米中「鉱物戦争」開戦──AI・半導体を人質にした“本気の殴り合い”

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深掘り記事:「100%関税」と「レアアース制裁」──交渉の舞台はもう無い

「会う理由はない」──トランプ大統領がそう言い放ったのは、今月末に予定されていた習近平国家主席との首脳会談についてです。
米中の貿易対話は、数週間前まで「緊張緩和」に向かっていると見られていました。しかし今、再び全面衝突の様相を呈しています。

発端は中国の“禁輸カード”です。中国政府は、レアアース(希土類)を含む製品を輸出する企業に対し、中国当局の承認を義務付ける新たな規制を発表しました。
レアアースはミサイル、スマートフォン用チップ、EVバッテリーなど、AIや先端産業の根幹を支える17種類の金属の総称で、中国は採掘の約60%・加工の90%以上
を掌握しています。

これに激怒したトランプ氏は、即座に**「中国製品への100%追加関税」「重要ソフトウェアの輸出禁止」**という強硬策で応酬。事実上の「報復合戦」が始まりました。


■ 背景:「禁輸」は“交渉カード”ではなく“脅し”へ

ここまで事態が悪化した理由は、6月に合意した**「レアアース輸出緩和を含む包括的協議案」**を中国が事実上反故にしたことにあります。
アメリカの防衛産業や民間テック企業にとって死活的な素材の供給を絞ることで、中国は「交渉で譲歩を引き出す」狙いを見せたのです。

加えて、中国は米半導体大手クアルコムによるイスラエル企業買収への独禁法調査を開始。経済的な“圧力メニュー”を立て続けに繰り出しています。

これに対し、トランプ氏は「中国は“独占”を悪用している」と非難。

「中国のレアアース依存を放置すれば、米国の技術力も防衛力も危うくなる」
と語り、「会談は不要」とまで言い切りました。


■ レアアースとは何か:「AIの血液」を握る国家戦略

レアアースは“rare(希少)”という名の通り、珍しい金属と思われがちですが、実際には世界各地に埋蔵されています。
問題は、「採掘コストの高さと環境負荷」です。このため、コストと環境規制に寛容な中国が世界の供給網を牛耳ってきました。

そしてこの「採掘・精製支配」が、今や外交・安全保障の武器へと転化しています。
AI・ロボット・再エネ・防衛といった次世代産業は、すべてレアアースなしでは成立しません。中国はそれを十分に理解した上で、今“供給の蛇口”を握りしめているのです。

米国だけでなく、ドイツも「EUと協力し、欧州内でのレアアース生産体制を強化する」と発表。世界中が供給網の「脱中国化」に向けて動き出しています。


■ 投資家が逃げ込んだ先は「金」と「米国産鉱山株」

この激化した貿易戦争のニュースを受け、金融市場は一斉にリスク回避へ動きました。

  • 米国債:買いが集中

  • 金:価格急騰

  • 米国内のレアアース採掘企業:株価急騰

「地政学ショック」が株式市場を直撃する一方で、いわゆる“安全資産”への資金シフトが明確になっています。
市場はすでに「一時的な火花」ではなく、長期的な供給網リスクとしてこの問題を織り込み始めました。


まとめ:「チップ戦争」の次は「鉱物戦争」へ

米中の対立は、いよいよ“資源支配”という根本的な次元へと突入しました。
今回の展開から見えるポイントは、次の通りです。

  • ✅ 中国はレアアース供給の支配力を外交カードとして本格活用

  • ✅ 米国は100%関税と輸出制限で応戦、「会談中止」も辞さず

  • ✅ 世界のサプライチェーンは「脱中国化」に向け再構築へ

  • ✅ 投資家は金・国債・米国鉱山株など安全資産へシフト

AIや半導体といった「頭脳戦」の裏側で、実は「資源戦争」が静かに進行しています。
21世紀の覇権争いは、もはや兵器やGDPではなく、「どの国が産業の血液=素材を握っているか」によって決まる時代へと変わりつつあるのです。


気になった記事①:MITがトランプ政権の“資金優遇”を拒否

米マサチューセッツ工科大学(MIT)が、トランプ政権からの**「優先的な研究資金アクセスと引き換えに政策協力を求める提案」**を正式に拒否しました。
サリー・コーンブルース学長は「科学資金は科学的価値に基づいて配分されるべき」と声明。大学の独立性を守る姿勢を示しました。

政権は9大学に同様の提案を行っており、他の大学がどう対応するか注目されています。


気になった記事②:政府閉鎖が深刻化、連邦職員に解雇通知

10月1日から続く政府シャットダウンが長期化する中、数千人規模の連邦職員へのレイオフ通知が始まりました。
ホワイトハウスは「予算を通さない民主党が悪い」と主張する一方、民主党は「閉鎖を口実にした異常な解雇だ」と反発。
来週にも現役職員や軍人への給与未払いが発生する見通しです。


小ネタ①:パレスチナ人、北ガザへ帰還開始

米国仲介の停戦合意を受け、イスラエル軍がガザ北部から撤退。数万人の避難民が帰還を開始しました。
ただし、戦後の行政体制や治安維持については未解決の課題が残っています。


小ネタ②:JPMorgan新本社は“バイオ認証”で入館

JPモルガンが30億ドルを投じた新本社ビルでは、社員に指紋・掌紋・虹彩スキャンなどの生体認証登録が義務化されました。
セキュリティ強化の一方で、プライバシー保護や従業員の反発も予想されています。


編集後記:「鉱物の一滴」が産業を止める時代

AIも、スマホも、ミサイルも、バッテリーも──そのどれもが「鉱物なし」では動きません。
私たちは「ハイテク=無形資産の時代」と思い込みがちですが、現実はむしろ逆です。**技術の土台はいつだって“物質”**です。

今回の米中対立は、その原点を改めて思い知らせてくれます。
どれほど高度なAIを開発しても、レアアースが止まればただの箱。どれほど多くのチップを作っても、鉱物が足りなければ動かない。
言い換えれば、「地中の一滴」が国家戦略を左右する時代に私たちは生きているのです。

そして、この“鉱物戦争”は始まったばかりです。米国は脱中国の鉱山開発を急ぎ、中国は供給の蛇口を絞って交渉力を高める。
その綱引きの先に、AI産業の地図防衛力の均衡、そして世界経済の構造までもが書き換えられていくでしょう。

歴史を振り返れば、石油が20世紀を動かし、鉄が帝国を作り、穀物が戦争を左右してきました。
21世紀は、レアアースが国家を決める時代です。
そしてその戦場は、すでに動き出しているのです。

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