世界が“詐欺の実験場”になる日:テック詐欺から富裕層スキャム、30Under30の闇まで

TECH:meme
  1. ■世界を揺らす「詐欺産業」の巨大化──中国系犯罪組織が作る“テキスト詐欺ビジネス”の構造
    1. ■構造その1:米国の「ギグワーカー」を使った送信工場
    2. ■構造その2:盗んだ情報は“商品化”され、中国へ逆輸入
    3. ■拡大する速度が異常
  2. ■どこから見分ける?詐欺SMSの共通点
  3. 【サブテーマ:富裕層を狙う“上流階級向け詐欺”の歴史】
    1. ■1. バーニー・マドフ:世界最大の“合法に見える”違法
    2. ■2. ザック・ホロウィッツ:ハリウッド版「映画権利詐欺」
    3. ■3. ルディ・クルニアワン:ワイン界の“ゴッド・フォージャー”
    4. ■4. アナ・ソロキン(Delvey):SNS時代の社交界詐欺
  4. 【サブテーマ2:求人詐欺の急増—AI時代の新しい“罠”】
    1. ■典型的なパターン
  5. 【サブテーマ3:Forbes「30 Under 30」はもはや“危険リスト”なのか?】
    1. ■サム・バンクマン=フリード(SBF)
    2. ■チャーリー・ジャビス
    3. ■マーティン・シュクレリ
  6. 【まとめ】
    1. ■1. テック詐欺は国家レベルの脅威へ
    2. ■2. 富裕層向け詐欺は“文化資本”の裏側を突く
    3. ■3. 求人詐欺は“弱者につけ込む”最悪の形
    4. ■4. 若手スター育成システムにも“闇”がある
  7. 【気になった記事】
    1. ■「diVine」登場:伝説の Vine 復活は“ノスタルジー経済”の象徴
    2. ■1. SNSの“疲労感”の反動
    3. ■2. ノスタルジーの経済価値
  8. 【小ネタ①】
    1. ■スイスのロビー活動が“金塊とロレックス”
  9. 【小ネタ②】
    1. ■ウォルマートCEO交代、株式時価総額は+5760億ドル
  10. 【編集後記】

■世界を揺らす「詐欺産業」の巨大化──中国系犯罪組織が作る“テキスト詐欺ビジネス”の構造

もしかすると、あなたのスマホにも届いているかもしれません。
「未払いの通行料があります」「郵便料金が不足しています」
…そんなメッセージ。

結論から言えば、全部ウソです。

米国国土安全保障省(DHS)によると、これらの偽SMSによって
中国系犯罪組織が過去3年間で10億ドル以上を荒稼ぎしたとのこと。
1,500億円規模──これはもはや“スタートアップ級”ではなく“産業規模”です。

■構造その1:米国の「ギグワーカー」を使った送信工場

Wall Street Journal が明らかにしたのは驚くべき仕組みでした。

  • アメリカ国内でギグワーカーを雇い

  • SIMカードとネットワーク機器を大量に並べた“SMS工場”を作り

  • 世界中に偽SMSを大量送信

米国の若者が「副業感覚」で詐欺ネットワークに加担してしまうケースもあるとのこと。
日本の“闇バイト問題”と構図がまったく同じで、国籍をまたいだ新しいタイプの犯罪インフラが形成されています。

■構造その2:盗んだ情報は“商品化”され、中国へ逆輸入

詐取されたクレジットカード番号などは、米国内で“買い物部隊”が家電やブランド商品を購入。

購入された商品は中国へ流れ、ブラックマーケットで再販売。

つまり「情報窃取 → 商品化 → 資金洗浄」という、
完全なサプライチェーンが構築されているわけです。

■拡大する速度が異常

Proofpoint(迷惑メール対策企業)によれば、
2024年1月比で詐欺SMSは3倍超に増加
Google も今週、1つのグループが 1,270万〜1億1500万件のカード情報を盗んだ として訴訟を起こしたばかり。

もはや“国家レベル”で対応すべき脅威です。


■どこから見分ける?詐欺SMSの共通点

ポイントは4つ。

  1. 国際番号(+86など)から届く

  2. 宛先が複数人と共有されている(グループSMS形式)

  3. 「今すぐ」「緊急」など焦らせるワード

  4. リンク先が政府サイトを装うが、URLが不自然

米政府も「本物の政府がギフトカードでの支払いを要求することは絶対にない」と明言。
日本の総務省も同様のアラートを出しています。

つまり、怪しいSMSは
『元カレ・元カノから来たLINE』と同じ扱いが正解。
読みたくても、開けてはいけません。


【サブテーマ:富裕層を狙う“上流階級向け詐欺”の歴史】

詐欺の世界には階級があります。
一般消費者向けのスキャムがある一方、富裕層や「文化資本」を持つ層を狙った詐欺も存在します。

有名どころをいくつか抜粋してみましょう。

■1. バーニー・マドフ:世界最大の“合法に見える”違法

  • 被害総額 650億ドル(約10兆円)

  • NASDAQ元会長

  • 2008年の暴落で露呈

歴史に残る巨額ポンジスキーム。

■2. ザック・ホロウィッツ:ハリウッド版「映画権利詐欺」

  • HBO や Netflix と取引があると偽装

  • 6億5,000万ドルを投資家から調達

  • 年次レポートにジョニー・ウォーカー Blue Label を同封して信用を演出

ウイスキー付き決算書──聞いたことがありません。

■3. ルディ・クルニアワン:ワイン界の“ゴッド・フォージャー”

  • 自家製ワインを“超高級ヴィンテージ”として販売

  • コレクター Bill Koch に2.1Mドル分販売

ワイン界の詐欺は、目利き力を逆利用した典型例です。

■4. アナ・ソロキン(Delvey):SNS時代の社交界詐欺

  • ニューヨーク上流社会に“ドイツ系大富豪の相続人”として侵入

  • ホテル・銀行・友人から総額27.5万ドルをだまし取る

  • 今は「Dancing with the Stars」に出演

詐欺で捕まってもテレビに出られるのがアメリカです。


【サブテーマ2:求人詐欺の急増—AI時代の新しい“罠”】

FTCによると、
2025年上半期だけでオンライン求人詐欺の報告が19%増加
被害額は 3億ドル(約450億円)

さらに、SMS詐欺の中でも**「求人系」**は爆発的に増加。

  • 2020年:4,872件

  • 2024年:20,673件(4倍以上)

LinkedInやZipRecruiterに偽求人を載せるなど、
「リアルに見える形で罠を仕掛ける」タイプが主流です。

■典型的なパターン

  • 面接URLを送り、クリックするとスパイウェアがインストール

  • “研修”という名目で数週間働かせ、最後に消える

  • 口座情報を渡したら即悪用される

弱い労働市場では、こうした詐欺が急増することが歴史的にも知られています。
(日本でも氷河期世代の頃に似たケースが多発しました)


【サブテーマ3:Forbes「30 Under 30」はもはや“危険リスト”なのか?】

米国ビジネス界では、若手スターの登竜門として知られる
Forbes 30 Under 30

しかし、近年は“犯罪者を輩出する名門校”のような扱いも。

代表的な例を紹介すると──

■サム・バンクマン=フリード(SBF)

  • 選出:2021年

  • 罪状:顧客資金窃盗(7件で有罪)

  • 現在:25年の刑

  • 特記事項:トランプ大統領に恩赦を求めてロビー活動中

■チャーリー・ジャビス

  • 選出:2019年

  • 学生向け金融アプリ「Frank」を粉飾

  • 投資家を騙しJPMorganに売却

  • 2025年に7年1ヶ月の実刑

  • ただし法務費用はJP Morgan持ち(契約条項)

■マーティン・シュクレリ

  • 選出:2013年

  • HIV薬の極端な値上げで悪名

  • 証券詐欺で有罪

  • 医療業界永久追放

Forbes もさすがに危機感を覚え、
2023年に「Hall of Shame」を発表

とはいえ、皮肉にも「社会的に落ちた起業家」のブランド価値が逆に上がっている側面もあります。
(日本でも“与沢翼→復活ビジネス”の例などは象徴的)


【まとめ】

今回の英語ニュースから浮かび上がるのは、**「詐欺がもはや産業化している」**という冷徹な現実です。

■1. テック詐欺は国家レベルの脅威へ

中国系犯罪組織が米国を中心に構築している「詐欺のサプライチェーン」は、
物流網・資金洗浄網・人材雇用まで完全に産業化しており、
国際的なテック犯罪の高度化を象徴しています。

AIの進化により言語の壁が下がり、
日本も決して“安全地帯ではない”ことを理解すべきです。

■2. 富裕層向け詐欺は“文化資本”の裏側を突く

ワイン、アート、高級社会、ラグジュアリー。
人々が「価値がわかる人だけが参加できる」と考える領域ほど、
偽物が紛れ込む余地があります。

これは日本の投資用ワイン・絵画市場でも同じで、
「プロだから」「有名だから」では安心できません。

■3. 求人詐欺は“弱者につけ込む”最悪の形

失業率が上がると増えるのが偽求人。
日本でもリーマン後の2010年前後に急増しました。
弱い立場の人が被害に遭いやすく、社会問題として再燃する可能性があります。

■4. 若手スター育成システムにも“闇”がある

Forbes 30 Under 30 は象徴的な例ですが、
名誉が巨大になればなるほど、その裏で「演出」したい誘惑も増えます。
評価システムが完璧でない以上、
若手成功者の物語には適度な距離感が必要です。


総じて、今回の特集は「詐欺」をテーマにしながら、
現代社会がいかに“信頼のインフラ”に依存しているかを示しています。

  • SNSでの信用

  • Eコマースでの信用

  • 国際取引での信用

  • 職探しでの信用

  • 起業家への信用

これらが揺らぐと、世界は一気に混乱します。

だからこそビジネスパーソンは
情報リテラシー × 疑う力 × 構造理解
の3つを常に磨き続ける必要があるのだと思います。

日本でも、SMS・求人・投資・副業の詐欺は今後確実に増えます。
「自分は大丈夫」と思った瞬間が、一番危ない。
自衛しながら賢く世界を見ることが、これまで以上に必要です。


【気になった記事】

■「diVine」登場:伝説の Vine 復活は“ノスタルジー経済”の象徴

約9年ぶりに短尺動画アプリ「Vine」が“復活”しました。
とはいえ完全版ではなく、“再構成版”である diVine

  • 約15〜20万本の動画を救出

  • 旧 Vine の数百万クリエイターから6万名を再収集

  • Jack Dorsey の団体が資金提供

  • AI生成動画は全面禁止(人間の創作にこだわり)

これは面白い現象です。
TikTok・Reels・YouTube Shorts が支配する2025年に、
なぜ6秒動画を復活させるのか?

理由は2つ。

■1. SNSの“疲労感”の反動

長尺・大量・アルゴリズム依存に疲れたユーザーが
“シンプルで軽量なコンテンツ”を求め始めています。

■2. ノスタルジーの経済価値

昔のネット文化への回帰は
今の20代〜30代にとって “安全地帯” のような役割を持ちます。

今後「懐かしさ」を軸にしたSNSやアプリが増える可能性も高いと考えています。


【小ネタ①】

■スイスのロビー活動が“金塊とロレックス”

米国とスイスの貿易交渉が行き詰まったとき、
スイスの企業家が金塊とロレックスを持って直接ホワイトハウスへ。
「Matterhorn級の39%関税」を15%まで下げることに成功。

…やってることが漫画の世界。


【小ネタ②】

■ウォルマートCEO交代、株式時価総額は+5760億ドル

ダグ・マクミロンCEOが退任へ。
在任中、株は4倍に。
米国最大の民間雇用企業のトップ交代は
小売業全体への影響が極めて大きいニュースでした。


【編集後記】

今回の記事を書きながら、改めて「信頼とは何か?」を考えてしまいました。

スマホに届く1本のSMS。
SNSに流れるたった1つの動画。
オフィスに貼られた“求人”の紙。
投資家が掲げる1枚のピッチ資料。

これらすべてが、私たちの意思決定を左右してしまう。
そしてその背後に誰がいるのかは、ほとんどわからない。

便利な時代というのは、裏を返せば「認証コストが跳ね上がる時代」でもあります。
メールを受け取るたびに、
「これは本物か?」
といちいち疑わないといけない社会。

なんとも面倒ですが、これが現実です。

ただ、一方で希望もあります。
SNSや犯罪の構造がこれほど可視化される社会も、かつてありませんでした。
今回紹介した詐欺スキームも、GoogleやDHSが大々的に発表して初めて世間が知ったわけで、
透明性は確実に高まっています。

問題は、情報を“知っているか/知らないか”だけ。

だからこそ、メルマガを書く意味が以前より増しているのだと思います。
私たちは情報の海に漂っているようで、
実は“どの灯台の光を見るか”で未来が変わります。

そして、詐欺の裏にはいつも「欲望」があります。
急ぎたい、得したい、注目されたい、評価されたい、救われたい。
そんな人間の気持ちが、詐欺師に付け入る隙を与える。

逆に言えば、欲望を“ゆっくり扱える人”ほど詐欺から遠ざかる。

世の中のペースが速くなればなるほど、
自分のペースを守ることが
いちばんのセーフティネットになるのかもしれません。

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