深掘り記事:空の格差とプレミアム競争
米航空業界はいま、完全に「勝ち組」と「負け組」に二極化している。勝者の代表格はデルタ航空だ。最新決算で予想を上回る好業績を発表し、プレミアムシートの需要増が収益を押し上げている。企業出張が戻りつつあることも追い風だ。
「需要は非常に堅調です」とデルタのハウエンスタイン社長は語り、CEOのエド・バスチャンも「7月以降さらに好調だ」と強調する。一方で、格安航空会社は苦戦が続く。スピリット航空は2度目の破産に直面し、ユナイテッド航空は清算に備え始めた。フロンティア航空の株価は年初来42%下落、ジェットブルーも39%の下落だ。
ポイントは「快適性にお金を払う層」の存在だ。デルタのプレミアム収入は前年比9%増。2026年には一時的に普通席収入を上回る可能性すらあるという。つまり、航空業界の未来は「安さの競争」ではなく「体験価値の競争」へとシフトしているのだ。
まとめ
航空業界の変化は、単なる業績の話にとどまらない。プレミアムサービスの拡大は、「格差社会」の縮図のようでもある。裕福な層は高級シートで快適に空を移動し、一方で格安航空は経営の崖っぷち。かつて「空の民主化」を掲げたLCCの理念は、現実の壁にぶつかっている。
これは航空業界だけの話ではない。フェラーリの方針転換も同じ構造を映し出している。かつて「EV化こそ未来」と言われたが、現実は顧客の多くが内燃機関やハイブリッドを選んでいる。2030年までのEV比率目標は40%から20%へと大幅に引き下げられた。株価は15%急落し、投資家の「未来期待」も一歩現実に引き戻された。
つまり、社会は“理想と現実”のはざまでもがいているのだ。グリーンな未来も、安い航空券も、欲しいときには手に入らない。企業は理想を追うだけでは生き残れず、現実的な戦略と収益モデルを模索しなければならない。
その一方で、Walmartの「Auto Care Center of the Future」は未来志向の好例だ。スマートロッカーやアプリ連携で、面倒な車のメンテナンスを「冷蔵庫を補充するくらいの気軽さ」に変える試みは、生活者の“現実”に寄り添うものだ。華やかな夢よりも、日常の小さな不便を解決するほうが、時代の共感を得やすいということだろう。
プレミアムとローコスト、理想と現実、テクノロジーと生活。これらはすべて対立しているように見えて、実は“折り合い”をつける局面に入っている。未来は派手なイノベーションではなく、現実との「着地点」を見つける企業がつくっていくのだ。
気になった記事:フェラーリの現実的な選択
フェラーリは2030年のEV販売比率目標を40%から20%へ引き下げた。背景には「エンジンの鼓動」にこだわる顧客の存在がある。さらにハイブリッドが40%を占める見通しで、完全EV化は“ゆっくり”と進むことになりそうだ。
市場の反応は冷ややかで、株価は15%急落。しかし、Elettricaの最高時速310km、航続距離530km超というスペックは注目に値する。これは「伝統と革新の折衷案」であり、超富裕層の“好み”を理解した上での戦略的判断だ。
小ネタ2本
-
🥤 ペプシ復活の兆し:ゼロシュガー飲料と「Poppi」ブランドが牽引し、飲料事業の売上が回復傾向に。
-
🧐 テスラ調査開始:2.88百万台の「完全自動運転」機能が当局の捜査対象に。違反や事故報告が50件超に。
編集後記
最近、出張でLCCに乗ったら、機内販売のカップラーメンが「プレミアム価格」になっていた。たった300円のラーメンが700円。座席の前後は詰め詰め、荷物も別料金。「これ、安くないやん」と心の中でツッコミつつ、ふと思った。「格安」とは何を意味するのかと。
航空業界も、自動車も、結局のところ「本当に欲しいもの」に人はお金を払う。プレミアム席やハイブリッドエンジンが好まれるのは、「贅沢だから」ではなく、「我慢の限界を超えたから」だ。LCCが提供しているのは“移動”という最低限の機能であり、“体験”ではない。EVが苦戦するのも、「エコ」だけでは感情を満たせないからだ。
この構造は政治や経済にも当てはまる。理想だけを掲げる政策は、生活者の肌感覚からズレた瞬間に支持を失う。結局、人は「現実をちょっとだけ良くしてくれる選択」を求めている。
コメント