こんにちは。年末の空気って、仕事の手は止まるのに請求書だけは止まらないですよね。
そんな中、欧州EV市場では“静かな非常事態”が進行しています。
今日のテーマはこれです。
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フォードはなぜルノーを頼ったのか
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中国勢(BYDなど)が欧州で伸びるのは、価格だけの話なのか
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そして、同じ「アルゴリズム」が社会をどう変えつつあるのか(SNS年齢制限/価格差/昇進意欲)
ではいきます。
深掘り記事
フォード×ルノー連合は「生存戦略」──欧州の小型EVは“別競技”だった
まず事実:フォードは欧州で負けている
今回のニュースの核心は、フォードCEOジム・ファーリーの発言に全部入っています。
「a fight for our lives(生き残りをかけた戦い)」。
実際、数字は厳しいです。
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フォードの欧州乗用車シェア:2015年 7.2% → 今年(10月まで)3.3%
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中国勢(BYD、SAICなど)の欧州市場シェア:2025年Q3で6.7%
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低迷の結果、ドイツ工場で**5,000人削減(2024年開始)**を発表済み
ここまで落ちると、「気合い」では埋まりません。構造の問題です。
ルノーが“救援”に見える理由(事実)
両社は、ルノーが設計した小型EVをベースに、
**フォードのデザイン/走り(ドライビングダイナミクス)**の知見を注入し、
2028年から欧州ディーラーで小型・手頃なフォードブランドEVを展開すると発表しました。
さらに、乗用車だけでなく、
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商用バンの共同生産も検討(欧州ではフォードの稼ぎ頭)
という“本丸”まで含めた提携です。
つまりこれは「1車種の協業」ではなく、欧州での再起動の話です。
なぜ“自前”で作らないのか(意見)
ここが一番ビジネス的に重要です。
フォードがルノーに頼ったのは、たぶん能力不足ではなく、時間と採算の制約です。
欧州の小型EVは、アメリカ的な「デカいSUVで利益を取る」モデルと違い、
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車体が小さい(=価格が上げにくい)
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でもデジタル機能は求められる(=コストがかさむ)
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道路事情が違う(=“走り”と取り回しが必須)
という別競技になっています。
その競技に「2028年までに勝てるプロダクト」を、ゼロから全部自前で作るのは、コスト的にも時間的にも分が悪い。
だからルノーのプラットフォームで“近道”する。
これは屈辱ではなく、合理です。
中国勢の強みは「安い」だけではない(事実+意見)
記事では、中国メーカーが
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安い
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デジタル機能が充実
で欧州顧客を獲得している、とあります。
ここから言えるのは、勝負軸が「エンジン性能」から
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価格設計
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ソフトウェア体験
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車内UI/機能の分かりやすさ
へ移っているということです(意見)。
フォードが“走り”と“デザイン”を強調しているのは、
中国勢が強い「デジタル装備競争」を正面から殴り合わないためにも見えます。
2028年は遅い? それでも意味がある(意見)
正直、「2028年から」というのは遅く見えます。
ただ、これは“攻めの新製品”ではなく、欧州で撤退しないための防衛ラインです。
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ここで小型EVを用意できなければ、
欧州でのフォードは「商用車だけのブランド」に縮む可能性が高い。 -
逆に、小型EVで土俵に残れれば、
商用車(バン)と合わせて、収益の柱を二本にできる。
フォードが狙っているのは、たぶん「派手な逆転」ではなく、
“市場に居続ける権利”の確保です。
ビジネスパーソン向けの学び(意見)
この話、製造業だけの話ではありません。
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競争が激化した市場では「自前主義」は美徳ではなくリスク
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強い領域に集中し、弱い領域は提携で埋めるのが生存戦略
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「勝つ」より先に「死なない」を設計する
年末に刺さる教訓です。まず生き残る。次に勝つ。
まとめ
フォードは欧州での存在感を急速に失っています。乗用車シェアは2015年の7.2%から、今年(10月まで)3.3%へと半減以上。一方でBYDやSAICなど中国勢は、安さとデジタル機能を武器に2025年Q3時点で6.7%のシェアを握り、欧州の道路事情(狭い石畳、取り回し)に合った“手頃な小型車”領域で存在感を高めています。フォードは販売不振を受け、ドイツ工場で5,000人削減(2024年開始)も発表しており、CEOは「生き残りをかけた戦い」と表現しました。
そこでフォードは、ルノーと組み、ルノーが設計したコンパクトEVをベースに、フォードのデザインや走行性能の知見を織り込んだ「小さくて手頃なフォードEV」を2028年から投入する方針を示しました。さらに欧州での稼ぎ頭である商用バン領域でも共同生産を検討します。これは単なる車種協業ではなく、欧州で市場に“居続ける”ための再起動策です。
見方を変えると、欧州の小型EV市場は「大きい車で利益を取る」米国型モデルとは別競技で、価格・ソフト体験・UIが勝負軸になりつつあります。フォードが自前での巻き返しではなく提携を選んだのは、時間と採算の制約を踏まえた合理的な防衛策とも言えます。派手な逆転より、“撤退しないためのライン”を引く。そこに今回の提携の本質があります。
気になった記事
豪州「16歳未満SNS禁止」開始──世界が実験台を見ている
オーストラリアで、16歳未満のSNS利用を全国規模で禁じる措置が水曜に施行されました。対象はInstagram、TikTok、Snapchat、YouTube、X、Reddit、Kick、Twitch、Facebookなど。政府によれば、8〜15歳の約86%がSNSを利用しており、結果として100万超のアカウント停止が必要になります。
企業側には年齢確認の導入が義務付けられ、繰り返し違反すれば最大約3,200万ドルの罰金。年齢確認はライブ自撮り動画や公式書類、メール認証など多様ですが、すでに「誤判定」「VPNで回避」といった問題も報告されています。
支持も強く、2024年のYouGov調査では77%が賛成。いじめ対策やメンタルヘルス保護を理由にする一方、プラットフォーム側や言論の自由擁護派、一部の親や若者は「プライバシー侵害」「より危険な場所へ追いやる」と反発し、15歳の若者2名が法的措置も進めています。
重要なのは、他国(デンマーク、マレーシア、ノルウェーなど)も導入を検討しており、豪州の結果が“輸出可能な政策モデル”になるかが注視されている点です。成功なら広がる。失敗なら“禁止の副作用”も含めて広がる。実験は始まりました。
小ネタ2本
小ネタ①:Instacartの「人によって値段が違う」問題
Consumer Reports等の調査で、Instacartが同じ商品でも利用者によって価格が違うケースが約75%あったと報告されました。AI企業Eversight(Instacartが2022年買収)の価格ツールで、顧客の価格感応度を試している可能性があるとのこと。結果として年間最大1,200ドル負担増になり得る、と。しかもCostcoとのメールで「smart rounding」と呼んでいたのが“誤送信”で露見。
便利さの代償が、レシートの胃もたれになってきました。
小ネタ②:「女性が昇進したがらない」ではなく「支援が減った」
McKinseyとLeanIn.orgの新報告で、女性は全キャリア段階で男性より昇進意欲が低い“ambition gap”が示されました(例:エントリー女性69% vs 男性80%)。ただし理由は「野心がない」ではなく、支援が減ったから。DEI縮小や出社回帰が成長機会を削り、LeanIn CEOは「企業が女性へのコミットを後退させているシグナル」と述べています。
組織は“言ってないこと”で本音が伝わります。怖いですね。
編集後記
欧州でフォードがルノーに助けを求めた話、私はけっこう好きです。勝者のストーリーじゃないから。
ビジネス記事って、だいたい「勝った」「伸びた」「世界を変える」みたいな、元気のいい話で埋まります。でも現実は、もっと地味で、もっと切実です。シェアが落ちる。工場の人員を減らす。競争相手は安くて機能が盛り盛り。おまけに道は狭いし石畳。そこに「プライド」だけ持ち込んだら、たぶん負けます。
だから提携する。得意なもの(デザイン、走り、商用車)に寄せ、足りないところ(小型EVの設計・コスト)を借りる。これは敗北宣言ではなく、**延命ではなく“再配置”**です。会社も人も、勝つ前にまず生き残らないと次がない。
同じ空気はSNSにもあります。豪州の16歳未満禁止は、子どもを守るための政策ですが、年齢確認はプライバシーと衝突し、VPNで抜け道もできる。Instacartの“人によって値段が違う”は、最適化の顔をした不信の増幅装置にもなる。アルゴリズムは便利ですが、社会の摩擦も一緒に最適化してしまう。
年末って、未来の話をしがちです。でもまずは足元です。
「勝てる形に自分を置き直す」——それが来年いちばん効くスキルかもしれません。
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