「“孤独産業”の正体：OnlyFans経済と、つながりを取り戻す方法」

トピック

孤独は儲かる――“OnlyFans経済”が映すいまの世界

「孤独は高くつく」と言われますが、2020年代は逆に孤独が“稼ぐ”時代になりました。
成人向けコンテンツで知られるOnlyFansのオーナー、レオニード・ラドヴィンスキー氏は昨年だけで7億ドル（約1,100億円）超の配当を得たと報じられ、同社は年粗収益72億ドル・従業員46人という驚異の収益性を誇ります。表向きは“クリエイターとファンの本物のつながり（authentic connection）”を掲げますが、実態は人とのつながりを有料化する巨大プラットフォームです。

数字で見る“デジタル領主制”

• 上位0.1%のクリエイターが収益の76%を独占。月間平均14.7万ドルを稼ぐ一方、平均的なクリエイターは月150〜180ドル。

• 売上の約70%はプライベートメッセージ（サブスク課金は約4%）。

• ユーザーの71%が男性、クリエイターの84%が女性。

• 0.01%の“クジラ”課金者が全体売上の20%超を生む。

• アクセスの85%がモバイル。
  → 結果、95.8%の男性ユーザーは無料で消費し、ごく少数の“クジラ”がエコノミー全体を補助する構造。まるで**「デジタル封建制」**で、OnlyFansが“人間関係の地代”を取っている、という比喩は言い得て妙です。

なぜここまで伸びるのか：孤独パンデミックの背景

人類は本来「社会的生き物」。家族・友人との交流は衣食住レベルで不可欠です。ところが近年、

• 宗教行事への定期参加率は20年で42%→30%へ低下、

• 結婚率の低下、

• 労働組合・地域サークルなど中間共同体の衰退、

• 「サードプレイス（家・職場以外の居場所）」の消失、

• そしてスマホ＆ショート動画（YouTube/TikTok）への常習化で対面時間が激減。

孤独は今や世界人口の約6人に1人に影響し、健康面では1日15本の喫煙と同等の死亡リスクをもたらすとも。生産性低下・離職増・医療費増を通じ、米国では年4,000億ドル超の経済損失という推計もあります。

“若い男性”がとくに脆弱

不安定で暴力的な社会の共通項は「孤独な若い男性の多さ」。

• 日本でも**ひきこもり（推定150万人）**が社会課題。

• 英国では孤独が企業コスト3十億ドル超、スペインでは**GDPの1.2%**相当の損失との分析。

• 中国ではAI彼氏アプリが拡大。

• 「セックス・リセッション」や会食・外出の減少が進み、人工的な親密さ（配信・ポルノ・AIチャット）が代替しています。

“つながり”は人を育て、社会を守る

厳しいフィードバックをくれる上司、悪習をやめさせる恋人、背伸びさせてくれる友人。こうした関係の摩擦が人を成長させ、過激思想の温床を減らします。研究でも孤独と権威主義的傾向・陰謀論の相関が示され、ハンナ・アーレントは「孤立と孤独は専制の前提条件」と喝破しました。孤独は個人の健康を蝕むだけでなく、民主主義のリスクでもあるのです。

何をすべきか：政策から生活レベルまで

コミュニティ投資（第三の居場所）

• 図書館、体育館、プール、緑地、歩行者天国、商店街のベンチ…「行けば誰かいる」環境を公費で整える。

• 日本で言えば地域センターや公園リノベ、シャッター街の再生が該当。

スマホとの距離感

• 学校でのスマホ禁止の動きが各国で加速。読書空間の復権（インディ書店の回帰）も追い風。

• 家庭ではノーテック時間やスクリーンタイム管理を“家訓”に。

若者の国民奉仕（ギャップイヤー）

• 高校卒業後に共同での奉仕活動（福祉・環境・防災）を行い、異なる背景の若者が協働する設計。人脈と自尊感情を育む。

ナイトライフの見直し

• 若者の外出離れが進むなか、適度な夜の社交を後押しする文化政策（安全な場、手頃な価格、ノンアル選択肢の充実）。

個人でできるミクロの処方箋

• 週1回の固定予定を入れる（草野球、読書会、合唱など“来なくなると気づかれる場”）。

• 第三の居場所を1つ持つ（喫茶店、銭湯、コワーキング）。

• 手を使う趣味（料理・陶芸・ガーデニング）で“画面外の根拠”を増やす。

• SNSは発信＞消費を意識（「見るだけ」より「関わる」）。

• 小さな対面の勇気：知らない人に「その本、面白いですか？」と話す一言から。

まとめ

• プラットフォームは“孤独”をマネタイズしている（上位偏重／クジラ課金／DM偏重）。

• 孤独は健康・経済・民主主義の同時リスク。

• 対策は「コミュニティ投資×デジタル節度×生活習慣」の三位一体。

• 企業・自治体は第三の居場所を増やし、個人は小さな参加を重ねる。

• 今日からの一歩が“孤独産業”の伸長にブレーキをかける。

小ネタ1

「AI恋人」＆“人工的な親密さ”の次の一手

• 中国ではAI彼氏アプリが女性ユーザーに拡大。次は“デジタル分身でより“本物風”な相手を作るスタートアップ（例：OhChat）へ。

• ハイリスク回避の心理（失敗や拒絶の恐れ）から、摩擦のない擬似関係が選ばれやすい。

• ただし報酬系の依存を強め、現実の対人スキルが磨かれにくい副作用も。
  ひとこと：便利は中毒性の別名。“現実の面倒くささ”は人間力を鍛えるジムだと考えたいですね。

小ネタ2

失われる“サードプレイス”と、再生のヒント

• 英国ではパブが1日1軒のペースで閉店。若者の夜遊びがゲーム／配信／Netflix／OnlyFansへ移行。

• 米国でも**店内で食べない外食注文が約75%に。「偶然の出会い」**が減り、地域の結び目が弱体化。

• 対策：小規模商店の共同スペース化、歩行者天国の恒常化、市民企画の常設化（読書会・オープンマイク・フリマ）。
  ひとこと：「行けば誰かいる」場所が、孤独の特効薬です。

編集後記

OnlyFansの数字はショッキングですが、もっと重要なのは**「なぜ人がそこに流れるのか」という根っこです。人は“摩擦のない親密さ”に惹かれます。でも、私たちを育てるのは不器用で、時に気まずい、現実の関わり**。
今週、私はスマホを置いて近所の喫茶店に30分だけ通ってみました。成果？店主と野球の話を3分。たったそれだけでも体温のある情報が入ってきて、画面の向こうの世界が少し遠くなりました。