「酒場」から「サウナ」へ──アメリカで“ととのい資本主義”が始まった

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深掘り記事:「汗をかく場所」が新しいビジネスの舞台になる

「酒か、汗か」──今のアメリカ人はどうやら“汗”を選び始めたようです。
近年、米国ではサウナ市場が急成長しており、2025〜2029年の間に**約1億5100万ドル(約230億円)**規模の拡大が見込まれています(Technavio調べ)。
背景には、「お酒を飲まない社交の場」「フィットネスの代替」としての新しい役割があるのです。

サウナスタジオ「Perspire Sauna Studio」は全米で新たに15店舗を出店予定で、開発中の店舗を含めれば300店近いネットワークを築く計画。
アメリカはまだ本場フィンランドには及びませんが、「自宅サウナ」需要も急増中。アルコール消費の減少と連動する形で、“健康志向のライフスタイル”の象徴となりつつあります。


■ 「社交場=バー」という常識が崩れる

かつてアメリカで「人と会う場所」と言えば、バーかカフェ、もしくはゴルフ場が定番でした。
しかし今、その選択肢に**“サウナ”**が急速に加わっています。

ニューヨーク・フラットアイアン地区の人気施設「Othership」は、テック業界人の“秘密の商談場”として注目されています。
ここではディナーやカクテルの代わりに、水着で汗を流し、冷水浴でクールダウンしながら投資話をする──そんな光景が日常です。
ワイヤー(盗聴器)を仕込まれていないか確認するにも都合がいい、という冗談まで飛び交っています。

さらに、ビジネスではなくコミュニティ形成を目的とした「ご近所サウナ」も人気上昇中。
「ただ話したいだけ」「人とつながりたいだけ」という人々が、バーではなくサウナに集まる時代が来ているのです。


■ ステータスシンボルとしての“サウナ”

富裕層の間では、サウナが**“富の象徴”**にすらなりつつあります。
自宅に6桁ドル(数千万円)を投じたサウナを設置し、来客に「Live, Laugh, Love(生きて、笑って、愛して)」ではなく「Undress, Sit, Sweat(脱いで、座って、汗をかけ)」の新しいライフスタイルを誇示する人も。

健康・社交・富の象徴──サウナは、まさに**現代アメリカの価値観が凝縮された“箱”**なのです。


■ 科学が示す「汗の効能」

もちろん、サウナの効果は“気持ちいい”だけではありません。
米クリーブランド・クリニックの研究によると、定期的なサウナ習慣には次のような効果が確認されています:

  • ✅ 筋肉痛の軽減

  • ✅ 血流促進による慢性疾患(関節炎など)の緩和

  • ✅ 炎症の抑制と心肺機能の改善

  • ✅ 睡眠の質の向上とストレス軽減

一部研究では認知症やアルツハイマーのリスク低下との相関も報告されています(ただし因果関係は未確定)。
注意点として、脱水症状のリスクが高いため飲酒後の利用は避けるべきであり、心筋梗塞・脳卒中後の回復期には使用しない方が安全です。


まとめ:「サウナ」は健康産業ではなく“社会インフラ”になる

もはやサウナは、単なる「健康習慣」や「リラクゼーション」ではありません。
その本質は次の3点に集約されます:

  • ✅ 社交の場:「バーに行かない世代」の新しい出会いの空間

  • ✅ ステータスの象徴:「所有」や「ライフスタイル」の表現手段

  • ✅ ウェルネスの中心:「予防医療」「メンタルケア」「QOL向上」の一環

特に注目すべきは、**「健康」と「人間関係」**という2つの分野が融合しつつある点です。
これまで別々に存在していた“メディカルウェルネス”と“ソーシャルスペース”が、サウナという空間で交わろうとしています。

健康のためだけに行く場所ではなく、「人と会う」「企画を練る」「コミュニティを作る」ための場所へ──。
それは、ビジネスの現場にも直結する大きな変化です。


気になった記事:サウナ界の“歌舞伎”──Aufguss競技が人気上昇

米国では今、サウナの中で開催される新競技**「Aufguss(アウフギース)」が密かにブームになっています。
これは、タオルを使った
12〜15分間のパフォーマンス競技**で、技術や演出、熱の分配まで採点対象となります。

  • 🌀 プロ意識:準備、演出、観客とのアイコンタクト

  • 🔥 熱の分配:タオルで熱を循環させる技術

  • 🪶 技法:「ヘリコプター」「ピザ」「スーパー8」など多彩なタオルワーク

米国代表はまだ世界トップ8に入っていませんが、初の国内選手権が今年開催され、今後の成長が期待されています。


小ネタ①:「ウェルネス旅行」が急成長

2012年に4390億ドル規模だった「ウェルネスツーリズム」は、2023年には8300億ドルに倍増。
ホテルやスパ業界は、赤外線サウナや腸内分析付きプランなどの高付加価値サービスを投入し、若年層や富裕層を取り込んでいます。


小ネタ②:世界の“行ってみたいサウナ”5選

  • The Well(ノルウェー):9つのサウナと北欧芸術の融合

  • CYCL(日本・富士山):絶景と共に“ととのう”

  • Heaven & Hell Spa(イタリア):ドロミテ山脈を一望

  • Finnair Sauna(フィンランド):空港内で発汗体験

  • Nimmo Bay(カナダ):カヤックでしか行けない“海上サウナ”


編集後記:「ととのう」は健康ではなく“戦略”だ

かつてのアメリカで「社交」といえばバー、「アイデア出し」といえばカフェ、「人脈作り」といえばゴルフ場でした。
しかし今、そのどれもがサウナに置き換わりつつあります。

それは、単なる流行ではありません。
社会全体が「健康・つながり・生産性」という3つの軸を、“汗をかく空間”に再配置し始めたというサインです。

そしてこの流れは、ビジネスパーソンにとっても無視できないものです。
なぜなら、次の大きな商談も、新しいパートナーとの出会いも、もしかしたらバスタオル一枚の空間で生まれるかもしれないからです。

冷たいビールではなく、熱い蒸気がアイデアを育てる時代
「ととのう」はもはや健康法ではなく、“生き方の戦略”へと進化しています。

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