💰「億万長者という別の惑星」──富の集中が生む“もうひとつの世界”

深掘り記事：「バナナ1本10ドル？」──902人の“別宇宙”を生きる人々

■ 富の集中は、もはや「格差」という言葉では足りない

「1本10ドルのバナナ」。冗談のような話ですが、超富裕層にとっては現実です。
2025年現在、アメリカには902人のビリオネア（資産10億ドル＝約1,500億円超）がいます。1990年にはわずか66人だったことを考えると、たった35年で約14倍という驚異的な増加です。

この902人の総資産は約7.6兆ドル（約1,140兆円）。アメリカ全体の富の**4.5％を、人口のわずか0.0003％**が握っている計算になります。
日本風に言えば、「東京ドームの観客3人が、日本全員の預金の20分の1を持っている」ような状態です。

■ 世界の富豪地図：その「生息地」はどこか？

この「億万長者クラブ」の本拠地は、やはりアメリカです。全世界のビリオネア3,028人のうち、**約3分の1（902人）**がアメリカに住んでいます。続くのは中国（450人）、インド（205人）、ドイツ（171人）、ロシア（140人）。

興味深いのは、彼らが都市部に集中している点です。
・ニューヨーク：123人
・モスクワ、香港、ロンドン、北京：それぞれ数十人規模

ニューヨークだけで、日本全体の富裕層を超えるほどの「富の塊」があるというわけです。

また、このクラブは圧倒的に男性社会です。女性ビリオネアの割合は**13％**に過ぎませんが、それでも年々増加傾向にあります。

■ 富への道：生まれか、投資か、それとも“結婚”か？

「億万長者になるには？」という問いへの答えは、冷徹です。

• 3分の1は「生まれつき」：裕福な家に生まれるか、富豪と結婚すること

• **15％**は「投資家の道」：ウォーレン・バフェット型の資産運用ビジネス

• **13％**は「テック起業」：GAFAやAI新興企業の創業者たち

• **11％**は製造業、**10％**はファッション・小売、**7％**は医療・不動産・飲料など

また、彼らの資産の66％は株式という形で企業に紐づいています。つまり、現金化は容易ではありません。「富豪＝いつでも使える現金が山ほどある」わけではなく、「自社株という“紙の城”を持っている」というのが実態です。

■ 目立たないけど世界を動かす“無名の巨人”たち

ビル・ゲイツやイーロン・マスクの名前は誰でも知っていますが、実は「知られざる巨人」たちが世界の裏側を握っています。

• ウォルトン家（ウォルマート創業家）：総資産3870億ドル、世界最大の小売帝国の後継者たち

• アマンシオ・オルテガ（ZARA創業者）：1,180億ドル。私たちが買うユニクロの隣のZARA、その売上が彼の資産

• トーマス・ピーターフィー（Interactive Brokers創業者）：電子取引の“父”、820億ドル

• 張一鳴（バイトダンス創業者）：TikTok帝国を築いた42歳の若き富豪、600億ドル

• マーズ家（M&M’s・ペディグリー）：1,000億ドル。「お菓子とドッグフード」で王国を作った兄妹

そして、「レッドブル創業者の息子」マーク・マテシッツ氏は、相続だけで380億ドルの資産を得ました。「Inheritance gives you wings（遺産は翼を与える）」とはよく言ったものです。

■ “所有”のスケールが違う：島・海・空まで私有財産

ビリオネアたちの生活は、私たちの想像を軽く超えています。
たとえば休暇といえば、「海辺のホテルに泊まる」ではなく、「海ごと買う」。

• フロリダ「ビリオネアズ・ビーチ」：58人の富豪が邸宅を所有

• マイアミ近郊「インディアンクリーク村」：ジェフ・ベゾスを含む89人の富豪が暮らす“要塞”島

• ハワイではオプラ・ウィンフリーが別荘、マーク・ザッカーバーグは「複合コンパウンド（大規模敷地）」を建設中

• ラリー・エリソン（オラクル創業者）は島ごと購入（ラナイ島・3億ドル）

さらに移動手段も桁違いです。プライベートジェット・ヨットの販売は昨年13％増。彼らの“日常移動”が、私たちの“夢の旅行”レベルです。

所有するのは島や建物だけではありません。

• プロスポーツチームの優勝トロフィー

• 初版本のアメリカ合衆国憲法

• ホルマリン漬けの14フィートのホオジロザメ

「お金の使い道が違う」というより、「時間の概念が違う」といった方が正確かもしれません。

まとめ

「富裕層が豊かで何が悪いのか？」という声はもっともです。実際、イノベーションや雇用、税収の多くは彼らによって支えられています。しかし、今回の数字を直視すると、社会のパワーバランスが根本から変わりつつあることが見えてきます。

たとえば、米国の902人の資産家が持つ資産は7.6兆ドル。これは日本のGDPの1.3倍に相当します。しかも、その大半は株式や企業支配権といった「影響力の源泉」として機能しています。

さらに富の「入り口」も閉ざされつつあります。3分の1は相続・婚姻によるもので、生まれた瞬間に“ゲームクリア”が決まっている人たちです。技術革新や投資で成功する道は依然として存在しますが、その難易度は年々上がっています。

社会全体にとって問題なのは、格差そのものよりも、格差が「固定化」されていることです。貧富の差が埋まらない社会では、若者は挑戦意欲を失い、中間層は政治への信頼を失います。そして極端なポピュリズムが台頭する──これは歴史が何度も証明してきた事実です。

日本も例外ではありません。スタートアップや副業で“億り人”を目指すことは可能ですが、米国型の「超格差社会」への道を歩みつつあるのもまた現実です。富の構造を冷静に見つめ、自分自身の“ポジション戦略”を考えることが、これからの時代の必須スキルになっていくでしょう。

気になった記事：「TikTok創業者が“罰ゲーム”で社員に課していたもの」

バイトダンス創業者の張一鳴氏は、TikTokの経営陣に対して「自分で動画を投稿し、一定の“いいね”を取れなければ腕立て伏せ」というルールを課していました。これが意外と効果的で、役員たちはプロダクトへの理解が深まり、ヒットコンテンツの感覚も磨かれたとか。
“現場感”を失った経営者が失敗する例が多い中、この泥臭さは意外なほど重要な教訓を含んでいます。

小ネタ2本

🍫 「M&M’sで1,000億ドル」って本気？

マーズ家の兄妹は、チョコレートとドッグフードだけで世界3位の富豪に。ペディグリーの袋の裏側に「この袋の売上の0.00001％が私たちの資産です」と書いても誰も文句は言えません。

🏝️ 「島ごと買う」が富豪のトレンド

ラリー・ペイジ（Google共同創業者）は5つの島を所有。あなたが「別荘地を探す」とき、彼らは「大陸プレートごと買えるか」を考えています。

編集後記

“ビリオネア”という言葉は、もはや「お金持ち」ではなく、「別の文明の住人」を指す言葉になりつつあります。彼らは同じ地球に住んでいても、見る景色も、使う言語も、抱える悩みもまったく違う。
我々が「値上げされたコンビニ弁当」に文句を言っている間に、彼らは「海の一部を買うかどうか」を考えているのです。

ただ、それが「悪」かといえば、話は単純ではありません。彼らが投資した企業が社会を変え、彼らが払う税金が国家を支えています。問題は、その富が“社会全体の希望”を生むか、“分断の火種”になるかです。

貧困の拡大も危険ですが、極端な富の集中もまた、社会を不安定にします。格差そのものではなく、「努力しても越えられない壁」が広がるとき、人々は未来を信じなくなるのです。

そして、私たち一人ひとりができる最善の防御策は、彼らを羨むことでも憎むことでもなく、「このゲームのルールを正確に理解すること」です。
富がどう作られ、どう守られ、どう増やされているのか──その“仕組み”を知れば、たとえプレーヤーでなくとも、観客ではいられなくなるでしょう。