深掘り記事
■1. ニューヨークに“社会主義者市長”誕生
アメリカ政治の風向きが、またひとつ変わりました。
ニューヨーク市長選で、34歳の**ゾーラン・マムダニ(Zohran Mamdani)**氏が勝利。
自らを「民主的社会主義者」と名乗るこの若き政治家が、
1月に就任すると、ニューヨーク史上初のイスラム教徒・南アジア系市長が誕生します。
対立候補は、元ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ(無所属)。
得票率はマムダニ50.4%、クオモ41.6%、共和党候補スリワ7.1%。
つまり「中道よりも左」へのシフトが明確に現れた選挙でした。
マムダニ氏はインド系移民の子で、ブロンクス育ち。
政策は住宅・福祉・公共インフラへの再投資を掲げる一方、
治安・移民政策での“優しさ”が一部から懸念も。
同時に行われた他州選挙でも、バージニア・ニュージャージー両州で民主党が勝利。
カリフォルニアでは、共和党の選挙区割り戦略に対抗する**「Proposition 50」**(再区割り法案)が可決。
全米的に見れば、民主党の“反撃の夜”となりました。
しかし注目すべきは、ニューヨークという**資本と人種の坩堝(るつぼ)**が、
今、再び“左”へ舵を切ったという事実です。
ウォール街の金融人と、ブルックリンの若者の距離は、
同じ都市にいながら、どんどん遠ざかっている。
■2. チェイニーの死──アメリカの「強さの時代」の終焉
米国史上、最も影響力のあった副大統領の一人、ディック・チェイニーが死去。
享年84。死因は肺炎と心血管系疾患。
ブッシュ政権下で**「対テロ戦争の設計者」**と呼ばれた男。
イラク侵攻を推進し、「米軍は解放者として歓迎される」と断言したことで知られます。
その発言は、のちに誤算と批判の象徴になりました。
彼は「大統領にならない代わりに、政策を支配する」という裏取引で政権中枢に君臨。
情報操作・尋問拡大・愛国者法──
アメリカの“恐怖と力”の時代を象徴した人物でした。
皮肉にも、その娘リズ・チェイニーは後年トランプ批判の急先鋒となり、
共和党から事実上“追放”。
父と娘の対照は、アメリカ保守の変質を象徴しています。
■3. テスラ×ノルウェー──“1兆ドルの報酬”に冷や水
次に経済の話題です。
テスラのイーロン・マスクが提案した1兆ドル規模の報酬パッケージ(株式報酬)に、
**ノルウェー政府系ファンド(世界最大の機関投資家)**が「NO」を突きつけました。
声明ではこう述べられています。
「マスク氏の功績は認めるが、報酬額・希薄化リスク・“キーパーソン依存”への対策不足が問題だ」
さらにISSとGlass Lewis(議決権アドバイザー)も反対を勧告。
マスク氏はこれに激怒し、**「企業テロリストども」**と罵倒。
株主総会前から火花を散らしています。
テスラ株主の不安は、マスクがもし“本気で辞めたら”という点。
AI・自動運転・スペースXなど複数事業を抱える中で、
「彼一人が去れば企業価値が揺らぐ」=Key Personリスクが、
もはや冗談ではなくなりつつあります。
経済はAIに沸きながら、同時に**“個人の神格化リスク”を抱え始めた。
AI時代のバブルとは、もはや技術ではなく人物依存の信仰経済**なのです。
■4. AIバブルを逆張りする“ビッグ・ショート”の男
AI熱狂のど真ん中で、ひとりの男が逆を行きました。
そう、2008年リーマンショックを予言した伝説のトレーダー、マイケル・バーリです。
彼のヘッジファンドは、2025年第3四半期に**パランティアとNvidiaに対して10億ドル規模のプット(空売り)**を建てていたことが判明。
市場がAIブームに酔う中、彼は真逆のポジションを取ったのです。
バーリが投稿したのは、たった一言の暗号的メッセージ。
“バブルは円環構造だ(AI投資がAIを養う)。”
まさに、AI市場の自己増殖性を皮肉る一文でした。
これに対し、パランティアCEOアレックス・カープは怒り心頭。
「チップとオントロジー(AI基盤)をショートするなんて、狂気だ」
と反論。バーリの行動を「市場操作」とまで非難しました。
しかし、ウォール街ではすでに“AI過熱”の声が高まっており、
複数の大手CEOも「株価調整は不可避」と発言。
AI相場の天井は、信者と懐疑派の“声量バトル”で決まる──
いま市場はまさに、その分岐点に立っています。
■5. ピザの世界も“再編バブル”
外食業界にも変化が起きています。
Pizza Hut(ピザハット)が、ついに売却・合弁・再編の検討に入りました。
親会社Yum! Brands(ケンタッキー・タコベルの運営元)は「戦略的レビュー」を公表。
背景は単純。
8四半期連続で既存店売上がマイナス。
インフレと雇用不安で外食頻度が減少し、
「チーズ入りクラスト」ももはや魅力にならない時代。
競合のPapa John’sも買収交渉が白紙撤回され、株価が10%急落。
デニーズは非公開化、ボージャンルズは売却検討、
クリスピークリームは子会社を手放し、ジャックインザボックスも事業整理。
**「アメリカン・ファミリーチェーン」**という文化そのものが、
構造的に老朽化しているのです。
■6. アメリカ政府、再び“最長シャットダウン”更新中
最後に、政治混乱の象徴。
アメリカ連邦政府の閉鎖(シャットダウン)が36日目に突入し、
史上最長記録を更新しました。
トランプ政権下の35日間を超え、
航空便の遅延・公務員の無給・食料支援の停止など、
日常生活レベルの混乱が広がっています。
交通長官ショーン・ダフィーは「来週は大混乱になる」と警告。
ただし上院の一部では、再開合意への糸口も見え始めています。
「世界一の経済大国が、会計処理で止まる国」。
アメリカの制度疲労は、AIどころかExcelエラーのような脆さを見せています。
まとめ
今回のニュース群には、共通の一本の線があります。
それは「権力・AI・制度のゆらぎ」。
政治では、ニューヨークで社会主義者が市長に。
経済では、マスクの報酬案に投資家が“抵抗”。
市場では、AI相場を伝説のトレーダーが“逆張り”。
どの現象も、「中心の権威」に揺り戻しが起きている点で一致します。
かつてのアメリカは、強者が秩序を作り、弱者が従う構造でした。
だが今は、弱者もネットで声を持ち、資金は分散し、
誰も“正しい未来”を確信できない。
AIも政治も、もはや**「熱狂の構造」**そのものが商品化しているのです。
日本にとっても無縁ではありません。
2025年のテーマは、「中央」ではなく「多極」。
政治では都道府県単位の再投資、経済では人材と資本の分散、
企業では“社長一人に依存しない経営”への移行。
世界が巨大な信仰装置を手放す中、
私たちの選択もまた、「どの熱に乗るか」から「どの温度を保つか」に変わりつつあります。
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🧠「AI株を空売りするという狂気」──パランティアCEOの本音
AIデータ解析企業パランティアのCEOアレックス・カープが放ったこの言葉。
実は、AI企業側の不安の裏返しでもあります。
生成AIは、まだ安定した収益モデルを確立していません。
それでも株価は10倍・20倍。
だからこそ「逆張り」を仕掛ける投資家が出てくる。
この構図は、2000年代のドットコムバブルの再演。
違うのは、今回はAIが本当に使われていることです。
技術は本物、しかし投資は虚像。
「どこから現実で、どこまで夢なのか」──
この線を見極める力が、次の10年を決めます。
小ネタ2本
① ノルウェーvsマスク、オスロの冷たい風。
マスク氏の「1兆ドル報酬案」を世界最大の年金ファンドが拒否。
理由は“企業ガバナンス”。
でも本音は、「そろそろ彼の夢に付き合いきれない」かもしれません。
② ピザ戦線、アメリカ中年の悲哀。
Pizza Hutが売却検討。
80年代に“離婚した父と息子が行く場所”の代名詞だったピザハット。
もはやZ世代には“レトロスポット”。
時代はUber Eatsと冷凍ピザに。
ノスタルジーもビジネスモデルも、賞味期限があるようです。
編集後記
ニュースを追うほど、“熱狂”が怖くなる瞬間があります。
政治もAIも株式市場も、興奮の中で「理性の置き場所」を失っていく。
ゾーラン・マムダニが市長になり、イーロン・マスクが怒り、
AI銘柄が上下に振れ、政府が止まる。
どれも別々の出来事のようでいて、実は同じ現象です。
それは「世界が中央集権から自走モードへ移行している」こと。
もはや誰も、“正しい答え”を独占できない。
その代わり、“自分の速度”で走る自由を得た。
ただしそれは、**“自分で転ぶ自由”**と同義でもあります。
投資家はバブルに酔い、政治家は理想に燃え、
経営者は報酬に夢を見る。
でもそのどれも、AIが取って代わることはできない人間の錯覚。
錯覚がある限り、泡は立ち、泡がある限り、次のイノベーションが生まれる。
つまり、熱狂も過ちも、文明の副作用ではなくエンジンそのものです。
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