GMの“したたかドライブ”──EV失速でも株価15%急騰の理由

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■ 深掘り記事:GMが「電気を減速し、ガソリンで加速する」日

アメリカのゼネラル・モーターズ(GM)が、意外な快走を見せています。
第3四半期決算では売上・利益ともに減少
したにもかかわらず、株価は1日で15%上昇
その理由は、同社の「現実主義的ドライブ」にあります。


1) EVブームの減速を“撤退で勝つ”

EV市場は世界的に減速しています。
米国では高金利と電池コスト高で需要が想定の半分以下に。テスラの値下げ競争にも巻き込まれ、GMは早々に戦略を転換しました。

  • EV工場をガソリン車工場に転換。そのコストとして16億ドルの減損を計上。

  • それでも「損を早く出す」ことで、2026年以降にEV赤字を半減させる見通し。

  • CEOメアリー・バーラ氏は「過剰設備を早期に処理することで、需要が安定したときに備える」と強調。

つまり、撤退のスピードで勝つ。
“スピードのGM”は、ここでも健在です。


2) ガソリン車は“絶好調”

トランプ政権による排ガス規制の緩和が追い風となり、GMのガソリンSUVとピックアップトラック売れすぎて追いつかない状況。
EVから撤退したラインを、今度は利益率の高いガソリン車生産に再配分しています。

加えて、もう一つの好材料。
関税負担が想定より軽くなったのです。
当初の予想は50億ドル規模の打撃でしたが、今年は35〜45億ドルの範囲で済みそうだと発表。
つまり5億ドルの節約。これは、為替と調達の両面でうまく立ち回った結果です。


3) 「利益よりスピード」から「スピードで利益」へ

GMの凄みは、“スピードを経営指標にしている”こと。
テスラが理想を語り、フォードが苦しむ中で、GMは現場の数字で判断しています。

  • EV投資は縮小でも、利益率の高いSUV・トラックに全リソースを集中。

  • AIによる生産シミュレーションと在庫最適化で、過剰生産を回避。

  • CFOは「キャッシュを生むラインに絞ることが最優先」と明言。

EVが「未来の夢」なら、ガソリンは「今の現金」。
そして投資家は夢より現金を好む。
これが、株価15%上昇の背景です。


4) 「したたか」なGM、日米の比較で見える構造

この判断、どこか日本のトヨタにも似ています。
トヨタは「EV一本化」を避け、ハイブリッド・水素など複数路線を維持。
結果として、米市場でも在庫が回転し、EV偏重の欧州勢を尻目に利益を稼ぎ続けています。

GMも同じく、“脱炭素イデオロギー”より“経済合理性”を優先。
一時は「環境後進国」と批判された米自動車産業ですが、ここにきて合理的リバランスを進めています。
EVバブルの反動期に入り、ようやく実需で再設計された市場になりつつあるのです。


5) 見えてきた「ポストEV時代」の勝ち筋

EVの波は終わったわけではありません。
ただし「量の時代」から「質と利益率の時代」へ。
今後は次の3つが成長軸になります。

  1. レンジ型EV:短距離用の軽量・低価格EV。都市圏需要向け。

  2. ハイブリッド+AI制御:AIが最適モードを選び、燃費を最大化。

  3. 再利用バッテリー市場:使用済み電池の再整備・再販が利益源に。

GMは、EV工場をガソリン車に戻す一方で、
裏では再生バッテリーと自動運転ソフトに静かに投資しています。
“減速して稼ぎ、静かに次を仕込む”──このしたたかさが、老舗の底力です。


■ まとめ

GMの第3四半期決算は、「撤退こそ最大の投資」という企業戦略の教科書のようでした。
EVで負けても、株価では勝てる。なぜか?
それは、マーケットが“理想”ではなく“実現可能性”を見ているからです。

EV市場は確かに未来ですが、いまは高コスト・高金利・高競争。
その中で利益を出せる企業はわずか。
GMはその現実を直視し、赤字を一気に処理。EV損失を2026年以降半減させる計画を立てました。
同時に、ガソリン車の生産を拡大し、関税減の恩恵も受けて、
株価は年初来+25%。市場はこの「冷静な方向転換」を高く評価しました。

日本でも同じ課題が見えます。
EVシフトを急ぎすぎたメーカーは、バッテリー供給網や利益構造で苦しみ、
“脱炭素”という言葉が経営スローガン化した瞬間、投資が目的化してしまう。
一方で、トヨタやスズキのように“利益を出しながら時間を稼ぐ”企業は、次の転換期に備えられる。
GMの判断は、その「待ち方の上手さ」を世界に示したと言えます。

私たちビジネスパーソンに置き換えれば、
「新しいものに飛びつくより、古いものをどう再定義するか」。
GMが教えてくれたのは、時代の波を“泳ぐ”より、“受け流す”力かもしれません。


■ 気になった記事:Anthropic、“トランプ政権にラブコール”

AIスタートアップのAnthropicが、トランプ政権との関係修復に動いています。
CEOダリオ・アモデイ氏はブログで「政権のAI方針を支持し、元トランプ政権関係者を採用している」と明言。
AI政策責任者デヴィッド・サックス氏の「政府規制を恐怖で操ろうとしている」との批判に反論しました。

背景には、AI規制を州単位で行うか、連邦で統一するかという主導権争い。
サックス氏は「連邦集中」を嫌い、Anthropicは「連邦統一ルール」を望む立場です。
ただし本音は、政権に嫌われたくない
AI企業にとって、ワシントンの“空気”はサーバー電力より重要なのです。


■ 小ネタ①:「米国産の“メキシコ・コーク”が作れない!」

コカ・コーラが“本物の砂糖を使ったガラス瓶入りコーク”をアメリカ国内で発売しようとしたところ、
原料のサトウキビが足りず、瓶も足りず、**「段階的発売」**に。
米国産砂糖の供給量は全体のわずか30%。
トランプ政権の「自国生産回帰」政策が、砂糖のサプライチェーンを詰まらせたというオチです。


■ 小ネタ②:「ワーナー、まさかの“身売りモード”」

**ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)が、「複数の買収提案」を受けて戦略的レビュー(=売却検討)**を開始。
パラマウント×スカイダンス連合の20ドル買収案は拒否したものの、
「全社売却も含め、柔軟に検討」と発表。
負債総額350億ドルを抱える同社は、もはや“映画会社”というより“金融商品”。
ハリウッドが“証券化”していく現実は、メディア産業の縮図です。


■ 編集後記

GMの快進撃を見て、少し笑ってしまいました。
EVだ、脱炭素だと口にしていたあの会社が、
今では「ガソリン最高! SUV増産!」と言って株価を上げている。
まるで“菜食主義者が焼肉屋を出したら大繁盛した”みたいな話です。

でも、それが現実。
企業は「正しいこと」ではなく「儲かること」で評価される。
理想を語るより、利益を出す。
しかもGMは、ただの開き直りではなく、“負けを整理して勝ちを拾う”戦略を徹底している。
そこに老舗のしたたかさがある。

一方で、この「理想より現金」の流れには一抹の寂しさもあります。
AIもEVも、世界を良くする夢だったはずが、
最終的には株価を上げる道具として扱われている。
もしかすると、私たちも“夢を信じるふり”をして投資しているのかもしれません。

でも、それでもいいんです。
理想と現実を行き来するのが人間。
GMも私たちも、燃料を変えながら走り続けるだけです。

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