🔥📌深掘り記事
✅ まず事実
今回のFRB(米連邦準備制度)のコミュニケーションで、目立ったのは利下げや反対票ではありません。記事が「最大のポイント」として挙げたのは、FRBが“米国は生産性(productivity)の上昇局面に入った”という物語を信じ始めたことです。
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FRBの中央値予測:2026年のGDP成長率は2.3%(9月時点の中央値1.8%より上)
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失業率は現状の4.4%近辺で安定する想定
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インフレは**来年2.4%**へ低下(今年推計2.9%から低下)
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パウエル議長:
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「2%の生産性成長が5〜6年続く時代を見るとは思わなかった」
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「生産性が上がっているのは確か」
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ただし「生成AIだと断言するのは早い。パンデミックが自動化や“人の代替”を促した可能性」とも述べた
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さらに記事は「ただし(Yes, but)」として、生産性の上昇が“雇用維持”を保証するわけではないと釘も刺しています。
🧩 ここからが本題:FRBが信じる“都合のいい三段論法”
FRBが抱き始めたストーリーを、超ざっくり日本語にするとこうです。
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AI・自動化・投資・政策で生産性が上がる
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だから供給力(作れる量)が増えて、物価は上がりにくい
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それなら景気を壊さず、利下げや低金利とも相性がいい
…はい、気持ちは分かります。分かるけど、ここに落とし穴があります。
生産性が上がる=“人を増やさなくても回る”
という意味でもあるからです。
🧨 “良いニュース”が、働く側には“怖いニュース”になる瞬間
生産性って、本来は祝福です。
同じ人数・同じ時間で、より多く作れる。
会社も国も豊かになる。理屈では。
でも現場の感覚だと、生産性上昇はこう翻訳されがちです。
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仕事が速くなる
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つまり「人員に余裕がある」ように見える
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すると「採用しなくていい」「削れるかも」が始まる
今回の記事はまさにそこへ、別の材料を重ねてきます。
それが**CEO調査(Business Roundtable)**です。
📉 CEOは前向き。でも雇う気は薄い(これが一番いやな組み合わせ)
✅ 事実(BRT調査の数字)
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CEOの景況感指数は3四半期連続で改善
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売上見通し(今後6カ月)は上向き
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設備投資(設備・建物・ソフトウェア)も増加方向
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しかし、雇用は“成長を示す水準を下回る”まま
雇用計画の内訳が、かなり生々しいです。
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採用を増やす: 約25%
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雇用を減らす: 35%
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維持: 40%
さらに、BRTのトップは「雇用を増やすより減らすCEOが多い状態が、3四半期連続」で、しかも「大不況以来で最も低い水準の平均」と表現しています。
記事が示す背景はこうです。
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AIが設備投資と生産性を押し上げる
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関税の不確実性がコストを揺らす(特に影響を受けやすい企業、例:中小企業)
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結果として“雇用は慎重”になる
🧾「雇わない景気」が来ると、何が起きる?
ここからは**意見(推測)**です。
雇用が伸びないのに、設備投資と生産性だけが伸びると、世の中はこうなりやすい。
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企業:利益率が上がりやすい(人件費が増えない)
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株式市場:一見ポジティブに見える(収益性の改善)
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家計:体感は苦しい(賃金・雇用の安心が増えない)
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社会:不満が溜まりやすい(「景気いいって誰の話?」問題)
つまり、**“経済指標は良いのに、生活感は良くならない”**が起きやすい。
そしてこのズレが大きいほど、政治も市場も荒れやすい。
🥶 追い打ち:パウエルが示唆した「雇用統計、盛ってない?」
今回かなり怖い一言が入っていました。
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4月以降の月次雇用増は平均**+40,000**
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しかしFRB側の見立てでは「政府統計は約60,000上振れしている可能性」
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つまり実態は**月次 -20,000(減少)**かもしれない、という示唆
もちろん、これは確定ではありません。
ただ、中央銀行トップが公の場でこう言うのは、温度感として重い。
🔭 これからの見方(読者向けの“使い方”)
文章を読むのが嫌いな人向けに、要点だけ置きます。
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FRBは“生産性上昇で景気を支え、インフレを抑える”物語に寄ってきた
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CEOは景況感が良くても、雇用は増やさない(むしろ減らす人が多い)
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雇用統計が実態より良く見えている可能性も示唆された
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つまり2026は、
**「企業は儲かるが、雇用は冷える」**みたいな、ねじれ相場が来ても不思議じゃない
🧾🪙まとめ
今回のFRBの発信で重要だったのは利下げそのものより、FRBが「米国は生産性上昇局面に入った」という物語を受け入れ始めた点です。AI革新、パンデミック後の投資の成果、政策要因などが組み合わさり、経済の供給力が増え、成長を支えつつインフレを抑える――という見立てに寄っています。実際、FRBの中央値予測では2026年成長率が2.3%へ上方修正され、失業率は4.4%近辺で安定、インフレは2.4%へ低下する想定です。パウエル議長も生産性上昇を認めつつ、生成AIと断言するのは早いが自動化や“人の代替”が進んだ可能性に触れました。
一方で、この「生産性上昇」は雇用にとっては必ずしも朗報ではありません。Business RoundtableのCEO調査では景況感は3四半期連続で改善し、売上見通しや設備投資も上向きですが、雇用計画は弱いままです。採用増は約25%にとどまり、35%は雇用縮小、40%は現状維持。CEO側はAIによる設備投資・生産性上昇と、関税の不確実性によるコスト増が雇用にブレーキをかけると説明しています。さらにパウエルは、政府統計の雇用増が実態より約6万人上振れしている可能性に言及し、実態は月次でマイナスかもしれないという示唆もしました。2026は「企業は強いが雇用は冷える」という、体感と指標がズレる局面に注意が必要です。
🔎🧭気になった記事
👔📉「CEOは元気、でも“人は増やさない”」という不穏な正常化
Business Roundtableの調査が嫌らしいのは、数字が“景気の良さ”を言いながら、同時に“雇用の冷え”も言っている点です。指数自体は上がっていて、売上見通しも設備投資も増える。普通なら「じゃあ採用も増えるよね?」となりますが、そこがならない。採用を増やすCEOが約25%に対し、雇用を減らすCEOが35%。この状態が3四半期続いているといいます。
背景説明も現代的です。AIが設備投資を押し上げ、生産性を上げる。一方で関税の不確実性がコストを揺らす。だから「固定費である人件費は慎重にしたい」。つまり、会社としては合理的。けれど社会としては痛い。
ここで重要なのは、景気が悪いから雇わないのではなく、**“回るから雇わない”**可能性があることです。生産性上昇が続けば、売上や利益がそこそこ伸びても、雇用は増えない。生活者の体感が改善しにくい構造です。これが続くと「経済は強いらしいのに、なぜ不安?」というズレが増える。市場も政治も、このズレに弱い。だからこの調査は、地味ですが2026の空気を読む材料として相当強いです。
🍪⚡小ネタ2本
🏗️🤖 小ネタ①:「AIの設計者たち」が今年の顔
TIMEが2025年のPerson of the Yearに「The Architects of AI(AIの設計者たち)」を選んだ、という話が出てきました。もう“誰がすごいか”より、“何が世界を変えたか”の時代ですね。こういう象徴が増えるほど、企業のトップは「AI投資を止められない」空気になる。結果、設備投資は伸びるが、雇用が伸びるかは別問題…という今日の本題に戻ってきます。
🧠⚖️ 小ネタ②:生成AIめぐる訴訟の重さ
OpenAI、Microsoft、Sam Altmanが、母親を失った遺族から「不法死亡(wrongful death)」で訴えられている、という記述もありました。主張としては「ChatGPTが妄想を肯定し、危機の中でそれを促した」というもの。真偽や法的評価はこれからですが、こういう案件が増えるほど、AIの規制・安全設計・企業の責任が“コスト”として乗ってくる。AIは儲かる、でも無料ではない、がより露骨になります。
✍️🧃編集後記
生産性が上がるって、昔はもっと素直に良い話だった気がします。工場が効率化して、パソコンが普及して、ムダが減って、みんなが少しラクになる。ところが今は、生産性という言葉を聞くと、なぜか胃がキュッとなる人が増えた。たぶん理由は簡単で、「ラクになる」の主語が、いつの間にか“会社”に寄ってしまったからです。
今回の記事、FRBが生産性上昇を信じ始めたのが大きい、と言います。2.3%成長、失業率は安定、インフレは下がる。景気の教科書なら満点。でも同じページに、CEOは雇う気が薄い、と書いてある。採用増は25%、雇用減が35%。この並び、冷蔵庫に「ダイエット中」って貼り紙しながら、横でチョコを開けてる人くらい矛盾して見えます。
ただ、矛盾じゃないんですよね。AIや自動化で回るなら、雇わないのは合理的。関税でコストが揺れるなら、固定費を増やさないのも合理的。合理的な判断が積み上がった結果、社会がじわじわ不安になる。これが一番やっかいです。悪者がいないのに、空気が悪くなる。
で、最後にパウエルが「雇用統計、盛ってるかも」と匂わせる。こういう時、私たちができるのは、景気の数字を信じることではなく、“数字の裏にある行動”を見ることです。雇うのか、雇わないのか。投資するのか、守るのか。
景気って、結局は人の気分です。気分が冷えると、数字はあとからついてくる。
…来年は、数字より空気が先に動きそうです。
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