深掘り記事
アメリカと中国が静かに綱引きをしているのは、軍事でもAIでも宇宙でもありますが、今回の主役はもっと身近なものです。みんなのスキマ時間を奪っているアプリ、TikTokです。
まず事実から。TikTokの米国事業(TikTok U.S.)が、親会社ByteDanceから売りに出され、その評価額が約140億ドル(約2.1兆円)とされています。これだけ聞くと「いやいや2兆円って十分デカいでしょ」と思うのですが、ここが肝です。第三者推計では、TikTokの米国の広告売上だけで今年140億ドル以上になる見込みとされています。要するに「売上1年分 ≒ 会社の評価額」。広告プラットフォームとしての“収益力”に対して、かなりのディスカウントがかかっている、ということです。
比較するともっとえぐいです。Meta(FacebookやInstagramを持つ会社)は、2025年のグローバル広告収入見込みに対して、株式市場全体の評価が9倍強ついているとされています。一方、TikTok U.S.は売上の約0.95倍。極端に安い。さらに言えば、Redditなんて、広告規模はTikTokと比べるとずっと小さいのに、投資家はものすごく高い倍率をつけて評価しています。数字だけ見れば、TikTok U.S.は「投げ売り」か「身代金払い」か、という水準です。
なぜこんな安売り状態で手放すのか。ここに政治が入ります。
アメリカ側は、TikTokの米国ユーザー情報が中国政府に“抜かれる”のでは?という国家安全保障上の懸念を以前から公然と示してきました。トーンとしては「もし売却しないなら米国内で禁止する」という、実質的な最後通牒です。長引く法廷闘争・規制闘争はアプリそのものの存続を危うくするので、ByteDanceとしては「そこまでして守るより、分離して売ってしまったほうが生き残れる」と判断した、という見方ができます。
ここで注意したいのは、単に「アメリカがTikTokをいじめてる」という単純な構図ではないことです。米中の交渉テーブルには、TikTokだけでなく、もっと地味だけど政治的に超重たいテーマが並んでいます。たとえばアメリカの農産物(とくに大豆)の輸出、関税(タリフ)、今後の貿易協議の地ならし……。TikTokカードは、これらの交渉の一部としても位置づけられています。つまり「TikTokを売る」というのは、エンタメアプリの話に見えて、じつは米中の関税・輸出入・国内政治向けのメッセージを含んだ、経済安全保障パッケージの一部でもあるのです。
一方、中国側はというと、米中高官(米国側は国務長官、今回の記述ではマルコ・ルビオ国務長官とされています)との対話に関して、公的な声明では「首脳会談を確約した」とまでははっきり言っていません。つまり、中国も「TikTok売却=すべて円満」にはしていない。これもポイントです。中国政府にとっては、TikTokは“ソフトパワー”そのもの。特に米国の若年層の世論形成に影響を与えるツールでもあります。そこをアメリカ側の圧力で手放す形になるのは、国内的に「弱腰だ」と批判されやすい。なので、中国としても「これは別に全面降伏ではないからね」という距離の取り方をしている、と読めます。
さて、ここからが日本のビジネスパーソン的に一番おいしいところです。TikTok U.S.のディールは何を示しているのか?
(1)グローバルサービス=国境の外で守られる、はもう幻想
かつては「GAFA級の巨大IT企業なら、各国政府を超越してグローバルで動ける」という神話がありました。でも今は逆です。巨大になればなるほど、“現地子会社の切り売り”を迫られる。言い換えると、GAFAクラスですら「お国ルール」に従って資産を分割・再編しなきゃいけない世界です。もしあなたが海外展開をしていて、ユーザーデータやアルゴリズムが競争優位の源泉なら、「その優位は国境を越えた瞬間に自分の手から離れる可能性がある」と覚悟しておいたほうがいい、ということです。
(2)プラットフォーマーの“評価額”は政治リスクで一瞬にして壊れる
TikTok U.S.の売却額は、ビジネス的な価値(広告売上の成長ポテンシャル、ユーザーの滞在時間、ブランド力)ではなく、“規制を回避するために早く売らないといけない”という交渉状況で決まっています。つまり「売上×何倍」みたいな美しいSaaSバリュエーションの世界観が、政治1発で吹き飛ぶ。これは今後の海外M&A、特にデジタル関連の買収・資本提携のディールにおいて、実務レベルでかなり響きます。「政治由来のディスカウント」をどう読むかは、もはやIR担当や渉外室だけの仕事ではなく、経営企画・ファイナンス・事業開発の共通言語になっていくはずです。
(3)メディアビジネスの再定義が加速する
TikTokは広告ビジネスです。目と時間を集めて広告を売るモデル。これに対して、どう戦うか? アメリカの従来型メディア企業も、必死でアップデートをかけにきています。その一例がCNNです。
CNNはかつて「CNN+」というサブスク動画サービスを立ち上げましたが、これは本体のニュース番組とは別に“独自のオリジナル番組”をつくって売ろうとした野心的な試みでした。コストもかかったし、結果的には長続きしませんでした。今回の動きはそれとは違います。新サービスは、既存のCNN本体の生中継・速報・国際チャンネルまでを含めた“本丸”のコンテンツを、サブスクで直接ユーザーに届ける設計です。月6.99ドル(年額69.99ドル)からという明確な値付けで、米国内から始め、将来的にはスペイン語ネットワーク(CNN en Español)や天気アプリ(CNN Weather)なども束ねて、国際展開も視野に入るといいます。
ポイントは2つ。
1つめ:配信の「本隊」を売り始めたこと。これはケーブル局頼みの古いモデルからの脱皮です。
2つめ:複数サービス束ねの“スーパーサブスク”構想。ニュース+天気+ライフスタイルをワンパッケージにして、ユーザーとの直接課金関係を築き、ケーブル会社と広告主への依存度を下げたい狙いがあります。
これ、TikTok的な「無料+広告モデル」とは真逆です。TikTokは広告マシンであり、それゆえ政治リスクや規制リスクにさらされやすい。一方、CNNは「直接課金による安定キャッシュフロー」を強化しようとしている。広告依存リスクを減らすことで、プラットフォーム依存や広告主の機嫌取りから脱却しようという戦略です。つまり“ニュースメディアの自立”の再チャレンジです。
これを日本に置き換えると、「大手メディアが、自社の本丸コンテンツをちゃんとお金と引き換えに売る準備ができているか?」という問いです。サブスクは魔法の言葉ではないですが、TikTok型の“無料で人の時間を集める→広告で回収”モデルだけに依存するのは、もはや政治的に危険地帯に踏み込むということでもある。広告モデルの外に逃げ場をつくれるかは、メディアだけでなくあらゆるBtoCサービスにとっての生存戦略になりつつあります。
そしてもう1本、今回とても示唆的だったのが「Forum AI」という新しい会社の話です。元ニュースアンカーで、Meta(旧Facebook)でニュース責任者も務めたキャンベル・ブラウン氏が、AIモデルの“中身”を監査するようなサービスを立ち上げました。彼女らの狙いはこうです。
・AIがセンシティブな話題(政治、リスクの高い社会問題、歴史認識など)についてどう答えるかを、専門家が評価する。
・バイアス(偏り)や危険な表現、過剰に断定的な表現をチェックする。
・必要に応じて、AI企業側に「こういう言い回しは危ない」「ここは事実関係を明示すべき」とリアルタイムでフィードバックする。
・さらに、その専門家知見を学習データとしてAI側に渡していく。
要するに「AIの良心・セーフティ・トーン・倫理観」を外部から請け負う“第三者調整役”です。しかも名前を聞くとけっこうな重量級が並びます。元財務長官のラリー・サマーズ、元下院議長のケビン・マッカーシー、歴史家のナイアル・ファーガソンなど、政治・経済・歴史のかなりコアな人材が関わる形で、AIの回答や判断の「方向性」に口を出すわけです。
これ、企業サイドにとっては重要なサインに見えます。これまでは「AIはただのツールです、中立です」と言い張るのが常套句でした。でも、世の中の現実はそんなにきれいではありません。AIが何かを“正しい”と言えば、ユーザーの行動、投票行動、購買行動、投資判断にまで影響する。つまり、AIの“口調や価値判断”自体が、巨大な政治資産・経済資産になる。そこに「審査員ビジネス」が生まれたのがForum AIです。
これもTikTok問題と同じ線上にあります。国家が「それ、うちの世論に影響あるからダメ」と言い始める時代に、プラットフォームとアルゴリズムに“信頼できる外部の監視と説明責任”をくっつけることで、なんとか「完全な野放し」も「完全な国有化」も避けたいという模索が、いまリアルに始まっているわけです。
まとめると、今回の3つの動き(TikTokの米国売却=国家リスクのマネタイズ、CNNのサブスク再挑戦=広告依存からの脱走、Forum AI=AIの発言を人間が審査する産業化)は、全部ひとつの方向を向いています。
それは、「誰が“観客の注意”をコントロールするか」はもはやビジネス単体の話ではなく、国家と資本とメディアとAIが同じテーブルで取り合う資源になった、ということです。私たちがスマホで何を見るか、何を信用するか、何を買うか。それ自体が、政治カード/M&Aの評価/新規サブスクの核商品/AI監査ビジネスの種になる。エンタメのニュースに見えて、経営会議レベルの話になってきました。
まとめ
今回の大きなポイントは、「アテンション(人の注意・時間)」「信用」「決済」の3つが、完全に政治と直結する資産になっているということです。
TikTokの米国事業は、推定140億ドル以上の広告売上が見込まれる巨大ビジネスにもかかわらず、売却額がそのほぼ1倍程度という“格安”で切り出されました。普通ならテック企業の成長資産は「売上の何倍」という高い倍率で評価されますが、今回はそうならなかった。なぜかというと、米国政府が「安全保障上の懸念」を理由に、売却しなければ事実上禁止するという圧力をかけたからです。極端に言えば、“政治が入るとマルチプル(評価倍率)は崩れる”。この現実を突きつけられた、というのが最大の教訓です。グローバルサービスは、国ごとに分社化・現地化・囲い込みされるリスクが常態化しました。「世界で同じアルゴリズムを回してスケールする」という古き良きプラットフォーマー神話は、相当揺らいでいます。
一方で、アメリカ国内の既存メディア側も手をこまねいているわけではありません。CNNはかつて「CNN+」というサブスクを立ち上げ、オリジナル番組を別枠で作ろうとしましたが、コストや構造の重さがネックでした。今回の新サービスは方向転換です。いちから別番組を作って勝負するのではなく、「いまのCNN本体のライブ報道・国際チャンネル・デジタル記事」を、そのまま月額課金で売り、さらに天気アプリやスペイン語ネットワークも含めて束ねていく“本丸直売”モデルに寄せていきます。価格は月6.99ドルから。これは、ケーブル局や広告主に依存してきた古いメディア経済から、ユーザーと直接お金の線を結ぶ経済へのシフトです。TikTok型の「無料で人を集めて広告で回収」モデルに一極依存するのは、政治リスク・プラットフォームリスクが大きすぎる。その危機感がはっきり見えます。
さらに、AIそのもののガバナンスもビジネス化され始めました。元メタのニュース責任者キャンベル・ブラウン氏らが立ち上げたForum AIは、AIモデルの回答内容を専門家が点検し、バイアス(偏り)や危険な表現、社会的に高リスクなテーマにおけるトーンをチェックし、必要ならAI企業にフィードバックし、トレーニングデータとして提供するという“AIの審査役”を売るビジネスです。ここで重要なのは、AIの発言内容が世論形成・消費行動・政策判断まで影響するほど重くなった以上、「誰がAIの口調を決めるのか」という問題にお金が動き始めたことです。もはや「AIは中立です」というポーズでは済まない。中身の監査、説明責任、専門性の裏取りが「月額フィーで提供されるB2Bサービス」になったというのは、AIが単なる技術ではなく“準インフラ”扱いされ始めた証拠です。
この3つは別々のニュースに見えて、根っこではつながっています。それは、「情報を配信する権利」「その情報を信じさせる力」「そこから生まれるお金の流れ」を、国家・企業・プラットフォーム・AIが取り合っている、という点です。TikTokの“投げ売り”は、国家が「情報プラットフォームを国境の内側で管理するぞ」と明確に主張した形。CNNの課金シフトは、メディアが「広告主やケーブル会社ではなく視聴者本人から直接、信用とお金をもらう」と決めにいった動き。Forum AIは「AIが発する言葉の“正当性”に専門家と政治エリートを関与させる」試み。つまり、情報と信用はどんどん国家規模のインフラ扱いに近づき、それに紐づくマネタイズの取り方も再設計されている最中だということです。
日本の企業にとっての問いはシンプルです。あなたの事業は、どの土俵で戦うつもりですか? “国境管理される側のプラットフォーム”なのか、“直接課金で顧客とつながるブランド”なのか、“AIのふるまいを監査・保証する立場”なのか。どこに立つかで、必要な規制対応、資本政策、パートナーシップの組み方が全く変わります。TikTokの件は、遠い米中の話ではなく、「明日あなたのプロダクトがどんな値札で買われるのか」という実務の話でもあります。
気になった記事
Forum AIは「AIの中身監査」という新市場をつくろうとしている
Forum AIという会社がやろうとしているのは、一言でいえば“AIの価値観レビュー業”。AIモデル(チャットボットや生成AIなど)が政治・経済・歴史のセンシティブな話題にどう回答しているかを、専門家ネットワークがチェックし、偏りや危険な表現、過度な断定などを指摘する。そして、AI企業側にそれをリアルタイムにフィードバックする。さらに、その専門家の知見を「安全かつ妥当な回答例」として学習データに組み込ませる。月額フィーでこれを提供する、と説明されています。
ここでの面白さは2つあります。
1つめは、AIガバナンスが急速に「外注」になっていること。AI企業は「我々が正しく倫理的に判断しました」と自分で言い切るより、「この分野の超有名エコノミスト/元政府高官/著名歴史家が監修しています」と言ったほうが、政治的な盾になるからです。たとえばForum AIには、元米財務長官のラリー・サマーズ、前下院議長のケビン・マッカーシー、歴史家のナイアル・ファーガソンといった、政治・経済・歴史それぞれで存在感のある人たちが関わっています。つまり「AIの意見」を“誰の監修か”で正当化する流れが、商品化されているということです。
2つめは、“AIの口調”はもうPR領域ではなく、リスク管理領域になったということ。AIが差別的・攻撃的・誤情報的なことを言った場合、その企業は一気に炎上し、規制当局からの突き上げも来ます。逆に、AIがあまりにも無難すぎると「役に立たない」と言われてユーザーが離れる。つまり、AIの「どこまで言うか・どう言うか」は、ビジネス的にも政治的にも綱渡りです。Forum AIのような“第三者の審査役”が必要とされるのは、その綱渡りを外部の専門家ブランドで安定化させるため、と言えます。
これは日本企業にも示唆的です。日本企業が生成AIを顧客サポートや商品レコメンドに導入する時代、クレームや法的リスクを避けるための「AIの言い方チェック」は確実に必要になります。つまり、将来的には「AIのマナー監査」「AIの表現ガイドライン監修」といった役割が、普通の外注費になる可能性が高い。それは今までの“コンプラ監査”や“ブランドガイドライン作成”のデジタル拡張と言ってもいいかもしれません。AIの声は、もう広報でも開発でもなく、経営リスク管理のど真ん中に来ています。
小ネタ2本
① CNN、今度のサブスクは“ちゃんと本編”です
過去の「CNN+」は、いわばスピンオフ番組詰め合わせ。お金もかけたけど、コア視聴者からすると「本編(生ニュース)じゃないのか…」と微妙に刺さらなかったわけです。今回の新サブスクは違います。既存のCNN国内チャンネルや国際版の生放送、さらには速報時の特別ライブフィード、ウェブ記事も含めた“ニュースの本丸”をまるごと定額で売るモデルです。しかも天気アプリやスペイン語チャンネルなど、横展開でバンドルしていく計画もあるとのこと。月6.99ドル。はい、Netflixと同じように「うちも月額にして直接つながらせてください」という直球勝負にいよいよ突入です。日本のキー局・新聞・通信社が「本編を売る覚悟」を持てるかどうか、ちょっとドキドキしますね。
② TikTok、“安すぎる買収”は全世界の起業家に寒気
TikTok U.S.の売却バリュエーションは、年次売上ほぼ1倍というレベル感だと報じられています。「うちのプロダクト、月間アクティブユーザーは数千万人で、エンゲージメントも高くて、広告案件も伸びてて…」みたいなピッチデック(投資家向け資料)を心の支えにしてきた起業家からすれば、これは正直なところ悪夢です。政治リスクが乗った瞬間、“高成長SNSは何倍で売れるか”というスライドが紙くずになる。グローバルサービスを育てたい日本のスタートアップにとって、これは「国境ってやっぱりあるんだな…」を思い知らされる現実チェックです。夢を見るのは大事ですが、法務・ロビー・規制リスクのコストも最初から事業計画に入れないと、スケールした瞬間に捕まります。
編集後記
TikTokの件、個人的にいちばん身につまされるのは「努力が正当に評価されるとは限らない」という身も蓋もない真理です。TikTokは米国で膨大なユーザー時間を獲得し、広告ビジネスも巨大になった。普通なら投資家は拍手喝采で、売上の10倍でも20倍でも評価してくれる…という夢物語が(かつては)ありました。でも今回は、政治が「そのままの形で米国にいられるとは限らない」というカードを切った瞬間、評価額は“ほぼ売上1年分で即キャッシュアウト”レベルまで押し下げられた。つまり「テクノロジーで世界を変える」とか「ユーザーを幸せにする」とか、そういうピュアなプレゼンだけでは守れない領域に、プラットフォームビジネスが入ってしまったわけです。うーん、資本主義の冷たいところ全部のせ。
同じことはメディアにも言えます。ニュースビジネスは長年、「視聴率やPVを稼げば広告主がついてくる」という構造に甘えてきた側面があります。ところが広告モデル一本足だと、今やプラットフォーム依存・広告出稿主の顔色・政治的圧力の三重苦にはまりがちです。なのでCNNは「じゃああなたから直接お金をください。その代わりうちの本丸を出します」という真面目な話に戻ってきた。これはある意味で初心回帰なんですよね。メディアがメディアとして自前で立つ道は、本来こういう形だったはず。ただ、それをやるには“もう一度ブランドに課金してもらえるだけの価値があるのか”が問われるので、こちらはこちらで胃が痛い勝負です。
そしてAI。Forum AIのような、AIの“喋り方の審査業”がビジネスとして立ち上がるということは、逆に言うと「AIの言葉が人間の意思決定そのものに影響する」という前提が、もはや社会で共有されているということです。AIの回答は、単なる参考意見ではなく、購買、投票、炎上、外交カードにすらなる。その“口調”を、政治や経済の大物たちが座って見張る。ここまで来ると、もはや「AIはツールだから中立です」という逃げ道は消えました。AIは政治であり、経済であり、外交カードなんだと、わりとあからさまに公言され始めています。
正直に言うと、この流れは日本企業にとってはチャンスでもありプレッシャーでもあります。チャンスなのは、海外の巨大プラットフォームでさえ政治の一声で評価額を落とすなら、日本のプレイヤーにも相対的に入り込む余地ができること。プレッシャーなのは、逆にいえば日本企業も、いずれ同じルールの土俵に立たされる(国内・海外問わず規制リスクが事業価値を即座に削る)ということです。
「いやうちは海外展開してないし」と思った方。TikTokの教訓は、国境を超えていない会社にも普通に降りかかります。なぜなら、あなたの顧客が見ている情報、信じているAI、使っている決済インフラは、国境を越えて輸入されてくるからです。つまり、あなたがローカル企業であり続けても、顧客の意思決定プロセスはグローバルの政治・メディア・AIに巻き取られる。そこに対して「うちは関係ないので」とは、もう言いにくい時代です。
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