AIに目がくらんだ投資家たち──“非AI銘柄”に眠る次の主役たち

TECH:meme

【深掘り記事|Wall StreetはAI以外が見えなくなっている】

2023年以降、米国市場はAI関連株を中心に動いてきました。巨大テック企業の決算は「AI」「GPU」「クラウド最適化」といった言葉で埋め尽くされ、投資家の頭の中もGPUのように“AI一色”に最適化されてしまっています。

しかし、Bank of America(BofA)はそんな投資家心理に冷や水を浴びせます。

「AI以外の巨大な投資機会を見落としている」

──そう指摘する新レポートが話題になっています。この記事は、BofAの調査を端緒に、米国市場で「AI外銘柄の復権」が起きる可能性を分析したものです。

本稿では、このレポートが示す深層構造、代表的な銘柄群、そして日本株投資家への示唆まで丁寧に紐解きます。


■ AIバブル的偏重:S&P500がもはや指数になっていない問題

BofAがまず問題視したのは、**S&P500の“AI偏重”**です。
構成比はすでにテック巨大企業(特にAI関連)へ極端に寄り、指数としての役目が「米国企業全体の縮図」から「AI企業の株価指標」へと変質しつつあります。

したがってBofAはこう提案します。

→「S&P500全部買いではなく、個別株を買うべき」

これは非常に重要な示唆です。

AI関連企業が高バリュエーションを維持する一方で、非AI銘柄の多くが“安く放置”されている状態。
AIバブルが一服した瞬間、資金が戻るのはむしろそちらです。

Savita Subramanian氏(米国株ストラテジー責任者)は、

「今後1年間で株式のリターンは8%になる」
「その原動力はAIではなく、“AI以外”に広がる」

とまで述べています。


■ BofAが選んだ16銘柄:AI以外の“本命”はここだ

アナリストたちは、以下の3条件で銘柄を抽出しました。

  • AIテーマ外であること

  • 増益修正(上方修正)が続いていること

  • S&P500より割安であること

ここから16銘柄が生まれました。その一部をカテゴリ別に整理します。


① バリュー/消費関連

  • Dollar General
     低価格パック戦略で顧客が戻り、米国の“節約モード”を捉えた勝ち組。

  • Church & Dwight(Arm & Hammer)
     消費者の“ダウングレード”(安いブランドへの乗り換え)で需要増。

  • McCormick(食品大手)
     関税免除の恩恵に加えて、珍しく「オーガニック売上+数量増」を両立。

→ 米国消費者の節約志向というマクロ潮流を見事に捉えている銘柄群


② 配当・ディフェンシブ

  • AT&T
     通信戦争は「過剰に悲観されている」。
     ワイヤレスと光回線の成長に支えられフリーキャッシュフロー利回り10%

  • Eversource Energy
     規制環境が追い風に。

  • Progressive(保険)
     2年間で最も大幅な増益修正を受けた大型株。業界トップの改善。

→ 景気後退局面に強い銘柄たちが評価されていない現状


③ 産業・素材

  • Freeport-McMoRan(銅)
     巨大銅山「Grasberg」が再稼働。
     BofAは銅価格が2027年までに1ポンド6ドル超へと予測。

  • J.B. Hunt(物流)
     トラック供給量が最適化し、さらに10億ドルの自社株買いが支え。

  • Amcor(包装)
     Berry Global買収の統合作業が“予定より前倒し”で成果。

→ 素材・物流はAIの裏側で quietly 伸びるセクター


④ 金融・不動産

  • KeyCorp(地銀)
     与信懸念の直撃を受けたが、設備投資回復の波に乗る可能性。

  • Regency Centers(REIT)
     スーパー併設型ショッピングモール。
     レント(賃料)が安定し、配当利回り4%

→ 実物資産系はインフレ環境に強い


⑤ レジャー・エンタメ

  • Viking Holdings(高級クルーズ)
     営業利益が“ミッドティーンズ(十数%)”成長。

  • Disney(テーマパーク・クルーズ)
     来年にかけてパーク・クルーズ需要が上向くという期待。

→ 旅行・体験消費の復権を象徴する2銘柄


■ AIの熱が醒めたとき何が起こるか?

今のAI関連株は明らかに「期待先行」で買われています。
これは悪いことではありません。イノベーションの核だからです。

しかし問題は──

“市場全体がAIに盲目になっている”という構造

つまり、AIの一服=市場の暴落ではなく、

AI以外の銘柄が一斉に資金回帰する“リバランス局面”

が起こり得る、というのがBofAの主張です。

特に日本人投資家が見落としがちな点として、

  • 米国消費者の節約志向

  • 物流・素材の回復基調

  • 旅行・体験需要の強さ

  • 地銀の“悲観されすぎ”問題

など、AIと関係ないテーマでも“高確度で伸びる領域”がいくつも存在します。


■ 日本株への示唆:AI以外にも次の主役が潜む

日本株でも同じ構造が見られます。

  • 半導体製造装置

  • 電力インフラ

  • 鉄鋼・素材

  • 旅行・エンタメ

  • 個人消費(節約関連)

こうした“非AIテーマ”の銘柄は、株価が置き去りになっているパターンが実に多い。

この記事は、米国株だけでなく日本株にもそのまま当てはまる警鐘と言えます。


【まとめ|AI以外の銘柄に資金回帰が起きる理由】

今回のBank of Americaレポートが示したのは明確です。

「AI以外にも巨大な投資余地がある」

市場はAIブームによって“視野狭窄”の状態にあり、
非AIセクターの銘柄は利益の改善が起きているにもかかわらず割安に放置されています。

ポイントを整理します。


① AIブームは強いが“一極集中”は危険

S&P500はもはや“米国全体”の鏡ではありません。
特定のAI企業に偏重しすぎて、指数全体のバランスが崩れています。

→ 個別株選択の重要性が増している


② BofAが選んだ16銘柄に共通するのは「割安×上方修正」

AIではなく、以下のような“地味だが強い”セクターが主役候補です。

  • 節約志向を捉えた消費セクター

  • 安定キャッシュフローを持つディフェンシブ

  • 銅需要など長期テーマの素材

  • 景気回復の恩恵を受ける物流・金融

  • インフレ下で強い不動産

  • コロナ後の旅行・レジャー

これらはAI株の影に隠れているだけで、実力値ではむしろ伸びています。


③ AI一服は市場の“崩壊”ではなく“資金移動”に近い

AIテーマが一時的に落ち着いた場合、
空いた資金は自然に“割安な非AI銘柄”へ向かいます。

これは過去のバブル期・テーマ相場でも何度も起きた構造です。


④ 日本でも同じ構造が見える

日本株でも、

  • 電力・インフラ

  • 物流

  • 金融

  • 消費関連

  • 体験型レジャー

など、非AIテーマで業績が伸びる企業は多い。
AIに集中しすぎて視界が狭まると、思わぬ“お宝銘柄”を見逃します。


結論

AIは確かに大きなテーマです。
しかし投資家はしばしば「一つのテーマに全てを賭ける」という罠に陥ります。

今回の記事はこう警告しています。

「AIだけを見ていると、次の主役を見逃す」

今はむしろ、AIの影に隠れた銘柄こそ丁寧に拾うべきタイミングなのかもしれません。


**【気になった記事】

企業が“小口投資家”を口説き始めた理由**

Retail investor(個人投資家)が急増しています。
JPMorganによると、2023年以降で個人投資フローは50%増加

この背景を受け、米国企業は**「個人向けIR(Investor Relations)」**に本気で取り組み始めました。


■ RedditでAMA、ライブ配信、SNS化するIR

具体例を挙げると:

  • Coinbase CEOがRedditでAMA開催

  • NikolaがRedditで議決権行使(Proxy)キャンペーンを展開

  • RobinhoodはIRをアプリ内のSNSに進化させようとしている

  • LyftはYouTube系番組にCEO・CFOが出演し個人向け説明

これまで企業は機関投資家(プロ)しか見ていませんでした。
ところが今は完全に逆。
個人投資家を“コミュニティとして育てる”方向へ舵が切られています。

Stakeholder LabsのCEOであるMatt Joanou氏いわく、

「個人投資家はついに“席を与えられた”」

という表現は非常に象徴的です。


■ ChatGPT時代の投資行動:若者はAIに相談する

eToroの調査では、

  • ミレニアル世代の62%が“投資判断にAIを利用”

  • Z世代の37%もAIを利用

  • さらに、若者の41%が「AIにポートフォリオ運用を任せても良い」

と回答。

つまり──

「企業は、投資家本人だけでなく“投資家が使うAI”も説得対象になる」

という、前代未聞の時代が到来しているのです。

企業広報チームは今後、“人間だけにPRすればいい”わけではなくなります。
IRはチャットボット対応やAI最適化を前提にした新しいマーケティング領域へ広がるでしょう。


【小ネタ①】AMDが“60%成長”を宣言し、株価が飛ぶ

NvidiaのライバルであるAMDが、
データセンター売上が3〜5年で60%増えるとの見通しを示し、株価が急騰。

AIのデータセンター需要は“勝負の土俵が広い”という証左でもあり、
Nvidia一強に見える市場も、ひそかに構造変化が始まっています。


【小ネタ②】Visa、ギグワーカー向けに“ステーブルコイン給料”を実験中

Visaが企業→ギグワーカー(UberEats配達員など)への支払いを、
ステーブルコインで行う実証実験を開始。

銀行口座を持たない層にも即時支払いできる可能性があり、
“給与のWeb3化”という面白い未来が見えてきます。


【編集後記|AIが主役をさらう裏で、静かに伸びるものたち】

最近、投資の世界はすっかり「AIの天下」です。
どこへ行っても「Nvidia」「GPU」「データセンター」「生成AI」。
まるで“AIの夏祭り”のように賑やかです。

しかし、市場というものはいつも逆を突いてきます。
お祭りが終わり屋台が片付く頃、静かに利益を積み上げているのは、
実はAIと関係ない、地味で、汗くさい、泥臭い産業だったりします。

たとえばDollar General。
安い日用品を積み上げるだけのディスカウントストア。
誰もTwitterで騒ぎませんが、消費者が賢くなればなるほど伸びるビジネスです。

あるいはFreeport-McMoRan。
銅という、AI時代の裏側を支える“縁の下の金属”を掘り出している会社。
派手さはゼロ。でも電気自動車もデータセンターも銅なしでは成り立ちません。

投資家という生き物は、本能的に“光っているもの”に群がります。
でも、光っているものはだいたい高い。
そして、光っていないものはだいたい安い。

これは人生でも一緒かもしれません。
行列ができるレストランより、ひっそりと佇む定食屋の方が、美味かったりします。
(経験談です。駅前のあのお店、また行きたい。)

AIは確かに革命で、未来を変える力があります。
でも、その裏で動いている物流、素材、消費、日用品、保険、そして旅行。
これらは人類がAIを使おうが使うまいが、確実に需要があります。

「AIに目がくらむと、大事なものを見失う」

今回のBofAの記事は、そんな“人間の業”をそっと指摘しているように思えました。

あなたが今どんな投資方針であれ、
もしポートフォリオの中に「地味だけど強い」銘柄が一つもなければ、
ちょっとだけ視野を広げてみても良いかもしれません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました