AIバブルは“良いバブル”?—株の熱狂とFRBの本音を読み解く

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FRBデイリー総裁の視点:「これは壊れるバブルではない」

AI関連株の上昇が止まりません。
AMDはOpenAIとの提携で1日+24%、オラクルは決算発表で**+40%**。
そしてウォール街では「これはもはやAI相場という名の祝祭」という声すら聞かれるようになりました。

一方で、冷静にこの熱狂を観察しているのがFRB(米連邦準備制度)のメアリー・デイリー総裁です。
彼女は「AIバブル」と呼ばれる現象を、**“金融危機を招く悪い泡ではない”**と語ります。

「すべてのバブルが危険とは限りません。
今回の投資は大企業によるもので、裏付けがあります。
たとえ過熱しても、結果として“生産的な遺産”が残るでしょう。」

サンフランシスコ連銀を率いるデイリー氏の管轄にはシリコンバレーが含まれます。
現場の変化を誰よりも近くで感じている彼女は、
AIへの資本流入を“熱狂”よりも“蓄積”として評価しているのです。


“良いバブル”の条件とは?

デイリー氏はAIブームを**「投資が過剰でも、社会に何かを残すタイプのバブル」**と位置づけます。
ドットコム時代のバブルが弾けた後も、インターネットというインフラが残ったように、
AIバブルもまた「社会の構造を変える下地」を築く可能性がある。

実際、AIに関わる資本支出は、

  • NVIDIAなどハード供給企業の大型投資

  • OpenAIやAnthropicによるクラウド設備の拡張

  • マイクロソフト・グーグルの社内AI統合投資
    と、資金の流れが「ソフト+設備+電力」にまたがっています。
    つまり、泡が弾けても土台が残る構造。

ただし彼女は同時にこうも語ります。

「AIが生産性を押し上げるとしても、それは“雇用の代替”という形をとるかもしれません。
だからこそ、労働市場の監視を怠ってはいけない。」

AIがもたらす“省人化”は、労働市場に遅れて影響する可能性がある。
この“時差”をどうコントロールするかが、FRBの次なる課題です。


ウォール街の“もう一つの物語”

ウォール街では、この熱狂を**「理性的な高揚(rational exuberance)」**と呼ぶ動きも出ています。
リサーチ会社エバコアISIは、**S&P500が2026年末に9000ポイントに到達する可能性30%**と予測。
この“泡”の中にもまだ理性がある、という立場です。

彼らの論拠は次の通り。

  • 金利低下による金融環境の改善

  • 投資家マインド(アニマルスピリッツ)の回復

  • AI導入による利益率の押し上げ

  • 企業のEPS上振れと不確実性の低下

「バブルを恐れるな。むしろ“泡立ち”の初期を楽しめ」というメッセージに近い。
とはいえ、彼らも「最終的にはバブルがはじける」と明言しています。
ただしそれは“崩壊”ではなく、上昇の一幕が終わるだけという前提。


1日で40%上がる世界の正体

足元では、AMDやオラクルといった企業が1日で40%近い急騰を見せています。
Freedom Capital Marketsのチーフストラテジスト、ジェイ・ウッズ氏はこう分析します。

「これは典型的な“次のNVIDIA”探し。
投資家は夢を買っているが、まだ現実から離れすぎてはいない。」

つまり、希望と正当化が共存している段階ということです。
まだ誰も「もう遅い」とは言っていない。
しかしこの“フレンジー(狂乱)”が長く続けば、
理性は次第に熱に溶けていくかもしれません。


まとめ

AI相場の熱気は、まるで春の空気のようです。
浮き立つような明るさがありながら、どこか不安定な風が吹いている。
AMDやオラクルの“1日で40%上昇”という現象は、
その明るさと脆さが共存する象徴でしょう。

ただ、今回のAIブームには“従来のバブル”とは違う構造があります。
第一に、資金の出し手が堅牢です。
投資を主導しているのは、
巨大IT企業やAIスタートアップ、設備投資を支えるインフラ企業
個人投資家の借金バブルではないため、
“金融システム破綻”のリスクは相対的に低い。

第二に、投資の多くが**実物資産(チップ・データセンター・電力)**に向かっている点。
これは「価値の裏付け」が残る投資形態です。
仮に株価が調整しても、
AIインフラという形で社会に成果が積み上がる。

そして第三に、FRBが冷静です。
デイリー総裁のように“雇用への影響”に焦点を当てつつも、
AI相場を「必要以上に叩かない」バランス感覚を保っている。
これは、かつてのITバブル期には見られなかった柔軟さです。

もっとも、油断は禁物。
AIの普及スピードは、まだ人の労働リズムを超えていません。
しかし、“採用しないことでコストを下げる”時代に入ったとき、
ベヴァリッジ曲線(求人と失業の関係)の“曲がり角”が急に現れるかもしれません。

FRBの「利下げ」は、景気刺激よりも**“雇用の防波堤”**としての意味を持ち始めています。
市場が熱狂に傾くほど、政策は静かに冷却をかける。
この二つの力のせめぎ合いが、2026年の相場を形作っていくでしょう。


気になった記事

「S&P500=9000」説の真意

エバコアISIのジュリアン・エマニュエル氏は、
強気レポートの中でTalking Headsの名曲「Once in a Lifetime」を引用しました。

“With apologies to David Byrne, this isn’t once in a lifetime — it’s twice.”
(申し訳ないが、これは“一生に一度”じゃなく、“二度目”だ。)

彼の意図はシンプル。
ドットコムの狂乱と違い、AIブームはもう一度理性的に泡立てることができる、というもの。
「強気を恐れるな、だが慣れるな」という彼のメッセージは、
ウォール街に少しだけ詩的な空気を残しました。


小ネタ①

「40%上昇」の確率は?

過去30年のデータで、大型株が1日で+40%動いたケースは極めて稀。
年に1〜2回あるかないかです。
つまり、AMDとオラクルが同時期にこの動きをした
というだけで、
2025年は相場史に残る年になるかもしれません。


小ネタ②

FRBの“AIリテラシー”が上がっている

以前なら、AI相場が過熱すれば即座に“金融引き締め”が議論されたはず。
しかしデイリー総裁は「生産性を見極めてから判断」と発言。
つまり、中央銀行までもが“生成AIを理解しようとしている”段階に入りました。
FRBがChatGPTを研究対象にしている時代──なかなか面白い話です。


編集後記

昨日まで株価に無関心だった人が、OpenAIとAMDの提携ニュースを見て急に証券口座を開く。
きっと誰の心にも、“次の波に乗りたい”という小さな冒険心があるのでしょう。

でも、その希望の形が面白いんです。
誰もが「バブルは怖い」と言いながら、
どこかで「でも今回は違う」と信じている。
それは恋愛のようなもので、
何度痛い目を見ても、また人は誰かを好きになる。
市場もまた、そうやって失敗と熱狂を繰り返して進化していくのだと思います。

デイリー総裁の「これは悪い泡ではない」という言葉は、
そうした人間の性(さが)を前提にした優しいリアリズムです。
「夢を見てもいい、でも現実も見よう」というメッセージ。
投資も人生も、結局はその“配分の妙”で決まるのかもしれません。

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