🧠🌙深掘り記事
株は本来、企業の価値をじっくり測る“投資”の舞台でした。ところが最近、舞台装置のほうが先に進化して、観客(投資家)の呼吸が追いついていません。象徴が二つあります。ひとつはナスダックの「平日23時間取引」構想。もうひとつはロビンフッドが推し進める「予測市場×AI」の融合です。どちらも、要するに“眠るな、考えるな、回せ”という世界観に寄っていきます。
【事実】として、ナスダックは今週、規制当局に対し平日23時間の取引に移行する許可を求めたとされています。現在でも通常取引(米東部9:30〜16:00)以外に時間外があり、合計16時間は開いている。それを、2026年Q3(第3四半期)から、夜9時〜翌朝4時の新セッションを追加したいという話です。狙いは分かりやすい。世界中の投資家はニュースの時間帯が違うし、深夜に大きな材料(決算・政策・地政学)が落ちることもある。スマホで取引できる時代に「市場だけ寝ている」のは不自然、という理屈です。しかも競争相手もいます。ニューヨーク証券取引所(NYSE)も22時間化を検討、ロビンフッドのようなプラットフォームはすでに夜間取引を提供している。市場は、構造的に“長時間化”へ引っ張られています。
ただ、問題は「便利になる」だけでは終わらないことです。時間が伸びると、流動性(=同時に参加している売買の厚み)が薄くなる時間帯が必ず生まれます。薄い板で売買すると、ちょっとした注文で価格が飛びやすい。つまり値動きが荒れやすい。さらに、決算のような重い情報が出たときに、従来は“時間外→翌営業日に整理”というクッションがありましたが、23時間取引だとクッションが薄くなる。落ち着いて考える時間が減り、反射神経の勝負が増える。記事中でも、ウェルズ・ファーゴのトレーディングデスクがこの動きを強い言葉で批判し、「株がギャンブルに近づく」と懸念している、と紹介されています。
そして、ちょうど同じタイミングで“ギャンブル化”を明るく肯定する側が前に出てきます。それがロビンフッドです。
【事実】として、ロビンフッドは「AI投資アシスタント」と「スポーツ取引ツール」を発表し、AIと予測市場が金融とニュースの未来を変える、という趣旨の発言をCEOが行ったとされています。すでに予測市場機能では、100万人超が、合計110億件のコントラクトを取引したとも述べられています。さらに今後は、経済・政治・文化・スポーツといった“イベント”を24/7で取引できるハブを拡張し、複数条件が同時に起きたら利益が出る「組み合わせ取引」も強化していく。要するに、「投資アプリ」から「常設の賭け場」に近い体験へ、堂々と寄せているわけです。
ここで、ナスダックの長時間化とロビンフッドの予測市場が“別の話”に見えて、実は一本の線でつながります。どちらも、金融を「評価の場」から「参加し続けるゲーム」へ変える方向に働くからです。市場が23時間開くなら、人は“見続ける理由”を探します。見続ける理由を作るのが、スポーツ、政治、炎上、速報、そしてAIの自動要約(Digests)のような“刺激の供給”です。投資家が長く市場に滞在すれば、売買が増え、手数料やスプレッドが生まれ、広告価値も上がる。これはビジネスとしては極めて合理的です。
一方で、投資家にとって合理的かは別問題です。
【事実】として、同じ記事群では米国の雇用統計と小売売上が「揺らいで見える」ことも描かれています。11月の雇用者数は増えたが、10月は減り、失業率は4.6%に上昇。政府部門の雇用減が影響したこと、製造業が弱いこと、また“隠れ失業”のような指標(フルタイムを望むパートや、職探しを諦めた人を含む広い概念)が高めであること、若年層失業率が高いこと、などが並びます。さらにパウエル議長が、4月以降の雇用創出が月6万人ほど「過大かもしれない」と述べた、という話まである。景気の足元が曖昧なとき、投資家の心は本来“慎重”に寄ります。
しかし市場が23時間になり、予測市場が24/7になり、AIが「今日のあなたのポートフォリオはこれが原因で動いてます」と即時に語りかけてくると、慎重さは削られやすい。考える前に触ってしまう。触れば、動く。動けば、また触る。これは個人の意志の弱さというより、設計の問題です。
展望としては、2026年に向けて二つの現実的な分岐が見えます。
ひとつは、長時間化とAI化がうまく噛み合い、海外投資家の参加が増え、価格発見がむしろ滑らかになる世界。もうひとつは、深夜帯の薄商いでノイズが増え、短期の振れが大きくなり、「結局、落ち着いている時間にしか本当の値段がつかない」世界です。
【私見】を言うと、後者のリスクのほうが“最初に表面化しやすい”と思います。理由は単純で、制度や習慣が追いつく前に、まず人間の衝動が先に動くからです。23時間化は便利ですが、便利はだいたい、使い方を誤る人から先に事故ります。特に“ニュースの瞬間”に参加できてしまうことは、投資家にとってメリットでもあり、同時に「我慢する機会の喪失」でもあります。
ではどう備えるか。これは銘柄当てではなく、行動設計の話になります。
【私見】として、23時間市場・24時間予測市場の時代は、「勝ちやすい人」より「負けにくい人」が強い。見ない時間を決める、売買の時間帯を決める、指値・逆指値のルールを固定する。AIの要約は便利ですが、“要約に反応する自分”を警戒する。市場が眠らないなら、投資家が寝るしかない。これは冗談ではなく、構造的な防御策です。
🧾🧭まとめ
【事実】ナスダックは規制当局に対し、平日の取引時間を「ほぼ終日」に拡大する許可を求めたとされています。現状は通常取引に加えて時間外を含めて16時間ですが、2026年Q3から夜9時〜翌朝4時のセッションを追加し、23時間取引にしたい構想です。狙いは、深夜に出るニュースへの即応や、時差のある海外投資家の利便性向上。一方で、関係者の懸念として「考える時間が減り、非合理な売買が増える」「深夜帯の出来高が薄くなり値動きが荒れる」といった指摘が紹介されています。
【事実】同じ流れで、ロビンフッドはAI投資アシスタントや、スポーツ等の“イベント”を24/7で取引する予測市場の拡張を発表。予測市場取引が急拡大しているとし、AIと予測市場が金融の未来を変えるというメッセージを打ち出しました。
【私見】市場の長時間化とAI要約の普及は、便利さと引き換えに「反射神経の売買」を増やしやすい構造です。2026年は銘柄選び以上に、“売買しない時間”を設計できるかが成績を分ける可能性があります。
🎯🤖気になった記事
🎰🧠「ロビンフッドは“投資”を“ベッティング”に寄せ切る」
ロビンフッドの新発表は、機能としては「AIアシスタント」ですが、思想としては「投資=賭け」に近づける宣言に見えます。記事では、予測市場機能が“最速の成長収益ライン”になっていること、すでに100万人超が110億件のコントラクトを取引していることが述べられています。さらに、経済・政治・文化・スポーツなどのイベントを24時間取引できるハブを強化し、複数条件が同時に成立したら利益が出る「組み合わせ」取引も推進。ここまで来ると、体験は株式投資というよりスポーツベットに寄っていきます。
一方でAI側(Cortex)は、Gold加入者向けに、リアルタイムの市場データやアナリストレポート等にアクセスしながら「5つの不当に売られた株を探して」「49ers戦をどう取引する?」のような問いから注文実行までを支援する、というデモが紹介されています。ここが面白くて怖い。AIが賢くなるほど、意思決定の摩擦が減り、行動が加速する。結果として“取引回数”が増えやすい設計です。
【私見】AIが投資を助ける未来は確実に来ますが、同時に「投資家の衝動を増幅する装置」にもなり得ます。便利さは、中毒性と隣り合わせ。2026年は、AIを使いこなすより前に、AIに“使われない”ルール作りが重要になりそうです。
🍔⚖️小ネタ2本
🦉🕘小ネタ①:ナスダック23時間化、あなたの“判断力”も延長されるわけではない
夜間セッションが増えると、ニュースに即反応できるのは確かに便利です。でも人間の判断力は、取引所の営業時間に合わせて伸びません。むしろ深夜は認知能力が落ちやすい。市場が長く開くほど、「参加しない強さ」が相対的に価値を持つ気がします。ナスダックが“寝ない”なら、投資家が寝ないと事故る。これ、わりと本気の話です。
🚴♂️💸小ネタ②:NYCのチップ表示をめぐりUberとDoorDashが提訴。“チップ疲れ”が法廷へ
ニューヨーク市の新ルール(注文確定前にチップ選択肢を表示し、デフォルト10%を設定)をめぐり、UberとDoorDashが提訴したとされています。企業側は「政府が特定のメッセージを話すことを強いるのは憲法(表現の自由)に反する」と主張。背景には、配達員最低賃金引き上げ後に手数料が上がり、チップが減ったという市の報告がある、と記事は述べます。チップは善意のはずが、今やUI設計と政治の争点。食べ物を頼むだけで“制度設計”を食わされる時代です。
🪞🖋️編集後記
昔のマーケットには、ちゃんと「閉店」がありました。閉店って、投資家にとっては救いです。強制的に考える時間ができるから。ところが今は、閉店がどんどん消えています。夜間取引、週末のニュース、SNSで流れてくる“専門家っぽい断言”、そしてAIが要約してくれる「あなたの資産が動いた理由」。便利です。優しいです。なのに、どこか息苦しい。
理由は単純で、世界が優しくなるほど、人間の弱さがそのまま利益になるからです。人が不安になればするほど、画面を見る。画面を見ればするほど、手が動く。手が動けば、手数料が生まれる。市場が23時間開くのは、グローバル化の必然でもありますが、同時に「あなたの衝動を刈り取れる時間が増える」というビジネスの必然でもある。
だからこそ、2026年に必要なのは“情報”より“間合い”だと思っています。相場は、知らないと負けることもありますが、知りすぎても負けます。見てしまう、反応してしまう、手が出てしまう。投資の敵は、たいてい相場じゃなくて自分です。しかもその自分を、AIが親切に促してくる。いや、もう敵が進化しすぎです。
結局のところ、最強の投資ツールは「通知を切ること」かもしれません。市場は眠らない。でも、あなたが眠れないと、だいたい負けます。
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