AIバブルと中央銀行 ― 見えてきた「過熱相場」の不穏な影

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深掘り記事:「警鐘を鳴らすのはFRBではない」

世界の中央銀行の中で、今もっとも“現実的”な危機感を示しているのはアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)ではなく、**イギリスの中央銀行・イングランド銀行(BoE)**です。
最新の金融政策委員会報告書では、「市場の急激な調整リスクが高まっている」と明言。米国市場のAIブームと金融緩和圧力が複雑に絡み合う中、投資家は重大なリスクを過小評価している可能性があると指摘しました。

なぜ今、警鐘が鳴らされているのか

  • 株式バリュエーションの過熱:「ドットコムバブル期と同水準」とBoEは分析。特にAI関連株の上昇は「期待」主導であり、逆風が吹けば市場全体が巻き込まれるリスクがあります。

  • 巨大企業への集中:S&P500の上位5社が時価総額の30%近くを占める状況は、ここ50年で初。逆回転が始まれば、指数そのものが崩れる危険も。

  • 消費者の脆弱性:オートローン延滞率の上昇など、家計のストレスは高まっており、株式市場の“楽観”とは対照的です。

  • AI進化の不確実性:技術的ボトルネックや規制強化が進めば、「AI頼みの相場」は一気に冷え込む可能性があります。

IMFのゲオルギエワ専務理事も、「現在のバリュエーションはITバブル期を彷彿とさせる」と語り、過熱の兆候を認めました。

中央銀行の独立性という「見えないリスク」

もう一つBoEが注目したのが、「中央銀行の政治的独立性」。
独立性が失われれば市場の信認は低下し、米国債やドル資産の急激な再評価につながりかねません。世界がドルの“特権”を疑い始めれば、それはAIどころではない金融ショックの引き金となります。


まとめ

AI相場が牽引する株式市場は、表面上は華やかです。過去最高値を更新し、テクノロジー大手は史上空前の利益を叩き出しています。しかし、その足元にはじわりと地割れが走っている――それが今回のイングランド銀行のメッセージです。

まず、資産価格の急騰と企業利益の乖離です。AI関連株のバリュエーションは実際のキャッシュフローを大きく上回り、「期待先行」の色合いが濃い。歴史的に見ても、こうした相場は最終的に**“期待の反動”**に飲み込まれがちです。

さらに、米国経済の基盤である家計の耐久力も懸念材料です。金利上昇と物価高が消費者の懐を直撃し、オートローンやクレジットカードの延滞がじわりと増加。消費が冷えれば企業業績も伸びず、株価の“期待値”との乖離はさらに拡大します。

そして、もっとも深刻なリスクが「中央銀行の信頼」です。金融政策が政治的圧力に屈すれば、市場は「最後の砦」としてのFRBの信頼性を疑い始めます。そのとき、ドル資産からの資金流出が起き、世界中の市場を巻き込む連鎖的な調整が始まるかもしれません。

もちろん、今すぐバブルが崩壊するわけではありません。AI技術の進化が企業利益を押し上げ、経済全体の生産性を底上げする可能性もあります。しかし、リスクが存在しないという前提で動くことが最も危険です。今こそ、浮かれた楽観論を離れ、ポートフォリオの多様化と冷静なリスク評価が必要とされています。


気になった記事:Goldman Sachs「まだバブルではない」

ゴールドマン・サックスは「まだAIバブルとは言えない」との見方を示しました。
バブルには「急激な価格上昇」「極端なバリュエーション」「過剰なレバレッジ」という3条件がありますが、3つ目はまだ本格化していないと指摘。実際、企業利益が株価を支えている現状では“期待”より“実績”が先行しているという見方です。

ただし、注意すべきは**「利益成長が止まった瞬間」**です。期待に届かない決算が続けば、投資家心理は一気に冷め、調整は避けられません。
“まだ”という表現の裏には、「いずれそうなる可能性」が含まれていると見るべきでしょう。


小ネタ1:シェールの「慎重な現実主義」

かつて「ドリル・ベイビー・ドリル」と呼ばれた米シェール業界は、今や慎重そのもの。
原油価格が年初来15%超下落し、利益確保が難しい状況では大規模投資に踏み切れません。EIAも「2026年まで在庫増加が続き、価格下落圧力が強まる」と予測しています。


小ネタ2:AI企業、負債での“武装”が始まる

一部のAI企業は開発競争で借入金を増やし始めています。これは未来のキャッシュフローを先取りした「レバレッジ成長戦略」ですが、リスクの種でもあります。過去のバブル崩壊も、こうした債務膨張が引き金でした。


編集後記

最近の市場を見ていると、「上がるから買う」「みんなが買っているから安心」という雰囲気が再び漂い始めています。これは2000年のITバブルや2008年のリーマン前夜と同じ“空気”です。そして不思議なことに、こういうときほど「まだ大丈夫」「今回は違う」という言葉があちこちから聞こえてきます。

でも、本当に違うのでしょうか。AIという魔法の言葉で、バリュエーションの法則まで無視していいのでしょうか。結局のところ、市場の本質は**「人間の欲望と恐怖」**のバランスで決まります。AIがどれだけ世界を変えようと、この原理だけは変わりません。

個人的には、今の相場は「宴の2次会」に入ったようなものだと思っています。1次会では理屈が通じたけど、2次会は酔いが回り、誰も冷静ではない。そこに残るのは、冷静に一歩引いて眺められる投資家だけです。
そして、そういう人ほど最後に一番おいしいところを持っていくのが、相場の常です。

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