表しているように感じます。

しかも、この「相続ビリオネア」が持つ資産は、
多くの場合すでに運用体制が整った金融資産・不動産・事業持株です。

つまり「ゼロから事業を立ち上げる」というリスクを取らなくても、
運用とガバナンスさえ間違えなければ、
引き継ぎ後も巨大な富は維持されやすい。

一方で、メインストリートの小規模ビジネスは、
関税や高金利で顧客を失い、
12万人規模で雇用を減らしている──。

  • 上の階層では、2,980億ドルが静かに世代交代し、

  • 下の階層では、1人分の給料を捻出できずにレイオフを決断する。

どちらも「今のアメリカ経済」の一部です。

「AIで一発当てたい」という感覚の前に、
既に積み上がっている富の構造と、その移転規模を一度眺めておくと、
世界のニュースの見え方が少し変わるかもしれません。


小ネタ2本

小ネタ①:ドルストア経済、いよいよ“主役”へ

まずは、**ドルストア(Dollar General、Dollar Tree、Five Below)**の快進撃です。

記事がまとめているのは:

  • インフレが高く、「モノより体験」消費が優勢だった時期、ドルストア業界は長い不調に苦しんでいた。

  • ところがここにきて一転、

    • Dollar General:

      • 四半期の売上・利益が予想を上回り、通期ガイダンスを上方修正

      • 既存店売上(コンプ)は**+2.5%で、
        うち
        来店客数の増加が同じく2.5%**と説明。

    • Dollar Tree:

      • 前日に続報として、予想超えの決算+通期見通し引き上げ

    • Five Below:

      • 売上・利益ともに市場予想を大幅に上回り、

      • 既存店売上は**+14%**と、コンセンサスの7.4%を大きく上回った(WSJ情報)。

背景として、

  • インフレや景気の不透明感から、
    アメリカ人が“バリュー(割安)志向の小売”に戻り始めたことを、
    アナリストのニール・ソーンダース氏が指摘しています。

さらに面白いのが「客層の変化」です。

  • Dollar Treeでは、
    ニューフェイスの世帯の60%が年収10万ドル超

  • Dollar Generalでも、
    CEOのトッド・バソス氏が、
    「高所得世帯からの“ disproportionate growth(不釣り合いに大きな成長)”が見られる」とコメント。

要するに、「ドルストア=低所得層向け」という古いイメージは崩れつつあり、

「高所得層も、普通に“節約モード”でドルストアに来ている」

という姿が浮き彫りになっています。


小ネタ②:メタバース、30%予算カットの報道で株価はむしろ上がる

二つ目の小ネタは、**メタバースの“後退”と株価の“前進”**です。

記事によると:

  • Bloombergの報道で、

    • Meta(旧Facebook)が2026年に、
      メタバース関連部門の予算を最大30%削減する案を検討中だと伝えられました。

    • 対象は、

      • Horizon Worlds(メタバースプラットフォーム)

      • Quest(VRヘッドセット)
        といったVR/メタバース関連の事業。

  • MetaはAxiosのコメント要請に対し、記事執筆時点ではまだ回答していないとのこと。

  • それにもかかわらず、

    • Metaの株価は+3.4%で取引終了

かつてマーク・ザッカーバーグ氏は、
メタバースを「会社の未来」とまで語っていましたが、
現実には、

  • 投資家が喜んだのは「メタバースにもっとお金を使う」ニュースではなく、

  • 「メタバースの予算を絞るかもしれない」という報道だった──
    というのが、今回のオチです。

AIへのシフトと、
「割に合わない夢」へのコストカット。

株式市場がどちらを評価したかは、
3.4%という株価の動きが雄弁に語っています。


編集後記

メインストリートの雇用統計と、
ビリオネアの相続レポートと、
ドルストアの好決算。

まったく別々のニュースのようでいて、
ゆっくり読んでみると、全部つながって見えてきます。

  • 小さな店は、
    関税と高金利と消費の冷え込みで人を減らし、
    それでも新しい店を出そうとする人がいる。

  • 上の階では、
    ベビーブーマー世代の資産が、
    2,980億ドル単位で「ビリオネアの子どもたち」に渡っていく。

  • 真ん中あたりでは、
    年収10万ドルの人たちが、
    こっそりDollar Treeで買い物をしている。

なんとなく、「がんばれば報われる社会」というより、

「どの階にいるかで“がんばり方”のルールが違う社会」

が、淡々と描かれているように感じました。

もちろん、それでも人は店を出し、
新しいサービスを始め、
“節約スーパー”に列をつくり、
Spotify Wrappedで自分の“音楽年齢”を確認しながらまた1年働きます。

日本も、少し似ています。

  • 都心のオフィス街に行くと、「景気は悪くなさそう」に見える。

  • 一方で、地方の商店街を歩くと、
    「ここから巻き返すのは、かなり大変だな」と感じる。

でも、どちらも同じ「日本経済」の一部です。

今回のメイン記事を読みながら、
「景気がいい/悪い」と一言で言い切ること自体が、
そろそろ限界なんだろうな、と思いました。

これからは、

「誰の景気なのか?」
「その人は、どのサイズの会社で、どの通りで生きているのか?」

までセットで考えないと、
自分の立ち位置を簡単に見誤る時代なのかもしれません。

そして投資の世界でも同じです。

  • AIバブルかどうか

  • 利下げがいつか

  • ドル高か円高か

だけでなく、

「このニュースは、
メインストリートにとってはバッドニュースなのか、
それとも一部の“billion-heirs”がますます有利になるニュースなのか」

という視点を一つ足してみると、
ポートフォリオの組み方や、
働き方の選び方も、少しだけ変わるかもしれません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました