■ 深掘り記事:AIの夢は「借金」で動いている
AI革命の熱狂の裏で、静かに積み上がっているものがあります。
それは「見えない借金」です。
米MIT研究員でベンチャー投資家のポール・ケドロスキー氏が警鐘を鳴らしました。
Big Tech──アップル、メタ、マイクロソフトなど──がAIインフラの拡張にあたり、**貸借対照表に載らない“オフバランス債務”**を急速に増やしているというのです。
「AIがまだ利益を生まないうちに、彼らはすでに巨額の借金を重ねている。
これは新たな信用バブルの温床になる」とケドロスキー氏。
AIはまだ“金を稼いでいない”。
それどころか、NVIDIAが次々と新しいGPU(高性能チップ)を出すたびに、データセンター全体の設備更新が必要になる。
つまり、常に借金→投資→減価償却→再借金のサイクルが続く構造です。
これが「AIバブルの負債構造」です。
■「表に出ない借金」の正体
S&Pグローバルのアナリスト、ルース・ヤン氏はこう語ります。
「メタもアップルもAI資金を調達しています。あるときは貸借対照表に載せ、あるときは載せません。」
つまり、一部は“SPV(特別目的会社)”を経由して借りている。
これにより、投資家には実際の負債が見えにくくなります。
この構造、どこかで見覚えがありませんか?
そう──2008年のサブプライムローンです。
当時も「住宅ローン債権」が複雑な金融商品に再パッケージされ、誰が最終的なリスクを負っているのか分からなくなっていました。
現在のAIバブルでは、その「住宅ローン」が「データセンター融資」に置き換わっているだけです。
■メタが29兆円規模を調達、カギを握る“プライベートクレジット”
メタ(旧Facebook)は、AI構築資金として**290億ドル(約4.5兆円)をプライベートクレジット(非公開融資市場)から調達する計画を進めています。
米カーライル・グループによれば、2030年までに1.8兆ドル(約270兆円)**がAI関連に投下される見通し。
その原動力が、銀行ではなくプライベートクレジットファンド。
銀行はリーマンショック以降、リスク資産への貸出を抑制したため、代わりにファンドが“影の銀行”として台頭したのです。
この構図、日本でも似ています。
たとえば地方銀行が融資を控える中で、商社系ファンドや政府系ファンド(INCJなど)が企業再生資金を肩代わりする構造と同じです。
つまり、AIの裏でも“表に出ない金融エコシステム”が拡大しています。
■データセンターの正体は「借金装置」
AIを支えるのはデータセンター。
1棟の建設には数千億円規模が必要です。
しかもコストの半分以上はチップ。
NVIDIAの新モデルが出るたびに交換が必要となり、**“更新のたびに借金”**が積み上がります。
アナリストのケドロスキー氏は指摘します。
「AI関連インフラは1回建てれば終わりではない。常に最新のGPUに置き換わる宿命を背負っている。」
たとえるなら、
“減価償却し終わる前に次のローンを組む住宅ローン地獄”のようなものです。
■「計画的な資金調達」という幻想
もちろん、S&Pのヤン氏は「無謀な融資ではない」と擁護します。
「きちんとプロジェクトファイナンスとして設計されている。融資側も慎重に分析している。」
しかし問題は、AI事業が融資を返せても、投資元(Big Tech)がリターンを得られるとは限らないことです。
AIモデルを作っても、それがすぐに利益になるわけではありません。
ChatGPTのように利用者が増えても、収益化はまだ模索段階。
言い換えれば、“返済はできても儲けはない”構造なのです。
■「AIの借金バブル」が弾ける条件
ヤン氏は警告します。
「過剰建設のリスクがある。もし景気が弱まれば、一気に問題化する。」
AIバブルを終わらせるのは、金利でも規制でもなく「需要の鈍化」です。
消費者の財布が閉じれば、クラウド利用も広告出稿も減り、Big Techのキャッシュフローは縮む。
その時、オフバランスの債務は一気に露呈します。
日本で言えば、2000年代の太陽光バブルやメガソーラー案件に似ています。
国の補助金(FIT)頼みで建てたが、採算が取れずに破綻──あの構図がAI業界で繰り返される可能性があるのです。
■ まとめ
AI革命の舞台裏では、テクノロジーではなく金融の物語が進行しています。
AIモデルが生み出す「データの価値」よりも、先に「資金調達の物語」が走っている。
これはイノベーションではなく、“資金の循環装置”に過ぎません。
投資家にとっての本質的な問いはこうです。
「このAIブームは、キャッシュフローで回っているのか、それとも借金で回っているのか?」
現時点では明らかに後者です。
利益が生まれぬまま、データセンター・GPU・電力網が次々と増設され、企業は“次のローン”で“前のローン”を返す。
まさに、技術バブルの皮をかぶった金融バブルです。
とはいえ、悲観一色ではありません。
もしこの資金が効率よく循環し、AIが社会的価値を生み出せば、これは新しい形の資本主義(Debt-Driven Innovation)として機能するかもしれません。
しかし、そのためには「負債の透明化」と「収益化の現実化」が不可欠です。
日本でも同様の教訓があります。
90年代のITバブル期、多くの企業が“将来の成長”を理由に過剰投資し、結果として借金の山だけを残しました。
AIバブルが同じ道を辿らないためには、「技術」ではなく「キャッシュフロー」を見つめる冷静な目が求められます。
■ 気になった記事:J.P.モルガン「60/40ポートフォリオの終焉」
J.P.モルガンのグローバル・ストラテジスト、デイビッド・ケリー氏はこう断言しました。
「株と債券だけの分散では、もはやリスクヘッジにならない。」
60%株+40%債券という伝統的ポートフォリオは、金利上昇とインフレ再燃で崩壊しつつあります。
代わりに注目されるのが“オルタナティブ投資”。
プライベートエクイティ、不動産、インフラ、ヘッジファンドなど、**「非上場の現実経済に近い資産」**です。
これが面白いのは、AIバブルで話題の“プライベートクレジット”と同じ潮流にあること。
つまり、銀行がリスクを避けた分、資金は「非公開市場」に流れ、リターンもリスクも外に滲み出ていく。
投資家は今、“見えない経済”への参加者になっているのです。
■ 小ネタ①:H-1Bビザに10万ドルの「入場料」?
米国で話題のトランプ政権案。
高技能ビザ(H-1B)に対して**1件あたり10万ドル(約1500万円)**の申請料を課すというもの。
この一言で、シリコンバレーのスタートアップ界隈は阿鼻叫喚。
メガ企業(NVIDIAやOpenAI)は払える。
でも、スタートアップは倒れる。
まるで「AI人材の出国税」のようです。
米議会は「そんなことしたらイノベーションが死ぬ」と両党一致で反対中。
日本でも“外国人IT人材不足”が問題になる中、アメリカのこの動きは他人事ではありません。
■ 小ネタ②:SpaceX、月面着陸のスケジュールが地球的に遅延
NASAが2028年に予定していた月面着陸計画「アルテミスIII」。
主契約先はスペースXですが、なんとロケットが3回連続爆発。
NASAはついに「他社も検討」と言い出しました。
候補はジェフ・ベゾス率いるブルーオリジン。
株式市場はすぐ反応。ライバル企業の株が一斉に上昇。
──つまり、SpaceXが遅れるほど地球上の株が上がるという皮肉な構図です。
夢の月面着陸。現実は“資金とスケジュールの重力”から逃れられないようです。
■ 編集後記
AIバブルを語ると、どうしても「希望」と「恐怖」が交錯します。
希望は、すべてを自動化し、人間を解放する未来。
恐怖は、その未来が借金で買われているという現実。
思い出すのはバブル期の日本企業です。
みんな「成長のための投資」と言いながら、実は“借りては返す”を繰り返していました。
AIも同じ匂いがします。
もしかすると、ChatGPTもNVIDIAも、そしてあなたのPCの中のAIアシスタントも、“借金で動く夢”の一部かもしれません。
でも、皮肉なことに──人間の進歩って、だいたい借金から始まるんですよね。
蒸気機関も鉄道も、みんな最初は“採算が合わない事業”でした。
AIもきっとそう。
問題は「どこで止まるか」を見誤らないこと。
バブルが弾けても、残るのはテクノロジーです。
借金の後に残る“技術”こそが、人類の資産です。
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