再燃する“関税戦争”──AI時代の米中対立が「鉱物とテクノロジー」を人質に

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深掘り記事:「貿易戦争、再び」──トランプが仕掛けた“第二ラウンド”

「中国が敵対的な命令を出すなら、米国は**“金融で対抗”する」──トランプ大統領が自身のSNS「Truth Social」に500字近い投稿を行い、「中国製品への大規模な追加関税」**を宣言したのは、わずか数時間前のことです。

きっかけは、中国がレアアース(希土類)──AI・防衛・再生可能エネルギーなど、次世代産業の根幹を支える鉱物──の輸出規制を発表したこと。
これを受けて米株式市場は瞬時に反応し、**S&P500は-2.7%、ナスダックは-3.6%、ラッセル2000は-2.6%**と大幅下落しました。

オイルは4%超の急落、金は1オンス=4032ドルへ急騰、ビットコインは5.5%下落──市場は一気に“戦時モード”へと切り替わったのです。


■ 背景:AI時代の「鉱物戦争」

この衝突は、単なる関税の応酬ではありません。AI時代における供給網(サプライチェーン)をめぐる覇権争いです。

  • 米国:半導体などハイテク輸出を制限し、中国の技術進化を抑制

  • 中国:AI・EV・防衛産業に不可欠な「鉱物」を武器に、米国の成長を逆に縛る

とりわけレアアースは、AIチップ・ロボティクス・電気自動車のモーターなどの製造に欠かせない戦略資源。
そして世界の生産・精製の約7〜8割を中国が支配している現実は、米国にとって最大の弱点でもあります。

今回の規制は、今月後半に予定されていたトランプ・習近平会談を前にした“外交カード”と見られていましたが、トランプ氏は「会談の中止もあり得る」と明言。対立は一気に激化しています。


■ 市場が震える「第二次関税戦争」のシナリオ

インタラクティブ・ブローカーズのストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は「市場は一瞬で“楽観モード”から“危機モード”に変わった」とコメント。
背景には、投資家の“油断”があったと指摘します。

「この反応は、政策の衝撃というよりも、市場がここ数カ月間いかに“平和ボケ”していたかを示している」

実際、米中貿易戦争が本格化した2018〜2019年と比べると、今回は**AI・鉱物・半導体といった“国家の生命線”**が絡むだけに、影響ははるかに深刻です。

仮に米国が関税引き上げを実行し、中国が報復としてさらなる鉱物制限に踏み切れば、

  • AI開発コストの高騰

  • EV・再エネ産業のサプライチェーン寸断

  • 半導体生産の遅延
    といった実体経済への打撃が現実味を帯びてきます。


■ 「交渉の場」から「全面対立」へ?

今回の動きが危険なのは、単なる圧力の掛け合いを超えて、交渉そのものが破綻しかねない点です。

本来、今月末の米中首脳会談は「レアアース・半導体・AI協力の枠組み」を話し合う場になるはずでした。
しかし、トランプ氏は会談のキャンセルを示唆し、対話の窓口そのものが閉ざされる可能性が浮上しています。

外交交渉が消えた場合、市場は**“対話なき報復の連鎖”**という最悪シナリオに直面します。
それは2018年の関税戦争をはるかに超える、「供給網の全面衝突」になるかもしれません。


まとめ:「チップ戦争」の次は「鉱物戦争」

AI時代の米中対立は、新たな段階へと入ろうとしています。今回の一件で見えてきた構図は明確です。

  • ✅ 中国は“AIの血液”ともいえるレアアースを使い、米国の産業を人質化

  • ✅ 米国は「関税・輸出規制」という強硬策で応戦し、会談中止すら視野に

  • ✅ 市場は一瞬で動揺し、株価・資源・仮想通貨まですべてが連動して反応

20世紀、石油が国家の運命を左右したように、21世紀は「鉱物」が新たな戦略資源です。
それを握る者がAI・再エネ・軍事を制し、そして地政学までも動かす。今回の動きは、その現実をまざまざと見せつけました。


気になった記事:アストラゼネカ、薬価交渉で合意へ

製薬大手アストラゼネカは、トランプ政権と薬価引き下げの合意を発表する見通しです。
この合意には、州のメディケイド(低所得者向け医療保険)向け薬価の「最恵国待遇」ルールや、新薬の初期価格制限などが含まれるとみられています。

同社は同時に45億ドル(約6,800億円)を投じて米バージニア州に新工場を建設する計画も明らかにしており、今後数年で500億ドル規模の米国内投資を行う方針です。

先週はファイザーが同様の合意を結んでおり、他の製薬大手も追随する可能性が高いと見られています。


小ネタ①:「バナナ・ボール」が全米熱狂

野球×サーカス×ロックコンサート──そんな異色のエンタメスポーツ「Banana Ball」が米国で爆発的な人気です。
2026年には新たに2チームが加わり、6チーム制リーグとして本格始動へ。2025年シーズンには全米75都市・45州・320万人の観客動員を見込んでいます。


小ネタ②:議会、まさかの「1カ月休暇」

米下院は9月19日以来、一度も採決を行っていません。今週予定されていた投票もキャンセルされ、再開は10月20日以降になる見込みです。
民主党のハキーム・ジェフリーズ下院院内総務は「彼らは休暇を楽しんでいるだけだ」と痛烈に批判しました。


編集後記:「AI覇権争い」は“見えない資源”から決着する

「米中貿易戦争」と聞くと、多くの人は“関税”や“輸出入の数字”を思い浮かべます。しかし今、勝負の舞台はまったく別の場所へ移りました。
それは、「どれだけの鉱物を握っているか」「どれだけのチップを制御できるか」という、“見えない力”の戦いです。

そして恐ろしいのは、その力が「国家の交渉力」に直結するということです。
チップを止めれば軍事技術が止まり、鉱物を止めればAIも止まる──現代の経済は、驚くほど脆弱な“供給の糸”で繋がっています。

その糸を、米国は技術で握り、中国は資源で握る。どちらかが本気で引っ張れば、もう片方はバランスを崩す。
今の米中関係は、綱引きというよりナイフエッジの綱渡りです。

そしてその先に待っているのは、単なる経済戦争ではありません。サプライチェーンの地政学が国家の未来を決める時代です。

AIがどれだけ進化しても、それを動かす資源がなければただの箱。
「鉱物」という一見地味な存在が、AI覇権の命運を左右する──それが今回の騒動が教える最大の教訓でしょう。

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