「AIバブルですか?」って、最近いろんな場所で聞かれます。
で、面白いのはここからです。
ウォール街は“バブルとは言ってない”。
でも同時に、**“ヘッジ(保険)を入れよう”**と真顔で言い出しています。
つまり、こういうことです。
「勝ちに行く顔をしながら、負けた時の言い訳(=保険)も準備してる」。
今日のメルマガは、2026年相場の“空気”を一枚はがして、
AI相場の延長線上で何が怖いのか/何を守ろうとしているのかを整理します。
深掘り記事
「AIバブルじゃない」×「保険は必要」──この矛盾が2026年の地図
■ 事実:ウォール街は“AIバブル認定”していない
2026年の見通しについて、複数のストラテジストや投資家の会話を総合すると、
**「AIはバブルではない」**が基本姿勢です。
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バンク・オブ・アメリカの米株戦略責任者サヴィタ・スブラマニアンは、過去バブルの分析から米国株のテックは“まだ堅調”としつつ、「AIのエアポケット」(空白=急な下押し局面)には注意としています。
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一方で、S&P500の2026年末予想は**7,269(現状比+約6%)**という見立ても出ており、上昇は想定しつつも、2023年初来+80%の上昇と比べると「控えめ」です。
ここまでが“表の顔”です。問題は“裏の顔”。
■ 事実:2025年はヘッジが報われにくかった。でも2026年は空気が違う
ヘッジ(下落時の保険)は2025年に利益になりにくかった。
それでも2026年に向けて「保険を付けたい」という空気が濃くなっています。
理由はシンプルで、不確実性の種類が増えたからです。
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マクロの不透明感
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AI相場への疑念(バブルというより“期待の検証フェーズ”)
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そして労働市場の亀裂(後述)
JPMorganのチーフ・グローバル・ストラテジスト、デービッド・ケリーの言葉が刺さります。
「多くの年はリターンを増やす工夫だが、今年はリスクを減らす工夫になる」。
これは“相場が弱気になる”というより、
**「上がる前提で乗る。ただし落ちた時に致命傷は避ける」**という態度です。
■ 事実:みんな“強気”でいたい。なぜなら「キャリアリスク」がある
RBCのデリバティブ戦略責任者エイミー・ウー・シルバーマンが紹介した顧客の言葉が象徴的です。
「自分はフルインベストのベアだ。ポートフォリオは強気に見えるが、AI株を持たないのはキャリアリスクだ」
これ、投資の世界ではよくある“本音”です。
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本心:怖い
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建前:持たないと置いていかれる
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対処:持ちながら、保険を買う
この構造が、2026年の相場のクセを作ります。
■ 2026年の“怖さ”は、AIそのものより「亀裂がどこから来るか」
ケリーの皮肉が分かりやすい。
「2026年に顔面に飛んでくるもののリストを作るなら、1行目は空白にしておけ」
予測できないものが来る、と。
ただし、記事中で“見張っているもの”は2つ挙がっています。
1)AIラリーの“ひび”
AIはバブルじゃない、という建前を保ちながらも、
企業側は「その高い期待に答えろ」という**“検証”**に入っています。
ここで重要なのは、**疑われているのは技術ではなく“回収(ROI)”**です。
AI導入で「コスト削減」までは行けても、
「売上拡大」まで示せない企業が増えると、相場の熱が冷める余地がある。
2)労働市場の弱さ(これが意外と相場に効く)
労働市場の弱さは、個人投資家に効く。
記事では、個人投資家が日次売買の約4分の1を占める、とされています。
雇用の不安は、
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消費を冷やす
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リスク資産の保有意欲を削る
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「下がったら耐えられない層」が投げやすくなる
という形で、相場の“下の支え”を薄くします。
■ 2026年の主役候補:「忘れられた493」
ここからが、投資家にとって実務的に一番大事です。
2026年は、S&P500の中でも巨大テック(いわゆるコアAI銘柄)だけでなく、
**残りの大多数=“忘れられた493社”**が見直される、という見立てが出ています。
Janus Hendersonのマーク・ピントは
**「競争環境は“AIを最も早く取り入れる企業”によって決まる」**と言っています。
つまり、来年の評価軸はこうなる可能性がある。
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**AIを“作る”企業(リーダー)**から
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**AIを“使い倒して儲ける”企業(スーパーユーザー)**へ
候補に挙がるセクターとして、記事は
ヘルスケア、一般消費財、資本財(インダストリアル)、金融を挙げています。
ここは意見ですが、
この流れは「AI相場が終わる」ではなく、
**AI相場が“拡散する”**と見る方が近いです。
中心だけが燃える相場から、周辺にも火が回る相場へ。
■ そして“矛盾の補足”が債券と銀
株が強気、AIもバブルじゃない。なのに、なぜ“守り”が流行るのか。
その答えは、別記事がきれいに言語化しています。
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2025年、米国債(10年超)のトータルリターンは**+5.4%**(Morningstarの米10年超国債指数)
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ベッセント財務長官は「これは米経済の強さの反映」と語る
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しかし記事は、債券リターンは景気と逆相関することが多いと釘を刺します
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例:2008年 米国債+20.1%(世界経済が崖から落ちた年)
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例:1982年 米国債+32.8%(失業率10%超の痛い景気後退)
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つまり、債券が儲かる年は、必ずしも“幸せな年”ではない。
**「債券高=安心」ではなく、「債券高=不安の反映」**のこともある。
そして銀。
スポット銀は**$60/ozを突破**し、上昇が続いている。
「2026年は大丈夫」と言いながら、**安全資産(かつ工業用途もある)**に資金が入る。
ここに、投資家の本音が出ています。
■ 用語メモ(専門用語に注釈)
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ヘッジ:下落に備える保険(オプション等を使うことが多い)
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エアポケット:材料がなく急に空洞化するような下落局面
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AIスーパーユーザー:AIを使い倒して利益や売上に変える企業
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トータルリターン:利息(配当)+価格変動を合算した収益
まとめ
2026年に向けてウォール街は「AIはバブルではない」という立場を基本に置きつつ、同時に「念のためのヘッジ(保険)を増やす」方向に動いています。2025年はヘッジが報われにくかった一方、2026年はマクロ不確実性とAI期待の検証局面が重なり、「保険を付けずに乗るコスト」が上がったと見られているからです。実際、ストラテジスト予想ではS&P500の2026年末は7,269(現状比+約6%)と上昇を見込む声があるものの、2023年初来の+80%上昇と比べれば控えめで、強気の中に懐疑が混ざっています。RBCが紹介した「フルインベストのベア(持っているが内心弱気)」という表現は、AIを持たないことがキャリアリスクになり得る市場心理を示します。
警戒されているのはAIそのものより「どこから亀裂が入るか」です。AI投資の回収(ROI)に対する“示せ”圧力が強まり、労働市場が弱れば個人投資家(売買の約4分の1)が揺れ、相場の下支えが薄くなるリスクがあります。一方で2026年は「忘れられた493社(巨大テック以外)」が主役になり得るという見立てもあり、AIリーダーからAIスーパーユーザー(AIを使って稼ぐ企業)へ評価が拡散する可能性があります。さらに、米国債が2025年に+5.4%と好調だった一方で、債券リターンは景気と逆に動くことが多い点、銀が$60/ozを超えて上昇している点は、「楽観の中でも守りを欲する」投資家心理を映しています。結論として2026年は、上昇を追いながらも“致命傷を避ける設計”が主戦場になりそうです。
気になった記事
「債券が儲かった=景気が強い」ではない。ベッセント発言の落とし穴
ベッセント財務長官は「米国債投資家は今年強いリターンを得た。これは米経済の強さの反映だ」と語りました。確かに数字として、Morningstarの米10年超国債トータルリターン指数で2025年は**+5.4%と、2020年以来の高い水準です。リターンは利息収入に加え、金利低下による債券価格上昇でも生まれます。実例として、10年債利回りは2024年末の4.57%から足元4.17%へ低下し、保有債券価格が上がった形です。
ただし記事が強調するのは、債券リターンは景気と逆に動くことが多い点です。最たる例が2008年(米国債+20.1%)。世界経済が崖から落ち、安全資産に資金が殺到した結果でした。さらに1982年(+32.8%)**は失業率10%超の痛みを伴う景気後退の渦中でした。逆に、景気が良いと金利が上がり、債券価格が下がってリターンがマイナスになる年もあります(例:1999年-8.3%、1987年-5%)。
要するに「債券が上がった=強い経済」という単純化は危険で、債券は成長・インフレ・Fed政策・ドル資産需要など複数要因で動きます。債券高は安心材料のこともあれば、不安の裏返しのこともある。投資家側は“景気の採点表”としてではなく、“不確実性の温度計”として読むのが実務的です。
小ネタ2本
小ネタ①:2026年の主役は「AIを作る会社」より「AIを使って儲ける会社」?
2026年は“忘れられた493社”が来る、という見立てが出ています。巨大テックが引っ張った相場が、次は「AIを最速で採用した企業」に広がるかもしれない、と。候補として挙がるのがヘルスケア、消費、インダストリアル、金融。言い換えると「AIの恩恵が“供給側(作る)”から“需要側(使う)”に回ってくる相場」です。
ただし現実は「証拠を見せろフェーズ」。コスト削減だけでなく、売上を作れるか。ここが来年の採点基準になりそうです。
小ネタ②:銀が突破。みんな“平気”って言いながら保険を買ってる
銀が1オンス**$60**を超えて上昇。安全資産っぽい顔をしつつ、銀は工業用途も強いのがミソです(デジタル経済の部材にも絡む)。つまり「守り」と「需要」の二重取りができる。
面白いのは、投資家が口では「2026年は大丈夫」と言いながら、行動ではこういう“保険っぽいもの”を増やしている点。相場って、発言よりポジションが本音です。
編集後記
「AIはバブルじゃない」って、まあ言いますよね。言い方としては一番ラクです。強気を否定しないし、楽観もしすぎない。何より、当たっても外れても致命傷になりにくい。
でも今回の記事を読んでいて、いちばん人間くさいと思ったのは、そこじゃありません。“ヘッジしたい”という空気です。これ、要は「怖い」ってことなんですよ。怖いけど、降りたくない。むしろ降りる方が怖い。キャリアリスクって言葉が出てくるのは、相場が“共同体”になってる証拠です。村八分が嫌だから祭りには参加する。でも山車が倒れた時のために、ヘルメットはかぶる。
2026年の相場は、たぶんこのノリです。「勝ちに行く」より「死なない」。ここがテーマになる。
それにしても、債券の話がいいですよね。債券が儲かった年は、必ずしも世の中が良い年ではない。2008年みたいに“世界が落ちた”から儲かることもある。政治家のコメントは基本ポジショントークなので、私たちは「その言葉が誰に向けられているか」を見る。トップボンドセールスマン、という自虐が出てくるのも、分かりやすい。
そして銀。みんな「平気」って言いながら、こっそり守りを厚くする。この矛盾が、相場のリアルです。人間って、希望で生きて、恐怖で保険を買う生き物なんだなと。
来年はたぶん、派手な銘柄当てより、「何が起きても継続できる形」の方が価値が出ます。相場は当てものですが、人生は持久走ですから。
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