ジョンディアが泣いている──アメリカ農業不況が示す「設備投資バブル」の怖さ

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「もう1年しんどい」ジョンディアが語る“農業の底”

世界最大の農業機械メーカー、**Deere & Co.(ジョンディア)**が、アメリカ農業に関してかなり重めの見通しを出しました。

  • アメリカとカナダの大規模農家向けビジネスが、2026年にさらに15〜20%落ち込む見込み

  • とくにトウモロコシ・大豆・小麦といった**「畝作物(row-crop)」の農家が苦しい**

  • 現金が足りず、新車ではなく中古機械を使い続けている

  • 需要が弱いので、大型トラクターの生産は絞り込み

  • その結果、大型トラクターの在庫台数は過去17年以上で最低水準

と、なかなかハードな状況です。

ジョンディアのCEO、ジョン・メイ氏は投資家向けの電話会議でこう語っています。

「うちの組織は景気循環には慣れている。
ただ、今年は“景気サイクル+不確実性の急上昇”という
追加の逆風まで受けることになった。」

農業そのものが景気に左右される業種であることは、同社も十分承知している。
そのうえで**「今回はいつもの景気後退とは違う」**とわざわざ強調しているのがポイントです。


🌾 2年連続の“板挟み”状態:コスト↑+作物価格↓+貿易戦争

記事が指摘しているとおり、アメリカの農家はここ2年ほど不況が続いているとされています。理由はシンプルで、しかし重い。

  • 肥料・燃料・人件費などのコストは上昇

  • 一方で、トウモロコシや大豆などの作物価格は下落

  • さらに、関税や貿易摩擦といった政策要因が輸出環境を悪化

結果として、農家はキャッシュフローが細り

  • 新しい大型トラクターやコンバインの導入を見送り

  • 手元の中古機械をだましだまし延命させる方向に動いているわけです。

ジョンディアから見ると、

「お客さん(農家)の財布が薄い → 新車が売れない」

という、BtoBビジネスの典型的な悪循環に陥っています。


🏭「売上は増えているのに、利益と株価は下がる」というねじれ

ここで少しマクロに引いてみましょう。
今回の決算でジョンディアが出した数字は、なかなか興味深い構図です。

  • 全体の売上高は前年同期比で+14%

  • しかし、純利益は10.7億ドル → 12.5億ドルから減少

  • 株価は**▲5.7%**と、市場の反応はかなりネガティブ

つまり、

「売上は伸びたのに、利益と株価は評価されない」

という状態です。

ここから読み取れるのは、

  • 利益構造的に、おいしい領域(大規模農家向けの大型機械)が弱っている

  • 他の部門ががんばって売上を伸ばしているが、
    マージン構造が違うため利益全体はむしろ圧迫されている

ということです。


🔭 CFOの“ボトム宣言”は本物か?

一方で、CFOのジョシュ・ジェプセン氏は、

「北米の大規模農業(big ag)は2026年も落ち込むが、
来年(=これからの1年)がサイクルの底になると見ている」

と、「そこが底」宣言をしています。

根拠として彼が挙げたのは、

  • 米中間の新たな貿易協定が結ばれたこと
    (これが、穀物輸出や農産物取引にプラスに働く可能性)

  • いくつかのポジティブな要因が「回復の種(seeds for a possible recovery)」になる、という見立て

です。

もちろんこれは企業側の予想とメッセージであり、確定した未来ではありません。
ただ、「本当に底に近づいているのか?」という問いが、投資家サイドの最大の関心事になっているのは間違いないでしょう。


💼 ここからは「私の意見」です(事実と分けて書きます)

事実として、

  • アメリカの農家は2年連続で厳しい状況

  • 大規模農家は新車を買う余力が減り、中古を使い続けている

  • ジョンディアは生産を絞り、在庫も歴史的低水準

  • それでも全社売上は伸びているが、利益は落ち、株価は売られている

  • 会社側は「来年が底」とメッセージを出している

という構図です。

ここから先は私の見方ですが、このニュースは農業だけの話ではありません。

  • 「設備投資→借り入れ→景気悪化→中古品延命」のサイクル

  • 特定分野が落ちても、別のビジネスラインで売上を支える“ポートフォリオ経営”

  • その一方で、株式市場は「将来キャッシュフロー」への不安を容赦なく株価に反映する

この構図は、製造業全般・設備産業全般に通じる話です。

日本のビジネスパーソン目線で言うと、

「売上が伸びていても、主力顧客が痩せているビジネスは危ない」

という教訓として読むのがよさそうです。


まとめ

今回のメインテーマは、**「Deere & Co.が語るアメリカ農業不況の現実」**です。

事実として押さえておきたいのは以下のポイントです。

  1. アメリカ農家は「2年連続の不況」状態にあるとされていること。
    コスト増、作物価格下落、関税や貿易摩擦が同時多発している。

  2. Deereは2026年の北米大規模農家向け売上が15〜20%減ると見込んでいること。
    これは「まだ下がる」という見立てであり、かなり弱気です。

  3. 農家は短期資金に余裕がなく、新車より中古機械に依存していること。
    大型機械の需要が鈍れば、ジョンディアのような企業の稼ぎ頭が痩せる。

  4. Deere自身も、生産を絞って在庫をコントロールしていること。
    大型トラクターの在庫は「17年以上で最低レベル」とされています。

  5. 全社の売上は14%増えているが、利益は減り、株価は▲5.7%と売られていること。
    「売上が増えているから大丈夫」とは市場は見ていない。

ここまでが記事が伝えている事実の部分です。


では、これを日本のビジネスパーソン目線で読むと、どんな示唆があるのか。
ここからは意見・解釈です。

  • 一つ目の示唆は、「主力顧客の財務体力がビジネスの運命を決める」という当たり前の真理です。
    どれだけブランド力があり、技術が優れていても、顧客の財布に余裕がなければ、大型投資商品は売れません。農業機械だけでなく、産業機械、ITインフラ、サブスクの高額プランなども同じ構造です。

  • 二つ目は、**「売上が伸びていても、マーケットから評価されないパターンはある」**ということ。
    全体の売上が伸びているのに株価が下がると、「なんで?」と思いがちですが、問題は「どの事業が伸びていて、どの事業が痩せているか」です。
    もし“稼げる部門”が縮小し、“薄利な部門”が伸びる形になっていると、売上グラフは右肩上がりでも、企業価値は下がることが普通に起こります。

  • 三つ目は、CFOが言う「来年が底」という発言をどう扱うか。
    企業側は当然、投資家の不安を和らげたいので、「ここからは上向く」というメッセージを出したくなります。そこで大事なのは、
    **「業界構造が変わった結果の不況なのか、サイクル的な不況なのか」**を見極めることです。
    記事の範囲ではそこまで踏み込んだ話は書かれていませんが、少なくともDeere側は「今回はあくまでサイクル要因+不確実性」であり、構造崩壊ではないと見ているように読めます。

結局のところ、今回の記事はこういうメッセージを含んでいると思います。

「農業の不況は、静かに長引く。
しかし種はまかれている。回復は“ある日いきなり”ではなく、
じわじわと感じられるのだろう。」


気になった記事

キャンベルスープ、「貧困層向けの高度加工食品」発言の破壊力

2本目の記事は、食品大手Campbell’s(キャンベル)が幹部を即クビにした話です。

事実関係はシンプルです。

  • 元従業員が、情報システム部門のVPであるMartin Bally氏と会社を相手取って訴訟を提起

  • その中で、Bally氏が

    • キャンベルの商品を**「貧困層向けの高度に加工された食品」**と呼んだ

    • インド人労働者を「idiots(バカ)」と呼び、彼らと働くのが嫌だと述べた
      と主張

  • 音声記録が公開され、キャンベル側が検証した結果、「録音の声は確かにBally本人と判断した」とコメント

  • キャンベルは

    • 発言は「下品で、不快で、事実にも反する」

    • 会社として謝罪し、本人は火曜日付で解雇した
      と発表

ここまでは、完全に事実ベースの話です。


ここからは解釈です。

まず、「貧困層向けの高度加工食品」という表現が持つダメージはかなり大きいです。

  • 高度加工食品(ultra-processed food)は、
    健康志向の文脈ではほぼ悪役ワード

  • そのうえで「貧困層向け」と言ってしまうと、
    商品=貧乏人のジャンクフードというレッテル貼りになる

しかもそれを言っているのが社外の評論家ではなく、社内幹部です。
ブランド価値を内側からぶっ壊しにいくようなもので、会社としては「即クビ」以外の選択肢はほぼありません。

さらにもう一段、深刻なのがインド人差別発言です。
人種・国籍・民族に関わる差別的発言は、企業にとって経営・採用・顧客の全方向に効くリスクになります。

キャンベルは公式コメントで、

「発言は下品で、攻撃的で、事実にも反する。
傷つけてしまったことを謝罪する。」

としていますが、これは**「事実かどうか」より「組織の価値観」**を強調していると言えます。


日本のビジネスパーソン目線で見ると、この話は単なる海外炎上ネタではなく、次のメッセージを含んでいます。

「本音」と「プロとして言ってよいこと」の境界線を見誤ると、
個人も会社も簡単に吹き飛ぶ。

とくに、

  • 競合と比較しながら自社のポジションを語るとき

  • 部下の前で自社製品の欠点を“ノリで”しゃべるとき

  • 海外拠点やオフショア先の関係者について話すとき

「ちょっとした本音」は、録音され、文脈を切り取られた瞬間に**完全な“公式見解”**に変換されます。

AIでも、農業でも、スープでも、最後にブランドを壊すのは人間の口なんですよね。


小ネタ2本

🐕 小ネタ①:ペット業界はやっぱり強い? Petco株が14%急騰

3本目の「Other happenings」でさらっと触れられているニュースですが、ペット関連のPetco株が14%以上の急騰を見せました。

きっかけはシンプルで、

  • 通期の業績見通し(earnings guidance)を上方修正した

から。

ペット業界は「不況に強い」と言われることが多いですが、ここで言える事実は、

  • Petcoが“ペット需要の底堅さ”を背景に
    自社の利益見通しを上げた

  • それにマーケットが素直に「よしきた」と反応した

ということだけです。

どの業界もそうですが、「上方修正」はそれだけで**“信頼投票”**になります。
AIや半導体のようなきらびやかな話題ではなくても、
「犬と猫」はちゃんとマーケットにインパクトを与えている。静かな強者です。


🤖 小ネタ②:MITの研究「AIがすでに11.7%の仕事を代替可能」

同じく「Other happenings」に出てくる、もうひとつの小さな爆弾がこれです。

  • MITの研究によれば、AIがすでにアメリカの労働市場の11.7%を代替可能だと示された、という報道

ここで重要なのは、

  • **「いつ代替される」ではなく、「技術的には代替可能な仕事が何%か」**を測っている点

  • 11.7%という数字そのものより、
    すでに1割超の仕事が“AIでできる”ゾーンに入った」という認識

です。

もちろん、これは論文・研究の結果であり、
「明日から11.7%の人が解雇される」という話ではありません。

ただ、ビジネスパーソンとしては、

「自分の仕事の中で、11.7%どころか50%くらいAIでできそうな部分はどこか」

を考えるきっかけにはなります。

AIが仕事を奪うかどうか、というよりも、
“どの部分をAIに渡すか自分で決める”側に回れるかどうかが、
今後のキャリアの分かれ目になりそうです。


🛒 小ネタ③:ブラックフライデー、結局リアル店舗はまだ死なない

最後の小ネタは、恒例行事・ブラックフライデー

記事によると、

  • すでに数日前からセールは始まっているものの

  • それでも11月28日は、店舗・オンラインともに一年で最も忙しい日になる予想

  • ナショナル・リテール・フェデレーション(全米小売業協会)とSensormatic Solutionsの早期予測でも、
    この日がピークになるとみられている

  • 大手量販店(big-box chains)や専門店(specialty retailers)は、
    すでにオンラインで早期セールを打ちながらも、
    当日の来店客向けプロモーション(ドアバスター、一日限定の特典)をガッツリ仕込んでいる

という状況です。

要するに、

「ネットで前倒しセールしつつ、ブラックフライデー当日もちゃんと盛り上げる二枚腰戦略」

です。

「リアル店舗は終わった」と言われて久しいですが、
人は“イベントとしての買い物”が好きなんですよね。

店頭で並び、限定品を手に入れ、ちょっと疲れてコーヒーを飲んで帰る――
それ自体が一つのレジャーになっている。
この記事はその現実を静かに教えてくれます。


編集後記

ジョンディアの話、キャンベルの炎上、Petcoの上方修正、MITのAI研究、ブラックフライデー。

こうして並べてみると、アメリカ経済は相変わらずカオスで元気だなと感じます。

  • 農家は2年連続でしんどい

  • 食品メーカーの幹部は口を滑らせてクビ

  • ペット業界はちゃっかり好調

  • AIは1割近い仕事を理論上は置き換え可能

  • そして人間は、まだブラックフライデーで朝から並ぶ

合理性だけで見れば矛盾だらけです。
でも、これが人間社会のリアルなんでしょう。

ビジネスニュースを追っていると、「構造」とか「マクロ」とか、それっぽい言葉で語りたくなります。
ただ、現場レベルではだいたいもっと単純です。

  • トラクターが高くて買えない

  • 上司が余計な一言を言った

  • うちの犬のエサは切らしたくない

  • 新しいガジェットを安く買いたい

AIも関税もエネルギーも、突き詰めれば人間の小さな欲と不安の積み重ねです。

今回のニュース群を見ていて思ったのは、

「世界はどれだけテック化しても、“生活感”からは逃げられない」

という、どうしようもなく当たり前の事実でした。

農業機械メーカーの決算書と、
キャンベルスープの謝罪コメントと、
MITの論文と、
ショッピングモールの行列。

すべてが同じ2025年の風景の一部です。

その中で、私たちができることは意外とシンプルかもしれません。

  • バブルっぽい話には一歩引いてみる

  • 他人の失言から、自分のリスク管理を学ぶ

  • 「なくならない需要」がどこにあるかを探す

  • 流行ではなく、自分の生活とポートフォリオを基準に判断する

ニュースを“消費”するだけか、
ニュースを“自分の行動に翻訳”するか。

この差が、数年後の差になるのだろうなと感じています。

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