深掘り記事|AI相場は“ぐるぐる投資”で持っているのか?
■ いま、市場が一番気にしていること
今回のメインテーマはシンプルです。
「AIバブルじゃないの?」という疑念のど真ん中で、NVIDIAの決算が出る
という状況です。
記事によると、NVIDIAは
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Meta
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Oracle
-
OpenAI
-
Tesla
など、名だたるテック大手からのGPU需要でここまで成長してきました。
ところが足元では、
-
株式市場全体が軟調気味
-
とくにAI関連株に“行き過ぎ警戒”ムードが漂い始めている
なかで、
「この需要、本当に続くの?」
が、マーケットの最大関心事になっています。
■ “お互いに投資し合い、買い合う”AIエコシステムの不安
記事がポイントとして挙げているのが、
「AIジャイアント同士が、お互いに投資し合い、商品を買い合っている循環構造」
への懸念です。
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AI企業が他のAI企業に出資し
-
同時に、その相手からチップやクラウド、モデルを購入する
-
それを元手に、また別のAI企業がインフラ投資を増やす
数字の世界で言うと、
“売上”と“投資”がグルグル回っているだけで、本当に最終需要があるのか見えにくい状態にもなり得ます。
Stifelのアナリスト、Ruben Royはリサーチノートでこう書いています(記事の引用要約):
-
目先の投資家の議論は、
→ 「インフラ投資は本当に持続するのか」に集中している -
一方で、
-
ベンダーファイナンスのループ(売り手側が資金も出している関係)
-
主要AIプレーヤーの財務的持続性
-
供給サイドの問題
などへの懸念も高まっている
-
つまり、「AI企業がお互いに貸し借りしながら設備投資を回している構図」に警戒しているわけです。
■ NVIDIA一社で市場の空気が変わる理由
NVIDIAは単なる一企業ではなく、指数そのものを揺らす存在です。
事実として、
-
NASDAQ100に連動するETFの中で、NVIDIAのウェイトは約10%
と記事は指摘しています。
そのため、
「NVIDIAが大きく動く=NASDAQ100全体が動く」
という構造になっています。
さらに、Bespoke Investment Groupによれば、
-
過去の決算発表日のNVIDIAの1日変動幅の平均は ±7.9%
とのこと。
つまり、
-
今回の決算は
→ サポートライン(下値のメド)を割って本格調整に入るのか
→ それとも**「押し目だったね」でAI相場が息を吹き返すのか**
を分ける“試金石”になる、と見られているわけです。
■ 一方で進む「AI巨大連合」の深化──Anthropic×Microsoft×NVIDIA
そんな“AIバブル懸念”の真っ只中で、
AI業界の巨大連合はむしろ結びつきを強めています。
記事の第2項では、Anthropic・Microsoft・NVIDIAの提携強化が紹介されています。
事実関係を整理すると:
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Anthropic(AI開発企業、主力プロダクトはClaude)は
→ Microsoft&NVIDIAと合計150億ドル規模の提携・投資を発表 -
その結果、Claudeは
→ Amazon・Google・Microsoftという“3大クラウドすべて”で動く唯一のフロンティアモデルになる -
Anthropicは、
→ Microsoft Azureで最大1ギガワット相当のコンピューティング能力を購入する契約を結び、
→ NVIDIAの最新チップによる同規模の計算能力も確保する計画
さらに、関係者のコメントとして、
「これからは、お互いの“お客さん”にもなっていく。
私たちはAnthropicのモデルを使い、彼らは私たちのインフラを使う」
という趣旨の発言(記事引用)が紹介されています。
ここでもやはり、
-
クラウド提供側(Microsoft)
-
モデル提供側(Anthropic)
-
半導体インフラ側(NVIDIA)
が互いに顧客・パートナー・投資家として絡み合う、**“相互持ち合い構造”**が見えてきます。
■ 「バブルだ」と言い切れない3つの理由
ここからは事実ではなく「見方」ですが、
「だからAIはバブルで終わる」と決めつけるのも、少し短絡的かもしれません。
1)設備投資型イノベーションは、いつも“先にインフラ、後から実需”
鉄道、自動車、インターネット、クラウド。
どの波も、
-
初期はインフラへの投資が先行し
-
後からアプリケーションやビジネスモデルが追いついてくる
というパターンを辿っています。
AIも同じく、
-
まずはGPU・データセンターなどの巨大インフラ投資
-
そこから数年かけて、
→ 実務に乗るAIツール
→ 新しいサービス
→ 労働生産性の変化
がじわじわ効いてくる、と考えるのが自然です。
2)ただの循環売買かどうかは、「どこまでBtoCに降りてくるか」で決まる
記事の中では、“相互出資+相互利用”への懸念が語られていますが、
それが「危ない循環売買」に終わるか、「新産業の初期投資」に落ち着くかは、
AIの価値がどこまで“最終消費者”まで届くか
にかかっています。
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税務
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経理
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コーディング
-
クリエイティブ
-
検索・サポート
など、すでに日常業務レベルでAIを使い始めている人も増えています。
この“普及度合い”が本物なら、循環構造は「必要なインフラ投資」として正当化される可能性があります。
3)マーケットが疑っているうちは、まだ“末期バブル”ではない
記事でも冒頭に、
-
AIバブルへの懸念が広がる中での決算
-
投資家が「行き過ぎでは?」と議論中
と明記されています。
本当のバブル末期は、
「疑問を持つ人が市場から追い出され、懐疑論者がバカ扱いされる」
段階です。
いまはまだ、大手アナリストが堂々と「持続性が不安」と言える空気が残っている。
この“違和感を口に出せる余地”があるうちは、
まだ「健全な怖さ」を保っている段階とも言えます。
■ 日本のビジネスパーソンが見るべきポイント
今回の記事を、日本の立場から読むときのチェックポイントは3つです。
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「AIインフラ企業」の決算が、そのまま日本株にも伝播する構造
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NVIDIAのような“指数の10%銘柄”が7〜8%動くと、
→ Nasdaqだけでなく日本の半導体・データセンター関連にもほぼリアルタイムで波及します。
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AI同士の“ぐるぐる投資”が、どこまで許容できるかを自分で判断すること
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「だから危ない」か
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「どの産業でも初期はそうだ」か
この評価軸を自分の中に持っておくと、ニュースに振り回されずに済みます。
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日本企業として「インフラ側」で戦うのか、「応用側」で戦うのか
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NVIDIA・Microsoft・Anthropic的な**“土台”を作る側**になるのか
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その上で動く業務アプリ・サービス側に集中するのか
戦い方を見誤ると、「中途半端にインフラに手を出して燃え尽きる」リスクもあります。
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まとめ|AI相場は一度止まるか、それとも“耐久テスト”に合格するか
ここまでのポイントを、あらためて“事実ベース”で整理します。
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AIバブル懸念が強まる中で、
→ NVIDIAの決算が市場全体の試金石になっている -
投資家は、
→ Meta、Oracle、OpenAI、TeslaなどからのGPU需要がこのペースで続くかを知りたがっている -
一部では、
→ AI企業同士の相互投資+相互購買による“循環構造”が、
エコシステム全体のリスクになり得ると警戒されている -
StifelのRuben Royは、
→ インフラ投資の持続性への不安
→ ベンダーファイナンスのループ
→ 主要プレーヤーの財務的持続性
→ 供給サイドの問題
などへの懸念を指摘(事実) -
指数面では、
→ NVIDIAが**Nasdaq100 ETFの約10%を占める
→ 過去の決算日には平均±7.9%**の1日変動
→ 今回も、相場の“底”か“崩れ”かを左右する可能性
一方で、AI連合の再編はむしろ加速しています。
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AnthropicがMicrosoft・NVIDIAとの提携を深化
→ 合計150億ドル規模のパートナーシップ
→ ClaudeがAmazon・Google・Microsoftの3大クラウドすべてで動く唯一のフロンティアモデルに
→ Azureで最大1ギガワット分の計算リソース購入+NVIDIA最新チップで同規模の算出能力を確保
そして、関係者が語るのは、
「互いのインフラとモデルを使い合う“相互顧客”関係が当たり前になる」
という未来像です。
つまり、市場の不安と、事業サイドの“アクセル全開”が同時に存在しているのが、今のAI相場の特徴です。
では、この状況をどう捉えるべきか。
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「相互投資+相互利用」が
→ 単なる危うい循環売買なのか
→ それとも新しい産業のインフラ投資フェーズなのか
の見極めは、現時点では誰にも“正解”は分かりません。
ただし一つだけ言えるのは、
「NVIDIA決算=AIの最終ジャッジ」ではない
ということです。
決算一つでAI産業そのものが終わるわけではありませんが、
**「どのくらいのスピードで投資が続くのか」**を読むうえでは、非常に大きなヒントになります。
日本の投資家・ビジネスパーソンにとって大事なのは、
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決算の数字そのものだけでなく、「設備投資の語り口」がどう変わるかを見ること
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AI関連ニュースを、“テーマ株”ではなく“インフラ投資のサイクル”として眺めること
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自分のビジネスにとって、AIは「土台」なのか「道具」なのかを決めておくこと
この3つを意識しておくと、
目先の株価に振り回されにくくなります。
AI相場は、ここから
-
一度大きく冷やされるのか
-
「やっぱりここが押し目だった」と再加速するのか
どちらに転ぶにせよ、
“AIが業務の前提になる”流れそのものは、もう後戻りしない──
記事を読みながら、そんな感触を新たにする内容でした。
気になった記事|アメリカ人が“家いじり”をやめ始めた理由
次に取り上げるのは、ホームセンター・Home Depotの決算と住宅市場の減速の話です。
記事のポイントはこうです。
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Home Depotは、通期の既存店売上見通しを下方修正
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第3四半期の既存店売上は
→ 予想+1.3%に対して、実績は**+0.2%**と物足りない数字 -
CEOのTed Deckerによれば、背景には
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住宅市場の鈍化
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経済不安・雇用不安
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生活コスト上昇
などがある
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さらに、
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「住宅活動」(既存住宅の売買+新築住宅建設)は、
→ 住宅ストックに対する割合で見ると、過去40年で最低水準だと説明 -
Zillowのデータでは、
→ 2024年以降、アメリカの住宅の53%が値下がり
→ これは2012年以来の高い割合 -
2025年秋は、
→ ハリケーンなどの大型嵐がほとんど来ていないため、
修繕・リフォーム需要も伸びなかった、としています。
要するに、
家の価値は下がり気味
+ 引っ越しや新築も少ない
+ 嵐も来ないから大規模修繕も要らない
+ 将来不安でお金も使いたくない
という四重苦の中で、
「家いじり(ホームインプルーブメント)」への支出が冷え込んでいる、という構図です。
日本で言えば、
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住宅価格の頭打ち
-
人口減少エリアでの空き家増
-
物価高+将来不安
で、リフォーム需要が伸び悩むような状況に近いイメージです。
Home Depotの決算は、単に一社の業績ではなく、
アメリカ中間層の財布のひもと、住宅市場の“体温”を測る温度計としても要チェックだと感じました。
小ネタ①|スポーツベッティング vs カジノ、“予測市場”でケンカ別れ
一つ目の小ネタは、FanDuelとDraftKingsがアメリカ・ゲーミング協会(AGA)を脱退した話です。
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背景には、「予測市場(prediction markets)」をどう扱うかを巡る対立
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FanDuel/DraftKingsなどのスポーツブック企業は
→ 予測市場を積極的に取り込もうとしている -
一方、AGAは
→ MGMやCaesarsといった大手カジノ企業が主なメンバーで、
→ 予測市場に懐疑的な立場
結果として、
「予測市場、推したい側」 vs 「慎重派のカジノ側」
という構図が決定的になり、
FanDuelとDraftKingsはAGAを離脱した、という流れです(記事ベース)。
一口に“ギャンブル業界”と言っても、
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新しいプロダクトでユーザーを増やしたいオンライン勢
-
既存ビジネスと規制との微妙なバランスを守りたい老舗カジノ勢
の利害は、かなり違うことがよく分かるエピソードでした。
小ネタ②|「あと払いブーム」はまだ続く──Klarnaの売上+26%
二つ目の小ネタは、フィンテック企業Klarnaの話です。
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直近四半期の売上は前年比+26%
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原動力は、“Buy Now, Pay Later(後払い・分割払い)”ローンの人気拡大
「あと払い」と聞くと、
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便利そう
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でも使い過ぎが怖い
という二面性がありますが、
数字の上ではまだまだ成長モードのビジネスであることが分かります。
日本でも「BNPL(Buy Now, Pay Later)」系のサービスは増えていますが、
アメリカのこの手のニュースを見ると、
「金利が高くて普通のローンが重い分、“後払い”への誘惑はむしろ強まっているのでは?」
と想像してしまいます(ここは私の推測です)。
編集後記|“ぐるぐる投資”を笑えない私たち
AIバブル懸念とNVIDIA決算。
そして、AI企業同士が互いに投資し合い・買い合い・貸し借りし合っている構図。
記事を読みながら、正直な感想は、
「この感じ、どこかで見たことあるな……?」
でした。
日本的に言うと、
-
仕入先にも出資
-
顧客にも出資
-
お互いの株を持ち合って
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みんなで銀行からお金を借りる
みたいな**“昭和の系列経済”+“平成の金融工学”の合わせ技**みたいな空気です。
もちろん、AIインフラへの投資と、単なる循環取引は別物です。
ただ、お金の流れだけを眺めていると“ぐるぐる回っているだけ”に見える瞬間があるのも事実です。
面白いのは、
そんな構造を誰もが薄々分かっているのに、
NVIDIAの決算ひとつで、
-
「やっぱりAIは新しい産業革命だ!」
-
「いや、やっぱりバブルだ!」
と、極端なポジションに振れてしまいがちなことです。
本当はもう少し、
-
「インフラ投資フェーズのど真ん中」
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「実需がどの速度で追いついてくるか」
-
「それまでの間、市場はどの程度のボラティリティを許容するか」
くらいの落ち着いた議論をしたいところですが、
株価チャートは、いつも我々の理性より早く動きます。
一方で、Home Depotのニュースも、なかなか味わい深いものでした。
-
住宅の半分以上が値下がり
-
引っ越しも新築も40年ぶり低水準
-
嵐も来ないから修繕需要もない
という中で、
**「家をいじる気力が出ないアメリカ人」**の姿が浮かび上がってきます。
AIとGPUとギガワットの話をしている一方で、
現場では「家のペンキぐらい、また今度でいいか」となっている。
このギャップこそが、いまの世界経済の“リアル”なのかもしれません。
AIに投資する人も、
「あと払い」で買い物を楽しむ人も、
家の修繕を先送りにする人も、
根っこにあるのは同じです。
「未来は信じたいけど、目先の財布はつねに心配」
だからこそ、人はバブルを繰り返し、
だからこそ、人はAIにも、BNPLにも、住宅ローンにも、
ちょっとだけ無理して手を伸ばしてしまう。
NVIDIAの決算がどう転ぶかは誰にも分かりませんが、
一つだけ確かなのは、
「AIがどうであれ、私たちは明日も家賃やローンを払わないといけない」
という、乾いた事実です。
その現実と折り合いをつけながら、
どこまで未来にベットするのか。
その“さじ加減”こそが、
個人投資家にも、ビジネスパーソンにも、いちばん問われているのかもしれません。
今日もここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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