深掘り記事:AIバブルじゃない、でも「AI化した経済」にはなっている
今回の英語記事が伝えているポイントはシンプルです。
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Google・Microsoft・Metaの3社が、そろって**「まだ投資を増やす」**と言った
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FRBのパウエル議長が「金利を下げてもAI投資は止まらない」とわざわざ言った
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その結果、AI関連の建設・半導体・電力など“周辺インフラ産業”までが強くなっている
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しかし、労働市場にはまだ十分には効いていない
これ、見方を変えるとこうなります。
「AIブームが景気の下支えになっていて、これがあるおかげで米国は“本来もっと弱いはずの景気”を保っている」
Vanguardのチーフエコノミストも「これがなかったら成長はもっと弱かった」と書いていると紹介されています。つまり今の米国経済は、通常の個人消費や製造業ではなく、「AI向けCAPEX(設備投資)」という一本足で伸びている状態です。
1. なぜこんなにAI投資が止まらないのか
3社の計画を並べると異様さが分かります。
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Alphabet:年間少なくとも910億ドルに上方修正
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Microsoft:需要が強いから「資本も人も増やす」
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Meta:今年で700億ドル以上、来年はさらに“notably larger”=はっきり増やす
700億〜900億ドル級の投資を「3社が同時にやる」というのは、冷静に考えると産業史レベルです。90年代の通信バブル、2000年代の中国インフラ投資、10年代の米シェール開発がかわいく見える規模になりつつあります。
しかもパウエルは「この手のデータセンター投資は金利感応度が低い」と言いました。つまり金利を0.25下げたからやる、という性格の投資ではなく、**「もう10年やると決めた投資」**なんです。これが怖いところ。金融政策でブレーキを踏みづらい。
2. 雇用にならないAIブーム
しかし記事はこうも指摘しています。
データセンターは建設中は雇用を生むが、できあがったら人はあまりいらない。
これは日本でも同じで、地方にDCが建っても「保守要員+数十人」で回ります。工場のように1000人単位は採用しない。するとどうなるか。
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GDPには効く(投資だから)
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株価にも効く(利益のストーリーができるから)
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でも賃金と雇用には効きにくい
つまり「株と実体のギャップ」がさらに開く設計になっているんですね。しかも今回、米国は政府機能が止まって雇用統計が遅れたりしているので、「賃金が苦しくなっている若者の姿」が公式統計にすぐ出てこない。“雇用には効きにくい成長”が、見えにくいまま進んでしまうリスクがあります。
3. ヘッジファンドが「ヘッジできてない」問題
面白いのはここからです。記事は2本目で「AI相場がヘッジファンドを普通の株式ファンドに変えてしまっている」と指摘しています。
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直近12か月のヘッジファンド全体とS&P500の相関が0.955(ほぼ同じ動き)
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マルチストラテジーでも0.819(これも高い)
本来、ヘッジファンドは「市場と違う動きをするからこそ手数料2%+成功報酬20%」を取れるはずなのに、実態は**“AIに乗ってるだけの高い投信”**になりつつある。なぜかというと、
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AIの勝ち銘柄があまりに少数(Nvidiaを頂点にした一群)
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そこを外すとリターンが出ない
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だからみんな同じところを買う
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→結果、相関が上がる
という完全に「集中相場の後期」っぽい動きが起きています。
PivotalPathのジョン・カプリスが言う通り、これは「下がったときにびっくりするやつ」です。上がってる間は誰も文句を言わない。落ちた瞬間に「お前らヘッジどこいった」となる。ここは2000年のITバブル末期と非常によく似ています。
4. なぜこんなにAIに集中するのか
理由は3つあります。
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マクロが読みにくい
米中貿易・政府閉鎖・選挙・中東情勢・レアアース・電力…、どれもファンドマネージャーにとって「長く張りにくい」テーマです。だったら「とりあえずAIでしょ」となる。 -
クライアントもAIを求める
年金・財団・Sovereign Wealthも「AIのエクスポージャーあるよね?」と聞いてきます。運用会社は「はいあります」と言いたい。だから似たポジションになる。 -
AIが“実在するCAPEX”を引き起こしている
つまり“実物”がある。データセンター、半導体、送電設備、銅。バーチャルではなく、GDPに映るハード投資なので、ファンド側も安心して乗れる。
この3つが重なると、ヘッジファンドですら**「分散しないことが合理的に見える瞬間」**が来てしまう。ここがいまです。
まとめ
今回のニュースを一言で要約すると、
「AIブームがアメリカ経済の“下支え”から“主役”に昇格しつつある」
ということになります。
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金利低下 → 通常は住宅・自動車に効く
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でも今回はFRB自身が「AIは金利にあまり左右されない」と言っている
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つまり「利下げでAIが加速する」のではなく「AIがあるから利下げしやすい」構造になっている
これがとても大事です。これまでは「金融が実体を支える」でした。いまは逆で、「AIという実体が金融を支えている」。だから株式市場はこんなに落ちにくい。
一方で、この構造には弱点があります。
1つ目は「雇用に波及しにくいこと」。データセンターもAIチップも、作る瞬間だけ人がいります。恒常的な給料にはなりにくい。
2つ目は「投資が特定企業に集中していること」。Nvidiaが5兆ドルになっても、みんなが給料で潤うわけではない。むしろ「Nvidiaを持っていなかった人たち」が取り残されています。
3つ目は「ヘッジ手段が消えていること」。本来、AIが崩れたときに守ってくれるはずのヘッジファンドまでがAIに乗っている。これは、下げ相場になったときの下落が**“普通より深くなる”**ことを意味します。
さらに、銅(Copper)が最高値を更新したことも無視できません。銅は**「世界がほんとうにそのテクノロジーを実装する気があるか」を測る金属です。動かなければ「口だけAI」。上がるということは、「サーバーも配線も送電線も本当に作る」**ということです。つまりこのAIブームは、机上やバリュエーション上のバブルではなく、**インフラ投資を伴った“重いブーム”**に近づいています。だからこそ長期化するし、だからこそ一度冷えたら深く冷える。
今後の着眼点は2つです。
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“AI以外で稼いでいる会社”がどれだけ戻ってくるか
ここが戻らなければ、AI一極集中は続き、相場は不安定化します。 -
“AIを売る側”だけでなく“AIを使って効率化する側”の利益がいつ数字に出るか
後者が出てくると、ようやく「AIが賃金を食べるだけの存在」から「生産性を分配する存在」になります。
それまでは、**“AIが景気を延命している奇妙な局面”**が続きます。
気になった記事
「ヘッジファンドがS&P500化している件」
記事が示していた0.955という相関は、ほぼ一蓮托生レベルです。
本来、機関投資家がヘッジファンドに払っているのは「市場の外に出るためのコスト」です。ところが今や多くのファンドが
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AI関連のグロース株
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それを支えるインフラ株
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それを取引している他のファンドと同じ銘柄
を持っているので、**「上がるときはみんな上がる、下がるときはみんな下がる」**という非常にまずい相場構造になっています。
これがまずいのは、“出口でみんな同じ扉を使う”からです。2022年の米国REITや2023年の中国株のように、出口が狭い資産にお金が一気に入ると、下落スピードが異常に速くなります。AI関連はまだ流動性があるので顕在化していませんが、「AI関連を利確するフェーズ」に入ると、ヘッジファンドの“ヘッジしていなかったこと”が一気にバレるでしょう。
小ネタ2本
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「AIが雇用を奪う」と言いながら、実は“建設現場だけ人手不足”
DC建設、送電線、冷却設備――ここだけは人がいる。都市でホワイトカラーが不安になり、郊外で建設が忙しくなる。これ、2000年代のドバイと同じ景色です。 -
銅が上がるとエコが下がる
本来「脱炭素のために電化を」と言っていたのに、AI向け需要で銅が高騰し始めると「やっぱりどう省エネするか」をまた考え出す。人類はいつも値段で正気に戻ります。
編集後記
AI投資がここまで膨らんでも、「これはバブルではない」とみんなが言うのは、今回は**“使っているものが本当に目に見える”**からだと思います。
サーバーラックがあり、データセンターがあり、電力会社があり、銅があり、そこにNvidiaのロゴが付いている。2000年のドットコムみたいに「ユーザー数だけです」「収益は将来です」という“空気のバブル”じゃない。だから安心する。
でも、だからこそ怖い。
「実物を伴ったバブル」ははじけたときに在庫と減価償却が残るからです。半導体でも不動産でも、実物の過剰投資が起きると、そのあとの冷え方は長い。AIも同じで、どこかで「計算力が余る」瞬間が来ます。高価なGPUが数か月アイドル状態になったとき、初めて「これ、そんなに要らなかったのでは?」とみんなが思う。そこがバブルの終わりです。終わるときはいつも、“足りないから作る”のではなく、“余ったから止める”のです。
もうひとつ気になるのは、今回のAIブームが**“雇用で支持されない景気”**になっていることです。株は史上最高、Nvidiaは5兆ドル、でも若手は賃金が伸びない。こういうときに何が起きるか。たいていは「政治が急にAIに厳しくなる」か「電力・土地・環境の規制でブレーキをかける」かのどちらかです。企業がブレーキを踏まないなら、政治が踏む。政治が踏まないなら、電力が限界を出す。どこかが必ず止めに来ます。
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